映画『エンテベ空港の7日間』が、2019年10月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開!
ブラジルの麻薬組織と警察の闘いを描いた「エリート・スクワッド」シリーズ(2007~2010)でその名を世界に知らしめたジョゼ・パジーリャ監督。
ジョゼ監督が新たに挑んだのは、『エンテベの勝利』(1976)『特攻サンダーボルト作戦』(1976)『サンダーボルト救出作戦』(1977)と、過去に3度映像化されたハイジャック事件を、ハイジャック犯からの目線と要素、また新事実などを盛り込んで描いた意欲作。
映画『エンテベ空港の7日間』の日本公開を記念して、ベルリン映画祭金熊賞の受賞でもあるジョゼ・パジーリャ監督にインタビューを行いました。
映画の冒頭から意表を突いたダンスシーンの意図と効果、また、多くの事件関係者に取材を行なった際の印象、さらには、ジョゼ監督の強い人間性に触れる発言まで、たっぷりとご紹介いたします。
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躍動するダンスの起用とその発端の秘密
──本作『エンテベ空港の7日間』の冒頭から、ダンスシーンで始まることに度肝を抜かれました。
ジョゼ・パジーリャ監督(以下、ジョゼ):世界的に知られるイスラエルのカンパニー、パットシェバ舞踏団の演目「エハッド・ミ・ヨデア」です。この踊りを注意深く見ると非常に自虐的な動きがみられます。
ダンスシーンを用いることで、今 イスラエルとパレスチナの抗争はお互いに傷つけ合っている。比喩的な形で冒頭にもってくることで、それを示したかったのです。
──ダンスシーンの構想はいつ思いついたんですか?
ジョゼ:実は最初からダンスシーンを生かしたものではなく、映画撮影の終盤になって必要にかられて出てきたアイディアだったのです。
計画された予算内で映画を撮る時間と、資金が底をついてしまった。何か別のアイディアがないかというなかで生まれました。
具体的な襲撃のアクションシーンを大掛かりに撮影するのではなく、比喩的な対立の構図を考えたところ、ポイントとなる配役のひとりにダンサーという役柄を入れることで、予算節約の手段ではあるのだけれど、象徴的であり、必要性があって生まれたアイデアとなかったと今でも考えています。
参考映像:バットシェバ舞踊団「DECADANCE-デカダンス」愛知公演・2015年10月7日
──ヒッチコック監督の映画『知りすぎていた男』(1956)で、盛り上がりを見せたオーケストラのクライマックスのように、ダンスはサスペンスを盛り上げるのに不可欠であったように思います。
ジョゼ:ダンスを比喩としてもちいたけれど、効果ということを考えると、いくつもの多面的な効果があります。
まず1つは、先ほども触れた、葛藤、紛争という互いが痛みを持っているという構図を表す効果。
そしてもう1つですが、実は第二次世界大戦の時、英国がドイツの爆撃を受けてチャーチル大統領が人々に決断を求められたのです。その時に、戦時下における生活の見直し、劇場を閉鎖するべきではないかという話が持ち上がりました。ですがチャーチル大統領は、こう言ったそうです。「もし、劇場を閉鎖しなければならないのなら、戦争をする理由がない」と。
イスラエルでは兵役が男女に課せられていることなど、軍事的な面がメンタルにおいても市民生活の一部となっています。何かによって軍事的な部分が中断してしまったら、全てが終わってしまう。
空港に襲撃したショットと並行して交互に見せたのは、ダンスのシーンには、軍のアクション・シーンと同等の映像にしても力があると感じたからなのです。
42年前の事件を“今日”に問う意味
──43年前のハイジャック事件に興味を持ったきっかけは何ですか?
ジョゼ:43年経った今でも、イスラエルとパレスチナの紛争は未だに続いており、平和的解決にいたっていません。
特にイスラエルは、ガザ地区でのパレスチナ難民の扱いなどについて、国際的な批判を浴びています。一方のパレスチナの政府も平和にむけての解決策を提示できていません。
なぜ、こんなに長引いているか。2国間の問題ではなく、アメリカをはじめとする世界全体の、いわば国際社会の問題ともいえるのです。
あのハイジャック事件以降、それぞれの国の情勢は変化しているのですが、抗争状態にあることは変わっていません。それを捉えたかったのです。
──本作の経緯のなかで、執筆を担当したグレゴリー・パークとはどのように脚本を形作っていったのでしょうか?
ジョゼ:イギリスの映画会社によってこの映画のプロジェクトが発足し、グレゴリー・バークに脚本の依頼がありました。のちに私のもとに監督の依頼がきて、グレゴリーらグループに参画して作り上げていきました。
──映画のストーリーは、「人質とハイジャック犯の関係」と「イスラエル政府内部のペレスとラビンの討論」という二つの視点を軸に進んでいきます。こういったアイディアもグループ内の話し合いのなかで作られていったのですか?
ジョゼ:最初は大規模なアクションシーンがありました。イスラエルの政府のことや人質の立場からのシーンも描かれていました。その後、先ほど述べた理由からダンスのシーンが加わりました。それに関しては私のアイディアです。
新たな視点から“新事実”を描く
──このハイジャック事件はすでに何度も映画化されていますが、今回同一の題材を扱う中で過去作を意識したり、気をつけたことはありますか?
ジョゼ:かつて作られた映画は、救出作戦を指揮したヨナタン・ネタニヤフがヒーローとして描かれるものでした。そこには、彼をヒーローとして描くことでイメージが作られ、政治的に利用されてきたという現実があります。
現在のベンヤミン・ネタニヤフ首相は兄・ヨナタンを亡くしたからこそ政治家になったことや、イスラエルの右翼らによって、首相の兄が亡くなったことを軍事的に利用されている側面があります。
また当時のヨナタンは、実際のこの作戦では遅れて参加するなど、これまでの作品で描かれていた事実とは異なる面があります。
そこで、今回は当時のラビン首相とペレス国務大臣の確執に焦点をあてました。つまり、交渉するか否か、という点です。
一般的には、“テロリスト”とされた者たちと交渉をすると「弱腰」とみられ、市民からの人気が落ちてしまいます。
民衆からの人気取りを意識しつつも、パレスチナ側で交渉する直接の相手がいないなかで、交渉するのか、それとも交渉しないのか。本作における政府の描き方はこれまでになかったものだと言えます。
多くの事件関係者に聞き取り調査を行う
──ジョゼ監督は映画制作に際し、どのような取材をしましたか?また印象に残ったことはありますか?
ジョゼ:多くの人質、ヨナタンと一緒にいた多くの兵士、人質を誤って撃ってしまった兵士や作戦の指示を出した担当者、パイロット、ラビン首相の最側近、ラビン首相の息子にも話を聞きました。
とにかく多くの人に聞き取り取材を行い、できる限り正確な情報を集めました。
そのなかで兵士の一人だったメラット・マカルが、人質を助けた点においてこの作戦は成功し、祝う気持ちにもなった。しかし「司令官であるヨナタンを喪った」という事実は、心の傷として残っている、と言っていたのは印象に残っています。
またテロリストであるボーゼと、対話をもって関係性を築こうと試みた人質の方の取材では、非常に多くの共感を受け取りました。
ハイジャッカーではあるけれど彼らの心情を理解したい、対話をもちたいという気持ちは、まさに私の映画でしたかったことなのです。
ただ“テロリスト”といってしまうと、その者は非人間と化してしまう。映画監督して私がやるべきなのは「どういった経緯でテロリストになったのか」を描くことであり、“テロリスト”とされた者たちに声を与え、その心情を探りたかったんです。
しかし、そういった描き方は、多くの人に怒りをもたらした。だが私としては、そういったテロリストになっていく道筋を理解せずに、テロ行為を止めることができるのか、という気持ちがありました。
それでも彼らの言葉を聞こうと思う
──“テロリスト”とされる者たちは“マイノリティ”だという監督の指摘もありましたが、主人公をドイツ人テロリストに設定したことと合わせてベルリン国際映画祭での反応についてお聞かせください。
ジョゼ:ベルリン国際映画祭ではスケジュールの関係で直接観客の声を聞くことができませんでしたが、映画はドイツにおいて興行的に成功しました。
また観客の意見というのは難しくて、そういった時に我々は観客を1つのなにか、単体のようなものと捉えがちです。観客の意見は複数あり、賞賛する声や一方で批判的な意見も存在するなど様々です。
この映画はタブーを扱っています。“テロリスト”とは、誰をさすのでしょうか?
アメリカでは、イスラム教徒の兵士でアフガニスタンにいれば“テロリスト”だといわれます。爆破事件に関わったらその者は“テロリスト”かもしれないですが、遠隔ドローンでの爆撃において、そのドローンを操作した人は果たして“テロリスト”といえるのでしょうか?
一体誰が、誰を、“テロリスト”だと名指しできる権利があるのか。そういった現代の社会でもタブーとなっている問題を扱いたかったのです。
もちろん、罪のない人を殺すのは間違っています。それでも、彼らの言葉を聞こうと思っています。
インタビュー/ 出町光識
構成/ くぼたなほこ
ジョゼ・パジーリャ(José Padilha)のプロフィール
1967年8月1日、ブラジル生まれ。
リオデジャネイロで起きたバスジャック事件を追ったドキュメンタリー『バス174』(2002)で長編監督デビュー。同作では製作も兼務し、エミー賞とピーボディ賞を受賞した。
さらに脚本・監督・製作を担ったミリタリーアクション『エリート・スクワッド』(2007・日本未公開)と、続編『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』(2010・日本未公開)で高い評価を獲得、興行的にも成功を収めた。特に第1作目は第58回ベルリン国際映画祭で『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)を抑え金熊賞に輝いている。
2014年には、ジョエル・キナマン主演版『ロボコップ』でアメリカ映画を初監督。またリオを舞台にした短編オムニバス作『リオ、アイラブユー』(2014/ブラジル映画祭2015での上映タイトル:『リオ、エウ・チ・アモ』)の1話の監督を務めた。
ゴールデングローブ賞にノミネートされたNetflixのドラマシリーズ『ナルコス』(2015~2017)では製作総指揮を務め、パイロット版を含む2エピソードの監督も担当。
2018年には、実際の汚職事件に着想を得たNetflixのドラマシリーズ『メカニズム』(2018~)の企画・製作を担当した。ブラジルの大手新聞「オ・グロボ」紙の解説者でもある。
映画『エンテベ空港の7日間』の作品情報
【日本公開】
2019年(イギリス・アメリカ合作)
【原題】
7 Days In Entebbe
【監督】
ジョゼ・パジーリャ
【キャスト】
ロザムンド・パイク、ダニエル・ブリュール、エディ・マーサン、リオル・アシュケナージ、ドゥニ・メノーシェ、ベン・シュネッツァー、ノンソー・アノジー
【作品概要】
1976年に発生したウガンダ・エンテベ空港ハイジャック事件の全容と、事件解決に動いたイスラエル国防軍によるエンテベ空港奇襲作戦(通称:サンダーボルト作戦)を描く実録ポリティカルサスペンス。これまでにも3度映画化された同ハイジャック事件を、『エリート・スクワッド』(2007)でベルリン映画祭金熊賞を受賞したジョゼ・パジーリャ監督が、新たな視点で語ります。
キャストには、ハイジャック主犯格のボーゼとブリギッテの2人を『ラッシュ/プライドと友情』(2014)のダニエル・ブリュール、『ゴーン・ガール』(2014)のロザムンド・パイクがそれぞれ演じ、そのほか『イングロリアス・バスターズ』(2009)のドゥニ・メノーシェ、『おみおくりの作法』(2013)のエディ・マーサンといったバイプレイヤーが脇を固めます。
映画『エンテベ空港の7日間』のあらすじ
1976年、イスラエル・テルアビブ発パリ行きのエールフランス機がハイジャックされる事件が発生、ウガンダのエンテベ空港に着陸します。
ハイジャック犯4人のうち2名は武装組織PFLP(パレスチナ解放人民戦線)のパレスチナ人メンバーで、残り2名は革命を志すドイツ左翼グループのボーゼとブリギッテでした。
ハイジャック機は、“食人”の異名を持つ大統領イディ・アミンが待つウガンダのエンテベ空港に着陸し、乗客たちは老朽化した旧ターミナルに移され、武装犯の監視下に置かれることに。
犯人たちは500万ドルと、世界各地に収監されていた50人以上の親パレスチナ過激派の解放をイスラエル政府に求めます。
乗客の大半がイスラエル人と知った首相イツハク・ラビンは交渉の道を探りますが、国防大臣シモン・ペレスは、「ハイジャック犯と交渉すべきではない」と進言。
加えてペレスは、秘密裏に軍事的解決を行うようラビンに提案し、人質の救出策を練っていくのでした…。
映画『エンテベ空港の7日間』が、2019年10月4日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国公開!