SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019にて真田幹也監督作品『ミドリムシの夢』が7月16日に上映
埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネマの祭典「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」が、2019年も開幕。今年で第16回を迎えました。
そこで上映された作品の一つが、日本の真田幹也監督が手掛けた長編映画『ミドリムシの夢』です。
通称「ミドリムシ」と呼ばれる街中の嫌われ者、その正体は駐車監視員。その仕事に従事している人物にスポットを当て、駐車違反取り締まりの現場で起こるさまざまなハプニングを通して見えてくる人間模様を、コメディーテイストたっぷりに描いた作品です。
今回は本作で演出を務めた真田幹也監督にインタビュー。ご自身の映画に対するポリシーや考えとともに『ミドリムシの夢』の制作経緯などを語っていただきました。
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監督として描きたいテーマ
──真田監督が、映画のテーマとして描きたいと思われているのは、どのようなものでしょうか?
真田幹也監督(以下、真田):よく日常で「これは可笑しくない?」と思うことをやりたいと思っています。可笑しくて思わず突っ込んでしまうもの。
たとえば日常生活の中で、実際はそうでもないのに当たり前だと思われているものとか。例えば今回の作品でいえば、駐車監視員という人たちはなぜ自信満々に駐禁を切っていくのか。そんなところに対して抱く疑問や違和感を、僕は掘り下げています。
また、映画を見てもらうと感じられるかもしれませんが、「弱者」という点でも気になるところはあるかと思います。僕も弱者ですし(笑)。
──Q&Aでは伊丹十三監督が好きで、お笑いにご自身の嗜好があるとおうかがいしました。お笑いに対してのこだわりは強いですか?
真田:そうですね。映画を見ていただく際、皆さんに2時間ほどお時間をいただいて映画を見ていただくことを考えると、僕としてはどん底の気持ちのままで帰ってもらいたくないんです。
ちょっとでも明るい気持ちで見終わってほしい。だから最終的には笑いに持っていきたいと思います。それはおそらく今後も変わらないと思います。泣いて笑えて、そして最後は大団円というパターンが、一番のエンタテインメントであると思っていますし。
俳優として出るものであれば、コテコテのホラーみたいなものも面白いと思いかもしれません。でもやはり自分で作るのであれば、まだ笑いを意識したものを作っていたいです。
映画撮影での苦労
──映画を作る作業に対しては、どのようなモチベーションを持って取り組まれていますか?
真田:僕はまず面白いと思ったことは、画で浮かびます。だからこそ映像を仕事としています。
例を挙げるとすると「あなたの横に誰が座ってたら面白いんだろう?」「その人がこうなったら面白いな」というアイデアが画として頭に浮かび、それを形にすべく映画作りを行っているだけなんです。
──Q&Aの際に、本作の撮影について「言葉だけでなく、どう画で説明するのかを考えるのが大変だった」と話されていましたが、具体的に撮影時は、どんなところを注意されたのでしょうか?
真田:例えばある二人の人物に対して、見ている人が最初の展開で認識する関係があるんですが、それが実は違って、変わっていく展開の中で、その関係が「実はこうだった」と真実が判明するパターンがあるんです。そういった部分の展開の作り方は注意し、いろんなことを考えました。
そのほかには予算的な都合で、例えば車を二つ並べて見せるというシーンがありましたが、車自体を用意することができなかったシーンがあり、それを工夫でさも2台の車があったかのように見せていたりするところがあるんです。
今回はそういったパズルを成立させるために、ものすごく場所を選びましたし、その全てのアイデアをミックスするのは、本当に大変でしたね。
二人のメインキャストの魅力
──メインキャストの富士たくやさん、ほりかわひろきさんの魅力とはどのようなものでしょうか?
真田:それぞれの真っすぐなところだと思います。僕もお芝居が好きですが、彼らにもその強い思いを感じました。
また魅力ではないかもしれませんが、一緒に映画を作ってほしいと言われたことにも強く惹かれました。僕自身はまだ世に名が知れているわけでもないのに、そんな僕を選んでくれた先見の明に乗っからない手はない、またその期待に応えたいという思いがありました。
今回の映画化は、そういった偶発性も特徴的でした。トラブルから撮影が止まったこともあったけど、結果的に僕らでスポンサーを見つけ、無事に撮影を完了することもできました。
その意味で、僕はこの映画ができたことは結構大きな奇跡だと思っていますし、皆さんにこの映画祭で見ていただいたことも奇跡だと思う。だからこの作品が、これからさらに大きくなっていけばと願っています。
──役者なら舞台で、という選択肢もあったかと思いますが、敢えて映画を望んだというのも興味深いですね。
真田:僕が映画好きで、ほりかわさんも映画が主戦場で映画好き、という感じでしたし、自然な流れだったと思います。富士さんは結構舞台の方もされていますが。
ただ今回の話は、もともと映画で出すものだと思っていました。街の景色の中で彼らがいるという画のほうが、彼らが生きるとも思ったし。
新宿駅の東南口で、橋のところからパチンコ屋を撮ったりしたんですが、彼らが本当に街になじむというところを撮りたかったので、それは十分できたかなと思います。
ただ本当に彼らを放っておいたら、町の人に道を聞かれたりしていたんです(笑)。まあそれくらいになればバッチリだなと思っていましたし、その時に「ああ、これはいいな」と映画の完成に向けた手ごたえを感じていました。
キャスティングの留意点
──この二人を映画でと決めたときに、どのようなイメージの作品を描こうと思いましたか?
真田:あの二人がいるからこそ逆に、それをどういじれるかというキャストが重要でした。だから周りのキャストさんを集めるときは、結構神経を使いました。
今回は周りの方の役者さんに、かなり瞬発力が無いと短期間での撮影を成し遂げることができないと思い、それができる方をお願いしました。その意味で映画作りの第二段階、キャスト集めというのも結構大変でしたね。
苦労した分、本当に素晴らしい役者さんに集まっていただきました。ただ逆にいうと…普通は主役が一番すごい人たちが集まるんですが、主役が初主演で、周りを素晴らしい役者さん、という構図になりまして(笑)。
でも演じきった彼らは、この短期間でものすごく成長したと思います。緊張していたのか最初は大変でした。先日のQ&Aでも言いましたが、最初の撮影シーンが長谷川(朝晴)さんとの共演で、出だしは本当にケチョンケチョンにやられていた感じでしたし(笑)。
長編制作の魅力と苦労
──今回は敢えて長編にチャレンジという格好でしたが、その点ではいかがでしたか?
真田:僕は今まで20本くらい短編映画を撮らせていただいていたんですが、このままでは本当に短編の世界でしか広がっていかない。
だから本当の映画の世界に近づくため、映画のことを知るためには、このあたりで長編を撮っておくべきだろう、と思っていました。
実際に撮ってみると、やっぱり正解だったと思います。これからもお仕事として短編製作にも携わる一方で、長編にも積極的にチャレンジしていきたいと思っています。
短編に比べ決定的に違うと感じたのが、やはり伏線の部分。それぞれのセリフが引っかかるポイントをうまくちりばめるという作業で、圧倒的な量と難しさの違いがあって、それが面白くもあるけど、反面ものすごく頭を使いましたね。
映画としては、実質的に短編一本では公開できない状況ではありますし、やっぱり今後どんどんいろんな人に見てもらう作品を作ることを考えたら、これからも長編を積極的に手掛けていきたいと思っています。
音楽へのこだわり
──音楽の使い方について、何らかのポリシーは持たれていたのでしょうか?
真田:音楽としては、一つだけポリシーとして持っていたものがありました。
僕はもともと演出家の蜷川幸雄さんに習っており、その時に蜷川さんから教えていただいたことなんですが「役者の芝居は、音楽に勝たなければいけない」ということ。それが常に頭の中にあるんです。
「役者の芝居が負けているから、そんな時に演出として音楽がつけられるんだ」そんな風に蜷川さんから習っていました。その意味では、芝居だけでシーンが成立するのであれば、本当は音楽はいらない、という考えなんです。
だからどちらかというと極力音楽をつけない方針としていました。やり方としては、例えば一番感動させるようなシーンで、音楽をちょっとだけ入れるような恰好。
でも感動させる音楽を掛けた上で感動する芝居を行う、という演出は嫌いなんです。なので劇中で本当に走っているシーンは、よく音楽の歌詞を聞いてみると全く関係ないことを言っている。しかし顔は一生懸命走っている、みたいな感じのものにしています。
音楽をもっと前面に出している作品もたくさんあるし、それ自体を否定はしないですが、僕は敢えてそうではないフィールドで戦いたいという思いもありました。
だから結構音楽のタカタさんとも話をして、泣かせるところを敢えてちょっとズレているようにしたり、最小限しかつけてない恰好にしたりしました。
インタビュー・写真/桂伸也
真田幹也監督のプロフィール
演出家・蜷川幸雄氏の元で修行を積み、『バトル・ロワイアル』や『アウトレイジ』などに俳優として出演する一方で、06年文化庁委託事業「若手映画作家育成プロジェクト」に選出され、『Life Cycles』を監督しました。
以降、これまで20本におよぶ短編を手掛け、『キスナナ the Final』で高砂市観光協会長賞、『オオカミによろしく』でちちぶ映画祭2014グランプリを受賞と、高い評価を受けており、長編としては本作が初の作品となります。
映画『ミドリムシの夢』の作品情報
【上映】
2019年(日本映画)
【英題】
Dream of Euglena
【監督】
真田幹也
【キャスト】
富士たくや、ほりかわひろき、今村美乃、吉本菜穂子、佐野和真、歌川椎子、長谷川朝晴、戸田昌宏
【作品概要】
ひたすら駐車違反の取り締まりをおこなう駐車監視員、通称「ミドリムシ」の日常を通して、さまざまに登場する人物それぞれの人間像を描いていくコメディー群像劇。
これまで20本にもおよぶ短編作品を手掛け、高い評価を受けてきた真田幹也監督が作品を手がけました。
仕事に誇りを持つ主人公・マコト役を『サッドティー』『水の声を聞く』に出演した富士たくやが担当。また、だらしないが憎めない相棒シゲ役を、『おっさん☆スケボー』で福岡インディペンデント映画祭2013の主演男優賞を受賞したほりかわひろきが演じます。
さらに佐野和真や長谷川朝晴、戸田昌宏ら実力派の俳優陣が脇を固めています。
映画『ミドリムシの夢』のあらすじ
世に嫌われながらも、確固たる自分の意思を守るかの如く駐車違反の取り締まりをおこなう駐車監視員、通称「ミドリムシ」。
二人一組で行動する彼ら、その一組であるマコトとシゲの凸凹コンビは、今日も新宿の駐車事情を守るべく、取り締まりに邁進しておりました。
そんな彼らの行動とはよそに、ある日シンガーを夢見て上京した一人の男性が、その夢をあきらめて故郷に帰ることを決意していました。
また一方では、トップアイドルを目指し芸能界に飛び込んだものの、鳴かず飛ばずでヤクザの枕営業に手を染めようとする、一人の女性とマネージャー。
深夜勤務をおこなうこととなったマコトとシゲが、ある取り締まりをおこなったことをきっかけに遭遇、奇想天外な事件に巻き込まれていきます。
果たして彼らの運命やいかに!?