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LGBT映画『ラフィキ ふたりの夢』感想とレビュー評価。愛し合う少女たちの姿にケニアでは上映禁止となる【カンヌ国際映画祭出品作品】

  • Writer :
  • 増田健

映画『ラフィキ ふたりの夢』は2019年11月9日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!

かつてに比べて社会的に認められ、幅広い世界で活躍しているLGBTの人たち。しかし地域によっては、古くからの伝統やしきたりに囚われ、今だ社会的に認められずにいる人も数多く存在します。

そんな地域の1つ、アフリカのケニアを舞台に、LGBTであることを自覚した2人若い娘の姿を描いた映画『ラフィキ ふたりの夢』。本作はカンヌ国際映画祭に出品された、初のケニア映画として話題を呼びました。

しかし、ケニア国内では、主人公たちが“違法な恋に堕ちる”事を理由に、上映禁止の扱いを受けた作品でもあります。

それでも『ラフィキ ふたりの夢』のワヌリ・カヒウ監督は上映に向け、熱心に活動を続けました。この話題LGBT映画は、ついに日本で公開される事となったのです。

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映画『ラフィキ ふたりの夢』の作品情報


(C)Big World Cinema.

【公開】
2019年11月9日(土)(ケニア・南アフリカ・フランス・レバノン・ノルウェー・オランダ・ドイツ合作映画)

【原題】
RAFIKI

【監督・脚本】
ワヌリ・カヒウ

【出演】
サマンサ・ムガシア、シェイラ・ムニヴァ、ジミ・ガツ、ニニ・ワシェラ

【作品概要】
ケニアの首都、ナイロビに暮らす2人の娘。強く惹かれあった彼女らの友情は、やがて愛情へと変わってゆく。同性愛が違法で社会的に糾弾される環境で暮らす、LGBTの姿を描いた社会派映画。

監督は地元・ナイロビに生まれた女性監督のワヌリ・カヒウ。2009年に製作した、SF短編映画『Pumzi』がヴェネチア国際映画祭、カンヌ・インディペンデント映画祭など、多くの映画祭で受賞し国際的な注目を集めました。

主人公の1人・ケナを演じたサマンサ・ムガシアは、ドラマーやヴィジュアルアーティスト、DJやモデルと多才な活動をしているアーティストです。

もう1人の主人公・ジギを演じたシェイラ・ムニヴァも、ケニアでCMの監督を行っている人物。オーディションで選ばれたものの、当初この役を引き受ける事にためらいを感じていました。

しかし友人から同性愛者の存在を、ケニア映画において描く事の意義と重要性を聞き、この困難な役を演じることを決断しました。

カンヌ国際映画映画祭の“ある視点部門”に出品されたほか、シカゴ国際映画祭・ダブリン国際映画祭など、世界各国の多数の映画祭、LGBT映画祭で受賞を遂げた作品です。

映画『ラフィキ ふたりの夢』のあらすじ


(C)Big World Cinema.

活気あるナイロビの街角の、賑やかな売店で仲間や近所の住人と過ごすケナ(サマンサ・ムガシア)。看護師になる事をめざしている彼女は、ある日同じ年頃の娘ジキ(シェイラ・ムニヴァ)に気付き、興味を覚えます。

両親が離婚したケナは母(ニニ・ワシェラ)と暮らしていましたが、父(ジミ・ガツ)の経営する雑貨店を手伝っていました。そして議員選挙に立候補した、父の応援もしていました。

ケナは女性は働かず良い妻になればいいと語り、またゲイの噂のある青年を嫌悪する男友達たちの考えに、強い違和感を覚えていました。しかしそれは、ケニアではごく普通の考え方でした。

いつものように売店に立ち寄ったケナは、ゴシップ好きな店主から父の再婚相手に子供が生まれると聞かされます。やがて母もその事実を知り、両親の間で板挟みになってゆくケナ。

家族に対する複雑な思いを抱えていたケナでしたが、ある出来事からジキと言葉を交わすようになります。自由奔放なジキは父の対立候補の娘でしたが、やがて2人は親しくなっていきます。

看護婦になりたいと言うケナを、医者にもなれると励まし、自分は進学する前に外の世界を見たいと語るジキ。古いしきたりに縛られて生きたくないと、若い2人は意気投合します。

2人は互いに恋心を抱いていると気付き、ついにある日、口づけを交わします。やがて2人の関係に互いの両親は気付かれ、それを噂するようになる住民たち。

同性愛が違法であるケニアでは、選挙に出馬した2人の父にとって、娘のスキャンダルは命取りになりかねません。それでも手に手をとって家を飛び出したケナとジキの身に、余りにも厳しい現実が突き付けられます。

残酷な現実を前に、困難な選択を迫られるケナとジギ。彼女たちはいかなる決断を選び、そして2人の愛はどのような結末を迎えたのか…。

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映画『ラフィキ ふたりの夢』の感想と評価


(C)Big World Cinema.

同性愛がタブーであるアフリカの現実

多くの国では認知度が上がったLGBTの存在。日本でもまだ偏見が存在し、支援すべき社会制度に不備は残るものの、彼らは様々な分野で広く活躍しています。

しかし、アフリカの多くの地域では、性的マイノリティーへの理解は浅く、それどころか悪魔にとり憑かれた結果と、忌み嫌われて受け止められる現実があります。これはアフリカの伝統文化の影響だけではなく、キリスト教もその偏見を助長する傾向にあります。

2人の若い女性の恋愛を描くことは、東アフリカにおける同性愛への偏見、ひいては人権問題に立ち向かう事だと語るワヌリ・カヒウ監督

世界的に他者に対してヘイトな振る舞いが強まる中、『ラフィキ ふたりの夢』を企画していた過去5年間、東アフリカではむしろ反LGBTの機運が高まったと、監督は言葉を続けます。

ようやく完成した映画は、ケニアでは米アカデミー賞外国語映画賞へのエントリー条件であった、7日間の国内上映が裁判所から許可されました

こうして『ラフィキ ふたりの夢』がケニアで上映されると、SNS上には“長蛇の列”“チケットを求める電話が殺到”と、様々な声が飛び交う事態となりました。

活力あふれるナイロビの街頭を描く


(C)Big World Cinema.
ケニアの社会的なタブーに挑戦した意義のある映画ですが、劇中の舞台の多くをナイロビ市内のストリートで描いています。

親しげに言葉を交わす人々、うわさ話好きなオバちゃん、ボタボタ(バイク・自転車タクシー)の運転手といった、賑やかで活気あふれる、異国情緒でありながらどこか懐かしい光景が現れます

ワヌリ監督はこのナイロビの活気ある地域を知ると、ぜひここを舞台に撮影したいと考え、脚本を書き直してまで撮影に臨みました

極めて人情味あふれ、皆が互いを知る賑やかな下町風の雰囲気。アフリカの都市が持つ魅力を味わう事ができます。

そんな一体感あふれる住民が住む地域だけに、彼らがマイノリティーに敵意をむき出しにすると、恐ろしい姿を見せるのですが…

東アフリカのヴィジュアルセンスが光る


(C)Big World Cinema.

アフリカを舞台にした映画には、他の地域にない美的センスに目を奪われる事が多くありますが、『ラフィキ ふたりの夢』もその例外ではありません。

アフリカの伝統的な美的感覚と、西洋的なファッションが融合した姿には、都市に暮らす人々の多彩な姿をカラフルに描いています

ヴィジュアルアーティストとしても活躍する、ケナを演じたサマンサ・ムガシアはユニセックスな雰囲気の姿を見せ、対称的に明るい人物であるジギを演じたシェイラ・ムニヴァは、レインボーやパステルカラーの衣装に身を包み、その人物像を表現しています。

主人公のファッションは眺めているだけで楽しい姿ですが、その境遇が変わるにつれて、その立場や心情を現したものに変化する様を、感じ取る事ができます。

2人の周囲にいる人々、風景も色鮮やかで、アフリカの文化に興味のある方には必見です。

また全編に流れる、アフリカンな音楽も心地良い映画です。社会的に重大なテーマを扱っていますが、ポップでカラフルなアフリカンカルチャーを、しっかり描き出した作品です

まとめ


(C)Big World Cinema.

本作はナイロビの街角でたくましく生きる人々を、美しく明るく描いています。LGBTである主人公はそこで、さらに美しく輝きます。

しかし明るい街の姿に潜む、差別と偏見の空気を2人は感じとっていきます。やがて2人が異質の存在であると認識するや、街の人々は差別と偏見にみちた姿を露わにします。

明るく美しい面を描いてこそ、そこに潜む闇の深さ、それに怯えるマイノリティーの恐怖が伝わるという、監督の意図が見事伝わる作品でした。

またLGBTである主人公2人の、“愛し合う姿”は極めて控え目。これは本国での映画の描写に対する制約の結果でもあるのでしょう。

しかし同時に隠れて愛し合い、慎ましく振る舞わねばならない人々が、身の危険を伴う集団からの暴力に晒される怖さを、より強調する結果にもなっています。

映画で表現できるものからは美しさを、表現できないものからは偏見が生む恐怖を、共に巧みに伝えてくれる映画、それがワヌリ・カヒウ監督の『ラフィキ ふたりの夢』です

映画『ラフィキ ふたりの夢』は2019年11月9日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!

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