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Entry 2022/10/22
Update

【北村龍平監督インタビュー】『天間荘の三姉妹』ドリームキャスト達との刺激的なセッションで撮りあげた作品

  • Writer :
  • ほりきみき

映画『天間荘の三姉妹』は2022年10月28日全国ロードショー

もう一度現世に戻って生きるか、天へと旅立つか。交通事故で臨死状態になった天涯孤独な主人公たまえは自らの進退を決めるまで、天界と地上の間にある街、三ツ瀬の旅館「天間荘」で過ごすことになる。そこには初めて出会う腹違いの二人の姉が待っていた。

『天間荘の三姉妹』はその作風と世界観で熱狂的なフォロワーを持つ高橋ツトムの代表作『スカイハイ』のスピンオフ作品の映画化です。


(C)ほりきみき

演出を担当するのはその『スカイハイ』のドラマ、映画を手がけ、現在ハリウッドを拠点に活躍する北村龍平監督。人の生死、家族や近しい人たちとの繋がりなど、誰にとっても他人事ではないテーマを観る者の心に問いかけながら見つめていきます。

このたび映画『天間荘の三姉妹』の劇場公開を記念して、北村龍平監督にインタビューを敢行。

高橋ツトムの原作のどこに魅力を感じて映画化したのか、またキャストのん、門脇麦、大島優子らの演技についての思い、さらにはハリウッドに拠点をおく北村自身の映画制作について、北村龍平監督に大いに語っていただきました。

※高橋のタカはハシゴダカ

3.11震災が発端で描いているのは“死生観”


© 2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

──原作は2013~2014年にグランドジャンプにて連載された高橋ツトムさんのコミック『天間荘の三姉妹-スカイハイ-』。高橋さんとは『ALIVE-アライヴ-』を映画化したことをきっかけに20年来のお付き合いとのことですが、漫画は発表されてすぐにお読みになったのでしょうか。

北村龍平監督(以下、北村):連載が始まったのは今から8年前ですが、偶然、映画の撮影で日本に滞在していたときだったので、1話目から読んでいます。そもそも高橋さんがこの作品を描くきっかけとなった3.11のときも日本にいて、高橋さんから「うちに来いよ」と言っていただいて、お世話になっていました。

その頃から「未曾有の事態が起こって大変な状況だけれど、人間は何年かすれば簡単に忘れてしまう。自分は事象を描いて生きていく職業だから、今、日本で起こっていることに関して、作品で何かを言わないといけない」とはっきりおっしゃっていたのです。ですから、読んですぐに「あのときにおっしゃっていたのがこの作品だ」とすぐにわかりました。

1話目から引き込まれ、途中で「ここで震災にいくんだ」というところで引き込まれ、ラストで引き込まれ、これは絶対に映像化したいと思いました。

──これまでにも震災のことを取り上げた作品はいくつもありましたが、亡くなった方の視点というのが新鮮でした。

北村:そこが高橋ツトムという人のユニークなところ。切り口が普通じゃないですよね。震災が発端で、テーマにしているけれど、描いているのは死の先にある世界。これは高橋さんでなければ生み出せなかった死生観であったと思います。

もともと僕も高橋さんも人の命は死んで終わるとは思っていません。高橋さんが描いた『スカイハイ』はこの作品よりもダークな側面が強い作品でしたが、死んで門に来た人間が人生をもう一回生きるのか、それとも次の世界に行くかを決める話でした。

僕が2003年に撮った『あずみ』では、上戸彩さんが演じたあずみが最後にたった一人になったときに、死んだ仲間がみんな後ろに立ち、そこで小栗旬さんが演じたなちが「星は昼間、見えないけれど、ずっとそこにあるんだ。だからどこにいようと俺たちは一緒だ」と言うのです。高橋さんも僕もずっと、生きることをテーマにして作品を作ってきています。


© 2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

──脚本開発が難航したとのこと。どのような点で苦労されたのでしょう。

北村:原作が4巻あるので、そのまま全部描いたら2時間では収まらない。どこを活かして、どこを変えるかをすごく悩みました。脚本は十数回に渡り、書き直しています。高橋さんは「イズコは神の視点で語っている存在なので、都合のいい存在にもなってしまう可能性もあるからいらないんじゃないか」と言ってくれましたが、イズコなくして天間荘はありえません。

脚本家の嶋田うれ葉さんがイルカトレーナーの大矢海咲とかなえを融合させるというアイデアを出してくださったのがありがたかった。キャラクターを全員取り上げていたら、さばき切れないですから。

僕は当初、優那を外した方がいいのではないかと考えていました。しかし嶋田さんが「割と簡単に命を諦めてしまう若者がたくさんいるから、そこに対して私は伝えたいことがある」とおっしゃったので、悩みに悩んで原作とは設定をがらっと変えました。

この作品はエンターテインメントではありますが、ただ面白いのではなく、ど真ん中に原作者の高橋さん、脚本家の嶋田さん、そして僕のメッセージがあります。

“ドリームキャスト”を集結させた


© 2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

──三姉妹を演じたのんさん、門脇麦さん、大島優子さんを始めとして、キャストの方々がどの方も見事なまでにキャラクターにぴったりでした。キャスティングはどのように進められたのでしょうか。

北村:脚本の形が見えてきた時点でキャスティングを始めました。高橋さんがNHK連続テレビ小説「あまちゃん」の頃ののんちゃんにインスパイアされて、たまえというキャラクターを描いていましたし、『この世界の片隅に』でのんちゃんと仕事をしているプロデューサーの真木太郎さんにも「のんちゃんでいきたい」という強い思いがありました。僕も真木さんを通じて数年前から何度か会っていましたから「のんちゃんにお願いしましょう」ということになりました。

僕はAKB48・2013真夏のドームツアー映像やMVを作ったことがありましたが、その頃から大島さんの存在感はずば抜けていました。MVを作っていると、ついつい大島さんのショットが多くなってしまう。秋元康さんに「ちょっと多過ぎる」と編集を直されたくらい。僕は大島さん推しでした。その後、AKB48を卒業されて、目まぐるしい活躍をされています。ずっとまたご一緒したいと思っていたので、彼女の名前が挙がったときには諸手を挙げて賛成しましたね。


© 2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

門脇麦さんはかねてから「若いのにすごい女優さんだな」と注目していて、プロデューサーからお名前が出てきたときには即答で「彼女で!」と答えました。そういう意味では三姉妹はすんなり決まりました。

イズコに関しては、真木さんが「たまえはのんちゃんしかいない」と思っているのと同じくらいの熱量で、僕は最初から「イズコは柴咲コウしかいない」と思っていました。柴咲さんご本人がイズコのような、すごく気高いオーラをまとっていますから。彼女には僕が直接メッセージを送ったところ、ご自身で原作を検索してイズコの画像を送ってきて「私やん」と、快く引き受けてくれました。

寺島しのぶさんや永瀬正敏さん、三田佳子さんはキャスティングディレクターが決めてくれました。素晴らしい方々に引き受けていただけて光栄極まりない。ドリームキャストになりました。

映画の掴みでワクワクどきどき


© 2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

──北村監督が推しの大島さんのアップから始まって、門脇さんとの4分弱のワン・ショットから義妹を迎える姉2人の緊張感が画面から伝わってきました。演じるお二人だけでなく、スタッフみなさんも撮影のときは緊張されたのではありませんか。

北村:ワン・ショットの長回しに見えるかもしれませんが、実はいろんな技術を使用して、4つくらいのショットで編集構成を行っています。

映画のオープニングはジェットコースターがガタガタ上がっていくような掴みの部分です。エンターテイナーとしては、そこでワクワクどきどきさせて、一気に天間荘への旅に連れて行かないといけません。普通に点描、点描、点描にはせず、大島さんが演じるのぞみ、麦ちゃんが演じるかなえのドキドキ感と観客をシンクロさせて、天間荘から目の前に広がる海まで出て行きたい。割と早い段階から、「ここはワン・ショットでやる」と思っていました。

ワン・ショットに見える撮影は最近、いろいろな作品でやっていますが、僕のあのシークエンスのこだわりは鏡から始まるところ。最初の大島さんのアップは鏡に映った顔です。よく見ると大島さんの顔が反転しています。そこからすっと抜けて、ワン・ショット風に見せたのは僕のちょっとした遊び心です。姉2人の心情をカメラワークと音楽とお芝居で表現しました。

そのあと、ぼんやりとしたのんちゃんの顔がアップで映り、雰囲気ががらりと変わります。漫画は段階的にネタバレしていってもいいのですが、映画は予告編やポスターで、この世とあの世の間ということがある程度は何となくはわかる。それならば最初に最低限のセットアップはしてしまった方がいい。その前の爽やか感から一転、ミステリアスにしたところでイズコが世界観を説明します。ここはどれだけトーンを変えていけるか、バランス配分を考えました。のんちゃん、麦ちゃん、大島さんが繊細な演技で作品を盛り上げてくれています。

僕にはアクションやホラーといったジャンル映画作家のイメージを持たれている方が多くて、本作のような作品を撮るイメージがなかったと思いますが、今回はいつもとは違う引き出しで制作に臨みました。


© 2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

北村:北村:僕は15年、アメリカのハリウッドを主戦場で映画制作を行ってきました。向こうではガンガンにディスカッションして映画を作っていきますが、日本ではなかなかそういうことをしません。

そこで今回はみなさんに時間を取っていただいて、最初にキャストの皆さんと一対一で話をする時間を作りました。そして「脚本という設計図があり、僕なりの答えが全シーン、全キャストに対してあるけれど、どんな意見でも言ってほしい。たとえ意見が合わなくても、嫌な感じにはならない。作品はそうやって作っていくものだと思う」と伝えました。

その成果でしょうか、キャストのみんなが僕の思いを汲み取ってくれて、現場ではシーンごとに自由に意見やアイデアを出してもらい、キャストが提案してくれて脚本と変えたシーンも色々とあったりして、そういうセッションができるのは刺激的でした。スタッフもほぼ全員初めましての方でしたが、熱量も力量も才能もある方々ばかりで、現場は凄く楽しかったです。

柴崎憲治さんとのコラボレーションで得た映画のスタイル

ゆうばり国際冒険・ファンタスティック映画祭’99正式招待作品『heat after dark』

──今回、スタッフの方々は初めての方が多いようですが、音響効果の柴崎憲治さんとはずっと組んでいらっしゃいますね。

北村:柴崎さんには27歳で何もわかっていないまま撮った『heat after dark』(1999)のときからずっとお世話になっています。僕の感覚を阿吽の呼吸でわかってくれていますし、柴崎さんから教わったことも多い。例えば、アクション系の作品を撮っていると、音楽をがーっと鳴らして、効果音もガキンガキンドドドンと全部爆音で出したくなってくる。

そんなときに柴崎さんから「気持ちはわかるけれど、たまには余計な音を入れない方がよかったりするよ」と言われました。それで効果音だけを残して音楽を抜き、別のタイミングで音楽を出してみたら、めちゃくちゃカッコよくなったのです。それが僕のスタイルになりました。


(C) 2003「あずみ」製作委員会

『あずみ』(2003)では最後にあずみが1人になったとき、風の音など全部なくして、完全に無音にしたところから彼女が目を開けて、また音楽を入れています。今回はその進化系で、たまえがある演説をして、イルカショーに入っていくとき、胸に手を当てて、目を閉じたときに全部の音を抜きました。

若い頃は激しいロックを入れるのが好きでしたが、今は音を抜くだけでなく、オーケストレーション的なこともできるようになりました。これは柴崎さんとのコラボレーションで得てきたこと。柴崎さんには感謝しかありません。

セルフプロデュース能力に長けた“のん”


© 2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

──北村監督からご覧になったのんさん、門脇さん、大島さんの女優としての魅力はどんなところでしょうか。

北村:のんちゃんは他に替えがきかない人。ルックス、表情、立ち姿、どれをとってもすごく独特。彼女にしかない世界をちゃんと作っている。女優としてだけでなく、ファッションにしろ音楽活動にしろそう。セルフプロデュース能力に長けています。ハリウッドぽい人だなと感じていました。ちゃんと脚本を読み取れて、キャラクターの脚本に書かれていないところまで自分なりに考えて、作り込んだ上で現場に来る。しかもそれが正解なのです。さすがですね。

大島さんはAKB48にいたときからすごく謙虚で、真面目で、可愛らしくて、とても愛される人。大島さんがいるとみんながニコニコしてしまう。持って生まれたスター性なのでしょう。AKB48ドームツアーの頃は彼女がセンターで超絶頂期でしたから、少しくらい調子に乗ってもおかしくない。それなのに「私なんて」とおっしゃっていて、とにかく謙虚で地に足がついている。

今回ものぞみの役柄に真摯に向き合い、きちんと作り込んできてくれました。ときには「このセリフは言いづらい」「のぞみはこうしないと思う」といったことも言ってくれて、それも役になりきっているからこそ。僕が現場で思いついたことには役柄として反応して動いて、感情表現してくれました。

麦ちゃんはいろいろ考えて、努力を重ねているはずなのに、その苦労を一切見せない。カラッとしているのです。例えば、麦ちゃん演じるかなえはたまえにイルカのトレーニングを教える役柄なので、たまえよりイルカとのスキルが上でないといけません。

難易度はかなり上だったのですが、さらっとやってのける。イルカの上に乗って立つシーンは心配だったので、撮影の前日にやってもらったら、1発でできたのです。みんな拍手喝采でした。「念のため、もう一回やっておく?」と聞いたら、「もう大丈夫です」と。普通は心配だからもう一回やっておきますよ。でもさらっと「じゃあ失礼します」と帰っていきました。

翌日の本番はエキストラで満員のところで1発で決めたので、また拍手喝采。門脇麦はすごい。小樽で撮影したときはマネージャーが同行せずに、東京から1人で来ていました。そんな人、なかなかいないですよ。野生児のように感じました(笑)。

インタビュー/ほりきみき

北村龍平プロフィール

1969 年生まれ。渡部篤郎主演『ヒート・アフター・ダーク』(1999 年) で監督デビュー。初の長編作『VERSUS-ヴァーサス-』(2001 年) が世界的に高評価を受け、小山ゆう原作・上戸彩主演の時代劇『あずみ』(2003 年)、高橋ツトム原作『ALIVE アライヴ』(2003 年)、大沢たかお・加藤雅也主演『荒神』(2003 年)、テレビシリーズも大ヒットした『スカイハイ』(2004 年)、ゴジラ映画の監督史上最年少で『ゴジラ FINAL WARS』(2004 年) を手掛けるなど数々の話題作・大作を発表後、ブラッドリー・クーパー主演『ミッドナイト・ミート・トレイン』(2008 年) から拠点をハリウッドに移し、ルーク・エヴァンス主演『ノー・ワン・リヴズ』(2013 年)、トロント国際映画祭ほか招待作『ダウンレンジ』(2017 年)、ルビー・ローズ&ジャン・レノ主演『ドアマン』(2020 年)を発表。本作はモンキー・パンチ原作、小栗旬主演の大ヒット作『ルパン三世』(2014 年)以来8 年ぶりの日本映画となる。

映画『天間荘の三姉妹』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【原作】
高橋ツトム「天間荘の三姉妹-スカイハイ-」
(集英社 ヤングジャンプ コミックス DIGITAL刊)
※高橋のタカはハシゴダカ

【監督】
北村龍平

【脚本】
嶋田うれ葉

【出演】
のん、門脇麦、大島優子、高良健吾、山谷花純、萩原利久、平山浩行、柳葉敏郎、中村雅俊、三田佳子、永瀬正敏、寺島しのぶ、柴咲コウ

【作品概要】
原作は『スカイハイ』『SIDOOH-士道-』『JUMBO MAX』で知られる漫画家・高橋ツトムの『天間荘の三姉妹 ースカイハイー』。

三姉妹の三女・たまえを演じるのは、のん。天真爛漫と孤独感が同居する難しいヒロインを完璧に演じきる。次女・かなえ役は実力派として高い評価を得る門脇麦。長女・のぞみ役は本作で一段と女優としての貫禄がついた大島優子。そして、彼女たちの母親・恵子を寺島しのぶが演じた。

監督は『あずみ』『ゴジラ FINAL WARS』『ルパン三世』などの話題作を手がけ、現在はハリウッドを拠点に活躍する北村龍平。プロデューサーはアニメーション映画『この世界の片隅に』を大ヒットに導いた真木太郎。                                    

映画『天間荘の三姉妹』のあらすじ

天界と地上の間にある街、三ツ瀬。美しい海を見下ろす山の上に、老舗旅館「天間荘」がある。切り盛りするのは若女将の天間のぞみ(大島優子)。のぞみの妹・かなえ(門脇麦)はイルカのトレーナー。ふたりの母親にして大女将の恵子(寺島しのぶ)は逃げた父親をいまだに恨んでいる。

ある日、小川たまえ(のん)という少女が謎の女性・イズコ(柴咲コウ)に連れられて天間荘にやってきた。たまえはのぞみとかなえの腹違いの妹で、現世では天涯孤独の身。交通事故にあい、臨死状態に陥ったのだった。

イズコはたまえに言う。「天間荘で魂の疲れを癒して、肉体に戻るか、そのまま天界へ旅立つのか決めたらいいわ」。しかし、たまえは天間荘に客として泊まるのではなく、働かせてほしいと申し出る。そもそも三ツ瀬とは何なのか? 天間荘の真の役割とは?たまえにも「決断の時」が刻々と近づいていた。

堀木三紀プロフィール

日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。

これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。

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