『鵞鳥湖の夜』は2020年9月25日(金)より新宿武蔵野館、HTC有楽町&渋谷ほかにて公開。
中国の気鋭監督ディアオ・イーナン監督が『薄氷の殺人』(2014)からの5年ぶりとなる待望の映画『鵞鳥湖の夜』。
警官を射殺して追われる裏社会の男チョウと、寂れた鵞鳥湖の娼婦アイアイが主人公です。チョウを追う警察の捜索チームとバイク窃盗団のギャングも交錯するスリリングなサスペンス映画です。
主人公の裏社会に生きる男・チョウに『1911』(2011)のフー・ゴー、鵞鳥湖の娼婦アイアイに『薄氷の殺人』(2014)のグイ・ルンメイとリャオ・ファンが再共演を果たしました。
『鵞鳥湖の夜』は、2020年9月25日(金)より東京・新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開されます。
映画『鵞鳥湖の夜』の作品情報
【日本公開】
2020年(中国・フランス合作映画)
【原題】
南方車站的聚会、英題:THE WILD GOOSE LAKE
【脚本・監督】
ディアオ・イーナン
【キャスト】
フー・ゴー、グイ・ルンメイ、リャオ・ファン、レジーナ・ワン
【作品概要】
映画『鵞鳥湖の夜』は、誤って警官を射殺した裏社会の男と水辺に生きる娼婦の物語です。中国南部の鵞鳥湖周辺を舞台に巻き起こるスリリングな逃亡劇。中国社会の底辺で生きる人間たちの現実が鮮烈な映像で描かれています。
監督は『薄氷の殺人』(2014)で第64回ベルリン国際映画祭金熊賞、銀熊賞(男優賞)をW受賞した中国の気鋭監督ディアオ・イーナン。『1911』のフー・ゴー、『薄氷の殺人』のグイ・ルンメイが主演を務めます。2019年・第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。
映画『鵞鳥湖の夜』のあらすじ
2012年、中国南部のある町。どしゃ降りの雨の中、逃亡者・チョウは5年前に刑務所に入って以来会っていない妻と再会するために、待ち合わせの場所に来ていました。
けれどもそこに現れたのは、一人の見知らぬ女アイアイ。「奥さんは来ないわよ」「なぜ妻は来ない?」
アイアイはチョウの友人から伝言を頼まれたといいますが、「本当にチョウさん?」とも聞いてきました。
チョウは自分が本物であることを信じてもらうために、これまでのいきさつを話し始めます。
チョウは刑務所を出所して古巣のバイク窃盗団に舞い戻っていましたが、対立する猫目・猫耳の兄弟との争いに巻き込まれてバイクで逃走。その途中、誤って警官を射殺してしまったのです。
たちまち全国に指名手配されたチョウには、30万元という報奨金がかけられます。
容疑者であるチョウを追いかける警察と報奨金目当てでチョウを捜すバイク窃盗団。チョウは自分にかけられた報奨金を妻と幼い息子に残したいと画策したのです。
妻に会うために行動を共にしたアイアイを信用しきれないチョウ。一方チョウの妻にも事情があり、計画は難航します。
チョウは妻によって警察に連絡して欲しかったのですが、追っ手に阻まれなかなか思うようにいきません。
そして、警察や窃盗団仲間に追い詰められ、チョウは後戻りのできない袋小路に迷い込んで行きます。逃走の果てにチョウはある決意をアイアイに告げました。
映画『鵞鳥湖の夜』感想と評価
交わりそうで交わらない2人の距離感
映画『鵞鳥湖の夜』は、寂れたリゾート地の鵞鳥湖周辺を舞台に、主人公・チョウが警察と窃盗団から追われる逃亡を描いています。チョウに絡む謎の女アイアイの存在も気になるところです。
物語は2人が出会うところから、これまでのいきさつをポツリポツリと語るスタイルで展開。
仲間とのいざこざの果てに警官を射殺して指名手配中のチョウは、愛する妻に会いたくても会えません。
チョウの友人から依頼を受けてチョウとその妻を会わせるつもりで動き出したアイアイは、生きていくために働く娼婦です。
“孤独に溺れて、闇夜を彷徨う”チョウと“愛に泳いで、闇夜を彷徨う”アイアイ。闇に紛れて逃げ惑うチョウと道ずれになったアイアイの行く末はどうなるのでしょうか。
こんな交わりそうでで交わらない2人の距離感が、ラストまで続く緊張を演出しています。
チョウを演じるのは『1911』に出演してジャッキー・チェンと共演したフー・ゴーです。『鵞鳥湖の夜』では、窃盗団の一味との命をかけた格闘で、ダイナミックで鋭いアクションを披露。
「妻に自分にかけられた報奨金を残してやりたい」という思いを抱く追い詰められた男を、逞しく切なく演じています。
一方のアイアイは、台湾出身の女優グイ・ルンメイが好演。彼女はディアオ・イーナン監督の『薄氷の殺人』にも出演しました。
掴みどころがない不思議な魅力を持つ鵞鳥湖の娼婦の役を淡々とこなしています。
光と闇の無法地帯
チョウとアイアイが放浪する鵞鳥湖周辺は、活性化の遅れたリゾート地で、自治体の管轄が曖昧でした。
特に夏はさまざな人種が入り乱れる雑然とした地域で事件も多発。ギャングたちの縄張り争いが絶えないなど、中国の知られざるアンダーグラウンドだったのです。
アイアイはこの水辺で“水浴嬢”と呼ばれる娼婦をしていました。ボートを出し湖上でチョウと2人きりで、自分の商売をするのもお手の物。ワンタンや麺屋で麺をすするシーンなど、食事シーンにも侘びさと逞しさが見られます。
夜になると鵞鳥湖周辺は一層にぎやかになりました。屋台が立ち並び、1970年代後半のヒット曲『ジンギスカン』などのダンスで盛り上がる人々。貧困層の人々がこの時とばかりに、ビジネスに、娯楽に、と集ってきます。
暗闇に揺れるまばゆいネオンと人々の嬌声。光と影のコントラストの中、湖には妖しいムードが漂いはじめ、湖岸には、逃亡犯を探す警察チームの鋭い視線があちこちに……。
光と闇が交錯する鵞鳥湖の風景は、これから何が起こるのかという期待も充分与えてくれました。
まとめ
映画『鵞鳥湖の夜』は、『薄氷の殺人』で第64回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したディアオ・イーナン監督の作品です。
第72回カンヌ国際映画祭でポン・ジュノ監督作品『パラサイト 半地下の家族』(2019)と並び、アジア発の衝撃をカンヌにもたらしました。さらに、アジア映画批評家協会賞(Asian Film Critics Association Awards)では、『パラサイト 半地下の家族』や、ワン・シャオシュアイの『在りし日の歌』らを抑えて、最優秀監督賞を受賞。
社会の底辺で生きる人間たちの現実をさらけ出した『鵞鳥湖の夜』は、中国チャートで初登場2位を記録し、異例の大ヒットといわれました。
警官を射殺した逃亡犯、バイク窃盗団、貧しい娼婦たち。裏社会で生きる人々の逃走劇を通じて、表立って出てこない中国社会の現実が、漆黒の闇と強烈なライトで照らし出されます。
犯罪者の逃亡をインパクトある映像で映し出した『鵞鳥湖の夜』は、中国の現実社会を浮き彫りにした映画といえるでしょう。
『鵞鳥湖の夜』は2020年9月25日(金)より、東京・新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開です。