シッチェス映画祭ファンタスティックセレクション2013にて上映『ロスト·ボディ』
2012年スペインで公開された映画で、オリオル·パウロ監督ならではの興味津々な展開によって、興行的な成績が多く見受けられました。本作によって、オリオル·パウロ監督の初劇場用長編映画デビュー作を飾りました。
この映画は、不倫によって妻を殺した夫が妻の遺体が消えたという知らせにより、容疑者として、取り調べを受ける事になっていく様を描くミステリー・スリラーです。
主演には、ハイメ刑事役のホセ·コロナド、アレックス役のウーゴ·シルバを始め、マイカ役のベレン·ルエダ、カルラ役のアウラ·ガリードが出演。ホセ·コロナドは、2度目のフォトグラマス·デ·プラータの映画男優賞を受賞しました。
映画『ロスト·ボディ』の作品情報
【公開】
2012年(スペイン映画)
【原題】
El cuerpo
【監督】
オリオル·パウロ
【キャスト】
ホセ·コロナド、ウーゴ·シルバ、ベレン·ルエダ、アウラ·ガリード、フアン·パブロ·ショック、オリオール·ヴィラ、クリスティーナ·プラサス、パトリシア·バーガロー、シルビア·アランダ、アイナ·プラナス
【作品概要】
2017年『インビジブル·ゲスト 悪魔の証明』で、ベスト10に選ばれる程の傑作ミステリー映画監督オリオル·パウロの映画初デビュー作。妻を殺そうと試みた男に、降りかかる奇妙な出来事と事件を追った死体失踪スリラー映画です。
『ロスト·ボディ』は、『インビジブル·ゲスト 悪魔の証明』(2017)より超える多くの観客を動員しました。ヨーロッパの多様性映画としては、上々の興行だそうです。また、韓国映画『死体が消えた夜』(2018)の原作でもあります。
映画『ロスト·ボディ』のあらすじとネタバレ
真夜中に、森の中で、不安そうな警備員が、何かに追われて警備員は道路脇に飛び出し、車に轢かれる事故が発生します。警察が出動して調べた結果、男の名前はアンヘル·トーレス、遺体安置所に勤務する警備員です。
浴室から出た所、1本の電話が鳴り、この知らせを聞いた刑事ハイメは、病院へ向かいます。そして、先に集まった部下パブロ達に警備員の状態と状況を聞き、死体安置所に向かいます。
死体安置所で見て回りながら、そこで一つの死体1体が消えたという事実を発見したのです。意識不明の警備員を置いて、遺体の身元調査をしてみた結果、その遺体の主人公はマイカで有名企業の会長でした。
部屋に付いている監視カメラを調べてみますが、先程の警備員が逃げ出す姿しか見えませんでした。そして、ハイメ刑事はその遺体の配偶者である夫のアレックスを呼び、尋問を始めようとします。
そうして、警察は心臓麻痺だと思ったマイカが消えると、再捜査をする事になり、全ての状況を見た警備員は昏睡状態になっており、既に事件を捜査中の警察と簡単な会話を交わしています。
個人事業を成功させただけでは足りず、とてつもない財産と美貌を兼ね備え、多才多能さを持続的に発揮する事業家マイカと結婚したアレックスは、幸せそうでした。
しかし、彼女の執着は次第に強くなっていったが、結婚生活は続いていました。
ある日、出張から戻った後、突然の心臓麻痺でのマイカの死体が、発見されました。マイカとアレックスの結婚式ムービーを見ていた家族は、悲しみを分かち合っていました。
アレックスは、 一人ベッドで横になっていました。家族全員がそれぞれ家に帰った後、アレックスは、バイクに乗って何処かに駆けつけます。
そして、到着した所は、自分の不倫の相手であるカルラの家でした。実は、この全てはうんざりする結婚生活から脱しようと自分と愛人カルラが、一緒に行った殺人事件でした。
アレックスは、飲んでから8時間後に薬の成分が消える毒薬で、完全犯罪を計画していたのです。
アレックスの電話が鳴ります。死体検視所から連絡を受けました。電話内容は心臓麻痺で死亡判定を受け、安置所にいたマイカの遺体が消えたという事です。
つまり、妻の死亡の知らせを聞いてから、間もなく鳴る電話一本、それは自分が殺した妻の死体が消えたという内容でした。
アレックスは動揺しながらも、急いで安置所に行きました。
アレックスは、到着した死体安置所で、短い取調べと共に、証拠もない事を確認した彼は、平気で状況を受け入れる演技をし始めます。
しかし、外部からの侵入の痕跡がなく、正確にマイカの死体を狙った犯行に、アレックスは一人で混乱し始めます。
死体安置所を訪ねて来たタピア博士に対面しようと、ハイメ刑事達は、その場から少し離れます。
アレックスは、その隙間にカルラにこっそり電話をして、「全ての通話記録を記録した証拠となる物を、全てを消せ」と言います。
その上に、「警備員が入院している病院に、知り合いはいないか」と訪ね、様子を見て来てくれるようお願いをします。
タピア博士との会話にて、タピア博士はアレックスに、「解剖をしなかったから、死亡を確定する事は出来ない」と言います。
その後、別部屋に移動したハイメ刑事と部下とタピア博士は、妻を亡くしたにもかかわらず、落ち着いているアレックスの様子が、怪しいと疑います。
ハイメ刑事とタピア博士は、階段で会話しながらコーヒーを飲みます。
ずっと待ちくたびれたアレックスは、「帰らせてくれ」とマテロスに言いますが、もう少し待つよう言われます。その時、急に停電になり、マテロスは原因を確認しに離れます。
大人しく待つアレックスは、何処かで変な音がして、そこに行ったらマイカの死体があった所でした。
そこで、マイカの所有物と、自分の犯行道具に使われた毒薬ケースが一緒にありました。つまり、隠していた証拠が一つずつ発見され始めました。
回想場面になり、アレックスは、浴槽に浸かっているマイカの為に、ワインを持って行きます。
そして、マイカがワインを飲むのを隠れつつ、待っています。浴室から出たマイカが、アレックスの会社に電話をし、アレックスと一緒にいられるよう、スケジュール調整しています。
現在の場面に戻ります。
アレックスは慌てて、ポケットに毒薬入れを隠すと、直ぐに電気がつきました。ハイメ刑事とパブロ達がそこに来て、マイカの携帯を探し始めます。
マテロスは、マイカの携帯電話を探している時に、何かがない事により、アレックスを疑います。気の早いハイメ刑事の押しに負けてしまったアレックスのポケットに、毒薬入れを見つけました。アレックスは、「僕のではなくて会社で研究されている物」だと訴えます。
そのタイミングで、アレックスの携帯に電話が鳴りました。相手はカルラからですが、アレックスは「妹からだ」と嘘を付き、電話に出ます。
弱り目に祟り目で、入ったトイレで、カルラに電話をかけ直します。今の状況を話すアレックスは、2人の秘密の関係を知られていないか確認します。
玄関にて、ハイメとパブロはタバコを吸います。パブロは今迄知る事のなかったハイメの家族の事を、聞いたようです。
一方で、トイレで顔を洗っていたアレックスは、鏡越しの窓の淵に見つけたメモには、自分とカルラとの携帯メールの内容が書かれていました。死んだ妻の死体が消えて、自分とカルラだけが知っている内容を、第3者が知っている状況に、パニック状態に陥ってしまったアレックスでした。
回想場面です。
家に帰って来たアレックスに、パーティーの招待状が来ていました。そこにマイカが現れ、「電話したのに何故出なかったの」と尋ねます。
マイカは年齢差の事もあり、アレックスに自分の不安を伝えていました。その日の夜、ベッドからアレックスは静かに抜け出し、携帯でカルラからのメッセージを読んでいます。その姿を、マイカは見ていました。
映画『ロスト·ボディ』の感想と評価
この映画は、死体検視所で起こる事件を扱う事で、死体検視所という背景が与える不気味さ、その雰囲気に合う寒さや夏のホラー映画に出てきそうな演出で涼しさを表現しています。
観客が最初に考えた映画の流れに、合間合間に新しい手がかりや事件を投げかけ、オリオル·パウロ監督の流れに観客を引き込ませ、その全ての真実を飛び越え、予想も出来なかった反転に導くオリオル·パウロ監督の能力は、本当に素晴らしいです。
事件に関連する内容とメインで扱われる事件とは、無関係のような話が裏で縺れて、新しい反転を作り出す話の流れが、この監督の特徴のようです。
緻密な脚本による反転推理物流に、大金を使わずに魅力を与えるには確実に効果的であるだけに、オリオル·パウロ監督は、犯罪スリラー分野の特化された監督になるかも知れません。
反転スリラー名監督らしく、物語は美麗に流れながらも、ずっと混乱に陷り、没入感を増してくれます。
その上、優れた演出力と、非常に繊細で深みのあるキャラクターとしても描かれており、俳優陣の演技力も非常に秀でており、お陰で打ち込むことが出来た映画です。
映画はとても露骨に、妻が生きていると錯覚する夫の見方を重点的に提示し、視聴者の耳目も妻の生死に注目した後、 反転を提示する事は、非常にインパクトがありました。
勧善懲悪の痛快で、冷たくて恐怖感のある展開が魅力です。因果応報という言葉が、おのずと思い浮かびました。最後の「チクタク..」は、印象に残ります。
“私が殺した妻が消えた”という設定自体が挑発的でした。
自由な想像力で、現実と幻想を行き来するストーリー構成と、風変わりな文化的感受性で異質な質感のエキゾチックな恐怖を披露しており、スペイン映画史上最高のミステリー·スリラーです。
まとめ
映画『ロスト·ボディ』は、一事件を眺める男性主人公と刑事の間の二つの視線が鋭く対立し、二つのうちどちらが正しいか観客の考えをまとめている途中、二つとも全く関係のない結論を完璧に出している為、その反転の格差をさらに大きく感じさせられます。
映画の中で、過去の妻を守る事が出来なかった自責感に苦しむハイメは、結局、その自責感のお陰で、自分の人生を守り抜いたのだという気がします。
時に否定的な感情を、無条件に排除しようとする。しかし、時にはその不正が人生を送る事もある。見送った人を哀悼し、堪える唯一の理由にもなるのでしょう。
ハイメにとって、その過去がそうではなかっただろうかと。そして、愛する家族を失った人の怒りは、どんな欲望でも勝つということです。
スリラー、ミステリー等のジャンル映画に分類されてはいるが、最大のメッセージとしては、本当の強烈な愛の力そのものを、この映画は語っているのです。