映画『プラットフォーム』は2021年1月29日(金)より新宿バルト9ほか全国順次ロードショー!
2019年のトロント国際映画祭で観客賞を受賞、2019年のシッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀作品賞、視覚効果賞、新進監督賞、観客賞受賞の4冠、2020年のゴヤ賞で特殊効果賞を賞と多くの評価を受けたスペイン産SFサスペンススリラー映画『プラットフォーム』。
謎の建物に閉じ込められた一人の男性が窮地からの脱出を試み出くわすさまざまな難関の中で、複雑な人間模様を見せつけられる様を描いた本作は、スペインの新鋭ガルデル・ガステル=ウルティア監督の長編デビュー作となりました。
またイバン・マサゲ、アントニア・サン・フアンらスペインのベテラン陣がキャストに名を連ね、物語を盛り上げています。
映画『プラットフォーム』の作品情報
【日本公開】
2021年公開(スペイン映画)
【英題】
The Platform(原題:El Hoyo)
【監督】
ガルデル・ガステル=ウルティア
【キャスト】
イバン・マサゲ、アントニア・サン・フアン
【作品概要】
床と天井の中央に穴が空いた謎の不気味な部屋で目覚めた男が、脱出を試みる中でさまざまに複雑な人間の本心に遭遇する様を描きます。
トロント国際映画祭、シッチェス・ カタロニア国際映画祭、ゴヤ賞などで多くの賞を受賞した本作は、スペインの監督、ガルデル・ガステル=ウルティアの長編初作品となるSFサスペンス・スリラーです。
キャストには『ミリオネア・ドッグ』『パンズ・ラビリンス』やドラマ「わが家へようこそ」などのイバン・マサゲ、『オール・アバウト・マイ・マザー』『靴に恋して』などのアントニア・サン・フアンらが名を連ねています。
映画『プラットフォーム』のあらすじ
中央に四角い穴の空いた謎の部屋で目を覚ましたゴレン。そこには一人の老人トリマカシがいました。
トリマカシは開口一言「48階」と告げます。壁には「48」の文字が。そこは塔の「48階層」であり、床の中央には四角い穴が開いています。そしてそこからのぞくと、上下に無数の階層が続いており、どのフロアにも同じような穴が開いており、同時にどのフロアにも人がいるのが見えます。
ゴレンは、同じ階層に暮らす老人トリマカシからここでの三つのルールを聞かされます。それは、
ルール一:一ヶ月ごとに階層が入れ変わる
ルール二:何か一つだけ建物内に持ち込める
ルール三:食事が摂れるのは「プラットフォーム」(穴のところに降りてくるフロア。上のフロアの人間が食べ残したものが積み上げられている)が自分の階層にある間だけ
やがて物音とともに、見るも無残な食べ残しが積まれた「プラットフォーム」が下りてきます。その山にむさぼりつくトリマカシとは対照的に最初は残飯なんてとんでもないと食事を拒否していたゴレンでしたが、ついには空腹に耐えかねて彼は食べ物の一つを口にします。
そしていつしかトリマカシと談笑しながら残飯を楽しむ、気ままな日々を過ごしていました。
しかしちょうど一ヶ月となる前日の夜、トリマカシから明日からの生活について前置きをされます。
次の日、ゴレンはトリマカシとともに「171階層」にいました。そしてベッドに縛り付けられた状態で目を覚ました彼は、その後の想像を絶する残酷な事実に翻弄されていくのでした。
映画『プラットフォーム』の感想と評価
人々の社会意識を問うミステリー
物語は始まりにどこかの厨房のような場所、そして次の瞬間、ゴレンという男性が目覚めるシーンから始まります。彼は誰でなぜここに来たのか、彼自身が何をどこまで把握しているのか、そもそもこの建物は何のために作られたのか、彼らはなぜこのような境遇に置かれているのか…物語が進むに従い、とにかくとめどもない疑問に包まれていきます。
途中、ゴレンがなぜここに来たのかを表していると思われるエピソードが回想シーン的に挟まれますが、結果的にそのシーンだけで謎を解くことはできず、物語は最後までさまざまな謎を残していきます。
ここにサスペンス的な雰囲気はかなり濃密に充満していますが、明確な答えを得ることがなく煮え切らないままにエンディングを迎えます。
映像的な雰囲気として若干暗めの照明、残飯の山や不潔な部屋、そしておぞましさを感じさせる顛末。その映像の雰囲気はサスペンス映画の人気シリーズ『SAW』のような空気感を覚えさせます。
しかし同様のサスペンス性、エンタテインメント性を期待すると、大きく肩透かしを食らうことになるでしょう。この映画のポイントは、その物語自体というよりも実は登場人物たちに「共感を問う面」が存在することにあるからです。
この建物の住人は生きるために残飯をむさぼり、そして時には大きな争いを起こします。一方で自分がこんな考えだから…と助けを求めても、誰もがその意思が通じるわけでもありません。
そんなシチュエーションが次々に現れる場面を残酷に見せ、見る人への「共感」の度合いをさらに強めていきます。劇中に登場するあらゆるものを、人々が普段の生活で直面する何かにつなげていきます。
上から降りてくる残飯の山は何を表したものなのか、フロアの穴を通して見える上、下のフロアの人と自分の違い。こういった映画の一場面が、見る側の感性によっては共鳴したり、あるいはしなかったりします。
これが共鳴しない人には、単なる難解で不快な物語にしか見えないでしょう。逆に深く共鳴する人にとってこの物語は目で見る以上にショッキングで残酷に見え、その共感する部分が何かを見つめ、改めて思い起こすことになるに違いありません。
また劇中では連発する不条理感に対し、主人公のゴレンを含め対処すべく立ち上がる人間が立ち上がるという展開があるのですが、これはことごとく失敗するだけでなく「対処しよう」「変化を起こそう」「改善しよう」といった、一般的に考えると前向きなはずの気持ちが大きく否定されるなど、大きなショックで世の中で善行と思われることへの疑問すら生まれてきます。
これには世間で垣間見られる、ある意味常識的な「良心」といった意志に対して疑問を投げかけているようでもあり、非常に人間が生きていくという「業」を改めて考えさせられるものとなっています。
まとめ
先程“残酷に「見せる」”と書きましたが、実はこれも本作の大きなポイントの一つで、本作を部分ごとに細かく見ると、出血シーンや残飯の山などそれなりに不快な表現がある一方で、意外に直接的ゴアシーンはありません。しかしこれをさまざまな演出効果で、名だたるゴア作品に勝るとも劣らない凄惨な作風に見せています。
長編製作で監督を務めた作品としては本作がデビューとなるガルデル・ガステル=ウルティア監督ですが、もともとプロデューサーとして2016年に公開されたサスペンス映画『リムジン』を手掛け、それ以前にもアクションスリラーの短編を手掛けており、この経緯からも本作のような作風はまさにお手のものといった様子もうかがえ、非常に完成度の高い作品となっています。
またこの物語の原題はスペイン語で「El Hoyo」、日本語訳としては「穴」という意味合いになります。対して英題に従うと『The Platform』、つまり劇中の「食べ物が置かれた謎の上下する台」を指すものとなります。
この変更は「穴」と名付けられた映画が世に多いために変更を余儀なくされたのでは、というビジネス的な面の都合も考えられます。
しかしその一方で、物語から主題を考える際に果たして「穴」という部分に着目するか、「台」に着目するかという着目点が、物語からどのような所感を得るか、物語をどう見るか、視点や自身の見る立場などで変わってきます。
本作はこういったタイトル付けにすらさまざまな思惑を感じさせるところもあり、非常に構想の練り方には巧みなセンスが感じられます。
映画『プラットフォーム』は2021年1月29日(金)より新宿バルト9ほか全国順次ロードショーされます!