背伸びする10代少年の成長を追った、みずみずしいジュブナイルストーリー。
2019年8月23日(金)に、装いも新たに復活した映画館、京都みなみ会館。
そのリニューアルを記念して、9月6日(金)からは『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』が開催されます!
ポール・トーマス・アンダーソン、ウェス・アンダーソン、アレクサンダー・ペインといった、今や映画界の寵児となったフィルムメーカーのデビュー作を含めた9作品がラインナップ。
その中の一本、2015年製作の『キング・ジャック』(2019)は、『荒野にて』(2019)の演技で一躍注目された若手俳優チャーリー・プラマーが初主演した、みずみずしい青春ドラマです。
【連載コラム】『ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館』記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『キング・ジャック』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
King jack
【監督・脚本】
フェリックス・トンプソン
【キャスト】
チャーリー・プラマー、コリー・ニコルズ、クリスチャン・マドセン、ダニー・フラハティ、エリン・デビー、ヤニス・イノア、スカーレット・リズベス、クロエ・レヴィーン
【作品概要】
『荒野にて』(2019)の演技で、ヴェネチア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)に輝いたチャーリー・プラマーが、2015年に初主演した青春ドラマ。
悩める少年の成長を描いた本作は、2015年のトライベッカ映画祭で観客賞を受賞しました。
主な共演者に、『クリミナル・タウン』(2017)のダニー・フラハティ、俳優マイケル・マドセンの息子クリスチャン・マドセンなど。
監督と脚本は、本作が初の長編映画となるフェリックス・トンプソンです。
映画『キング・ジャック』のあらすじ
ニューヨーク郊外にあるキングストンで、15歳の少年ジャックは、看護師の母カレンと自動車整備士の兄トムの3人で暮らしています。
ジャックは、学校で“かさぶた”というあだ名で呼ばれており、さらに上級生のシェーンに目をつけられ、事あるごとに嫌がらせを受けています。
ある日の朝、ジャックはそのうっぷん晴らしにシェーンの家に忍び込み、スプレーでいたずら書きをします。
しかし、その仕返しとして、片想いしているロビンの前でシェーンにスプレーを浴びせられる始末。
ロビンの女友だちのハリエットが心配して声をかけるも、ジャックは逃げるようにその場を去るのでした。
そんな中、ジャックの叔母にあたるカレンの妹が入院することとなり、彼女の息子ベンを家で数日預かることに。
年下のいとこの面倒を見ることがおっくうなジャックは、最初こそ邪険に扱うも、次第にベンと打ち解けていきます。
ところが、シェーン率いる悪ガキ集団と出くわしてしまい…。
注目の若手スター、チャーリー・プラマーの初主演作
参考映像:『荒野にて』予告
本作『キング・ジャック』は、『荒野にて』(2019)の演技でヴェネチア国際映画祭の新人俳優賞に輝いた若手俳優、チャーリー・プラマーの初主演作です。
1999年に映画プロデューサーの父と女優の母という芸能一家に生まれたプラマーは、子どもの頃からモデルやテレビドラマで活躍。
2012年の『Not Fade Away』(日本未公開)で本格的に長編映画デビュー以降は、人気テレビドラマシリーズ「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」などに出演します。
そして、初主演となる本作の演技が評判を呼び、リドリー・スコット監督作『ゲティ家の身代金』(2017)、リチャード・ギア主演作『冷たい晩餐』(2017)といった注目作に連続抜擢されることに。
また、マーベル映画の「スパイダーマン」の二度目のリブートシリーズでのピーター・パーカー役の最終候補に残るなど、映画界期待のホープとなっています。
余談ですが、本作の劇中でプラマー演じるジャックが好きなアメコミヒーローが誰かを問われるシーンがありますが、そこで挙げたのは、プラマー本人も大好きなキャラクターだったりします。
そして、そのキャラクターが実は、クライマックスにおける伏線にもなっています。
男らしさと子どもらしさが同居する先にあるもの
タバコを吸ったり、好きな女子の気を惹こうと筋トレしたての上半身裸の写真を送ったりと、男らしさをアピールするジャック。
さらに、面倒を見ることになった年下のいとこベンには、いかに自分が大人であるかを誇示しようとします。
実はそうした行動は、“子供らしさ”の裏返しであり、背伸びして大人になろうとしても、むしろ逆効果になります。
背伸びしすぎるジャックの前にあるのは、暴力の連鎖です。
何かにつけていじめられるシェーンによって、ジャックの顔は“かさぶた”というあだ名が意味するように、常に傷跡が絶えません。
しかし、実はそのシェーンも、ジャックの兄トムとの間に何らかの因果関係があることを暗に匂わせます。
監督のフェリックス・トンプソンは、本作に登場する少年たちは、自身が育った環境に居た少年たちがモデルになっていることを明かしています。
子どものいじめは、時として大人よりも陰湿で残酷なもの。
マチズモ的(男性優位)な考えがもたらす怯えと歪みを描く一方で、他人を思いやる気持ちを持つことも大人への一歩となることを、本作では提示します。
異性に対する淡い目覚め
もちろん、10代の少年が主人公の映画ならではのシーンも用意されています。
劇中、ジャックとベンはハリエットら女友たちと「Truth or Dare(真実か挑戦か)」というゲームを行いますが、このゲーム、日本ではあまり馴染みがありません。
ルールは、指名された人が「Truth(真実)」か「Dare(挑戦)」を選び、ここで「Truth」を選べばどんな質問にも正直に答えなければならず、「Dare」だと相手からの命令を実行しなければならないという、いたってシンプルな内容。
しかしながら、欧米ではパーティの場などで遊ばれたり、子どもたちに生きていく上での自意識を芽生えさせる狙いから、教育プログラムの一環として取り入れたりもしています。
このゲームを通して、ジャックは淡い経験をすることになります。
まとめ
“かさぶた”というカッコ良くないあだ名で呼ばれるジャック。
しかし、ケガした皮膚を覆う“かさぶた”もいつかは剥けるように、常に弱くて怯えるジャックの“かさぶた”も、一皮もふた皮も剥けていきます。
終盤での彼に待ち受ける苦難は、大人になるためのイニシエーション(通過儀礼)。
誰しもが共感できるジュブナイルムービー『キング・ジャック』を、お見逃しなく!
『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』は2019年9月6日(金)から京都みなみ会館にて開催です。