悪ノリが加速し炸裂する、伝説のSFコメディシリーズ第2弾
タイムパラドックス?そんなモノは「Excellent!」と叫んで、ノリで解決した痛快タイムトラベルコメディ『ビルとテッドの大冒険』。
大ヒットを受けシリーズ第2作が誕生します。その名も『ビルとテッドの地獄旅行』。
アレックス・ウィンター演じる”ビル”と、1作目より大人の顔に成長したキアヌ・リーブス演じる”テッド”が、今度は死後の世界を旅するハメに。
おバカが死んでも治らなかった2人組は、新たな相棒と出会います。
CONTENTS
映画『ビルとテッドの地獄旅行』の作品情報
【公開】
1991年(アメリカ映画)
【原題】
Bill & Ted’s Bogus Journey
【監督】
ピーター・ヒューイット
【脚本】
クリス・マシソン、エド・ソロモン
【キャスト】
キアヌ・リーブス、アレックス・ウィンター、ジョージ・カーリン、ジョス・アクランド、パム・グリア、ウィリアム・サドラー
【作品概要】
未来に音楽で世界に平和をもたらすロックスターとなる、今はお気楽高校生2人組のビルとテッド。しかし未来には、彼らの存在を快く思わぬ者がいました。
その人物にビルとテッドは殺されます。しかしお調子者の彼らは地獄旅行を繰り広げる、と前作をあらゆる意味でスケールアップした、痛快SFコメディ映画です。
前作と同じくクリス・マシソンとエド・ソロモンが手掛けた脚本を、『ハロルド・スミスに何が起こったか?』(1999)や『ガーフィールド』(2004)のピーター・ヒューイットが監督します。
キアヌ・リーブス、アレックス・ウィンター、ジョージ・カーリンが引き続き登場、『シシリアン』(1987)や『リーサル・ウェポン2 炎の約束』(1989)のジョス・アクランド、ブラックスプロイテーション映画の人気女優、『ジャッキー・ブラウン』(1997)のパム・グリアと共演。
ビルとテッドの新たな相棒となる”死神”を、『ダイ・ハード2』(1990)などの悪役や『ミスト』(2007)の印象に残る演技で有名な、個性派俳優ウィリアム・サドラーが演じ、彼を代表する役となりました。
映画『ビルとテッドの地獄旅行』のあらすじとネタバレ
西暦2691年のカリフォルニア州サン・ディマス。
世界はビル・プレストン(アレックス・ウィンター)とテッド・ローガン(キアヌ・リーブス)のバンド、”ワイルド・スタリオンズ”(綴りは”Wyld Stallyns”)の音楽の力で、愛と平和に包まれていました。
しかし、中には世界はバカ2人が残した騒がしい音楽に支配されたと、怒りを募らせる者もいたのです。
その首領、デ・ノモロス(ジョス・アクランド)は、”ワイルド・スタリオンズ”の音楽が世界に広まる、第2の運命的瞬間を迎える前に、ビルとテッドを始末しようと動き出します。
2425年創立の”ビル&テッド大学”で、お馴染み電話ボックス型タイムマシンから、学生たちの前に現れるルーファス(ジョージ・カーリン)。
彼は歴史上の偉人エジソンとバッハとジェームズ・マーティン(ロックバンド”フェイス・ノー・モア”などで活躍したギタリスト、ジム・マーティン )と、23世紀の技術者を紹介します。
偉人と共に講義を始めようとした時、教室を武装したデ・ノモロス一味が襲撃します。デ・ノモロスはルーファスの恩師でした。
過去の世界にビルとテッドそっくりのロボットを送り込み、本物の2人を殺害してロボットとすり替え、異なる音楽と思想を広めようと企てるデ・ノモロス。
2人のおバカな性格までコピーされたロボットは、タイムマシンで過去の世界に向かいます。
しかしデ・ノモロス一味の隙をつき、タイムマシンと共に過去へ旅立つルーファス。
現在のサン・ディマスで、15世紀のイギリスからやって来た、愛するジョアンナとエリザベスと共に”ワイルド・スタリオンズ”を結成したビルとテッド。
彼らは音楽業界にコネのあるワードロー(パム・グリア)の前で演奏を披露していました。
しかし音楽は滅茶苦茶だと、彼女からダメ出しを喰らいます。これではロック・ミュージシャンの登竜門、ロックバトルでの優勝など叶いそうもありません。
バイト暮らしの2人はロックバトルで優勝し、ジョアンナとエリザベスにプロポーズしようと考えていました。
中世から来た恋人の521歳の誕生パーティーで、ロックバトルに優勝すれば、借りた金を返すと父に伝えるテッド。
成り行きで負けた時には、男女4人まとめて陸軍学校に送られそうな雰囲気になります。警部であるテッドの父は、ビルの父と離婚したミッシーと結婚しラブラブでした。
パーティーが落ち着くと、ビルとテッドはそれぞれの相手にプロポーズします。酷い文句の告白ですが、それを受け入れたジョアンナとエリザベス。
同じ頃サン・ディマスのコンビニ、Kマート前に現れたタイムマシンから、ビルとテッドの偽ロボットが登場しました。
ルーファスの姿はありません。彼は時空の狭間に消え去ったようです。
偽ロボットは電話をかけ、ジョアンナになりすましてビルとテッドに別れを告げました。そして傷心の2人の前に姿を現すロボットたち。
ロボットを恋の手助けに現れた、未来から来た自分たちと信じたビルとテッドは、ロボットによって砂漠に連れ出されます。
そこで正体を現したロボットに崖から突き落とされ、あっさり殺されたビルとテッド。
哀れにも亡骸から離れたビルとテッドの魂。彼らの前にグリム・リーパー(死神。同時にイギリスのヘヴィメタバンドの名前)が現れました。
自分と共にあの世に向かえと促す死神(ウィリアム・サドラー)。愛する彼女のためにこの世に残りたい2人は、とりあえず死神のタマを痛めつけ逃げ出します。
家に戻った2人の魂の前で、ジョアンナとエリザベスを手荒に扱うロボットたち。すっかり様子の変わったビルとテッドに、彼女たちは失望しました。
ロボットがロックバトルの後に、恋人たちを殺すつもりだと知って、阻止を決意するビルとテッド。
とはいえ実体が無く、語りかけることも出来ぬ魂となった2人。そこで映画『エクソシスト』よろしく、テッドの父に憑りつこうと考えます。
警察署にいた父に憑依して、警官たちにロボットを逮捕し2人の姫君を守れと命令しますが、まるで相手にされません。
見かねたビルも同僚に憑りつき説明に加わりますが、お話にならず諦めます。
今度は降霊会をしていたビルの元義母、今はテッドの義母ミッシーの前に現れます。
ところが悪霊扱いされ、適当な呪文を唱えられた結果、地獄に落とされたビルとテッドの魂。
2人の堕ちた地獄は、ヘヴィメタのジャケットと大違い。お気楽に地獄を冒険するつもりの2人は、陸軍学校の教官に出会ってシゴかれます。
これは個人仕様の地獄だと気付く2人。ビルは子供時代のトラウマ、お祖母ちゃんにキスを迫られ、テッドはイースターバニーの人形に追われます。
えげつない目に遭わされた2人は、死の運命から逃れ地獄を脱出しようと、死神との勝負を決断します。
死神との勝負に勝った魂は、死から解放されます。ただし、今まで死神との勝負に勝った者など、存在しないのです…。
映画『ビルとテッドの地獄旅行』の感想と評価
続編が描いたのは、まさかの死後の世界!?
第1作では時空を超え、歴史上の偉人たちに巡り合うビルとテッド。
続編で死後の世界を旅行し、地獄の悪魔や天国の神様にタメ口をきくとは、誰が予想できたでしょうか。
しかも”ワイルド・スタリオンズ”には死神、ロボット、宇宙人に2人の子供まで加わる、実にブっ飛んだ展開を繰り広げます。
ハチャメチャぶりに付いていけない人も続出、前作同様のヒットを期待して多額の予算を費やした割に、興行成績は今一つといった結果に終わりました。
映画業界的には期待外れの失敗作、といった烙印を押されます。
さらに問題は、神様すらネタにした事かもしれません。ポップカルチャー全盛の時代を迎えたとはいえ、アメリカはキリスト教の価値観が強い国。
この世は神が作ったとする、創造主義を信じる人々には科学やSFは目の敵。まして悪魔を讃えるヘビー・メタルの歌詞などは論外、ロックとの相性も良くありません。
もちろん科学の発展の先に神秘性を見出す人も存在し、音楽にもクリスチャン・ロックがありますが、どう考えてもビルとテッドは「真面目な」人々から嫌われる存在です。
逆に言えば『ビルとテッドの地獄旅行』は、宗教的価値観に縁の無い、ポップカルチャーに慣れ親しむ人たちからは、強く愛される作品であることを意味します。
本作は第1作『ビルとテッドの大冒険』と共に、カルトと呼ぶには多すぎる人々から、時代を超えて愛される映画に成長します。
大人気キャラとなったグリム・リーパー(死神)
60年代生まれのクリス・マシソンとエド・ソロモン、アレックス・ウィンターとキアヌ・リーブスたちの、悪ノリを詰め込んだ映画『ビルとテッドの地獄旅行』。
ベテラン俳優ジョス・アクランドが後に、本作に出演したことを後悔している、と発言した件も大いに理解できます。
一方で本作の出演を楽しんだ人物も存在します。それは死神を演じたウィリアム・サドラーでした。
西洋人がイメージする、イングマール・ベルイマン監督作品『第七の封印』(1957)の死神そのままの姿で登場し、間抜けな行為を繰り広げます。
『第七の封印』の死神は、アーノルド・シュワルツェネッガー主演作『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993)にも現れます。この映画もコケますから、実は恐ろしい貧乏神かもしれません。
映画では悪役の多いウィリアム・サドラーですが、舞台ではコメディを演じていた彼はこの役に興味を持ち、オーディションを受け獲得します。
このキャラクターは大ウケし、賞に縁の無い本作で唯一、ウィリアム・サドラーがSF・ホラー・ファンタジー系作品を評価するサターン賞で助演男優賞を獲得しました。
ちなみに本作で、全編白塗りメイクで登場する彼ですが、素顔を出して奥さんと娘さんと共に、カメオでも本作に出演。
そのシーンは家族3人そろって登場しているので、誰でも判るはず。本作への彼の入れ込みがよく判るエピソードです。
お馬鹿な世界は加速を遂げますが…
参考映像:『ミュータント・フリークス』(1993)
悪ノリの限りを尽くした『ビルとテッドの地獄旅行』、しかし興行的失敗から続編の製作は企画されません。
しかし味をしめたアレックス・ウィンターは、この世界観をさらに発展させた映画の製作に挑み、その作品にキアヌ・リーブス、ウィリアム・サドラーも参加します。
これがアレックス・ウィンターが、後にNetflixドキュメンタリー『ボクらを作ったオモチャたち』(2017~)を手掛ける、トム・スターンと共同監督した『ミュータント・フリークス』です。
タイトルから想像できる通り、「ビルとテッド」シリーズの悪ノリは本作でさらに発展。全編ほぼ出演したキアヌ・リーブスは、顔を見せない役という有様。
その過激な内容に映画会社は激怒。アメリカでは限定公開後、封印されます。
日本でも東京国際ファンタスティック映画祭などで公開された以外は、長らく観る機会が失われた作品となりました。
映画の製作・監督に挑んだアレックス・ウィンターは、本作の失敗でハリウッドから事実上の出禁状態になります。
その後はビルを演じることは無く、ドキュメンタリー映画を監督する道に進むアレックス・ウィンター。俳優の姿を『グランドピアノ 狙われた黒鍵』(2013)で目撃した時は驚きました。
この後映画スターの道を歩むキアヌ・リーブス。しかし彼は『ミュータント・フリークス』が公開された1993年に、親友の俳優リヴァー・フェニックスの死に遭遇します。
『マトリックス』(1999)で再ブレイク直後には恋人の死産、その恋人との死別を経験するキアヌ。
セレブ生活に興味がなく、音楽活動やバイクレースへの参加、公園でのボッチ飯や日本でラーメン店に入る姿が話題になる人物です。
大スターらしからぬ振る舞いが注目されますが、それは幼少期の体験を含めた数々の出来事が、彼に影響を与えた結果でしょう。
俳優キアヌ・リーブスにとって最も幸せな時は、テッドを演じていた時代かもしれません。
まとめ
熱狂的なファンを獲得した『ビルとテッドの地獄旅行』。その続編は長らく作られませんでした。
しかし時代は移り変わります。封印された『ミュータント・フリークス』が再評価されカルト的人気を獲得した結果、「ビルとテッド」シリーズの続編が作られる環境が整います。
その現場にキアヌ・リーブスとアレックス・ウィンター、クリス・マシスンとエド・ソロモン、そしてウィリアム・サドラーが再結集します。
こうして29年ぶりに誕生した作品こそ、シリーズ3作目となる『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』(2020)です。
50歳を越えたビルとテッドは、以前同様におバカな人物なのか。演じる2人同様に、様々な辛苦を味わった人物として登場するのか。
『ビルとテッドの地獄旅行』で誕生した子供たちは、物語にどう絡んでくるのか、と興味は尽きません。
無邪気なありのままの自分を晒して、成功を収めたビルとテッドの姿は、現在見るとユーチューバーやインスタグラマー、TikTokで成功した人々の姿に重なるから不思議です。
この機会に改めて、MTV時代に世界を席巻した、ビルとテッドの姿を目撃しませんか?