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Entry 2020/08/27
Update

【村上虹郎インタビュー】映画『ソワレ』キャスト出演とコロナ禍で再認識した日本の現状と“映画を観る”という価値

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『ソワレ』は2020年8月28日(金)よりテアトル新宿ほかにて全国ロードショー公開!

映画『ソワレ』は和歌山県を舞台に、心に傷を持つ若い女性・山下タカラが、ある事件をきっかけに俳優志望の青年・翔太と逃避行へと走る物語です。追われる身となりながらも、二人が共に同じ時間を過ごすことで、次第に生きる意味を見出していきます。


photo by 田中館裕介

青年・翔太役を演じたのは、近年話題作に立て続けに出演し注目を浴びている俳優・村上虹郎。今回は村上さんに映画の世界観を実現するにあたってのアプローチの仕方とともに、自身の感じる映画界の現状などについて語っていただきました。

監督と作品の思いを汲み取っていく


(C)2020ソワレフィルムパートナーズ

──映画『ソワレ』への出演に際して、外山文治監督やプロデューサー陣からは作品についてどのような説明を受けられましたか。

村上虹郎(以下、村上):直接「こうしたい」という話をいただくよりも「脚本から読み取ってみてほしい」という感じだったと覚えています。外山監督やプロデューサーは事前に多くの時間をかけて、脚本を洗練してくださっていますし、特に今回僕が演じさせていただいた役に関しては「当て書き」をしてくださっていたので。

もともとプロデューサー陣も外山監督も、一度別の仕事でご一緒していることもあって早い時期から本作の話は聞いていたのですが、その後脚本が上がってくるまでには時間がかかりました。撮影時の脚本についても多分12.5稿ほどの改稿を経て完成したんです。その間、僕らはただ待ち続けるしかない。もちろん脚本の推敲はとても苦しい時間だと思いますが、ある意味、その立場がうらやましく感じられる時もあります。

映画を作るということは、つまり歴史に名を刻むことですよね。その意味では当然プロデューサー陣も、外山監督も分かっていることだと思いますが、作る側の意識としてかなりのプレッシャーがあったと思うんです。そういうことを含めて、役者である僕はその思いを自ずから汲み取っていくというスタンスでアプローチしました。


(C)2020ソワレフィルムパートナーズ

──実際にその脚本から作品のテーマや役柄について読み取っていく中で、ご自身の役柄や作品の内容などはどう解釈されていったのでしょうか。

村上:外山監督は本作で長編二作目だと思いますが、今回の映画制作は監督が今までずっとやりたかったことを、素敵なスタッフさんとやっとできる場でもあったと感じています。その上で、映画を通じて誰に何を伝えたいかは、外山監督の中にやりたいことが確かにあったと思います。

この社会で「映画監督」という職業に打ち込むのは、非常に苦しいことだと思うんです。それでも外山監督は仕事を続けてきたわけですが、そのような状況の中で「映画監督」として感じた思いは必ず作品に込められていると思うし、外山監督が見つめ続けてきた世界を役者である僕らが体現していくんですよね。

日本における「勉強不足」の現状


(C)2020ソワレフィルムパートナーズ

──先ほどの脚本の話を踏まえると、本作は「言葉」と深く向き合った映画ではないかと感じられました。

村上:この映画は「会話劇」ではないですし、無論ずっと会話が続くような映画でもない。言葉での説明を要する場面も時々ありますが、それはあくまで不可欠な要素として描いています。ただ、外山監督が基本的にやりたかったことの一つには、多分「これは『映画』なのだから、劇場で観た際にはそこまで『言葉』がなくとも作品を感じられるだろう。けれども、その中で必要な『言葉』とは何だろう?」という映画の表現に対する問いも含まれていると感じました。

また、そういったことを改めて考えていると、僕のその代表の一人であるような気もするのですが、今、日本人って勉強不足だと思うんです。


photo by 田中館裕介

──村上さんの思う「勉強不足」について、より具体的にお聞きしてもよろしいでしょうか。

村上:海外の映画作品を観ると、描かれているテーマが深いし、圧倒的に映画としての表現を見せつけられる。その差からは、僕らが平和な世界に生きているとまではいきませんが、映画に対して本当に厳しい人間、批評する人間が非常に稀有な存在で、「本質」を見つめながら生きている人間が日本では少なくなってきているんじゃないかと感じられるんです。むしろ、本質を見つめられる人間が日の目を浴びなかったりすることが起きているのではと。

日本では、そういった根本的なことに対する教育が弱いと思うんです。全くないわけではなく、そこにたどり着くまでに時間がかかる。たとえばこの映画が完成に至るまでに多くの時間がかかったように、本当にほしいもの、すなわち本質にたどり着くまでに様々な理由から時間がかかってしまうことが現状となっているんです。

──「型」にはめていくことを前提とする教育が、本質を探求するための無数の道を次々と狭めているということでしょうか。

村上:そうだと思います。また、自分自身が何と闘っているのか、現時点での自分が何と対峙し切磋琢磨しているのかという「ライバル」という意識も、やっぱり弱くなっていると感じますね。僕らの先輩方という上の世代だけを「ライバル」として追いつこうとしてもしょうがないし、横の世代はもちろん「斜め」の世代についても考えなくてはいけない。ですから、もっと物事を多角的に見る必要があると思います。

そもそも、世代間で意見が違うことは面白いことだと捉えています。ある意味ではそれ自体に価値があるし、それを面白がれることが若い人間の価値じゃないかと感じます。

コロナ禍で再認識した「映画を観る」という行為


photo by 田中館裕介

──新型コロナウィルスの影響が続く中、村上さんご自身は『ソワレ』という映画が人々からどのような形で受け取られると感じていますか。

村上:コントロールなどできない状況なので、作品に関わったスタッフ・キャスト陣含めて、どうしても気分的にはギャンブルじみたものを感じてしまいます(笑)。そもそも映画はとても重い媒体ですから、そうでなくともお客さんの目に届くまでに時間もかかりますしね。ただその一方で、映画館に行きにくい状況がどうしても続いている中で、やれることは全力でやれたと感じています。

もちろん映画館に行きにくいのは確かなんですが、それでも映画自体を観られる環境は色々とあります。それに、今の状況によって家で長い時間を過ごしたことで、映画館で観ることの価値を再認識できた人は多いんじゃないかと思うんです。僕自身も「映画をやはり映画館で観たい」と感じるようになりました。時代の移り変わりという影響によって、今後は映画館をはじめ「映画を観るための空間」が減っていくかもしれません。それでも今回の出来事によって、人々の映画に対する認識はどのような形であれ強まったとのではと思います。

またそういったことを考えている中で、当初は作られた映画を観るために映画館が生まれたけれど、今はむしろ映画館に行くために映画を作っているのではと感じることもあります。それはどっちもありだと思いますし、映画制作や映画館のあり方はさらに変わっていくのではないでしょうか。

インタビュー/河合のび
撮影/田中館裕介
構成/桂伸也

村上虹郎プロフィール

1997年生まれ、東京都出身。2014年、河瀨直美監督の『2つ目の窓』でデビュー、同作で映画初主演を果たし「第29回高崎映画祭」最優秀新人男優賞を受賞しました。

2016年には『ディストラクション・ベイビーズ』、翌年の綾野剛主演『武曲 MUKOKU』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『ハナレイ・ベイ』、主演作『銃』、オダギリジョーの長編初監督作『ある船頭の話』と立て続けに話題作に出演。待機作に『燃えよ剣』『佐々木、イン、マイマイン』があります。

外山文治監督とは17年の短編『春なれや』で顔をあわせています。

映画『ソワレ』の作品情報

【公開】
2020年(日本映画)

【監督・脚本】
外山文治

【キャスト】
村上虹郎、芋生悠、岡部たかし、塚原大助、康すおん、花王おさむ、江口のりこ、田川可奈美、石橋けい、山本浩司

【作品概要】
豊原功補・小泉今日子・外山文治が立ち上げた映画製作会社「新世界合同会社」による第1弾プロデュース作品。何もかもうまくいかず、苦しい日々を送っていた若い男女が出会い、ある罪を犯したことをきっかけに始まった逃避行。男はそれを「かくれんぼ」と呼び、女は「駆け落ち」と称したひと夏の出来事を、和歌山の美しい自然を舞台に描きます。

若い男女を演じるのは、類稀なる吸引力で日本映画の台風の目になりつつある村上虹郎と、独特の存在感で鮮やかな印象を残す新星・芋生悠。そして監督をセンシティブな感性で唯一無二の世界観を作り出す新鋭・外山文治が務めます。

映画『ソワレ』のあらすじ


(C)2020ソワレフィルムパートナーズ

俳優を目指して上京するも結果が出ず、今ではオレオレ詐欺に加担して食い扶持を稼いでいる翔太。ある夏の日、故郷・和歌山の海辺にある高齢者介護施設で演劇を教えることになった翔太は、そこで働くタカラと出会います。

数日後、祭りに誘うためにタカラの家を訪れた翔太は、刑務所帰りの父親から激しい暴行を受けるタカラを目撃します。やがて、翔太は咄嗟に止めに入りましたが、彼を庇おうとしたタカラの手は父親の血で染まりました。

逃げ場のない現実に絶望し佇むタカラを見つめる翔太は、やがてその手を取って夏のざわめきの中に駆け出していきます。こうして、二人の「駆け落ち」とも呼べる逃避行の旅が始まりました……。




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