チョ・スンウとペ・ドゥナ主演。海外からも高い評価を受けた、極上の韓流ミステリードラマシーズン1を紹介
1つの殺人事件を発端に検察や警察内部、さらに財閥や政府要人を含む社会に巣食う腐敗と向き合うことになる、敏腕検事と女刑事を描いたドラマ『秘密の森』。
2017年に韓国で放送されたシーズン1は、韓国のゴールデングローブ賞と呼ばれる第54回百想芸術大賞で、TV部門大賞を受賞しました。
さらにチョ・スンウはTV部門男最優秀演技賞を、脚本を手掛けたイ・スヨンはTV部門脚本賞を受賞する快挙を成し遂げています。
またニューヨーク・タイムズが選ぶ、2017年国際TVドラマTOP10賞にも選ばれ、このドラマはNetflixを通じ全世界に配信されました。
韓流ドラマの枠を越え、優れた社会派サスペンスドラマの評価を獲得した『秘密の森』。そのシーズン1の魅力に迫ります。
映画『秘密の森 シーズン1』の作品情報
【韓国放送】
2017年(韓国ドラマ)全16話
【原題】
비밀의숲
【演出】
アン・ギルホ(안길호)
【脚本】
イ・スヨン(이수연)
【出演】
チョ・スンウ(조승우)、ぺ・ドゥナ(배두나)、ユ・ジェミョン(유재명)、イ・ジュニョク(이준혁)、シン・ヘソン(신혜선)
【作品概要】
子供時代に脳手術を受けた結果、感情を失い、理性のみで行動する孤高の検事ファン・シモク(チョ・スンウ)。検察の内部不正の追及に動いた彼の前に、贈賄事件の容疑者が死体となり現れました。
事件の容疑者は、刑事のハン・ヨジン(ぺ・ドゥナ)によって逮捕されました。しかし容疑者の自殺で、事件は社会の注目を集めます。
シモク検事はヨジン刑事と真相の究明に当たりますが、検察と警察内部に汚職に関わった人物がおり、さらに新たな事件が起き捜査は混迷を深めました。
やがて事件は政界や財閥を巻き込む、韓国社会を揺るがす事態に発展していきます…。
『風水師 王の運命を決めた男』(2018)に出演したチョ・スンウと、山下敦弘監督の『リンダ リンダ リンダ』(2005)や、是枝裕和監督の『空気人形』(2009)に出演したぺ・ドゥナが主演を務めます。
名バイプレーヤーとして名高いユ・ジェミョン、ドラマ『怪しい三兄弟』(2009~)や『裸の消防士』(2017~)で人気のイ・ジュニョク、ドラマ『ドキドキ再婚ロマンス 子どもが5人』(2016)で注目を集めたシン・ヘソンらが共演を務めます。
映画『秘密の森 シーズン1』のあらすじとネタバレ(全16話)
脳の異常な発達の影響で、音などの周囲の刺激に痛みを感じ暴力的に振る舞う幼いファン・シモク。
治療のために脳の一部を切除する手術を受けます。その結果彼は、感情を失ってしまいます…。
現在。ソウル市の西部地検の検事となったファン・シモク(チョ・スンウ)。
彼は検察内部にはびこる不正の情報を持つ、検事に接待や口利きをしていた、破産した元会社経営者パク・ムソンの家を訪ねます。
シモクが家に入った時、ムソンは殺害されていました。通報で現れた龍山警察署の女刑事、ハン・ヨジン(ぺ・ドゥナ)が逃げた容疑者、ジンソプを逮捕します。
ヨジン刑事に断りなく、ジンソプを検察に連行するシモク検事。
西部地検の次長検事、イ・チャンジュン(ユ・ジェミョン)は、腹心の検事ソ・ドンジェ(イ・ジュニョク)の進言で、事件を見習い女検事ヨン・ウンス(シン・ヘソン)に担当させます。
ソ検事のアドバイスに従い裁判に臨むウンス。ジンソプの有罪は確定しますが、彼は無罪を訴える嘆願書を出し自殺しました。
検察が証拠を捏造したと疑われ、マスコミの追及に窮地に立つウンス検事。
シモクはヨジン刑事と協力し、真相の解明に当たります。次々現れる証拠に、何か裏があると考える2人。
殺されたムソンはイ次長検事と汚職の関わりがあるようで、ヨジンの上司ウギョン警察署長はイ次長の友人。
汚職事件は検察・権力上層部に深く関わっていると思い知らされます。
一方シモクをライバル視するソ検事は、シモクに責任を押し付け、失脚させようとしますが次長は拒みました。
シモクは次長検事と関係が疑われる女の存在を、直接にイ次長に指摘しますが否定されます。しかしソ検事が探す女クォン・ミナこそ、その女と気付くシモク。
シモク検事は自らTV番組に出演し、責任は自分にあると説明、車載カメラの映像に映る人物こそ真犯人と語り、2ヶ月以内の逮捕を約束します。
ウンス検事と、3年前汚職の疑いで引退した彼女の父、ヨン前長官はシモクの行動に感謝します。ヨン前長官は、当時イ次長の追及で失脚していました。
またシモク直属の部下キム捜査官とチェ実務官は、TV出演で上司が世間の人気者になったと大喜びします。
一方シモクの上司カン部長検事は彼の勝手な行動をとがめ、検察に内部監査の動きがあると伝えました。
イ次長検事の妻、イ・ヨンジェの父は韓国の財閥、ハンジョグループのイ・ユンボム会長。
ユンボム会長は娘婿のイ次長に、早く犯人を仕立て上げ、騒ぎが大きくなる前に解決しろと指示します。
世間の注目を集めたシモクの、少年時代の暴力事件が報道されます。シモクに隠された過去があると知り、事件課に復帰したユン課長に彼を調査させるカン部長。
世間から攻撃されるシモク検事を、SNSで擁護する書き込みをする者もありました。
それはシモクの中学時代の友人、人権団体のNGOで活動し今は弁護士事務所の職を失ったキム・ジョンボンでした。彼はシモクと再会します。
シモクとヨジン刑事は当初、イ次長らが関わった汚職事件の口封じにムソンが殺されたと考えていました。
しかし事件の結果、検察上層部の汚職に注目が集まります。犯人の意図はイ次長検事を陥れることかも、と考え始める2人。
汚職の口利き役で殺されたムソンとイ検事次長と、彼の義父で財閥の会長イ・ユンボムの関係。
彼らに陥れられ失脚したと恨みを抱く、ヨン前長官とその娘ウンス検事。
シモク検事はこれらの人物と、その周囲の人間の複雑な利害関係に気付き、誰もが怪しく思われます。
一方検察組織を信用できないハン・ヨジン刑事には、シモクすら疑わしく思えます。同時に上司の署長やその指示で動くキム刑事ら、同僚にも不信を覚えました。
ソ検事が探す女クォン・ミナとイ次長との接触が、ホテルの防犯カメラの映像で確認されます。
シモクから彼女との関係を追及され、イ検事次長は強く否定します。その映像を見て上司の警察署長が、ミナと親しげに語る姿を確認するヨジン刑事。
ムソンの指示で有力者と関係を持っていたミナは、未成年と気付くシモクとヨジン。彼らもソ検事も、彼女の行方を掴むことが出来ません。
そしてムソンの殺害現場となった家で、傷つけられ瀕死状態のミナが発見されます。
マスコミは事件をムソン殺害事件と結び付け、報道は世間の注目を集めました。
犯人が彼女を殺害せず、晒し者にした意図を図りかねるシモク検事とヨジン刑事。
一方ソ検事は証拠を集め、2つの事件の犯人にシモクを仕立て上げようと画策しますが、ヨジン刑事の証言で企ては失敗します。
クォン・ミナと名乗った女の正体は、女子高生のキム・ガヨンで、ムソンの息子ギョンワンと同じ学校に通っていました。
イ検事次長のため犯人を仕立てあげ、事件を解決し鎮静化させたいソ検事。
彼は軍務中、所属部隊の師団長に私的に使われた結果アリバイの無い、ギョンワンを犯人にしようと動きます。
その頃、入院し意識の無いガヨンを何者かが殺そうとします。異変に気付いた看護婦が目撃したのは、イ検事次長の妻イ・ヨンジェでした。
軍の不正を発表しギョンワンを容疑者として逮捕するソ検事。しかしギョンワンは強く無実を主張します。
そんな中、イ検事次長は検事長に昇進します。
ギョンワンを犯人とする証拠は乏しく、警察署長の指示でに暴行を加え、自供を取ろうとするキム刑事たち。
しかしギョンワンのアリバイは証明され、軍部から圧力を受けたイ検事長は追及を断念し、ソ検事を切り捨てようと動きます。
隠し持っていたガヨンの携帯を、密かに処分しようとしてシモクとヨジンに暴かれるソ検事。
ソ検事は、2人に事件の真犯人はイ検事長と訴えます。シモクが彼を検事長の元に連れて行くと、ソが証拠を捏造したと激怒するイ検事長。
辞職を求められたソ検事と、無実のギョンワンを暴行した龍山警察署の刑事たちは、窮地に立たされます。
ソ検事が真犯人とも思われましたが、ウンス検事に厳し追及に、小心者の振る舞いを見せたソ検事の犯行とも思えません。
事態が混迷する中、新聞のソンムン日報が匿名の通報を元に、殺されたムソンが西部地検の検事に賄賂を贈っていたと報じます。
これを受けイ検事長は、検察本庁が主体となる、検察の不正を追及する特任検事を任命すると宣言しました。
特任検事に選ばれたのはファン・シモクです。そして事態の責任をとり、辞職を宣言するイ検事長。
シモクは自分と共に検察内部を捜査する、特任チームを編成します。
そのメンバーは西部地検からは、彼直属の部下キム捜査官とチェ実務官、カン部長の部下で事件捜査に長けた元海兵隊員のユン課長。
外部からはシモクの旧友で、人権を守るNGO団体職員として、警察に暴行されたギョンワンのために働いたキム・ジョンボン。
龍山警察署からはシモクが信頼するハン・ヨジン刑事と、彼女の同僚チャン・ゴン刑事が加わります。
こうして事件と、検察内部と権力上層部を巻き込む、根深い不正を追及することになるシモクとヨジン…。
映画『秘密の森シーズン1』の感想と評価
我々がイメージする韓流ドラマの枠を越えた、本格的サスペンスドラマ『秘密の森』。
シーズン前半は登場人物全員が怪しく、全く犯人が読めない状態。明らかになる新たな事実と人間関係を、巧みに積み重ねエピソードが進みます。
本作が海外で高く評価されたのも、ストーリーが高く評価された結果でした。
類似作を探すなら、弁護士と権力者の法廷内外での駆け引きを描き、政財界の暗部を取り上げつつ、優れた謎解きサスペンスであった、アメリカのドラマ『ダメージ』(2007~)でしょうか。
サスペンスドラマが好きな方なら、絶対に見るべき作品と言えるでしょう。
韓流ドラマファンには実力派俳優、主役のファン・シモク検事役のチョ・スンウの存在感が注目です。
そしてイケメンでありながら、コミカルな演技を得意とするイ・ジュニョク。彼の演じたソ検事は嫌われ疎まれながらも、それでも敵味方の間を立ち回る、厚かましくも憎めない人物。
まさに『ゲゲゲの鬼太郎』の、ねずみ男的な存在であるソ検事。そのキャラクターに、イ・ジュニョクの魅力が発揮されています。
まとめ
極めて完成度の高いサスペンスドラマ『秘密の森』のシーズン1。ですが唐突に政財界の悪役として日本が登場することに、違和感を覚える方もいるでしょう。
本作も視聴者受けを狙う反日要素のあるドラマ、と感じた方に少し解説を加えます。
韓国で政治的に利用され、その結果感情的な反応も引き起こしている反日運動。
その背景に現在の韓国で特権を握る層が、軍事政権下で日本の援助を利用し今の地位を築いた事に対する、国民的な反感が存在します。
『秘密の森』に登場する腐敗した特権階級、検察や軍部は日本統治時代の影響を色濃く残しています。
対する反発は根深く、韓国では検察改革が望まれています。これを本作はテーマに取り上げました。
さて、『秘密の森シーズン1』の最終話で、唐突に韓国の歌謡曲「椿姫」のエピソードが登場します。
1965年に行われた日韓国交正常化。冷戦下に結ばれ、日本からの有償無償の援助を得て韓国経済は発展し、現在の特権階級が生まれました。
日韓国交正常化が行われた当時、韓国国内では条約の内容や、日本に対する弱腰姿勢に対する反発が、国民に不満を巻き起こします。
そこで韓国政府は日本に強硬姿勢をとっているアピールとして、国交正常化以降に日本の大衆文化流入制限を、より厳しく運用します。
それは日本文化を禁止するだけではありません。体制側が日本風である、例えば日本の演歌に似ていると指摘し、韓国の歌を禁止することもありました。
これは恣意的に運用され、日本風との理由で体制側が都合が悪いと判断した、根拠のあいまいな基準で禁止された韓国の歌謡曲もあります。
それが1964年の韓国映画の主題歌として生まれた「椿姫」でした。
このエピソードは軍事政権下の権力の横暴を伝えるもので、ドラマ内で描いた検察の不正と対を成すものです。
同時に現在も起きている「反日」とは、日本と癒着していた軍事政権も行っていた、常に権力者が都合の良く利用するものだと示しています。
韓国の民主化と共に日本文化の開放が始まり、まだ制限はあるものの、広く親しまれるようになりました。
そうして育った若い世代は日本文化から大きな影響を受けています。ぺ・ドゥナ演じるハン・ヨジン刑事が漫画風の絵を描くのも、そうした世代だからでしょう。
第8話で「鉄腕アトム」を引き合いに出して、後輩の刑事を諭すヨジン刑事。
彼女は新たな姿勢で日本と触れ、そこから影響を受けている人物です。
脚本家イ・スヨンの書いた『秘密の森シーズン1』は優れたサスペンスであり、韓国の検察改革などを背景に描かれた現代劇です。
同時に従来の政治信条に左右されない、韓国の新たな世代の姿を描いた作品でもあるのです。