2016年10月開催された、第29回東京国際映画祭のコンペティション部門にて、新作『雪女』を発表して話題となった杉野希妃監督。
女優や監督として多才ぶりが注目される一方。彼女は若き才能の育成を目的として製作を務め、そこで見事に開花させた新鋭の三澤拓哉監督をご存知でしょうか。
今回は、デビュー作でありながら海外映画祭でも上映された、『3泊4日、5時の鐘』をご紹介します。
【公開】
2014年(日本・タイ)
【脚本・監督】
三澤拓哉
【キャスト】
出演
小篠恵奈、杉野希妃、堀夏子、中崎敏、柳俊太郎、福島珠理、二階堂智、兵藤公美、松崎颯花、坂椎南、三澤啓吾、ドンサロン・コーウィットワニッチャー、飯島珠奈、オノエリコ、夏都愛未、大崎優花、三島ゆういち、畑野秀明、折田侑駿、末永典子、伊藤沙弥、香知念沙也樺、石井優月、高橋俊之介、森浩章、伊藤久美子、三津谷葉子
【作品概要】
三澤拓哉監督は、日本映画大学に在籍中に初監督デビュー。監督の出身地である茅ヶ崎で撮影を行い、巨匠小津安二郎監督ゆかりの「茅ヶ崎館」の舞台にして繰り広げられる群像劇を描きました。
三澤監督の非凡な才能は、人物像の徹底的に書き込むことではなく、映画的な構造やシネフィル的な要素に重点が置いた演出が見られます。(例:トランプやサンドイッチ、遺跡発掘といった「重層」を一貫したイメージで描かれる)
(C)Wa Entertainment, Inc.
神奈川県茅ヶ崎に古くからある旅館「茅ヶ崎館」。旅館の長女の理沙の結婚披露パーティーに出席するため、元同僚の花梨と真紀がやって来ます。
花梨は、部屋に着いて早々に、茅ヶ崎館のアルバイト大学生の知春に気のある素振りで近づきます。しかし、生真面目な真紀は、学生を弄ぶような彼女の態度や、いい加減な様子を口うるさく注意をします。
翌日になっても花梨は、真紀の事などは御構いなしに自分勝手な行動で、真紀との海に行く約束を無視して、知春とデートまがいなことに勤しみます。
ついに、怒りを抑えきれなくなった真紀は、苛立ちを募らせて花梨に感情をぶつけてしまいます。
そのよう時に、大学のゼミ合宿を引率する大学教授の近藤たちが、「茅ヶ崎館」に泊まりに来ます。
懐かしい近藤教授に会った真紀は、花梨の事など忘れたかのように、恩師近藤へ学生時代に恋心を取り戻したかのように、真紀の気持ちは燃え上がってしまいます。
また、そのゼミ合宿には、知春を慕う大学生の彩子いて、花梨に知春気は気があるのではないかと気を揉みます。
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三澤拓哉監督に、ある雑誌のインタビューをさせていただいた際に、映画へのたくさんの思いを聞かせていただきました。
その際にお聞きしたことを混じえながら感想を述べいきたいと思います。
三澤監督は、クランク・イン前にプロデューサーなどから、ジャック・ロジェ監督やホン・サンス監督などを参考にしてはどうかとアドバイスを受けたそうです。
しかし、三澤監督は、かつてから思い入れの強かったウッディ・アレン監督への影響が色濃く出た作品に仕上げています。
ラストシーンの浜辺の結婚披露パーティは、ウッディ・アレンの『スターダスト・メモリー』のオマージュが熱く詰まったハッピーエンドとなっています。
大学生監督としては異例づくしの快挙を達成。海外の映画祭で多くの評価を得たようです。
ギリシャで開かれたシロス国際映画祭最優秀作品賞、北京国際映画祭「注目未来部門」最優秀賞受賞など、合わせて海外6カ国の映画祭に参加したのです。
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この作品に描かれた男女7人は、それぞれの思いのようなペアになれませんでした。三澤監督は、人生とはそんなものだと他人を見つめて、どうしても余りの人が出てきてしまう姿を描いていたように思います。
ペアになれなかった人を、この作品のラストシーンでは結びつけていきます。
そのペアは、必ずしも男女の組み合わせや、仲の良い者同士だけではない。同性や不仲な者どうし、いわば既存の価値ではない者をペアとして結びつける。
そんなカラッとした開放感を漂わせながら、そのようなペアでチークダンスを踊らせるという演出は見事なものでした。
劇中に行われたトランプのババ抜きゲームのペア作りや、少女が書いた作文表彰される話題では、「LGBT」の問題が登場します。全てはこのラストシーンのために、三澤監督が撒いたキーワードなのです。
また、そのラストシーンを包み込むように流れる曲が、三澤監督が愛してやまないウッディ・アレンの映画『スターダスト・メモリー』の挿入曲「ムーンライト・セレナーデ」。
空に舞い上がるコントロール不能な凧。どうにもままならないものの象徴であり、それを見上げる人々の心には、どのような状況でも上を向いていこうという希望を感じ取ることができるのではないでしょうか。
三澤拓哉監督も、この処女作から未来の希望を見上げているのかもしれません。
ぜひ、ご覧管いただきたい作品です。