石井裕也監督の『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』では、ダブル主演を務める石橋静河と池松壮亮の神妙な台詞や、静寂とした印象に話題が集まっています。
ちょっと独特に感じた雰囲気は原作が小説ではなく、詩であることに理由があるようです。
今回は映画のもとになった詩の作者で詩人の最果タヒに注目していきたいと思います、
『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017)
この作品は石井裕也監督が、最果タヒの同名詩集の世界観をもとに、排他的な都会生活の生き辛さを抱えた若者2人のラブストーリーに仕立てたものです。
詩集を脚本に完成させたという珍しい石井監督33歳の意欲作。
ベルリン国際映画祭でもプレミアム上映され、映画に哲学的な要素を求めるドイツの映画ファンから熱い視線で迎えられたようです。
愛おしい不器用さに溢れた、この映画が私の詩集をもとに作られたという、
そのことが栄光でなりません。
願わくば、多くの人に観て欲しい。
自分自身の「今」を不器用な手つき抱きしめようとするすべての人に。 最果タヒ
(同映画・公式サイトから)
いったい、独自の世界観を見せる詩人の最果タヒとはどんな人物なのでしょう。
CONTENTS
唯一無二の詩人・最果タヒのプロフィール
最果タヒは1986年7月3日に兵庫県生まれた詩人です。
名前の読み方は「さいかたひ」と読みます。
主な受賞歴は第44回現代詩手帖賞、第13回中原中也賞、第33回現代詩花椿賞があります。
最果タヒのデビューは、『現代詩手帖』2月号の新人作品欄に初投稿をして入選。
その後も投稿を精力的に続けたタヒは2006年に優秀な投稿者に贈られる第44回現代詩手帖賞を受賞すると、翌年2007年に第一詩集『グッドモーニング』を(思潮社)から刊行します。
やがて、京都大学在学中の2008年には、当時女性では最年少の21歳で第13回中原中也賞を受賞。名声を一気に知れ渡らせました。
最果タヒが受賞した中原中也賞とは?
中原中也賞は、『山羊の歌』(1934)や『在りし日の歌』(1938)の代表作で知られる詩人中原中也の功績にちなみで行われるものです。
中原中也賞の生まれ故郷である山口県山口市と、中原中也賞運営委員会が主催する現代詩に贈られる文学賞。
出版社の青土社とKADOKAWAが後援していることでも有名で、受賞者には中原中也ブロンズ像(第11回より)と副賞として100万円が授与されます。
過去の受賞者には、立原道造、高森文夫、杉山平一、平岡潤がいて、詩人にとっては大きな意味のある文学賞です。
もちろん、最果タヒにとっても詩人の名前のついた賞を贈られたことは嬉しかったのではないでしょうか。
最果タヒの人物像を知りたい人にはにエッセイがおすすめ!
『きみの言い訳は最高の芸術』(2016)
最果タヒを知りたい方で、詩は意味わからないから苦手という、あなたにはこちらをおすすめいたします!
最果タヒの待望のエッセイ集『君の言い訳は最高の芸術』。やはり、彼女の人となりを知るにはエッセイを読んだ方が理解しやすいのは間違いありません。
様々なテーマで書かれたこの書籍は、タヒの歯に衣を着せぬような正直さと、開けっ広げに思いのまま言葉がストレート!
自分と違って内面も聞こえないし、感情すら表情で読み取らなくちゃいけないし。疲れるよ。なんだあの生き物、っていつも思う。人間は、人間ですらちょっと消耗品として触れている所があると思うよ。(エッセイ集『きみの言い訳は最高の芸術』の「友達はいらない」から)
正直に的確に言葉で伝えるという姿勢は、本心は言葉として読む者を引き込みます。
日常では誰しも人間関係の煩わしさを避けるため、なかなか正直な気持ちは言えません。
タヒは詩のタイトルは「友達はいらない」の他にも、「日常大嫌い」「十代に共感する奴はみんな嘘つき」と、やはり正直で自由な姿勢は、ある意味では爽快かもしれません。
そんな自由さはタヒ自身のためだけでないことを、タヒは分かっているのでしょう。彼女は読者に向けて書いているだからこそ、読む者を魅了するのです。
一見は強い言葉のようだが、そこには“正直”という、“言葉の魔法”が潜んでいるのではないでしょうか。
最果タヒの真っすぐさが伝わる言葉。タヒを通した日常にあなたの日常的な思いに何かを気がつかされる1冊です。。
最果タヒの詩について
タヒ本人は詩について、次のように述べています。
透明なメガネのように、読んだ人が詩を通じて、自分自身の現状や気持ちを見つめるようなそんなあり方をして欲しいと思っています。読んだ人自身の経験や性格で解釈が変わる、その人自身の感情のスイッチを押すきっかけになるものだと考えています。(BOOK SHORTS HP最果タヒ インタビューから)
タヒは詩の存在は、読み手という読者ありきのもの書かれているようです。
そこで次に個人的なおすすめ詩集ベスト3を紹介していきます。
第3位:究極の芸術コラボレーションな詩集!『空が分裂する』(2012)
『空が分裂する』の魅力は何と言っても、総勢21名の漫画家・イラストレーターとのコラボレーション。
タヒにとっての2作目となる詩集ですが、読んで楽しい、見て楽しい本は、なるほど!さすが現代詩を代表する詩人らしさとなっています。
それでもまだ、詩集はとっつきにくいという、あなたのために裏表紙の装丁にある言葉を読んではいかがでしょうか。
これは『空が分裂する』という詩集の全てを要約しているものだからです。
かわいい。死。切なさ。愛。混沌から生まれた言語は、やがて心に突き刺さり、はじける感性が世界を塗り替える。『空が分裂する』から
「かわいい」「死」「切なさ」「愛」のなかでも、「かわいい」や「切なさ」の意味は分かりやすいですね。
「愛」と「死」も分かると言えば、分かりますが、とても奥深いものがあります。そこで詩を読むことであなた自身の何かを見つけてはいかがでしょうか。
この4つの言葉の中で特にタヒにとっては「死」は意味深いものです。
それは最果タヒという名前に秘密があります。
本人は言葉の響の良さから名付けたと述べていますが、その言葉通りには受け取れないでしょう。
「最果」とは最果て(さいはて)、そして「タヒ」はネットスラングでは「タヒる」は「死」を意味しており、「死」という文字を分解したものなのです。
つまりは、「最果ての死」と読め、「この先はない死」となります。「死」自体にもその先はないのですね。
詩人の最果タヒは、一つ足りないモノを手にした時に「死」があると考えているのかもしれませんね。もちろん、これは筆者の勝手な想像なのですが…。
この詩集には、「死」とは逆の対になる「誕生日」というタイトルの詩が載っています。
誰かがしぬとお星様になったのよと、いう人がいて、だとすればこの満天の星空は墓場なんだろうか、世界一広い、あの黒い部分にみんな埋められているのだろうか。そう思うと息苦しい(『空が分裂する』の「誕生日」から)
誰もが死んで星になると例えますが、それを墓場として、タヒは星の輝きではなく闇の方に寄り添って多くの死を感じて重くなる。
タヒらしい死の比喩を垣間見れますね。このような表現をタヒの言霊と、漫画家やイラストレーターの描いた絵でみせるコラボレーションの世界観。
どのように共鳴し合うのか。また、あなたの心に刺激的に響くのか。手にしていただきたいお薦めの1冊です。
第2位:映画原作のタヒのベストセラー『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2016)
やはり、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』は外せませんね。
映画化された詩集というか、最果タヒの詩(死)に魅せられた石井裕也監督。
彼が映像化したいと願った、43の詩のそれぞれが言葉として光輝く時に、その影を何を意味していたのでしょう。
詩と映画(映像)は決して無関係にかけ離れたものではありません。
詩人の萩原朔太郎、宮沢賢治、寺山修司など写真や映画の魅力にとり憑かれた詩人はあげたらキリがなくいて、観ることや作るも者になる詩人はいくらいるのです、
先ほど、タヒのインタビューから、読者自身の解釈で詩を読んでほしいとありましたが、「透明なメガネ」とは、レンズですね。
自身のレンズで詩を見て(読んで)欲しいということは、心にレンズがなければ死は生まれはしれません。
映画はカメラで撮影します。レンズ越しの撮影です。
石井監督の「透明なメガネ」で見たものが、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』だということですね。
また、この詩集には映画に出てくる有名なキャラクターを題材にした詩を1つあるのでご紹介します。
悪いゴジラかいいゴジラか私だって知らずに戦っているよ。私の暴力にきみの名をつけた。それが愛ってことで、もういいだろう。(『夜空はいつでも最高密度の青色だ』の「うさこ、戦う」から)
いかがですか。この一編を読んでもこの書籍の凄さは分かってもらえるのではないでしょうか。
映画は石橋静河と池松壮亮のダブル主演。彼らのがどのように「透明なメガネ」で、タヒの詩の世界観を演じるのか楽しみですね。
映画を見る前にタヒの原作を読んで見るのも良いのではないでしょうか。ぜひ、手にしていただきたい1冊です!
第1位:最果タヒの最高傑作的詩集『死んでしまう系のぼくらに』(2014年)
第1位は、2014年に第三詩集『死んでしまう系のぼくらに』。第33回現代詩花椿賞を受賞を獲得した詩集です。
正に最果タヒという、彼女らしさ満開でタヒだからこその死の詩である『死んでしまう系のぼくらに』。
巻末には…。
「意味付けるための、名付けるための、言葉を捨てて、無意味で、明瞭ではなく、それでも、その人だけの、その人から生まれた言葉があれば。(略)私の言葉なんて、知らなくていいから、あなたの言葉があなたの中にあることを、知ってほしかった。(『死んでしまう系のぼくらに』あとがきから)
また…。
死者は星になる。
だから、きみが死んだ時ほど、
夜空は美しいのだろうし、
ぼくは、それを少しだけ、期待している。
きみが好きです。
死ぬこともあるのだという、
その事実がとても好きです。(『死んでしまう系のぼくらに』の「望遠鏡の詩」から)
この書籍に書かれた言葉に限ったことでなく、詩を説明するほど馬鹿らしいこともないのですね、
そろそろ、書くのも止めにいたしましょうと思ってしまうくらい、最果タヒの言葉は力強さがあります。
何か死に、もしくは詩に使命感を持っているかのように、“死という概念”にこだわったタヒ。
彼女の言っていた「透明なメガネ」。
あなたの中にある印象や考え言葉を見つけるためにも、先ずは最果タヒの詩集を読んでみませんか?
「死」は難しいモノなのではなく、本来は身近にある親しみやすく尊いものなのではないでしょうか。
「死」にはきっと“誕生する何か”があるはずです。最果タヒの詩には考えさせようという、あなたとの取り組みが見える作品。それが彼女の詩集のような気がします。
最果タヒのまとめ
最果タヒの書いた詩集に散りばめられた言葉や、タヒらしい死の捉え方を見だせる書籍ばかり。
それは逆に、“生きる”という種のように希望が生まれる、あるいは何か人はみな同じようなものではないか。
そんな安堵が言葉が詩集の底にあるように感じられます。
難解なテーマであるように思えるが、独り静かに読むにタヒの書き殴るような言葉にこそ、読む価値があるのではないでしょうか。