プロデューサーとして『かぞくのくに』や『夏の終り』などを手掛け、2015年に『アレノ』で監督デビューを飾った越川道夫監督の第2作目『海辺の生と死』をご紹介します。
以下、あらすじや結末が含まれる記事となりますので、まずは『海辺の生と死』映画作品情報をどうぞ!
1.『海辺の生と死』作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【監督・脚本】
越川道夫
【原作】
島尾ミホ、島尾敏雄
【キャスト】
満島ひかり、永山絢斗、井之脇海、川瀬陽太、津嘉山正種
【作品概要】
傑作「死の棘」を世に放った島尾敏雄と、その妻、島尾ミホ。時は太平洋戦争末期、ふたりが出会ったのは、圧倒的な生命力をたたえる奄美群島・加計呂麻島。男はじりじりと特攻艇の出撃命令を待ち、女はただどこまでも一緒にいたいと願った。
後年、互いに小説家であるふたりがそれぞれ描いた鮮烈な出会いと恋の物語を原作に、奄美大島・加計呂麻島でのロケーションを敢行し、映画化を実現。
また、奄美群島で古くから歌い継がれてきた奄美島唄の歌唱指導にあたったのは、“クジラの唄声”で人々の心を魅了する唄者(ウタシャ)朝崎郁恵。自身もルーツを奄美大島に持つ満島ひかりが歌う島唄の調べが、観る者の心を揺さぶる。
『愛のむきだし』でブレイク後、『川の底からこんにちは』『悪人』『駆込み女と駆出し男』『愚行録』など一作ごとに評価を高め、テレビドラマ「トットてれび」「カルテット」で、唯一無二の女優として活躍の場を広げる満島ひかり。
そんな彼女が『夏の終り』以来4年ぶりの単独主演作に選んだのが『海辺の生と死』。日本文学の傑作「死の棘」のヒロイン島尾ミホが加計呂麻島で過ごした青春期と人生を決定づけることになった恋をその真っ直ぐな存在感で体現。
2.『海辺の生と死』あらすじとネタバレ
昭和19年(1944年)12月、奄美 カゲロウ島(加計呂麻島がモデル)。
国民学校教員として働く大平トエは、新しく駐屯してきた海軍特攻艇の隊長 朔中尉と出会う。
朔が兵隊の教育用に本を借りたいと言ってきたことから知り合い、互いに好意を抱き合う。
島の子供たちに慕われ、軍歌よりも島唄を歌いたがる軍人らしくない朔にトエは惹かれていく。
やがて、トエは朔と逢瀬を重ねるようになる。
しかし、時の経過と共に敵襲は激しくなり、沖縄は陥落、広島に新型爆弾が落とされる。
そして、ついに朔が出撃する日がやってきた。
母の遺品の喪服を着て、短刀を胸に抱いたトエは家を飛び出し、いつもの浜辺へと無我夢中で駆けるのだった・・・。
3.『海辺の生と死』感想と評価
満島ひかりという女優は、なぜこうも人を惹きつけるのか。
沖縄県出身、本作の公開日時点で31歳。両親共に体育の先生、幼い頃から相当厳しく育てられたそうです。
弟の真之介も俳優、妹のみなみはモデル、一番下の弟の光太郎はプロバスケットボール選手。とんでもない4兄弟です。
今年に入ってからの彼女の活躍ぶりはすさまじく、TVドラマ「カルテット」に出演し、椎名林檎が提供した主題歌「おとなの掟」で素晴らしい歌声を披露。
歌手グループ「Folder」や「Folder5」で活動していた経験を活かし、MONDO GROSSO(大沢伸一)の楽曲「ラビリンス」でもボーカルを務め、香港でワンカット風に撮られたMVやMステへの出演(三浦大知からのメッセージよかったですね)、そして先日のフジロックへの降臨も大きな話題に。
参考映像:MONDO GROSSO/「ラビリンス」
くるりの岸田さん作曲でCharaが歌う「Tiny Dancer」のMV出演、EGO-WRAPPIN’が提供した配信曲「群青」でのボーカルなどなど。
表現者として脂の乗り切った今の彼女と仕事をしてみたい人たちが各分野から次々と出てきています。
参考映像:Chara『Tiny Dancer』Music Video
本当は脚本家の坂元裕二との関係についても触れたいところですが、このまま続けるとただの紹介文になってしまうので割愛いたします。
さて、そんな彼女の約4年ぶりの映画単独主演作はいったいどんな作品かというと(『愚行録』は妻夫木聡とのW主演という認識)。
文学作品「死の棘」を元に、奄美群島のある島で繰り広げられる一組の男女の恋愛模様です。
国民学校の教員のトエと海軍特攻艇の隊長の朔。時代は太平洋戦争末期。
二人の恋仲を邪魔するのは戦争そのもの。
日本国民たるものこうあらねばならないという規範に縛られ、人々が次々に死へと駆り立てられていった時代。
その状況を迎合するのではなく、凛とした姿で立ち向かったトエの生き様が克明に刻まれています。
カメラは、戦時中とは思えない程にのどかで美しい島の風景を映し出していきます。
また、固定して長回しするシーンが多いため非常に間が長くなっています。それはつまり演じる側にとっても必然的にカットが長くなり、それに応じた集中力が必要になってくる難しい撮影です。
本作の共演がきっかけで本当に恋仲になったそうですが、そこに関して、満島ひかりと永山絢斗はさすがの演技でした。
この映画の魅力を語る=満島ひかりのことを語らざるおえないわけですが。
奄美大島をルーツに持ち、越川監督も彼女以外考えられなかったという本作に対する並々ならぬ意気込みが伝わってきて、ただ圧倒されました。
表情や雰囲気や佇まい一つで画面を支配できるというのは生まれ持った素質だと思いますが、満島ひかりは間違いなく映画に愛された役者の一人でしょう。
その他にも、島独特のイントネーションの心地よさ(沖縄の言葉に似ている?)、島の子どもたちのナチュラルで可愛らしい演技、本や手紙といった文字が繋げた二人の関係など、いいなと思えるポイントはたくさんあります。
正直に書くと、話の起伏というのはそこまでないので、満島ひかりの鬼気迫る演技を楽しめればよいと思います。
まとめ
美しい自然と相反した残酷な現実。
望んでいる様には進んでくれない人生。
死という恐怖があるからこそ、刹那的にでも精一杯生きることができる。
人間の弱さと強さを同時に見せてもらえた、非常に手堅い1本でした。
毎年8月にはやはり、戦争の時代に生きていた同じ日本人のことへと想いを馳せてみるべきなのでしょう。
一度立ち止まって過去を顧みて、進むべき道を選ぶことは決して悪いことではないと思います。
私自身もそうですが、戦争を体験した身近な人がもういなくなってしまった今、映画によって新たな視点をもらえることがあります。
映画という、芸術であり娯楽が持つ奥深さを感じます。