映画『JOURNEY』は2023年10月21日(土)より池袋シネマ・ロサで限定公開!
「人間の意識の肉体からの解放」が可能となった近未来で、孤独に葛藤する者たちの“旅路”を描き出したSF映画『JOURNEY』が2023年10月21日(土)より池袋シネマ・ロサにて限定公開されます。
武蔵野美術大学の卒業制作作品として本作を手がけた霧生笙吾監督(制作当時21歳)は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022にてSKIPシティアワードを最年少で受賞するなど、国内外から注目を集めています。
今回の劇場公開を記念し、舞台や映像にて活躍の幅を広げ、本作で主人公・慶次の妻である静役を演じた伊藤梢さんにインタビューを行いました。
脚本を深く読み込んで挑んだ撮影現場で感じとった想いと、その中で考えた演技のアプローチ。そして俳優として大切にしている“インスピレーション”についてなど、貴重なお話を伺えました。
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映画に込められた“人類の孤独”に共鳴
──本作の脚本を初めて読まれた際には、どのような感想を抱かれましたか。
伊藤梢(以下、伊藤):実はこれまで、観客としても役者としてもSF作品に触れる機会が多くなかったので、霧生監督の描く『JOURNEY』の世界観はとても新鮮でした。ですから、かえって作中のセリフなどが自分の中でスッと腑に落ちたのを覚えています。
また宇宙をモチーフとして扱っているけれど、人間が常日頃から根底に感じ続けている“孤独”も対比として描かれていたことも、本作の世界観を受け入れられた理由の一つだと考えています。
宇宙や未来が舞台の物語でも、個々のセリフや作品の雰囲気からは、霧生監督が日常的な感覚を大切にされているのが伝わってきました。そして、脚本にセリフやト書きとして記された霧生監督の言葉には、直接的ではないものの確かに込められた“孤独”への想いがあり、そこに自分は“共鳴”したのかもしれません。
──伊藤さんが“共鳴”されたという孤独について、より詳しくお聞かせいただけますでしょうか。
伊藤:私は常々「人間は孤独を埋めるために、その文明を発展させてきたのではないか」と考えています。孤独を埋めたい。他者と分かり合いたい。誰かに寄り添いたい……そんなことを繰り返す中で、人は発展してきたのではと。
ですが人がどれだけ発展しても、他者と完全に一致する存在になることは、究極的には不可能です。そうした意味での“分かり合えなさ”こそ、人の根源にある普遍性を持つ孤独であり、人生のパートナー同士として暮らす慶次と静から感じとった孤独でもあるのです。
監督とスタッフ・キャストで“詩編”を紡ぐ
──本作の脚本から人類の普遍的な孤独を感じとられた中で、伊藤さんは静という一人の人間をどう演じられていったのでしょうか。
伊藤:脚本に書かれていたセリフは、文面そのものは非常に詩的でしたが、その意識下で交わされている感情はごく身近なものだと当初は考えていました。ですが一方で、霧生監督が紡いだ詩的なセリフたちを、ごく身近なものとして、自分自身の感情のままに演技として表現するのも違うのではとも感じたのです。
本作は霧生監督の一つ一つの詩の言葉によって形作られていて、それが他のSF作品と一線を画す大きな要素になっています。深層にある感情は揺れ動いているけれど、どこまでを脚本に記された詩の言葉を通じて表出すべきなのか。それは俳優としての挑戦であり、楽しい試行錯誤の時間でもありました。
そして「日常の言葉とは異なる感覚を持っているけれど、日常と確かにつながっている言葉」としてのセリフと向き合う中で意識したのは、「発する声に、感情の色をそのまま乗せない」という演技の捉え方でした。
伊藤:例えば、その場面での静の心情が“青色”だと感じたら、あえて“紺色”として演じてみる。そうすることで、演じる感情を“私の世界”にあるがままではなく、私の世界と霧生監督の世界が接することで生まれる、映画の世界の一部にすることができたんじゃないかと。
霧生監督の詩に、私なりの色をのせて詩を返す。霧生監督が脚本上に文字として記した詩を、私が自分自身の身体で表現することで、詩が形を変えていく。静を演じる時間は、そうした感覚を大事にしました。
本作の撮影は、キャストやスタッフの皆が霧生監督の詩が込められた脚本を読み、各々が感じとった“自分の詩”を持ち寄ることで、それを新たな一つの詩編へと紡いでいく過程だったように感じています。そして、そんな特異な現場だったからこそ、役者として挑戦する意味と創作の醍醐味を感じられました。
アイデアを全力で出し“範疇を超える作品”へ
──映画をはじめ、俳優あるいは表現者として作品と関わる上で常に意識されていることは何でしょうか。
伊藤:まず作品やスタッフの皆さん、プロジェクトを全て信じることですね。中途半端な覚悟では、やはり作品に参加することはできません。その上で、撮影の際に役者としてアイデアをいかに出せるかは常に心がけています。
また映像作品には「編集」という過程が存在します。そこでは撮影した俳優の演技の“間”までもコントロールできるし、だからこその面白さや魅力があります。ですから自分が俳優として映像作品に参加する際には、そのアイデアが良いか悪いかをあえて自分ではジャッジせず、自分が作品のためにできる精一杯をとにかく出し切ることを大切にしています。
それは、本当に勇気の要ることだと思います。何度も失敗するかもしれないし、恥をかくかもしれない。ですが、俳優としていかに作品のためにアイデアを出せるかは、自分が作品の一部になるためには不可欠だと感じていますし、私自身が監督としても映画制作に関わるようになってからは、その想いが一層強くなりました。
霧生監督や自分自身をはじめ、監督と呼ばれる作り手たちの多くは「自分の範疇を超えた作品を作り上げたい」と常に考えていますが、そうした作品を生み出すには、監督以外の人々がいかに勇気を持ってアイデアを持ち寄れるのかが非常に重要です。
俳優によるアイデアのアウトプットは、その作品が範疇を超える可能性を生み出すための時間であり、だからこそ私も俳優として作品に参加する際には、考えつく限りのアイデアを全力で出し切ることを常に意識しています。
いつまでも、どこまでも人間と向き合う仕事
──本作へのご出演を経た2023年現在、伊藤さんが感じられている俳優というお仕事の魅力とは何でしょうか。
伊藤:何でしょうね……まず何よりも、「人間について考えられる」というところでしょうか。人間にまつわる様々な疑問を、人の立場に立って考えられることが魅力であり、“力”そのものであり、可能性だと感じています。
ただ日常でもそうであるように、他者について想像し、その人の立場に立って考える行為自体が非常に難しいことです。それでもトライし続けるのが俳優の仕事であり、作品を通じて自分の試みを誰かに観てもらうことで、その誰かが新たな試みへと向かうきっかけになるのだと思っています。
──「俳優・伊藤梢」……すなわち「自分自身」という立場とは、どう向き合われてきたのでしょうか。
伊藤:「様々な立場の人間を演じ続けていても、『自分自身』という人間の立場からは逃げられない」という事実は、紛れもなくあります。ですがだからこそ、自分という人間が他者を演じることの、真の意味がそこにあるのだとも感じています。
俳優を始めた当初は、自分という存在がとにかく邪魔でした。思考のクセや表現の好みがあり、作品を作る上で鬱陶しく思ったりもしました。ただ、そういう自分を受け入れてみることで、逆に自分自身と適切な距離をとって向き合えるようになってきた気がします。
どこまで自分と似ていたとしても、決して自分ではない人間を演じるのが俳優です。そして色々な役者さんが数多くいる中で、私を選んでもらえ、一つしかない役を演じさせてもらえる。その事実に自信を持つべきだと今では考えるようになりました。
また演者に選んでもらえたということは、自分にしか演じられない何かがあるかもしれないということでもあり、それだけでも自分を知る上で十分に意味のあることだと思います。
役という他者と接することで、自分自身とも接し、向き合うきっかけになる。俳優という職業はいつまでも、どこまでも人間と向き合う仕事であり、そんなところに魅力を感じています。
インタビュー・撮影/松野貴則
伊藤梢プロフィール
愛媛県生まれ・奈良県育ち。
俳優として舞台・映像作品で活躍の幅を広げる一方、自身で脚本・監督を手がけた『私たちの、』は関西クィア映画祭・国内作品コンペティションにて最優秀観客賞を受賞し、U-NEXTにて配信。
俳優のみならず、監督としても注目を集め続けている。
映画『JOURNEY』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【脚本・監督】
霧生笙吾
【キャスト】
宮崎良太、伊藤梢、森山祥伍、みやたに、山村ひびき、廣田直己
【作品概要】
霧生笙吾監督が武蔵野美術大学の卒業制作として制作した初の長編作品。肉体から意識を解放することが可能となった近未来で、より露わになった人類の孤独と生の意味への問いと向き合った哲学的SF映画です。
本作はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022・国内コンペティション長編部門にてワールド・プレミア上映され、史上最年少(霧生監督は制作当時21歳)で見事SKIPシティアワードを獲得。
2023年には欧州最大の日本映画祭であるドイツ「ニッポン・コネクション」に入選するなど、国内外で高く評価されています。
映画『JOURNEY』のあらすじ
肉体から意識を解放させることのできる世界で生きる慶次と妻の静。
ある日、慶次は全身疾患の父が「意識化」によって、肉体から解放されたことを知る。
次第に慶次は妻の静と共に自らも「意識化」していくことを夢見るようになる……。