80年代音楽シーンが垣間見られる映画3選をピックアップ!
ドキュメント映画『a-ha THE MOVIE』で知られるアーティストa-haは、80年代のポピュラー音楽界において大ヒット曲「TAKE ON ME」により一大センセーションを巻き起こしました。
この大ヒットの要因には音楽的な特徴とともに、音楽ビジネスにおけるミュージックビデオの台頭という歴史的な動きもあり、a-haを筆頭にさまざまなミュージシャン、グループが登場し時代を彩りました。
これらの動向はいわゆる「80’s」と呼ばれるサブカルチャームーブメントの中でも非常に大きな要素として今なお強いアピール力を誇っています。
今回はそんな80年代音楽文化の風情を感じさせる映画を3作紹介するとともに、同作よりこの文化の実態、影響などを検証します。
CONTENTS
80’s音楽映画1『シング・ストリート 未来へのうた』作品情報
【公開】
2016年公開(アイルランド・イギリス・アメリカ合作映画)
【原題】
Sing Street
【脚本・監督】
ジョン・カーニー
【キャスト】
フェルディア・ウォルシュ・ピーロ、ルーシー・ボイントン、ジャック・レイナー、エイダン・ギレン、マリア・ドイル・ケネディ
【作品概要】
80年代のアイルランドで、好きな女の子を振り向かせるためにバンドを組んだ少年の恋と友情を、1980年代音楽とともに描いた青春ドラマ。
作品は『はじまりのうた』(2015)『ONCE ダブリンの街角で』(2007)のジョン・カーニー監督が担当、物語はカーニー監督自身の半自伝的作品であるといわれています。
映画『シング・ストリート 未来へのうた』のあらすじ
大不況に誰もがネガティブな気持ちを抱えていた1985年のアイルランド、ダブリン。14歳の少年コナーは、父親の失業のために公立校に転校させられてしまいます。
家では両親のケンカが絶えず、家庭崩壊の危機に陥っていたコナー家の生活。そんな憂鬱な日々を送るコナーでしたが、音楽マニアの兄と一緒に、隣国ロンドンのミュージックビデオをテレビで見ることを唯一の心の支えにしていました。
そんなある日コナーは、大人びた魅力を持った少女ラフィナを学校の近くで見つけ、一目で心を奪われてしまいます。
なんとか彼女にアプローチすべく、彼は自分のバンドのミュージックビデオに出演しないかとラフィナを誘い、あわせて慌ててバンドを結成します。
そんなひょんなきっかけで、コナーたちはロンドンの音楽シーンに殴り込みをかけるべくミュージックビデオを作るための猛特訓を開始しますが……。
若者たちがロンドンを目指した意味
参考動画:劇中で主人公たちが演奏したデュラン・デュランの「Rio」
1985年という時期は、まさにA-haの「Take on me」が世界を席巻した時期であり、いわゆる80’sという音楽ムーブメントの中心的な時期にあたります。
この頃イギリスの音楽界はMTVを用いた革新的な音楽プロモーションを展開、この動きは「ブリティッシュ・インベイジョン」と呼ばれ、アメリカに一極集中気味となっていた当時の世界的音楽ビジネスシーンに大きな影響を与えました。
つまりこの大きな動きから、ミュージシャンを志す若者はみなイギリスに憧れ、その首都ロンドンを訪れることに憧れを抱いていました。
本作では主人公コナーがテレビから映し出されるデュラン・デュランの映像に魅せられ、やがてバンドを結成しデュラン・デュランやザ・キュアーといったイギリスの80年代ヒット常連の曲を演奏、そしてD.I.Y.にてミュージックビデオを作るという展開に進みますが、この流れはまさしく「ブリティッシュ・インベイジョン」の源流を彷彿するものといえるでしょう。
そしてコナーは、自身の夢を実現すべく、文字通り大海原へと漕ぎ出します。こうしてみると、80’sムーブメントは不穏な空気の中でも新たな希望を見出すための灯台のような役割を果たした、そんな印象を受けるものであり、この物語はまさしくそんな風景を描いたものとなっています。
また、特にアイルランドは1970年代後半の経済危機の影響もありましたので、当時明るい未来のための脱出口としてイギリスに意識を向ける若者も少なくなかったことは、想像に難くありません。
80’s音楽映画2『ザ・コミットメンツ』の作品情報
【公開】
1991年公開(アイルランド・イギリス・アメリカ合作映画)
【原題】
The Commitments
【原作】
ロディ・ドイル
【監督】
アラン・パーカー
【キャスト】
ロバート・アーキンズ、アンドリュー・ストロング、マイケル・エイハーン、アンジェリナ・ボール、マリア・ドイル・ケネディ、デイヴ・フィネガン、ディック・マーシー、ブロナー・ギャラガー、フェリム・ゴームリー、グレン・ハンサード、ジョニー・マーフィ、ケネス・マクラスキー、コルム・ミーニイ
【作品概要】
作家ロディ・ドイルの小説を原作として、アイルランドを舞台に、世界を目指してソウルバンドを結成した若者たちを描いたドラマ。
『ダウンタウン物語』(1976)『ミシシッピー・バーニング』(1988)『エビータ』(1996)などのアラン・パーカー監督が作品を手掛けました。
ちなみにギタリスト、アウトスパン役を演じたグレン・ハンサードは『シング・ストリート 未来へのうた』(2016)を手掛けたジョン・カーニー監督の作品『ONCE ダブリンの街角で』(2007)で主演を務めています。
映画『ザ・コミットメンツ』のあらすじ
本格的なソウルバンドの結成を決意したジミーは、新聞にメンバー募集の広告を掲載します。ところが、彼の元に集まったのは、ソウルとはとても結びつかない変わり者ばかり。それでも彼はなんとかメンバーを集め、ようやく「ザ・コミットメンツ」を結成。早速練習を開始しますが……。
時代の流れに拮抗する動き
参考動画:『ザ・コミットメンツ』出演ミュージシャンによる記念ライブ(2011年)
本作は舞台が同じアイルランドという国でありながら『シング・ストリート 未来へのうた』とは全く逆の方向を示したもの。つまりある意味80’sムーブメントを否定する作品となっています。
物語はいわゆる若者たちがソウル(黒人音楽であるブルーズ、リズム&ブルースといったジャンルから派生した60年代以降の音楽ジャンル)バンドを結成し、成功目指して奮闘するというもの。
劇中ではメンバーが失業手当を求めて役所の列に並ぶという場面もあり、時代背景としても『シング・ストリート 未来へのうた』にほぼ重なると考えてもよいでしょう。
一方で、バンド大成を目指しマネージャーとなるジミーをはじめメンバーたちはソウルミュージックに心酔し、これ以外の音楽を徹底的に排除します。
劇中ではジミーがバンドのメンバーを募集し、応募者がジミーを訪ねるシーンがあり、家の勝手口でジミーが彼らに「お気に入りのバンドは?」と尋ねたときに、スパンダー・バレエ、ソフトセル、シニード・オコーナーなどといった80’sの代表的ミュージシャンの名を挙げた瞬間に扉を閉め門前払いを食らわせます。
80’sムーブメントは70年代のイギリスで発生したパンクムーブメントの流れを汲み、合わせて急速な発達を遂げたシンセサイザーミュージックの影響を受け、ある程度パターン化された伴奏に歌のメロディーを乗せるという、いわゆる「ニューウェーブ」と呼ばれるスタイルの音楽が多く発生しました。
こうした音楽に対してソウルミュージックは、いわゆるブルーズと呼ばれる音楽スタイル、和音構成からさまざまに新しい形式を発展させた音楽であり、かつ演奏についても楽器の演奏者の力量やセンスに依存するところもあり、ニューウェーブなどのスタイルとは相反する性質を持っています。
その意味では80’sの新たな流れがあった当時に、「時代の流れをそのまま受けない、伝統を重んじる」スタイルも相反する存在としてそこにはあったということを示しています。
一方で、アイルランドは世界的に有名なロックバンドとしてU2を排出しており、彼らも実はある意味80’sに分類される存在なのですが、その音楽スタイルはデビューより社会問題や宗教観をストレートに表現するもので、サウンド傾向からしてもニューウェーブなどの音楽スタイルでも異彩を放っていました。
アイルランドは歴史的にイギリスからの独立を目指して戦った経緯もあり、本作のテーマはある意味保守的視点から描いているという印象も見えてきます。
ちなみに残念ながら先述のジミーの「オーディション」場面で、お気に入りグループとしてU2を挙げた応募者も、ジミーからは門前払いを食らっていましたが…
80’s音楽映画3『ロック・スター』の作品情報
【公開】
2001年公開(アメリカ映画)
【原題】
Rock Star
【監督】
スティーブン・ヘレク
【キャスト】
マーク・ウォールバーグ、ジェニファー・アニストン、ドミニク・ウェスト、ジェイソン・フレミング、ティモシー・スポール、ティモシー・オリファント
【作品概要】
とある人気ロックバンドに奇跡的なきっかけでスカウトされ夢叶えた一人の青年が、バンドの中でさまさまな出来事を経験する姿を描き人生、サクセス、幸福とはなにかを問うドラマ。
作品を手掛けたのは、『陽のあたる教室』(1995)のスティーブン・ヘレク監督。またキャストには『スリー・キングス』(1999)のマーク・ウォルバーグ、テレビドラマ『フレンズ』(1994)ジェニファー・アニストンら人気俳優が名を連ねています。
映画『ロック・スター』のあらすじ
昼間はコピー機のセールスマン、夜はロックバンドのボーカリストという二足の草鞋を履いていたクリス。
彼はロック界の大御所バンド、スティ-ル・ドラゴンの熱烈なファンであり、夜毎自身のステージで憧れのボ-カリストである、スティ-ル・ドラゴンのボビー・ビアーズそっくりの歌声を披露して地元のファンを熱狂させていました。
ある日、彼はメンバーから突然にグループを追い出され途方にくれます。ところがそんな彼に1本の電話が来ました。
それは彼の歌声を聞いたスティ-ル・ドラゴンのメンバーからのもので、ビアーズの後釜としてリード・シンガーにならないか、というオファーでした。
ファンからプロへ。奇跡的なシンデレラストーリーに大喜びでオファーを受け入れたクリス。しかし、彼の人生はそのときから大きく変わってゆきます……。
「つわものどもが夢の跡」から、自己の再生へ
参考動画:ティム・オーウェンズのジューダス・プリーストにおけるライブステージ
『シング・ストリート 未来へのうた』、『ザ・コミットメンツ』はどちらかというと80’sムーブメントをリスナー的な視点で描いていましたが、次に紹介する本作はある意味活動を始めたアーティスト、ミュージシャン側の視点で80年代の裏舞台を描いています。
主人公クリス・コールはヘヴィ・メタルという音楽ジャンルにおいて、類まれなボーカリストとしての才能を持ちながら、昼間は普通のセールスマンとして働いていました。
そんな彼が、あるきっかけで彼の憧れでもあったバンド、スティール・ドラゴンの新ボーカリストとしてのオファーを受けます。
まさに夢のような展開でスターダムにのし上がるクリスでしたが、やがて彼はファンたちが自分に何を求めているかに悩み、衰弱していきます。
本作のモデルは、イギリスのヘヴィ・メタルバンド、ジューダス・プリーストにおける1990年のボーカリスト交代劇をモチーフとして作られた物語といわれています。その意味で時間軸としては1980代後半から1990年代という舞台となるでしょう。
ジューダス・プリーストは80年代ポピュラー音楽界の中でも、注目すべき動きの一つであるNWOBH(ニュー・ウェーブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル)というムーブメントにおいて重要な役割を果たしたバンドの一つです。
その意味では直接80年代を表してはいないものの、当時のバンド、ミュージシャンたちがどのような人生を送っていたかという景色を垣間見ることができます。
実際にジューダス・プリーストの交代劇に関わったボーカリスト、ティム・オーウェンズも、バンド脱退後の雑誌のインタビューで「いずれロブ(・ハルフォード:ジューダス・プリーストのオリジナルメンバー。
オーウェンズ脱退後にバンドに復帰)は復帰するものだと思っていたし、自分はジューダス・プリーストではあくまで雇われシンガーだった」と語っており、ジューダス・プリーストというバンドの活動で自身の存在意義を保っていくことが難しくなっていたことを明かしています。
この構図からは、80’sのアーティストが当時より現在においてそれぞれが大きな爪痕を残しながらも、後にその爪痕に引きずられ、取りつかれて苦しんでいるような絵面も見えてくるでしょう。
ある意味自身が成し遂げた功績に対して「自分が偉大」なのではなく「そのときにできたものが偉大」であるというギャップに、今という時代に初めて気づいて戸惑っているようでもあります。
スティール・ドラゴンのボーカリストに収まるという栄光を手に入れたコールは周りからちやほやされ、ついには酒や快楽に身を費やし堕落していきます。
例えば、80年台から始まった日本のバブル景気の裏側につながるような構図にもダブって見えてくるようです。
また結果的にコールがその地位を捨て、地味ながら自身の存在意義が明確に見える生活へと行き場を求めていくというエンディングに向かって展開していきますが、この流れも80年代より現在を迎えた人たちの直面した現実を表しているようでもあります。
まとめ
物語の背景より80年代ポピュラー音楽シーンを感じさせる映画3作を紹介しました。
これら作品からは、当時の音楽シーンが人々に良くも悪くも時代に大きなインパクトを残したというイメージを与えられ、それがどのような意味を持ったものかを考えるヒントを得ることになるでしょう。
また今回紹介した作品以外にも、この時代の音楽シーンにおける風景を描いたものとして、ロックバンド・クィーンのボーカリストであるフレディ・マーキュリーの生涯を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』の一部が挙げられます。
この作品のクライマックスでは、80年代の音楽シーンの中でも重要なイベントとなった20世紀最大のチャリティーコンサート『ライブ・エイド』のシーンがあります。
このイベントはイギリス、アメリカそれぞれの巨大アリーナにコンサート拠点を置き、総開催時間12時間にて開催されたチャリティー音楽フェスティバル。
イベントは1969年の音楽イベント『ウッドストック・フェスティバル』と比較されたり、さまざまな賛否を巻き起こしましたが、これに匹敵する大規模イベントは『ライブ・エイド』以降には行われておらず、いかにこの時代において音楽というテーマが人を動かしたかを垣間見ることができるでしょう。