謎に包まれた『鳩の撃退法』のタイトルの意味を考察!
藤原竜也演じる元小説家が執筆した小説を巡り「現実」と「想像」が入り乱れる物語が展開される映画『鳩の撃退法』(2021)。
本作では物語の一応の解決は提示されますが、全体を俯瞰するとさまざまな謎を残したまま映画が終わっていることが分かります。
今回はその中でも主人公の津田が小説に付けたタイトルであり、本作のタイトルでもある「鳩の撃退法」という言葉の意味を作中の要素から考察していきたいと思います。
映画『鳩の撃退法』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督】
タカハタ秀太
【脚本】
タカハタ秀太、藤井清美
【キャスト】
藤原竜也、土屋太鳳、風間俊介、西野七瀬、豊川悦司、坂井真紀、濱田岳、リリー・フランキー、佐津川愛美、桜井ユキ、柿澤勇人、駿河太郎、浜野謙太、岩松了、村上淳、ミッキー・カーチス
【作品概要】
1987年に時任三郎を主演に映画化された「永遠の1/2」などの著作を持つ佐藤正午の同名小説を映像化した作品。
舞台「身毒丸」での俳優デビュー時に非凡な才能を世界から絶賛され、映画『バトル・ロワイアル』(2000)以降は日本映画の第一線で活躍し続ける藤原竜也が主演を務めました。
映画『鳩の撃退法』のあらすじ
富山の片田舎でデリヘルのドライバーとして過ごす元直木賞受賞作家の津田(藤原竜也)は、深夜の喫茶店で思い詰めた様子の秀吉(風間俊介)と出会います。
その日以降、喫茶店に現れることがなくなった秀吉が家族ごと姿を消したことを知った津田は自身も「大きな存在」に巻き込まれ始めたことを知ります。
──と言う、物語の小説を書き始めていることを津田は編集者の鳥飼(土屋太鳳)に話しますが、鳥飼は彼の書く物語が「実際にあったこと」ではないかと疑っていて……。
「鳩の撃退法」の意味
裏社会のボス「倉田」は部下に津田への伝言として「囲いを出た2羽の鳩の行方」を問いかけます。
津田はのちに1万円札に記載された「鳳凰」の絵柄に気づき、偽札は鳳凰の偽物だから「鳩」と呼ばれていると言う結論に辿り着きました。
この津田の推論は偽札の行方を探していた倉田の行動とも合致するものであり、「鳩」は「偽札の隠語」であると言う体で物語が進められていきます。
そして映画の終盤、死亡したと思われていた秀吉の生存を確認した津田は、自身が書いた一連の事件を基にした小説に「鳩の撃退法」と命名。
作中の物語における「鳩」をそのまま扱うのであれば、そのタイトルの意味は「偽札の撃退法」となりますが、一方でその結論には疑問が残ります。
「撃退法」という表現の違和感
作中にて「鳩」と呼ばれる2枚の「偽札」は、秀吉のミスによって「偶然」にも津田に渡り、報復を恐れた津田が仲介を挟んで倉田へと返却されます。
そもそも「撃退」には「攻撃を仕掛けてきた相手を、逆に攻撃し追い払う」と言った意味がありますが、津田の作中での行動は「保身」の一点であり、偽札や倉田に対して「攻撃」を仕掛けたと言う印象はありません。偽札の行方を小説に発刊すると言う行為が津田の「攻撃」と捉えることも出来ますが、津田が秀吉を見てタイトルを思いつく蓋然性が無いように思えます。
この疑問を突き詰めていくと、「鳩」が「偽札」と言う津田の結論にも疑問が生まれてきます。
「鳩」は本当に「偽札」なのか?
作中では「鳩」と言う単語はいくつかの場面で登場しますが、その場面の多くは津田の「想像」を基にしたフィクションであり、津田の体験した「現実」として「鳩」が利用されるのは、倉田の部下が津田に伝言を伝える場面のみとなっています。
この場面にて津田は、倉田に偽札を返却するために倉田の部下に連絡を取らせた際に伝言を聞くことになるのですが、偽札を含めた金の受け渡しの連絡を受けた倉田が、偽札の行方を津田に訪ねるのは違和感があります。
「鳩」が「偽札」と言う津田の推論が誤っており、秀吉の生存を津田が知ったことで「鳩」の真の正体に辿り着いたと仮定した場合、「鳩」は一体何のことを指しているのでしょうか。
ポイントとなるのは「2羽」と言う数であり、劇中で「2」が重要な意味を持つものは「偽札」や「ダムで見つかった遺体」の数です。
津田が想像したように、殺害されようとしていた秀吉の妻と妻の不倫相手が倉田のもとを逃げ出していたのだとすれば、「囲いを出た」もしくは「飛び立った」と言う表現にも違和感はありません。
さらに秀吉の苗字は「幸地(こうち)」ですが、読み方を変えると「ゆきち」とも読めます。「ゆきち」は1万円札の肖像でもある「福沢諭吉」を彷彿とさせ、偽物の鳩理論から「偽物の幸地」=「浮気をした秀吉の妻」とも考えることが出来ます。
この場合、「鳩の撃退法」と言うタイトルは「偽物の家族に対する報復」を意味すると想像できますが、この推論は作品に対する新たな見解を生み出すことになります。
別解:倉田の正体と「鳩の撃退法」
喫茶店で働く地元に詳しい従業員の沼本や床屋を営む前田がその存在を知るように、「本通り裏」のボスである「倉田」は映画作中の現実世界にも実在し人々から恐れられています。
津田の「想像」パートでは倉田は豊川悦司によって演じられていますが、津田は一度も倉田と遭遇したことはなく声すらも聞いたことがないため、容姿や声など外見情報は全てが「想像」で補われています。
一方、津田の「現実」と「想像」を組み合わせた小説では「妻の浮気を知った日になぜ喫茶店を休んだのか」の答えとなる秀吉の行動が明確にされていないなど不明な点が多く、秀吉は多くの点で謎に包まれています。
津田の「想像」を全て省いて検証すると、秀吉と倉田の双方に会ったことのある人物は津田の仲間には存在しないため、「倉田の正体が秀吉である」と考えることも可能です。
タイトルとなる「鳩の撃退法」は秀吉の正体が幸地ではなく倉田だと気づいた津田による告発だと言う推論。それは津田自身の受け身続きで終わってしまった「偽札」に対する撃退よりも、しっくりくる結論になるのではないでしょうか。
まとめ
佐藤正午の原作および映画公式サイトでも「鳩の撃退法」の意味は明かされておらず、結末もタイトルの意味も解釈は鑑賞者に委ねられています。
観れば観るほど違う解釈が生まれてくる映画『鳩の撃退法』は、「考察」好きの方には是非とも観て欲しい作品です。
本記事で初めて本作を知った方も、一度鑑賞した上で本記事に辿り着いた方も、繰り返し本作を鑑賞する中で「自分にとっての真実」に誰よりも早く辿り着いていただきたいです。