これがフィクションなのか!?
昭和の未解決事件が、圧倒的リアリティで蘇る。
1984年(昭和59年)。阪神を中心に起こった昭和の未解決事件「グリコ・森永事件」。
江崎グリコ社長の身代金誘拐事件を皮切りに、犯人は「かい人21面相」と名乗り、複数の食品会社を脅迫、マスコミに挑戦状を送り、青酸入り菓子をばら撒きました。のちに劇場型犯罪と呼ばれます。
公開された「キツネ目の男」の似顔絵に、市民は震え上がりました。
事件は2000年に時効を迎えています。しかし、時効を迎えても、罪は消えることはありません。
この物語は、「グリコ・森永事件」をなぞり、作者・塩田武士の圧倒的な取材と構想15年の熱い信念で書かれた傑作なのです。
そして2020年。小栗旬と星野源の出演で映画化が決定。
監督は、『いま、会いにゆきます。』『ハナミズキ』『麒麟の翼~劇場版・新参者~』『ビリギャル』など幅広いジャンルを手掛ける土井裕泰。
脚本は『逃げるは恥だが役に立つ』『空飛び広報室』の野木亜紀子が担当します。
本記事では、塩田武士の小説『罪の声』のあらすじとネタバレ、そして映画公開に向けて注目ポイントを紹介します。
小説『罪の声』ここがスゴイ!
昭和最大の未解決事件「グリコ・森永事件」をモチーフに描かれたミステリー小説『罪の声』。
「週刊文春」ミステリーベスト10にて2016年第1位。第7回山田風太郎受賞。第14回本屋大賞第3位と多くの注目を集めた話題作です。
圧倒的な取材と筆力で、これはノンフィクションであり、時効となった犯罪の本当の結末なのではないかと錯覚してしまうほどなリアリティ。
「グリコ・森永事件」は「ギン萬事件」へ、犯人グループが名乗った名前「かい人21面相」は「くらま天狗」へ、脅迫された食品メイカー「江崎グリコ・丸大食品・森永製菓・ハウス食品・不二家・駿河屋」は「ギンガ・又市食品・萬堂製菓・ホープ食品・鳩屋・摂津屋」と、実際の事件とは異なる部分の功名さで書かれています。
この小説は、フィクションでありながら、事件の裏側で今もなお苦しんでいる人がいる部分を描き出したノンフィクションでもあるんです。
小説『罪の声』のあらすじとネタバレ
京都で亡き父のテーラーを継いだ曽根俊也は、平凡ながらも仕事に誇りを持ち、妻と娘、母親と幸せに暮らしていました。
ある日、体調を崩し入院している母親から、アルバムと写真を持ってきて欲しいと連絡が入ります。
アルバムを探す俊也。父の遺品が入った引き出しの中で、黒革のノートと古いカセットテープを見つけます。
テープを再生してみると、幼い頃の自分の声が聞こえてきました。風見しんごの曲「ぼーく、ぼーく、わらっちゃいますー」とたどたどしい歌声でした。
それからしばらくの間が空き、再び声が聞こえてきました。「ばーすーてーい。じょーなんぐーの、べんちの、こしかけの、うら・・・」と、録られた記憶はありませんが、やはり自分の幼い頃の声です。
黒革のノートを開いてみると、英文で書かれた文章の中に日本語が混じっています。「ギンガ」「萬堂」、共に日本で有名な菓子メーカーです。
俊也の頭にとある事件が浮かびます。「ギン萬事件」です。
「ギン萬事件」とは、菓子メーカー・ギンガの社長の身代金誘拐事件を発端に、複数の菓子・食品メーカーを恐喝し、毒入り菓子をばら撒いた事件で、2000年には時効を迎えていました。
事件の特徴として、被害企業への接触の際、女性や児童の声が入ったテープを使用。企業への脅迫所とは別に、新聞社などマスコミに挑戦状を送り付け、劇場型犯罪として取り上げられました。
俊也は、インターネットで事件で使用された音声を検索。それは、まさに自分が手にしたテープの声と同じものでした。
なぜ自分の声が、事件に使われているのか。父がなぜこれを持っているのか?
俊也は、嫌な胸騒ぎに襲われます。誰にも相談できず悩んだ末、父の幼馴染でお店の常連でもある堀田信二を頼ることにしました。
堀田は俊也の話に驚きましたが、どんな結果であれ父親のこと、自分の声の謎を解きたいと願う俊也の想いに協力を約束します。
堀田には心当たりがありました。それは、俊也の父親・光雄の兄、曽根達雄という人物です。堀田の協力で、達雄と親しかった人物に会い居場所を探していきます。
達雄と光雄の父、俊也の祖父である曽根清太郎は、新左翼の過激派の連中と仲良くしていました。活動は過激度を増し、党内部の分裂による対立が起こります。集団リンチは、内ゲバと呼ばれ一般人をも巻き込む事態となりました。
1974年、曽根清太郎はこの内ゲバで命を落としていたのです。左翼に所属していなかった清太郎は巻き込まれただけでした。それでも葬儀に会社の人たちは誰一人来ませんでした。清太郎の勤め先は「ギンガ」でした。
父の死で、殺した犯人と会社の態度に怒りを露わにした達雄は次第に自らを抑えられなくなっていきます。達雄とは性格が反対の光雄は、悲しみも怒りも見せず淡々とテーラーの道へのめり込んで行きました。
その後、達雄は自らも過激派の連中と関わるようになり、イギリスと日本を行ったり来たりしていたということです。手帳に書かれた英文は達雄の字なのでしょうか。
俊也の父・光雄は、家族に清太郎や達雄のことを話したことがありませんでした。初めて祖父と伯父のことを聞いた俊也は、改めて曽根家が「ギン萬事件」に何らかの関りがある可能性に戸惑います。
一方、時を同じくして「ギン萬事件」を追う新聞記者がいました。大日新聞文化部所属の阿久津英士です。
阿久津は、上司の命令で年末企画の昭和・平成未解決事件の特集のため「ギン萬事件」を担当することになります。
30年以上前の事件であり、警察も捕まえられなかった未解決事件の犯人を捜し出せと言わんばかりの命令に、阿久津は正直うんざりです。
少ない情報を元にロンドンまで行き聞き込みをするも、空振りとなりました。手ぶらで日本に帰国した阿久津を上司の鳥居は心底なじります。
こうして、昭和の未解決事件「ギン萬事件」は二方向から真実解明へと動き出しました。
俊也と堀田は、達雄の線から犯人グループの会合があったという小料理屋「し乃」を訪れます。俊也の身分を明かしても女将は何も話してくれませんでした。
しかし、そこで働く板長の証言で、達雄と同じ柔道教室に通っていた生島秀樹が浮上します。堀田も同じ柔道教室に通っていました。
生島は元滋賀県警の暴力団担当。ヤクザとの癒着問題で警察をクビになっていました。その後、生島一家は神隠しにあったように姿を消しています。当時、生島には中学三年生の娘・望と小学二年生の息子・聡一郎がいました。
ギン萬事件で使用されたテープの子供の声は、丁度そのぐらいの歳の子供たちの声でした。俊也は自分と同じ境遇の子供がいることを確信します。
一方、大日新聞記者の阿久津も小料理屋「し乃」に行きついていました。初めは嫌々調べていた阿久津も、事件を追ううちにジャーナリスト魂に火が着いていました。
阿久津は当時の事件を追っていた先輩記者・水島を訪ね事件の全貌を学びます。
そこで、犯人グループは株で儲けたといううわさを耳にします。当時、違法まがいの手法で株価操作を行う不正な仕手筋がまかり通っていました。その線から阿久津は当時ギンガ株で儲けた仕手グループを探ります。
同時に当時の犯人グループの無線のやり取りを録音していた男が見つかります。そこから金田哲司を割り出した捜査班は、金田の女・小料理屋「し乃」の女将にたどり着きます。
現場に足を運び取材を続ける阿久津に、運が向いてきます。
映画『罪の声』の作品情報
【日本公開】
2020年(日本映画)
【原作】
塩田武士『罪の声』(講談社文庫)
【監督】
土井裕泰
【脚本】
野木亜紀子
映画『罪の声』キャストについて
小説の文庫の帯には「映画化決定!小栗旬 星野源」としか書いておらず、どの役までか知らずに読みました。
どうしても途中で配役が気になりチラ見したところ、新聞記者・阿久津英士を小栗旬、テーラーを営む・曽根俊也を星野源が演じるという情報でした。
実はそれを知るまで反対のイメージで読んでいた私。阿久津を星野源、曽根を小栗旬のイメージで読んでいました。
新聞記者の阿久津は始め、忙しく流れる日々で、自分の行きたい部署も書きたい記事も分からない、熱い気持ちを失くしている男です。
事件を追ううちに、残された家族、加害者であり被害者でもある子どもたちに思いを寄せます。
自分の書きたいことは犯人が誰かということではなく、今もなお事件で苦しんでいる家族を救いたい。その思いが情熱を呼び覚まします。
最初の段階で、やる気のなさを演じるなら星野源だろうと勝手に思い込んだが最後。段々と頼もしくなっていく阿久津に、男らしい星野源を見たいという欲求がプラス。
そして、テーラーを営むこだわりの職人、曽根俊也。スーツをびしっと着こなす小栗旬が容易に想像出来ました。
俊也は真面目で家族思い。それゆえ、真実が目の前に迫ると逃げてしまいます。しかし、阿久津との出会いで気持ちが変わっていきます。阿久津もまた正義の男でした。
事件に関わった伯父と母の罪を認め、子供の未来のために自分も前を向きます。
家族を守り抜く父親の姿に小栗旬の父親の顔が見られるのでは?
しかし、なんと、思っていた配役と逆だった。これは、実際どう2人が演じているのか俄然楽しみになりました。
映画『罪の声』キャスト予想
小説『罪の声』は、登場人物がとにかく多いです。犯人グループは9人。犯人特定までの道のりには多くの証言者が存在します。
中でも主要な人物となるのは、犯行グループのメンバー、そしてもう一人の子供の声・聡一郎を誰が演じるのか?
俊也の伯父・曽根達雄は犯行グループのひとり。唯一、たどり着いた生きている人物です。犯行時30代とすると現在は60代。
頭が良く、社会に不満を抱き行動を起こすが、革命に疲れ今は海外でひっそりと暮らしています。
知的さと繊細さを兼ね備えた俳優、市村正親、役所広司、奥田瑛二、田口トモロヲあたりがハマりそうです。
またもう一人の主要人物、俊也と同じ幼い頃に声を犯罪に使用された聡一郎。父親が犯行グループのメンバーだったことで、不幸な人生を送ります。
姉は殺され、母を置いて自分だけ逃げてしまった後悔。仕事を転々とし、身を隠すように生きてきました。
悲壮感漂う演技力は必須、憑依型俳優で、歳の設定は事件当時小学校2年生だったので、現在は30代後半。山田孝之、柄本佑、森山未來、村上虹郎、贅沢な予想となりました。キャスティングが非常に楽しみです。
映画『罪の声』ここに注目!
事件のスケールの大きさから、映像化するのは難しいとされてきた『グリコ・森永事件』。
主要な人物は誰が演じるのか?キャスティングも、もちろん注目ですが、このキャストの多さと、壮大なストーリーを映像にどうまとめるのか、土井裕泰監督の手腕と野木亜紀子脚本に注目です。
また、俊也側、阿久津側と事件を追う二つのルートがあるのも見どころです。両方の捜査が重なり合う時、そして2人が出会う時、事件の裏側が明らかになります。
小説『罪の声』は、俊也と阿久津の視点でストーリーが進み、「ギン萬事件」の犯人たちが当時に戻り事件を語ることはありません。阿久津の取材で明らかになるといった感じです。
映画化で、事件の時系列や犯行の現場がどのように映し出されるのか、注目したいです。
まとめ
昭和最大の未解決事件「グリコ・森永事件」をモチーフに描かれたミステリー小説、塩田武士の『罪の声』。
2020年映画化に先駆け、小説のあらすじ、ネタバレ、映画の注目ポイントをまとめました。
歴史に埋もれてしまうかに見えた事件は、ある子供の声によって再び罪の重さを問いかけてきます。
いつの時代も犯罪が生むものは悲劇です。負の教訓として忘れてはならない事件です。
事件の原因は何だったのか?あの事件で今もなお、苦しんでいる人がいるかもしれない。罪は消えないが、やり直すことは出来る。
塩田武士著『罪の声』は、罪と向き合う心の強さを教えてくれます。
映画化作品『罪の声』は2020年10月30日(金)より全国公開です。