パク・チャヌク監督によるカンヌ映画祭でグランプリ作品『オールド・ボーイ』
2003年公開の本作『オールド・ボーイ』は、目を覆うほどのバイオレンスにもかかわらず惹きつけられる哀愁と、ラストに暴かれる衝撃的な事実に繰り広げられる圧巻の復讐劇です。
本作は日本の土屋ガロン(作)、嶺岸信明(画)による同名の漫画『ルーズ戦記 オールドボーイ』を原作に作り上げられた映画化作品。
2004年の第57回カンヌ映画祭で圧倒的な大絶賛を受けてグランプリを受賞。
平凡なサラリーマンが15年間も監禁された後に復讐に生きる姿を『シュリ』で主演男優賞を受賞したチェ・ミンスクが熱演し、『サバハ』などに出演のユ・ジテが復讐相手として色気ある表情で好演しています。
映画『オールド・ボーイ』の情報
【公開】
2003年(韓国映画)
【原題】
Old Boy
【脚本・監督】
パク・チャヌク
【キャスト】
チェ・ミンシク、ユ・ジテ、カン・へジョン、チ・デハン
【作品概要】
日本の同名漫画を原作に『JSA』のパク・チャヌク監督が映画化した作品。
クエンティン・タランティーノ監督が審査委員長を務めた2004年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞した、圧巻の復讐ドラマです。
平凡なサラリーマンだった男が15年以上理由もわからずに監禁されたことで、復讐に燃える男に変貌し繰り広げる復讐劇。目を覆いたくなるバイオレンスにも関わらず惹きつけられる人間の哀愁を描く韓流ミステリー・サスペンス映画。
15年以上監禁される男を『シュリ』(1999)で主演男優賞を受賞したことのあるチェ・ミンスク、そしてその復讐相手を『サバハ』(2019)にも出演のユ・ジテ、そしてキーパーソンとなるヒロインを『バタフライ』(2002)に出演のカン・へジョンが熱演しています。
ただのバイオレンスおよび復讐劇にとどまらない、15年に渡る監禁の理由が暴かれる衝撃的なラストでは韓流映画の得意とする伏線回収も繰り広げられる本作は、監督も脚本も『JSA』のパク・チャヌクが務めています。
映画『オールド・ボーイ』のあらすじとネタバレ
ビルの屋上から落ちそうになる男性を追及し、自身の名をオ・デスと名乗る男がいました。
彼は自身の名を「男は教を適当に過ごす」(オ・デス)と自虐しながら、かつて、酔っぱらって手に負えない状態になったことから警察署に連行されていました。
友人ジュファンが迎えに来て解放されたその日は、娘の誕生日だったことから公衆電話より娘にプレゼントをもって帰る旨連絡を入れます。
そして、友人のジュファンが電話を代わり娘とオ・デスの妻と話している間に、オ・デスは忽然と姿を消してしまいます。
雨が降る夜、オ・デスが消えた公衆電話のそばには紫の傘を刺す人物がおり、オ・デスの娘へのプレゼントだけが路上に残されていました。
理由もわからず監禁されるオ・デスは、看守らしき男に理由を尋ねますが邪険に扱われて終わります。
理由もわかぬまま、ビルの個室に閉じ込められ、食事だけが与えられることに自暴自棄になるオ・デス。
「笑う時は世界と一緒、泣く時はお前一人」と書かれた人物画が飾られて部屋にメロディーが流れると、催眠ガスが流れ出しオ・デスは眠りに落ちてしまいます。
部屋に監禁されていても着替えや掃除をしてもらえることに感謝していたオ・デスですが、それは実はオ・デスを犯人に仕立てあげるために指紋などを採取する目的になされていました。
知らぬ間にオ・デスの妻は殺害され、オ・デスはその犯人として指名手配されることになったことを、部屋に唯一ある外界とのつながりであり情報手段のテレビのニュースで知ります。
殺害現場からは、家族のアルバムだけが紛失していました。
オ・デスがそのニュースを見ていると、腕の中を蟻が動き回り、しまいには皮膚を突き破り出てきます。そして蟻の大群が彼の顔を覆います。オ・デスは半狂乱になり、手首を切ります。
それから3年。オ・デスは監禁されたまま、与えられた食事である餃子を食べています。そして、すべての情報源も話し相手もテレビでしかない中で、再び手首を切ってしまいます。
そうして、オ・デスはノートにこれまで自分が人を苦しめたことや過去の喧嘩について記し始めます。また、自分を監禁した人物に復讐するため、監禁から解放された日を思い、部屋の中でトレーニングをはじめます。
年月を記すために、手には刺青を、そして壁に穴を彫り続けました。
時は流れ、監禁されてから15年の月日が流れます。
やっとのことで壁のブロックが外れ、オ・デスは外の空気に触れ雨の水滴を感じます。そして、必ず監禁されている場所から出ることを心に誓います。
部屋に催眠ガスが流れ出てオ・デスが眠りに落ちている間に、女性が入室しオ・デスに催眠術を掛けます。
目覚めたオ・デスは監禁部屋から出され、外にいました。それはビルの屋上で、久しぶりの太陽光に目が眩むオ・デスでしたが、人を見つけ近寄ります。
犬を抱えたその人は、「獣にも劣る人間だが、生きる権利はあるんじゃないか?」とオ・デスに問いかけます。そしてビルから落ちそうになるところを、ネクタイをつかんだオ・デスによって助けられ、オ・デスの身に起きたことを聞くのでした。
オ・デスが見渡すとその場所は、15年前オ・デスが拉致された公衆電話のあった場所であり、現在ではマンションが建設されていました。オ・デスはそのマンションの屋上で解放されたのです。
15年の月日が流れ、かつてのオ・デスの家はありません。
行く当てもなく街をふらつくオ・デスは若者集団に絡まれますが、15年かけて監禁部屋で自己トレーニングした想像訓練の成果を試し、成功をおさめます。
そして、街中で水槽を眺めていたところで、見知らぬ男から大金の入った財布と携帯を渡されます。
寿司屋に入るオ・デス。テレビでも取り上げられたことのある女性板前の前に座ります。
オ・デスおよびその女性板前共にお互いに見覚えがあるように思うのですが、わからないまま、着信が鳴る携帯にオ・デスは出ます。
それはオ・デスを監禁した男からの電話でした。誰だかを尋ねてもはぐらかされて、結局監禁した男が誰だかは分かりません。
その男は自分はオ・デスについて熟知しているものであり、監禁したのが誰だかが重要ではなく「なぜか」が重要であると、そしてこれまでの人生を復習して考えるよう言うのでした。また、「砂粒であれ岩の魂であれ、水に沈むのは同じだ」と言い放ちます。
オ・デスは、「生きているものが食べたい」と注文し出された生タコをそのまま口にしますが、その後気を失ってしまいます。
気が付くと、オ・デスは女性板前の部屋にいました。熱を出して倒れていたオ・デスに薬を飲ませ寝かせていた女性板前は、オ・デスが寝ている間に彼がしたためたノートを読み、目覚めたオ・デスに実話なのかどうかを聞きます。
久しぶりに接する女性とあり、オ・デスは女性板前に無理やり口づけをして襲おうとします。拒む彼女に謝るオ・デス。
家に連れてきて拒んだことを逆に申し訳ないという女性板前でしたが、まだ知り合ったばかりで心の準備ができた時には合図を出すからその際には応える旨話し、自分の名前がミドであることを伝えます。
また、ミドは、オ・デスのノートに書き記してあった蟻のエピソードは孤独の人が見る幻覚だと言うのでした。
ミドとオ・デスは互いの孤独を埋めるように距離を縮めていきます。
そして、娘の居場所を探すオ・デスをミドは手伝います。そして、娘がストックホルムにいることを突き止めます。
娘に連絡する前に、自分を監禁した人物を突き止めることが先だというオ・デス。
その人物を突き止めるために、15年間毎日与えられていた餃子の味を頼りに、餃子を提供する店をしらみつぶしに調べ食べていくことで、自分が監禁されていた場所を突き止めようとします。
オ・デスはついに「紫青龍」という店の餃子の味にたどり着き、出前配達の後を追うことで、監禁されていた場所を突き止めます。
そのビルでは監禁ビジネスが展開されていたのです。
依頼され特定の人物を秘密裏に監禁していたその会社のオーナーに、オ・デスは復讐で依頼した主が誰であるかを問い詰めます。そして、自分の15年分の復讐だといい、一本ずつ無理やり歯を抜いていきます。
そのオーナーの若手衆に想像訓練の成果を発揮し一人で立ち向かうも、オ・デスは背中を刺されてしまいます。
オ・デスは自身に問います。この復讐が終わったら、ただの「オ・デス」に戻れるだろうかと。そして満身創痍の中、倒れてしまいます。
そこへ男性が駆け付け、オ・デスを優しく助けます。タクシーに乗せお金を渡し行き先をいう男性にお礼を告げるオ・デス。その彼に向って不敵な笑みをたたえ「あばよ、オ・デス」と男性は言い放つのでした。
なぜ自分の名前を知っているのか、オ・デスは訝しみます。
ミドの家に帰宅したオ・デスは監禁場所で入手した自分の監禁経緯を録音したテープを耳にし、監禁の依頼主がオ・デスの「口数が多すぎる」罪で15年間の監禁を依頼していたことを知ります。
一方で、オ・デスがテープに聞き入る光景もある人物によって盗撮されていました。
翌日、オ・デスはジュファンの店にジュファンに会いに行きます。テープに録音されている監禁の依頼主である男の声に聞き覚えがないか確認しますが、ジュファンは分からないと答えます。
ジュファンはまた、犯人はオ・デスの周りの人物から探すべきではないかと進言します。
ジュファンの経営するインターネットカフェでジュファンとともに、インターネットのチャットを開いているとエバーグリーンと名乗る人物から、オ・デスの殺人事件が時効を迎えたことに対するお祝いのメッセージが届きます。
その頃、監禁の依頼主と思しき男性は、オ・デスの写真をアルバムに張り付けていました。
またオ・デスは、監禁中に思った外では誰も信じないということを思い出したこともあり、ミドを疑い始めます。そして「初対面で家に男を入れるお前は一体誰なんだ?」と、また「エバーグリーン」について問い詰めます。
一方ジュファンはIPアドレスから「エバーグリーン」を調べ、ミドの隣のマンションの部屋に住む人間であることを割り出します。
その部屋にオ・デスが駆け付けると、暗い部屋には二人の男がいました。そして、オ・デスが問いかける前に「エバーグリーン、お前は誰だ?」と聞こうと思っただろと話始めます。
続けて「これはゲームだから、『誰か』の次に『なぜか』の謎が解けたら、いつでも来い採点してやる」と後5日の期限を提示します。
この問いに解けたら先に死んでやると、犯人と思われる男は話します。またオ・デスの愛するミドはオ・デスが死ぬ前に殺すと、なぜならオ・デスは「自分の女を守れないことで有名」だからだと言い放つのです。
オ・デスは怒りに、その男に襲いかかりますが、「殺したら『なぜ』は判明しない」とその男はオ・デスに告げます。またその男は心臓手術をしており、いつでも自殺できるようにと心臓をリモコンで止められるように設定してあったのです。
今殺したら15年間の監禁の謎が解けないこと、復讐を遂げられないことから、オ・デスはみすみす逃します。
そうこうしている間に、ミドのもとにはオ・デスによって歯を抜かれ拷問にかけられた監禁ビジネスのオーナーと舎弟らが押し寄せてきていました。
つるし上げられ、半裸にされているミドのもとに駆け付けるオ・デス。
復讐にオ・デスは、歯を抜かれそうになりますが、監禁の依頼主の計らいにより難を逃れます。オ・デスはミドの胸を揉んだだろうと監禁ビジネスのオーナー、パク氏に向かい「お前の手を切り落とす」と捨て台詞を吐きます。ミドはまたそんな状況になっても自分は信じてもらえないのかと叫ぶのでした。
その夜、オ・デスとミドは激しくお互いを求め合います。それは、ミドにとっては初めての体験でした。
好きな女と過ごす時間に、オ・デスは監禁された過去でさえ有難いと思い始めますが、部屋の中にガスが充満し、オ・デスとミドは深い眠りに落ちてしまいます。そしてその横ではガスマスクをつけた監禁の依頼主が彼らを見つめていました。
翌朝目覚めたオ・デスとミドの部屋には紫の箱が届いており、開けてみるとパク氏の切り落とされた手が入っていました。
「お前の手を切り落としてやる」と自分がパク氏に言い放ったことを監禁の依頼主が知っていると気づくオ・デス。調べてみるとミドの靴に盗聴器が仕込まれていました。
ミドはオ・デスに言います。「もしかしたら監禁から解放されたのは、復讐する姿を見て楽しもうとしているのかもしれない。理由を教えずに死ぬまでもてあそぶつもりで」と。
二人はジュファンのインターネット・カフェで「エバーグリーン」を検索し調べてみると、「エバーグリーン・オールド・ボーイ」と題したサンノク高校のホームページが見つかったのです。
映画『オールド・ボーイ』の感想と評価
目を覆いたくなるバイオレンスシーンの数々ながら、指の隙間から見てしまう。そこには見つめずにはいられない、復讐に燃える男の哀愁とそして孤独に求め愛し合う人間の寂しい性が描かれている本作品。
2004年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞した本作ですが、クエンティン・タランティーノが大絶賛したというのが理解できる感じに、彼の作品にも通じるバイオレンスや美しいカメラワークが展開されています。
バイオレンスシーンの一つでもある拷問シーンでの歯を抜く様子などは、劇中の台詞でもありますように人間の「想像力」によるものから恐怖心をあおります。
一方で、オ・デスが監禁場所へ戻った時のパク氏の舎弟にひとりで立ち向かう闘いのシーンは、スライド式のカメラワークで展開され、ある種のアート作品のような美しい流れを見ることができます。
流れのあるカメラワークやシーンの切り替えにより、単なる復讐劇にとどまらず、全編通して描かれるシニカルさや、どこか滑稽な様子をも描かれ捉えられていることから、主役オ・デスの人間味が画面から伝わり哀愁を感じずにはいられません。
最後愛するミドと再会するオ・デスですが、秘密を知るモンスターとしての自分の記憶を失くすことができたのか、催眠術が効いたのかは見る人一人一人にその判断を委ねられているように思います。
まとめ
日本の漫画を原作に映画化された本作ですが、韓国作品だからこれほどまでに見事な映像作品になったのではないかと思うほど、韓国ノアール作品で見られるような強烈なバイオレンスが展開されています。
主役のオ・デスを演じるチェ・ミンスクが見事に平凡なサラリーマンから15年の監禁生活を経て復讐の鬼に変貌する様子を演じ、また愛されるアジュッシ(おじさん)を演じています。黒いブリーフで髪もぼさぼさで格好悪いのに、かっこいい。
哀愁漂う悲しい過去を持つおじさん。そのおじさんに恋心を抱く若い女の子のミド。寿司屋のカウンター越しに出会ったときに互いに見覚えがあると感じたのは、そこに絶対的な繋がりがあったからでそれは人間の本能によるものだったと知ることができます。
またオ・デスの復讐相手であるイ・ウジンを演じるユ・ジテもその表情が色っぽい。
互いに「復讐」に燃えるオ・デスもイ・ウジンも、結局はすべて「愛」のためであり、そこから生まれた「悔い」を抱いています。
そこに人間味が垣間見え、本作をただのバイオレンスな復讐劇から、見つめずには惹きつけられずにはいられない作品としているように思います。
事象を他人事ではなく自分事にしたときに、初めて人はその重みを理解できる。
この映画は復讐という名のものとに同じ経験を相手に味わわせることで、痛みを理解させています。
復讐のきっかけとなる原因も重い内容ではありますが、それ以上に人の痛みを理解することの重要さを映像を通して感じさせられることで、ラストまで見終えた際には復讐を果たせたことのすっきり感とは程遠いずっしりとした重みと余韻を胸に感じさせる、そんな圧巻の作品です。