フランソワ・オゾン監督の『2重螺旋(らせん)の恋人』は、8月4日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開。
オゾン監督はセクシャル・マイノリティの立場から、同性愛や出産などをモチーフにした死生観を描いた作風が特徴的だと知られています。
一方でオゾン監督の確実な演出力は、フランス人ならではのコミカルさ、あるいはスリラー作品の名手の一面もあり、『スイミング・プール』や『危険なプロット』は、オゾン作品の出来に留まらず、映画としても秀作でした。
そんなオゾン監督が、アメリカの女性作家ジョイス・キャロル・オーツの短編小説を大胆に翻案、4年の構想期間を経て放つ、極上の心理サスペンス。
もちろん、作品のモチーフは出産。そして双子…。
CONTENTS
映画『2重螺旋の恋人』の作品情報
【公開】
2018年(フランス映画)
【原題】
L’amant Double
【原作】
ジョイス・キャロル・オーツ「Lives of the Twins」
【脚本・監督】
フランソワ・オゾン
【キャスト】
マリーヌ・ヴァクト、ジェレミー・レニエ、ジャクリーン・ビセット、ミリアム・ボワイエ、ドミニク・レイモン
【作品概要】
『まぼろし』『スイミング・プール』のフランソワ・オゾン監督が、アメリカの女性作家ジョイス・キャロル・オーツの短編小説を映画化。
性格が正反対な双子の精神分析医と、禁断の関係にのめり込んでいく女性の姿を官能的に描く心理サスペンス。
主人公クロエ役にオゾン作品『17歳』のマリーヌ・バクトが務め、『最後のマイ・ウェイ』のジェレミー・レニエが双子の精神科医を演じ分けます。共演に『映画に愛をこめて アメリカの夜』のジャクリーン・ビセットが固めます。
マリーヌ・ヴァクトのプロフィール
参考作品:『Si tu voyais son coeur』日本公開未定
マリーヌ・ヴァクト(Marine Vacth)は、1991年4月9日生まれで、フランスのファッションモデルで、女優。
15歳の頃にスカウトされてモデルを始めます。
H&M、イヴ・サンローランやルイ・ヴィトンなど、有名ブランドの広告で活躍します。
2011年にセドリック・クラピッシュ監督の『フランス、幸せのメソッド』で、モデル役を演じたことをきっかけで俳優の道に入ります。
2013年にフランソワ・オゾン監督の『17歳』のイザベラ役で、トロント国際映画祭などで注目を浴び、フランスのセザール賞を受賞します。
本作品『2重螺旋の恋人』で、オゾン監督とマリーヌは2度目のタッグとなります。
また、現在はパートナーである写真家のポール・シュミットと、2014年に生まれた息子アンリとともにパリに在住。
関連映画:オゾン作品『17歳』(2013)
映画『2重螺旋の恋人』のあらすじ
原因不明の腹痛に悩まされるクロエ。
彼女は精神分析医ポールの元を訪れます。
穏やかなカウンセリングにより、痛みから解放されたクロエはポールと恋に落ち、同居を始めます。
ある日、美術館の監視員の仕事を終えたクロエは、バスに乗り帰宅の途で、街角でポールに瓜二つの男を見かけます。
ポールは女性と浮気をしているのではないかと怪しんで、気になった男の元を訪ねます。
すると、ルイと名乗る男はポールと双子で、精神分析医だといいます。
しかも、なぜかポールはルイの存在を隠していました。
真実を突き止めるためルイの診察室に通い始めたクロエは、優しいポールと違い傲慢で、挑発的な態度を見せるルイに惹きつけられていきます。
やがて、クロエ、ポール、ルイの三角関係は、鏡合わせの様相と螺旋の謎にバランスを崩してしまい…。
映画『2重螺旋の恋人』の感想と評価
キャストとストーリー展開のおさらい
記事の冒頭にある本作品『2重螺旋の恋人』の予告編にあるように、オゾン作品『17歳』の女優マリーヌ・ヴァクトが演じる主人公クロエが、原因不明の腹痛のため、精神科医ポールに元を訪ねます。
一方で穏やかで誠実な医師ポール役を演じるのは、マリーヌと同じく、1999年にオゾン監督の『クリミナル・ラヴァーズ』に出演した俳優ジェレミー・レニエが務めます。
女優のマリーヌも確かに魅了的な俳優ですが、ポール役を演じたジェレミーは、オゾン作品のほかにも、ダルデンヌ兄弟監督の『ある子供』(2005)でブリュノ役で主役を務め、オリヴィエ・アサイヤス監督の『夏時間の庭』(2008)に出演する名優。
彼の静けさと情熱的な2面を見せた佇まいの1人二役は、実に素晴らしい演技力を見せています。
参考映像:『ある子供』(2005)
ポールは患者であるクロエの話を聞くことのみ努め、そんな状況から彼女はポールに惹かれていき、すぐに2人は愛し合うようになります。
そこまでの時間は短くとも、何も物語の嘘だと疑う余地のない俳優としての魅力が光ります。
やがて、ストーリーが展開すると、クロエとポールの2人は、同居のための引越し先で、偶然にもクロエは開いたダンボールの中から、名前が違うポールの古いパスポートを見つけてしまいます。
不満など何も無いはずだったポールに対して、クロエは疑念を抱くようになります。
そんなある日、仕事先では無い場所でポールと瓜二つな男性を見かけたクロエは、そのことをポールに問いただすと、「人違いだ」と返答されるのみで、クロエはポールをますます不審に感じていきます。
そして、あの時に見つけて訪ねた男性ルイを探し当てるクロエは、自分はポールの双子の兄で、同じ精神分析医をしていると説明されます。
クロエは自分ではない偽名を名乗り、ルイの診察室に通い始めるが、そこで見たもの予想もつかなかった真実への螺旋の迷宮へ足を踏み入れてしまいます。
このスリラー映画は、やはり、オゾン監督の手腕がとても光っており、映画の冒頭でアイリスショット表現された、マリーヌ演じるクロエの顔を撮られた演出は、もはやフランス人監督にしか使えない手法ではあるまいかと思うほど、オシャレでカッコいい始まり。
オゾン監督の仕掛けた二項対立の闇
何を窃視(覗き見)させるのかと思いきや、クロエが髪を切ると様子に、彼女がどのように化けるのか観察する映画なのかと思い知らさせます。
それだけでなく、引越し先の隣人や猫といったアイテムもスリラーに活かし、クロエの精神面の描写は美術館監視員として働くクロエと作品展示で見せていきます。
また、鏡や双子の精神科医、またその自己の二面性などでサスペンスを加速していく巧みさと、その核心の謎については鍵は螺旋状で見せる粋な計らいです。
もちろん、本作の原題はL’amant Doubleなので、直訳すれば「2人の恋人」はマリーヌにとっては、もちろんポールとルイ。
しかし他にも、ネタバレ書けないが、もう1人の恋人がおり、また、もう2人、イヤもっと深読みすれば、さらに2人。面白すぎます。
この作品は双子だけではなく、性別、さらに親子など、2つということで二項対立で割り切れないことがテーマに奥深く描かれています。
この作品を観ながら、実は途中のエグい場面や象徴としてメタファー表現に、かつてのデヴィッド・クローネンバーグ監督やデヴィッド・リンチ監督を彷彿させられもしました。
しかし、社会構造や生物学的に、二項対立やマジョリティーやマイノリティで割り切れないことを述べるなら、やはり、フランソワ・オゾン監督ココにありだなと思い知らさせた感じがします。
オゾンらしくないオゾンらしい映画!
もしくは、オゾン監督はこの世に、またも、こんなにカワイイ子ども(映画)を産み落としてくれたのだなと、ファンとしては「ブラヴォー!」と拍手を送りたい!
まとめ
優しく穏やかな精神科医ポールと交際していたクロエだが、姿形や声はそっくりという謎の男に出会います。
そのもう1人の精神科医ルイの性格は、傲慢で挑発的だがとても惹かれていってしまう…。
まるでエロスとタナトスのような2人の精神分析を受けるクロエは、そのどちらとも情を通じる関係を結び、背徳の愛へと沈んでいくとき、“自分が愛した男は何者”なのか?
また、“自分の内にいるものとは何者”なのか?
深い闇の謎をクロエと一緒に観客のあなたも双子になって迷い込んでくださいね。
意外と見落としがちなので、再度述べておきますが、美術館の場面の作品展示は、実にクロエの状況を雄弁に語っており、見どころです。
また、ある場面でクロエと対の構造になる登場人物の1人は、まるでノルウェーの画家エドヴァルド・ムンク、あるいはドイツの版画家ケーテ・コルヴィッツのような暗く思い装いは必見。
フランソワ・オゾン監督の『2重螺旋(らせん)の恋人』は、8月4日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開。
コワイ、コワイ映画、ぜひ、お見逃しなく!