型破りな右翼活動家・鈴木邦男に密着したドキュメンタリー映画が今夏、京阪神で公開!
異色の政治活動家・鈴木邦男さんに迫るドキュメンタリー映画『愛国者に気をつけろ! 鈴木邦男』が2020年7月10日(金)よりシネ・リーブル梅田、7月31日(金)より京都シネマ、8月以降、元町映画館にて公開されます(追記:元町映画館での上映は2020年10月10日より一週間限定上映されます!)。
長年、右翼活動家として政治活動を続ける鈴木邦男。彼は元赤軍関係者や元オウム真理教信者、元警官にグラビアアイドルなど、右も左も区別なく様々な人たちと交流し、異なる意見や価値観にも耳を傾けます。なぜ彼は政治、宗教の壁を乗り越えることができるのか!?
このたび劇場公開を記念し、『ハリヨの夏』『ナオトひとりっきり』などを手がけ、本作を通じて鈴木邦男という一人の人間と向き合った中村真夕監督にインタビューを敢行。今回の作品を制作するに至った経緯、作品に込められた思いなど、たっぷりとお話を伺いました。
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鈴木邦男という稀有な存在を記録したい
──今回、鈴木邦男さんの姿を映画によって映し出そうと思われたきっかけを教えていただけますか?
中村真夕監督(以下、中村): 私の父であり詩人の正津勉(しょうづべん)が専門学校で教鞭をとっていた時に、鈴木邦男さんも同じ学校で教えていらっしゃったんです。そのご縁で、前作の『ナオトひとりっきり』(2014)が公開された際にもイベントのトークゲストとして登壇してもらうなど、元々交流がありました。
2012年に、若松孝二さんが亡くなりました。そして、誰も若松さんのドキュメンタリーを撮っていなかったことに愕然としました。あの時代を知る方々はみな70・80代になっているから、今撮らなくてはいけないんだという思いに駆られていた時に、そういえば鈴木邦男さんのことを誰も単独では撮っていないと気づいたんです。「彼は稀有な存在なので、記録として残しておかないと」という思いを抱き、2017年の夏から撮り始めて2年半ほど密着させていただきました。
今、日本は非常に不寛容な社会になっていて、意見が異なる人間を排除する傾向が強まっています。その中で、鈴木さんは「もっと人の意見を聞こうよ」「いろんな意見があってもいいじゃない」とその真逆をおっしゃっていて、実はこの人は“歩く民主主義”なのではないかと思っていました。この不寛容な社会を見つめ直すきっかけになれば、そして鈴木邦男という人間がなぜ“歩く民主主義”として実在できているのか、その理由を探るためにこの映画を撮りました。
柔らかい物腰と一瞬見せる鋭い眼光
──取材及び映画制作を通じてその姿を見つめ直していった中で、鈴木さんは改めてどのような人物だと感じられましたか?
中村:作中にも登場しますが、「邦男ガールズ」という鈴木さんから見たら娘くらいの年齢の女性が必ず5・6人付き添っているほどに、彼は人気があるんです。それはなぜかというと、雨宮処凛さんもおっしゃっている通り、鈴木さんは全然いばらない方で、「俺の話を聞け」「俺が正しい」とか、鈴木さんの年代の男性の方にしばしば見られるような家父長制的な態度をまったくとらない、物腰の柔らかい方なんですね。
どうしたらそういられるのかと尋ねた際、彼は「昔は自分も自身の正しさを信じ、凝り固まった愛国心を持っていたけれど、いろいろ失敗や挫折を繰り返す中で変わっていきました」とおっしゃっていました。鈴木さんは「日本会議」の前身にあたる「全国学協」の代表だった方です。そのまま在籍し続けていれば「日本会議」に加入していたかもしれないけれど、結果として「全国学協」の代表の座を追われてしまった。そうした挫折の中で視野が広くなり、柔軟に左翼とも話ができるように変わっていかれたんです。
ですが、たまに見せる鋭い眼光に怖さを感じる時があります。久々にお会いする際には、一瞬こちらを見る目が特に鋭いので、どんな相手であったとしても瞬時に敵・味方を判断されているのかもしれません。刺す・刺されるの時代を生きてきた方でもありますから。
──取材中の中村監督は、「赤報隊事件」やプライベートな話題にも言及されていましたね。
中村:当初から、編集者の方には「鈴木さんは赤報隊や女性についての話題は絶対に応えないから」と聞かされていたものの、ドキュメンタリーを撮る時はいつも「これ撮ったらダメだ」「これ聞くのはNG」と言われると、どうしてもそこを狙いたくなってしまう。人がみせたくない部分とは、その人にとって大事な部分でもあるからです。また鈴木さんと父は友人ということもあり、私と鈴木さんは擬似親子のような関係が生まれていました。その関係を活用して、他のインタビュァーなら聞きにくいことも聞きたいと考えていました。鈴木さんも「半分しょうがないか」と応えてくださったのですが、今の時点では結局本質をはぐらかされた気がしています。きっと、墓まで持っていくつもりなのでしょうね。
激動の時代を生きた人々のその後
──鈴木邦男さんという人物を通して、1960年〜70年代という時代における日本の様相が明らかになっていきますが、ここまで激動の時代だったのかと再認識させられました。
中村:私は1973年生まれなので、その時代の記憶そのものは持っていないんですが、父が鈴木さんの2歳下というほぼ同世代であり、親世代の歴史として関心があったんです。
私たちのような団塊ジュニア世代は、バブルが崩壊して就職氷河期へと突入し、受験戦争が大変だったのに報われることの少なかった世代だったので、親世代には少しうらやましさというか、小憎たらしいという想いがありました。学生運動で散々暴れた挙げ句、会社に就職したらいい仕事をもらって高給取りになり、退職後も人生を謳歌しているように見える。その一方で、鈴木さんは清貧な生活を送りながらもいまだに政治活動をしていらっしゃるわけです。
実はもっと「ガチ保守」の方々にもインタビューをお願いしていたのですが、全員断られてしまいました。「全国学協」で鈴木さんと一緒に活動されていた方に「何十年も経ち、進む道は違ってしまったけれど、今、どう思われていますか?」とお聞きしたかったんですが、結局実現しませんでした。右派の人から見ても鈴木さんはやはり特殊な立ち位置の方で、接しづらいからなのかもしれません。
人間の「複雑さ」に惹かれる
──鈴木邦男さんは多様な人々と交流を重ね、何かに興味を持てばすぐに本を読んで勉強したり、関係する人物に会いに行かれるそうですが、そのスタンスは中村監督が映画を撮る際のそれとリンクする部分があるのではないでしょうか?
中村:私自身も「『この人、面白そう』と思ったらとりあえず会いに行ってみよう」「とりあえず話を聞いてみよう」と考えています。周りの人の目に流されずに、自分で会ってから判断しようと思っているので、そういう意味では似ているかもしれません。
また説教臭いドキュメンタリーは好きではなく、『ナオトひとりっきり』を撮ったのも、福島第一原発の事故により無人地帯となった福島県富岡町で取り残された生き物たちと一緒に暮らす男性が「面白かった」からです。「反原発」とはどうしても言い切れない、原発の恩恵も受けて暮らしてきた方で、その一言では言い表せない感情を持っている点に惹かれたんです。私はドキュメンタリーだけでなく劇映画も撮っていますが、自身にとってそれらに垣根はなく、どちらにせよ、人間が持っている複雑さに惹かれるからこそ制作を続けています。
不寛容さを打破する「ユーモア」
──今日の日本社会になく、鈴木邦男さんにはあるものとは一体何だとお考えですか?
中村:ユーモアだと思います。実は『愛国者に気をつけろ!』というタイトルが決まるまでには結構苦労したのですが、その際に鈴木さんご本人にもどういうタイトルがいいかと尋ねたことがあります。すると彼は「『ヘタレ右翼』でいいんじゃない?」とおっしゃったんです。鈴木さんは自分自身を笑いの対象にすることができますし、相手の心もちょっとした笑いでくすぐるようなところがあって、そうすることで小さな客観性を生み出そうとするんです。
私は高校・大学・大学院と14年間海外で学んだんですが、その時に強く感じたのは、欧米の人にとって「ユーモア」とは非常に大事な要素だということです。「理想のパートナー」としてあげる条件にも必ず「ユーモア」が含まれています。イギリスでは「ウィット」と呼ばれ、ちょっと知的なユーモアが生活の一部となっています。
鈴木さんがすごいのは、敵対する相手のところに行く場合も、まずその相手を笑わせる一言を発するんですね。それで一旦場が和むから、相手の心を開くことができる。鈴木さんはそんな洒落た面をナチュラルに持っていらっしゃる。欧米人に近いところがあるのかもしれません。
一方、日本ではあまりユーモアは重視されません。日本人はきっと変に真面目すぎるんでしょうね。そうしたユーモアが生活の中にあれば、様々な面で円滑に回ることができるのにと思うことが多々あります。そうすれば「自己責任だ!」と他者を感情的に糾弾するような風潮や、社会の不寛容さも、もう少し穏やかになっていくのではないでしょうか。
インタビュー・撮影/西川ちょり
中村真夕監督プロフィール
ニューヨーク大学大学院で映画を学ぶ。2006年、劇映画『ハリヨの夏』で監督デビュー。
2012年、浜松の日系ブラジル人の若者たちを追ったドキュメンタリー映画『孤独なツバメたち~デカセギの子どもに生まれて~』を監督。2015年、福島の原発20キロ圏内にたった一人で残り、動物たちと暮す男性を追ったドキュメンタリー映画『ナオトひとりっきり』を発表。
最新作、オムニバス映画『プレイルーム』はシネマート新宿で異例の大ヒットとなりアンコール上映され、全国公開される。脚本参加作品として、エミー賞ノミネート作品、NHKスペシャル ドラマ『東京裁判』(全4話/29年度芸術祭参加作品)がある。
映画『愛国者に気をつけろ! 鈴木邦男』の作品情報
【日本公開】
2020年(日本映画)
【制作・監督・撮影・編集】
中村真夕
【キャスト】
鈴木邦男、雨宮処凛、蓮池透、足立正生、木村三浩、松本麗華、上祐史浩
【作品概要】
中村真夕監督が右翼活動家・鈴木邦男に2年間密着したドキュメンタリー映画。鈴木の人生を辿りながら、麻原彰晃の三女・松本麗華、元オウム真理教の幹部・上祐史浩、元日本赤軍で映画監督の足立正生、作家・雨宮処凛など様々な人たちと交流する様を映し出す。共同プロデューサーは、『毎日がアルツハイマー』など数々のドキュメンタリーの話題作を生み出してきたシグロの山上徹二郎。
映画『愛国者に気をつけろ! 鈴木邦男』のあらすじ
「生長の家」の信者の家に育った鈴木邦男は、大日本愛国党の元党員・山口二矢が日本社会党党首を刺殺する映像に衝撃を受ける。山口が自分と同じ17歳だと知った鈴木は、愛国のために身を捧げる決意をする。
早稲田大学時代には、今の日本会議の前身となる全国学協の代表まで登りつめるが、まもなく失墜。その後新聞社に就職するも、自身が右翼運動に引き入れた早稲田大学の後輩、森田必勝が25歳にして三島由紀夫と共に自決したことに衝撃を受け、職を辞し政治団体・一水会を設立する。
政治的・思想的な挫折と葛藤を繰り返す中で自らが訴えてきた愛国心さえも疑い、異なる意見や価値観を持つ人たちの言葉に耳を傾ける鈴木邦男。そんな彼の素顔に密着したドキュメンタリー映画。