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【壷井濯監督インタビュー】映画『サクリファイス』を通じて現代の孤独と闇に向き合う

  • Writer :
  • 桂伸也

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019にて壷井濯監督作品『サクリファイス』が7月15日に上映

埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネマの祭典「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」が、2019年も開幕。今年で第16回を迎えました。

そこで上映された作品の一つが、日本の壷井濯監督が手掛けた長編映画『サクリファイス』です。


(c)Cinemarche

本作はかつて新興宗教団体で東日本大震災を予知したという不思議な能力を持った少女と、闇を抱えた過去を持ち、周辺で発生した怪事件の容疑者とされる青年らをめぐる事件を、独特の描写で追ったサスペンス・ストーリー。

今回は本作で演出を務めた壷井濯監督にインタビュー。『サクリファイス』を制作するに至った経緯や自身の映画に対する思いなどを語っていただきました。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

“自分のために作った”という言葉の意味


(c)2018立教大学映像身体学科/Récolte&Co. /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

──本作に関し“自分のために作った”という思いもあったということですが、その要因とはどのようなものでしょう?

壷井濯監督(以下、壷井):こういう作品を作っていると自分の家族で何かあるのかと思われがちですが、むしろ幸せに生きてきたと思います。

大人になっていくにつれて、実は発達障害があるのでは、などと自分を疑っていたこともありましたが、周りの人間はそんな自分を受け入れてくれたし、本当に恵まれていたと思います。

その一方で近年、世間では残虐な事件が度々ニュースなどで報道されていましたが、それもやっぱり何らかのきっかけや原因は絶対あったと思うんです。

先日、ある人はある犯人のことを“不良品”と言ってしまいました。ネットではそのことが騒がれましたが、僕にはそんなことを言って事件を片付けてしまうことが、ある意味犯罪に加担しているように見えたんです。

僕は自分に障害あるんじゃないかと思ったり、悩んだりすることもあるけど、周りの人の言葉で本当に考え方が前向きになる。それが希望なんじゃないか、と思うんです。

だから、もしかしたらそういった殺人犯にも、誰かが何かその人の気持ちを変えられるように声を掛けてあげるタイミングがあれば、全然止められたんじゃないかという気がいつもしていたんです。

つまりこの映画は、こういった事件が本当に他人事と思えない自分のためとも思って作りました。

悩みから希望へ


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──昔からそのような思いを、何らかの形で出したいと思われていたのでしょうか?

壷井:そうですね。ただ以前から作った小さな作品でも、同じようなことを繰り返してやっていて、それが今回はたまたま長編としてできた、というだけだと思っていますし、“いつかは”というよりは、自分としてはずっと出し続けている格好です。

──ちなみに映画学校を卒業後に改めて立教大学に入り直されたのは、そんな影響もあったのでしょうか?

壷井:あったと思います。僕はもともと日本映画学校という専門学校に入って、その後に助監督などをやっていたんですが、そのときにうまく仕事ができなくて、自分には致命的な欠陥があるのではと悩み、うつ病に近い精神状態に陥ってしまったことがあるんです。

でもそのときに「うつ病って心の病気といわれているけど、まず体が動かなくなるものなんだ。なんかそれ、面白いな」と思えたんです。そんなときに面白いと思える視点があるのは、映画が好きだからこそなんじゃないかと。

そんなこともあって、映像と身体という点に強い興味を持ち、すごく勉強したいと思い、大学に入りました。

自身に問うた震災の描き方


(c)2018立教大学映像身体学科/Récolte&Co. /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

──今回こうした内容の作品を制作された動機とは、どのようなものだったのでしょうか?

壷井:そもそも大学で篠崎誠監督に授業を受けた際に「3.11をテーマとした脚本」という課題を出されたことがきっかけでした。

その課題に対して、周りの人は大体がそれなりに“良い話”を書いてきたんですが、それに対して僕は「本当にそうなのかな?」という疑いを抱きました。

自分が被災した人間で、そういうものを提示されたら本当に嬉しいと思うだろうか。今はこんな世の中で、表面上はいろんなことが前に進んでいるように見えながら、実は何も進んでいないと思うんです。

そんな中で、そんなつながりや希望、“頑張ろう”なんて安易な言葉が、本当に嬉しいと思えることなんだろうか、と。

そう思ったときに、別に被災したからって、必ずしも明るく前向きである必要はないと思ったんです。

だから一見、ちょっと悪しき物語みたいに思えるかもしれないけどすっと心に入って、他の悪しき物語が入ってくる前に補完してくれるようなもの、といったイメージで考えてみました。

改めて考える次回作への課題


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──テーマ的にも、特に東北大震災の話を構成に入れるというのは注意が必要とも思えますが、ご自身で意識した点はありましたか?

壷井:先程も言いましたが、安易な希望とかつながりとか、簡単に「元気になれ」みたいなことは絶対に言わないということですね。肯定したいことは孤独でもいい、絶望の中にいてもいい、そのままでいい、と。

ただ、劇中では震災を予知するというエピソードがありますが、それだったらできることもあったかな、とも考え、違うストーリーに持っていったほうがいいかと考えたこともありました。

その意味では、こうして作品ができた後に改めていろいろ考えるところもあり、そういった課題をいつかどこか、また別の作品や機会で、何らか補完したいと考えたりしています。

自分なりの構成の作り方


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──映画には様々な要素がありますが、構成はどのように考えられたのでしょうか?

壷井:僕は全体を見通して計算したり逆算したりできる人間ではないんです。だから全体として最初から大まかなストーリーラインを用意したわけではなく、一シーンごとに書いては、次の展開を考えてつなげるものを書いていきました。

その中で何となく踏み石というか、ここは通過したいと考えるところは意識していましたが、何となく思わせるようなものというくらいに留めて、本当に思うままに描いていっただけなんです。

劇中では軍服を着た男の子なんかが出てきますが、書き始めたときにはそんなキャラクターなんて考えていませんでした。最後に素性の分からない男が出てくるところも。すべて自分でも追って書いていました。

セリフという映画表現へのこだわり


(c)Cinemarche

──セリフの響きに、非常に文学的な印象がありましたが、意識して盛り込みたいという意向もあったのでしょうか?

壷井:そもそも僕は物語を描きたいと思ったきっかけが、もともと小説や詩とかが好きだったところにあるんです。まず言葉ありきというところです。

先程の発達障害を疑った話になるんですが、実は僕は、一度見たものが、僕は何度見ても覚えられないんです。だから世界を絵とかではなく、文字としてとらえるというところが多いんです。だったら小説とかで書いたら?と結構言われることが多いんですが…

だから脚本でいい感じに書いても、実際に役者にしゃべらせることを考えるといろいろ言われたり。それでも言葉ありきとして、たとえば宮沢賢治の作品の一節とか、ポエティックな説明、セリフなんかは敢えて入れてみました。

一方、今回は字幕を丁寧に入れていただいたので、それがちょっと変な間が埋まった感じというか。それが助けになったなという感じでもあります。英語ってすごくシンプルな言葉で浮かび上がらせてくれていますし。

何を犠牲にしても守りたいもの


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──監督ご自身にとって、何を犠牲にしてでもこれだけは絶対に守るもの、とは何でしょう?

壷井:やはり映画、映画というよりは物語を続ける、描き続けることは、何を犠牲にしてもやめてはいけないと思っています。

今、そういうことがやめられつつある時代だと思うんです。たとえばオーム真理教が台頭してきたのは、入信した人たちに本当に信じられるべき物語が無かったからだと、僕は思うんです。

人々に信じられるものがなくなったときにその教祖、ものすごくうまい語り手が現れて、人々の心の空洞にすっと入って…そんなふうになってしまったのでは、と。

だからそういうものに惑わされない、いつも自分の中に本当に信じるべき物語を持つことだけは、何を犠牲にしてもやめてはいけないと思っています。それは記憶とかでも思い出とかだけでもいい。

その上で、最悪はどんな形でもいいんですが、でもやっぱり僕は映画がいいです。僕は映画という面では才能もなくて、何で一番選んでいけないものを選んでしまったのかと感じるところもあるんですが、どうしても映画がやりたい。

今回この映画祭で上映されるまで、ほかの映画祭とかでも全部落ちて、正直映画を諦めかけていたこともありましたが今回改めてこの映画祭で上映していただいて、やっぱり映画がいいと思いました。だから絶対に映画をやり続けたいと思います!

インタビュー・写真/桂伸也

壷井濯監督のプロフィール


(c)Cinemarche

東京都出身。

日本映画学校(現日本映画大学)卒業後、立教大学現代心理学部映像身体学科に入学。

在学中より、篠崎誠監督『SHARING』『共想』や黒沢清監督『岸辺の旅』の制作にスタッフとして参加しました。

本作は第一回立教大学映像身体学科スカラシップ作品として選出され、これが長編初監督作品となりました。

映画『サクリファイス』の作品情報

【上映】
2019年(日本映画)

【英題】
Sacrifice

【監督】
壷井濯

【キャスト】
青木柚、五味未知子、半田美樹、藤田晃輔、櫻井保幸、矢﨑初音、下村花、三坂知絵子、草野康太、三浦貴大

【作品概要】
カルト、災害、未来予知、戦争など、近年世を震撼させるキーワードを緻密に構成し、世界の終わりを予感させるシリアスで独特の雰囲気を持った作品。

本作を手掛けた壷井濯監督は、在学中から篠崎誠監督や黒沢清監督の現場にスタッフとして参加、そんな経験を生かして、初の長編第一作とは思えないスケール感を持った作品に仕上げています。

謎めいた主人公・沖田を『コーヒーが冷めないうちに』『累-かさね-』に出演、7月から公開となる『暁闇』では主演を務めた青木柚が担当。他にも五味未知子、半田美樹など期待の若手俳優たちがメインキャストを担当する一方で、三浦貴大、草野康太、三坂知絵子といった実力派俳優が脇を固めています。

映画『サクリファイス』のあらすじ


(c)2018立教大学映像身体学科/Récolte&Co. /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

かつて新興宗教団体「汐(うしお)の会」で東日本大震災を予知していた少女・翠(みどり)。現在はある大学の女子大生として平穏無事な生活を送っていました。

一方、同大学には優秀な成績を上げていた生徒・沖田がいましたが、そのクラスメートである塔子は、あるきっかけで沖田がかつて猫殺しを行うような、心の闇の部分を持っていると思われる資料を発見、近日学校の周りで連続して発生していた猫殺し事件の犯人は、沖田でないかと疑っていました。

そんなある日、クラスメートだった一人の目立たない男子学生が軍服で登校、「しんわ」という宗教団体に入信したことが話題になります。その「しんわ」はかつて存在した「汐の会」の後継団体であり、その男子学生は、超能力を持ちながら会から逃げた翠を、密かに会に引き戻そうとたくらんでいました…。

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