映画『4つの出鱈目と幽霊について』は2023年12月1日(金)よりシモキタ-エキマエ-シネマK2ほかで全国順次公開!
幽霊について語ることで動き出す人々の人生を描いた、4本の短編作品からなる映画『4つの出鱈目と幽霊について』。
映画監督のみならず、俳優としても活躍する山科圭太監督が独特な視点で描く本作は、2023年12月1日(金)よりシモキタ-エキマエ-シネマK2ほかで全国順次公開されます。
このたび劇場公開を記念し、本作の演出を務めた山科圭太監督にインタビューを敢行。
「幽霊」というテーマで映画を制作するに至った経緯、建築と映画に感じる共通点など、貴重なお話をお伺いしました。
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幽霊を語ってしまう人間の本質を切り取る
──本作は「幽霊」という題材を独特な切り口で映像に収めていますが、その核になるテーマについて教えていただけますか。
山科圭太監督(以下、山科):実は『4つの出鱈目と幽霊について』は4本の短編からなるオムニバス作品なのですが、企画当初からそのような構成があったわけではないんです。
まず、共同で脚本を担当してくれた三宅一平くんから第3話「幽霊を愛する方法」の脚本の話をいただいて、これを映画化したいと相談がありました。そこから一つテーマを設定して、短編が一つの連なりになるような長編映画を制作しようという話になったのです。
そこで思いついたテーマが「幽霊」でしたが、幽霊と言っても、ホラー映画を制作するというのはイメージが湧かず、最初はどのようにこのテーマを扱おうか、とても悩みました。
そこで思いついたのが、幽霊を映し出すのではなく「幽霊について語る人々」を描こうという構想でした。幽霊を語ることで、物語が動き出していく作品を集めた長編映画にしたいと。
──「幽霊を語ることで物語が動き出す」という発想は、映画表現として非常に面白い試みですね。
山科:そもそも僕は、人が怖い話をしている時が昔から好きで、明らかに嘘みたいな話でも、真実味をもって話したりするじゃないですか。しかも、これだけテクノロジーが進歩した現代においても、幽霊を語ることを人々はやめないですよね。
そこに、人間の本質があるのかもしれません。幽霊の存在をどれだけ科学的に否定できたとしても、幽霊について語るのを辞められない、人間の本質。それを映画を通じて直接的ではなく、じんわりと伝えられるような作品にしたいと考えました。
映画芸術そのものが「幽霊の集合体」
──「幽霊を語る人間」の本質を、撮影を進めていく中で山科監督ご自身が体感した瞬間はありましたか。
山科:映画を制作すること、カメラに収めることそのものが、幽霊性を帯びていると感じました。カメラの視点は第三者的で、神のような、幽霊のような視点なのではないか。撮影を重ねる度に、そんな風に感じていました。
また、昔の映画に映る俳優さんたちもそうです。過去の映画に出ていた俳優さんたちの中には、もうこの世にいない方もいらっしゃいますよね。
ですが映画の中では、活き活きと役を生きている姿を今でも観ることができます。それはつまり、映画の中の幽霊のような存在ともいえます。幽霊性を帯びて、映像に収められているのは人だけではありません。その場所から滲んでくる気配のようなものもそうです。
私が俳優として演技をする時も感じることですが、やはり「何かがあるな」と感じる場所があります。それは霊的云々というよりも、その場所が積み重ねていった歴史や、何かが起こった雰囲気など、言うなれば気配のようなものです。
撮影をした当時の、その瞬間の気配もそこに閉じ込めることができるのが映画なのかなと。実際、今回4作品を撮影していく中で様々なロケ地に行きましたが、その各所でやはり強烈に感じるものがあったんですね。
その場所に漂う気配と、それと戯れる俳優たち。その一瞬を納めるカメラの目線。全てが幽霊性を帯びていき、集合体として存在するのが、映画表現なのではないか。そんな風に感じていました。
建築と映画が切り取る人々の営み
──そもそも俳優として、監督として映画制作の現場に携わるようになったのは、どのような経緯からなのでしょうか。
山科:大学4年の時、建築学科の卒業制作で映画を作ったのがきっかけです。それまでは映画もほとんど観たことがなかったし、俳優にも興味はなかったんです。本当に単なる思いつきから始まって、周りの教授も友人も驚いていました(笑)。
ただ前例がない中、その卒業制作が賞をいただいて、その時の感動が今の活動につながっています。そして最初から「俳優と監督を同時にやる」という考えが自然に私の中でありました。
海外では俳優が監督として、素晴らしい映画をたくさん制作されていますよね。その考えが最初から自分の中ではしっくり来て、大きな括りとして「映画を作る」を続けたいのだと思います。俳優として演じることも「作る」という前提の上に成り立っているといいますか。
──山科監督が映画制作に惹かれていったのは、当時学んでいた「建築」との間に共通点を見出したからなのかもしれません。
山科:そうかもしれません。建築と一言でくくることはできませんが、「家を建てる」という行為一つをとっても、その時に想像するのはやはり「人々の営み」です。
この家に家族が住むのなら、この間取りをどう動くのか。この場所をどう入ってきて、どのくらいの時間を過ごして去っていくのかなど、暮らしの動線や人々の生活を想像してデザインをします。映画も建築も、そういう意味では「人々が営む空間」を生み出す分野なのかもしれません。
映画はまさに、その連続です。映画全体をイメージし、プロットを起こし、脚本を執筆し、撮影でフレームを切り取る。そのフレームの連続が映画として仕上がりますが、フレーム一つ一つの空間に人の営みが写し取られていて、その連続性が映画を生み出しているのです。
こうやって言語化していきながら、自分の中に落とし込んでいますが、実は昔から無意識でそんなことを感じていたのかもしれません。
自身のこだわりや意識を超えた映画へ
──『4つの出鱈目と幽霊について』には、先述の作品のテーマの他に、どのような過去の作品と異なる「試み」が盛り込まれているのでしょうか。
山科:実は『4つの出鱈目と幽霊について』では、自分が持つ「こだわり」をなるべく入れ込まないようにしました。それよりも「カメラマンや俳優さんなど、各セクションの方たちのアイデアや考えを盛り込んだ作品にしたい」という考えが、当初から自分の中にあったんです。
前作の『ボディ・リメンバー』では、それこそ画角や演出など、自分のこだわりたい要素をいくつも盛り込むようにしました。それはそれで、自分の中では大切な作品です。しかし今回の映画は、よりオープンな作品、より多くの人々に開かれた作品にしたかったのです。そうした方が、より幅広く、より多くのお客様に観ていただけると考えたからです。
このチームメンバーだからこそ、このチームにしかできない作品にしたい。そこで意識したのは、上下関係なく、緩やかな、同じ高さの目線で制作ができる方をスタッフも俳優も集めることでした。
こちらから俳優さんに演出させていただく時も、すべてを伝えて言われた通りに演じていただくのではなく、重要な要素だけをお伝えして、それを俳優さんの中で自身の持っているものとブレンドして演じてもらうということを意識しました。そうした瞬間に、私が想像もしていなかった、脚本を超えたキャラクター像が見えてくるように感じたのです。
また本作は、4本の短編作品からなる長編映画ということもあって、作品を書いて、撮影して編集をするという一連の流れを1年の間で繰り返して制作しました。つまり、全体としてどんな作品になるか分からない不確定さ、余白を残しながら一つ一つ生み出していったんです。
そんな自分のこだわりや意識を超えた要素も、この映画の味わい深さ、奥深さにつながっていると感じています。
インタビュー・撮影/松野貴則
山科圭太監督プロフィール
映画美学校フィクションコースを卒業後、俳優・監督・スタッフとして映画に関わっていく。
主な出演作として、映画『あの⽇々の話』『stay』、テレビドラマ『かしましめし』『最愛』『晴天を衝け』など。演劇では、⽟⽥企画やマレビトの会などに出演。
『Playback』で助監督を務め、2021年『ボディ・リメンバー』で⻑編監督デビュー。同作は第23回サンフランシスコ・インディペンデント映画祭に選出され、のちに劇場公開された。現在はアマゾンプライムにて配信中。
映画『4つの出鱈目と幽霊について』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督】
山科圭太
【脚本】
三宅一平、山科圭太
【キャスト】
小川あん、斉藤陽一郎、祷キララ、伊東沙保、吉田正幸、今野誠二郎、アイダミツル、生実慧、長井短、用松亮、森優作、奥田洋平、神田朱未、田中爽一郎、影山祐子、神谷圭介、深澤しほ、鳥島明
【作品概要】
『ボディ・リメンバー』(2021)で⻑編監督デビューし、同作が第23回サンフランシスコ・インディペンデント映画祭に選出された山科圭太監督による長編映画作品。「幽霊」というキーワードを主軸に据えながら、4つの短編作品を絡ませて一つの長編に作り上げています。
キャストには『21世紀の女の子』の小川あん、『窓辺にて』の斉藤陽一郎、『サマーフィルムにのって』の祷キララなど、名実を兼ね備えた俳優陣が作品を彩ります。
映画『4つの出鱈目と幽霊について』のあらすじ
第1話「CAT IN THE FOG」
小説家の渡辺は、ある郊外の街に滞在し執筆していました。野良猫を探している男と話したり、夫のいる恋人と会うなどして過ごしています。
「この町に野良猫はいない」と聞かされた渡辺でしたが、その後猫の鳴き声が聞こえてきました。渡辺はその街に取り憑かれ、彷徨うことになり……。
第2話「SISTERʼS VIEW」
ミドリは「森の奥で⽗親のオバケを⾒た」と、姉のアオイを連れていきます。
しかし、見つけた相手は⽗親ではなく……。
第3話「幽霊を愛する⽅法」
ユタカは、亡きパートナーの弟マコトと共同⽣活を送っていました。ユタカはマコトに、早く仕事を見つけて出ていくようにとハッパをかけます。
ところが突然、マコトが「兄ちゃんの幽霊になった気がする」と告げ……。
第4話「むかしむかし、ある国で」
就活⽣の真希は、⾃分の⽣き⽅や社会に対して疑問を持っていました。
そんな時、盲⽬の旅⼈ナカダと出会います。真希は、目が見えない中で真実を見つけようとする仲間と行動をともにするようになり……。