Netflix映画おすすめのサスペンス映画、3者の感情が交差する濃厚な誘拐劇『ステラ -真昼の誘拐-』
映画や創作物の多くは登場人物が少なければ少ないほど、登場人物同士の密度の濃い物語となります。
「ワンシチュエーションスリラー」と呼ばれる1つのシチュエーションのみを舞台とした作品の面白味は「密度の濃さ」とも言え、登場人物を絞ることで面白味がさらに引き立つ相性の良い作品と言えます。
今回は僅か3人の登場人物でのみ描かれる誘拐劇を題材としたドイツ映画『ステラ -真昼の誘拐-』(2019)をネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
映画『ステラ -真昼の誘拐-』の作品情報
【原題】
Kidnapping Stella
【配信】
2019年(Netflix限定配信)
【監督】
トーマス・ジーベン
【キャスト】
マックス・ボン・デル・グレーベン、クレーメンス・シック、イェラ・ハーゼ
【作品概要】
ドラマの脚本や監督を務めるトーマス・ジーベンが手掛けたクライムサスペンス映画。
『007 カジノ・ロワイヤル』(2006)への出演以降、『X-ミッション』(2016)や『ネイビーシールズ ナチスの金塊を奪還せよ!』(2018)など国内外で話題となる作品に起用されたクレーメンス・シックが出演しています。
映画『ステラ -真昼の誘拐-』のあらすじとネタバレ
車を盗み、ホームセンターで必要なものを買い揃え、人気のないアパート部屋に目張りを行うトムとヴィク。
充分な準備を終えた2人は真昼の路上で道を歩いていた女性ステラを無理やり車に乗せ誘拐します。
アパートにステラを連れていくと、2人は目張りした部屋のベッドに彼女を拘束します。
ヴィクはステラから父親の電話番号とメールアドレスを聞きだし、彼女を誘拐したことを写真付きで送信し身代金を要求します。
着々と行動を続けるヴィクに対し、トムには心中に迷いが生じていました。
食欲がないことからヴィクにそのことを見抜かれたトムは「ヴィクに刑務所に逆戻りするかもしれないこと」や、「人質を殺さなきゃいけないかもしれない」と言う不安に繋がる考えを全て忘れるように忠告されます。
ヴィクが身代金の要求を行いに外に出ている間、1人で10分おきにステラの状態を確認するトムはステラがトイレをしたいと言う要求を聞き入れます。
ステラの拘束を解いたトムの隙をつきトムから銃を奪ったステラは、トムのつけているマスクを脱がし顔を目撃します。
トムはステラの元恋人であり、ステラに対し自身の人生を滅茶苦茶にしたと恨んでいました。
2人はもみ合いになり銃が一発発砲されますが、誰にも当たることはありませんでした。
トムはステラから銃を奪いベッドに再び拘束すると、自分の顔を見たことをヴィクには秘密にしないと彼は何をするか分からないとステラに言います。
部屋から出るとすぐにヴィクがアパートに戻り、ステラの父親が身代金の支払いを拒否したと言います。
ステラの父親に更なる脅迫を突き付けるため、ヴィクはステラの小指を切断する動画をトムに撮影させます。
ステラが泣き叫ぶ様子をカメラに撮影するトムは、彼女が「妊娠しているから助けてほしい」と叫んだことを気にしヴィクが指を切断する直前で彼を止め、ここまでで充分だろと説得。
部屋を出た後、撮れ高にヴィクは満足しますが、今後自分に命令をするなとトムに釘を刺します。
ステラの食事の時間となり、食事を食べさせるために部屋に入ったヴィクとトム。
そこでトムはステラともみ合いになった際に発砲された銃弾の薬莢を見つけます。
薬莢が見つかると発砲があったことがヴィクにバレてしまうと考えたトムは、ヴィクにバレないように薬莢を拾いますが、ヴィクにその行動を不審に思われてしまいます。
ヴィクはトムの行動を興奮しすぎているからだと判断し、彼のことを労りつつ、先ほどの映像を用いもう一度脅迫のために外へと出ていきます。
トムはステラに妊娠のことを問いただすため部屋に入り、彼女の猿ぐつわを取ります。
ステラはトムが悪い人間たちと繋がりがあることを気にし、付き合っている間に徐々に間を置くようになりました。
トムは服役中にステラから何も便りが無かったことに怒り、身代金強盗を企むヴィクにステラを紹介しました。
ステラはトムとの間の子供を妊娠しているとトムに言いますが、彼女の主張する期間にはトムは服役中であったためトムは信用しようとしません。
しかし、それでもトムとやり直そうとする姿勢を見せるステラに誘惑されトムは彼女を抱こうとします。
彼女の拘束を解いたことをきっかけに、逆にステラに手錠をかけられるトム。
ステラはアパートから脱走しようとしますが、ドアを開けるためにはトムの近くに落ちている鍵が必要であり、やむを得ず携帯電話を取り戻し警察に通報します。
その後、脱出のためステラが鍵を拾おうとしている隙に手錠を外したトムが彼女を失神させました。
ステラを元の状態に戻したトムは、返ってきたヴィクに対し何事もなかったかのように装います。
ヴィクはステラの父親との交渉で400万もの大金を要求することに成功しており、残る作業は金と人質の受け渡しだけでした。
金が手に入り次第、自身はメキシコに逃走し太平洋の見える家に住むと言うヴィクはその暮らしにトムも誘います。
返事を渋るトムに対し考えておくように頼んだヴィクは仕上げの作業に入るため準備を始めます。
映画『ステラ -真昼の誘拐-』の感想と評価
誘拐劇を題材とした本作『ステラ -真昼の誘拐-』では、刑務所から出所直後の誘拐犯の1人トムを主人公とし物語が展開していきます。
綿密な計画を立てたものの心に迷いのあるトムが主役となっているため、無事に逃げ延びるため様々な方法でトムを騙そうとする誘拐された女性ステラが計算高い悪女のように映ります。
犯罪行為に身を染めながらも悪の道に強く踏み出すことの出来ないトムは、複数回に渡りステラに騙されてしまうことになり、トムに感情移入している鑑賞者はステラに対し快く思わないような構成となっています。
しかし、あくまでもトムは私欲のためにステラを誘拐した犯罪者であり、短絡的かつ他人を傷つける行為で大金を得ようとする忌むべき人物であることも間違いありません。
「犯罪に走ってしまったが実は心優しい人間」と言う要素とトムを演じたマックス・ボン・デル・グレーベンの「どこか憎めない演技」が重なり、解釈を行う側の「善悪の逆行」が起きています。
さらに物語終盤に差し掛かるとトムの善性が決定的となり、物語のヒーローとしての行動が増え始めます。
一方でトムと共にステラを誘拐したヴィクは決定的に「悪」となり、物語は混乱の渦中へと引きずりこまれていきます。
ですが、ヴィクの視点からこの物語を見ると、綿密な計画を立てたにも関わらず信頼していた相棒のトムに裏切られてしまった悲劇の登場人物のようにも見ることが出来ます。
このように、どの目線から物語を描くかによって受ける印象が変わってしまうと言う物事の本質を強く描いた意外性のある作品でした。
まとめ
一時の感情で犯罪行為を行ってしまい戸惑うトムと、トムのことを深く信頼しているが計画のためならあっさりと切り捨てるであろう相棒のヴィク。
すぐに感情的になる人間の持つ心優しさと落ち着いた人間の見せる冷酷さ。
心理学用語で「ペルソナ」と呼ばれる人の精神の中にある真逆の精神性。
その精神性は時に「ペルソナ」の本来の意味である仮面にも例えられ、本作のポスターには劇中に登場する「マスク」が本作に含まれた「ペルソナ」の要素を意味するかの如く印象的に採用されています。
「善悪の逆行」と「真逆の精神性」と言う心理的要素を巧みに取り入れた本作『ステラ ー真昼の誘拐ー』。
1つの誘拐事件をたった3人の登場人物で描いた映画『ステラ -真昼の誘拐-』は、人間の本質を描いたオススメの作品です。