映画『大阪カジノ』は2024年4月20日(土)〜 4月26日(金)新宿K’s cinemaにてレイトショー上映!
『大阪外道 OSAKA VIOLENCE』『コントロール・オブ・バイオレンス』『大阪闇金』など、大阪を舞台としたバイオレンス&アウトロー映画を手がけてきた石原貴洋監督が、初めて実話を基に制作した『大阪カジノ』。
主人公・杉村は優秀な営業マンだったが、倒産寸前に追い込まれた父親のパチンコ店を引き継ぐことに。資金繰りに悩みながらも「俺はカジノ王になる」と豪語する杉村は、次々と新たな方針や運営戦略を打ち出していくのだが……。
このたびの『大阪カジノ』東京劇場公開を記念し、本作を手がけられた石原貴洋監督へのインタビューを実施。
本作の主人公のモデルとなったH氏との出会い、実在のH氏を描くにあたって物語にそのまま活かした格言、また足で稼いだ取材の真相など貴重なお話を伺えました。
CONTENTS
映画人の使命について
──『大阪カジノ』は石原監督にとって初の「実話」に基づいた映画だとお聞きしました。本作の制作はどのような経緯で始まったのでしょうか。また実話を映画化する上で特に意識された点は何でしょうか。
石原貴洋監督(以下、石原):『大阪カジノ』の主人公のモデルとなったH氏との出会いがきっかけでした。
すでに経営者としては引退され、自身の半生を映画化することを模索されていたH氏が、たまたま私の知人が飲食の宴席に出席をしており、その場に呼ばれて映画化の話がまとまりました。
映画化が即決した理由は、「ナンボの予算で映画化してくれるんや?」というH氏の質問に対して、私が回答した金額が低予算の提示であったため、「こいつは面白い!」という流れになったのが真相です(笑)。
私としては、撮影の許可が下りづらいパチンコ店内を「自由に好き勝手に撮影しても良い」という条件であったことも、映画化に前のめりなれた要因の1つでした。なかなか簡単には撮影できない領域に踏み込むことも、常に私自身の考えにおいて“映画人としての使命”だとも考えています。
物語の構成を“明確”にする意味
──倒産寸前のパチンコ店の経営者からカジノ王に至るまでの、主人公の困難や成長の姿に焦点を当てた本作ですが、その物語を構成する際にはどのような点に注力されましたか。
石原:H氏の波乱万丈な半生を映画化するにあたって、どうすれば上手く伝えられるか、脚本の段階で非常に悩みました。
脚本の執筆に取り組むうちに、「そうだ!物語の展開を前半と後半にハッキリ分けてしまえば良いんだ」と発想法に気が付いてからは、一気に書き上げることができました。
物語の前半部分は「資金繰りの地獄」を描き、後半部分では「会社が軌道に乗り始めてから」を描く。この展開をハッキリと分け、バランスを用いて脚本を執筆していくことに最も気を配りました。
私自身の頭の中で映画の物語構成が明確になるということは、映画を観ていただいた観客にも、しっかりと物語として伝わるように成るのだと思っています。
──主人公・杉村をはじめ、本作の登場人物を描写する上で工夫された点は何でしょうか。
石原:人物像のキャラクターに関しては、主人公が細身の鋭い容姿なので、主人公の右腕役はゴツく大胆な人物を配役させました。実際、H氏の右腕として活躍された方は、映画同様にゴツく大胆な方であり、実在する人物を知っている方からは「似ている」という声を評価として伺っています。
そして何よりも主人公のモデルである実在するH氏は、非常に特異な珍しい人物です。どんな逆境でも、どんな崖っぷちでも絶対に諦めないキャラクターです。
映画を観ていただいた観客たちが、「そんな奴おらんわ!」という印象を持ったとしたら、映画監督としては失敗です。
絶対に諦めないけど、こういう人はいるかも知れないと思えるような人間臭いキャラクターになるよう心がけました。本気で生きている主人公を台風の目のように中心として、他のキャラクターたちは主人公から影響を受けて成長していくという構図にも気を配りました。
“足で稼いだリサーチ”と豊富な逸話
──実話を映画化するにあたって、映画作中で描かれるパチンコ産業やカジノ経営について、どのようなリサーチや取材を行われたのでしょうか。
石原:とにかく、H氏に質問をしまくるというのが第一です。次に従業員さんや役員さんにも質問するのが第二。従業員さんのクレーム処理報告やお客様からの感謝の手紙。それから会社報や記録など、現場の声を聞くというのが第三になります。
対象者の方には必ず直接お会いして取材するように心がけ、電話でお聞きしたことは一度もありません。とにかく足で稼ぎました。
そのような中で皆さんから伺う逸話の面白さは、アイデアやメッセージ性があり過ぎて、どのエピソードを減らすか、何を強くメッセージにするかなど、とても苦心しました。
映画という表現は、ナンボでも足せば良いというものではないのですから(笑)。一般的な映画2本分のエピソードを集約して1作品にまとめた感じですね。
石原流の“変わらぬメッセージ”
石原監督の初期作『大阪外道 OSAKA VIOLENCE』(2015)より
──本作で重視されたテーマや、観客に向けられたメッセージは何でしょうか。
石原:そうですね、H氏が述べたい実体験の半生と、そして私が実話の映画化として伝えたいことの両方を注ぎ込みました。
実際にH氏は人格者として、伝えたい考えをお持ちな方です。「妥協するな」「謙虚であれ」「下が育てば上は席を譲れ」「お金を稼ぐのが先やない。人を稼ぐのが先や」など、数々の“生きた信念”を持っていらっしゃいます。それらのメッセージは端的であり強いことから、セリフとしてそのまま作中で使用しました。
私が伝えたいことは、2015年の初期作『大阪外道 OSAKA VIOLENCE』と同様のテーマなのですが、「ゆとりのある人間ができることは何か?」です。お金にゆとりのある人間の究極論として、作中の銀行のフィクサーにメッセージを託しました。
そのセリフは、「一億でも十億でも百億でもいい。その金を手にした時、どういう金の使い方をしたらいいか、具体的に考えたことがある者はいますか?」というものです。貧乏育ちのハングリー精神から大富豪になる人はいますが、お金の使い方を分かってない者が多過ぎるので、彼らに対しての批判精神は初期の頃から変わらずに持ち続けています。
“大阪映画”にこだわり続け、さらに……
大阪・第七藝術劇場にて先行上映された『大阪カジノ』
──本作『大阪カジノ』をはじめ、石原監督が演出において最もこだわっている点は何でしょうか。また『大阪外道 OSAKA VIOLENCE』『大阪闇金』など、大阪を舞台とするバイオレンス映画との関係性などを意識されたことはありますか。
石原:大阪人が大阪人らしくあること。下手な関西弁ではなくネイティブな関西弁であること。子どもは子どもらしくあること。ヤクザはヤクザらしくあること。感情表現がリアルであること。食事のシーンは段取りで食べている感じではなく、ちゃんと食べていることなど。全てにおいてリアルさを重要視しています。
ロケーション撮影に関しては、下町であることにこだわりがあります。生活感ある風景を見せることが大阪バイオレンス映画との関連性です。生活臭をどう出すか、いつも気にかけています。
──大阪・第七藝術劇場での先行上映を終え、新宿K’s cinemaでの東京公開を迎える『大阪カジノ』の制作を終えた今、石原監督のご心境をお聞かせください。
石原:私の大阪タイトル映画は、『大阪外道』『大阪蛇道』『大阪少女』『大阪闇金』、そして最新作『大阪カジノ』で5本目になります。
まだまだ「大阪」と名の付くタイトルの企画は、実は何本もあるのですが、ここらでいったん終了にしないと、いつまでもズルズルと続きそうで(笑)。続けたらいいじゃないかと言ってくれるファンの方もおられるのですが、それでは自分が成長しないなと思っています。
次回作以降は、人間の直感と能力をテーマにした作品や、人間の生と死の狭間を描いた作品など、より普遍的かつ世界に通用する映画を撮っていきたいです。大阪という場所を限定した作品はいったん終了ですね。
インタビュー/出町光識
石原貴洋監督プロフィール
1979年生まれ、大阪出身。ビジュアルアーツ専門学校・放送映画学科卒業。2004年より完全地域密着型の短編子供映画を9本制作し、その後2010年より長編映画の制作を開始。
『大阪外道』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞。同作のドイツ・ハンブルグ映画祭での上映時には「ミスター・バイオレンス!」の賛辞とともに熱狂で迎え入れられた。
子どもの自然な演出やアウトロー演出に長け、大阪の下町人間模様を描くのを得意とする。
映画『大阪カジノ』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【脚本・編集・監督】
石原貴洋
【撮影】
谷崎龍平
【照明】
松任谷恭子
【録音・整音】
平川鼓湖
【キャスト】
木原勝利、大宮将司、橘さり、海道力也、藍海斗、堀江祐未、平宅亮、北野寛大、鍋海光、川上茉緒、岡祈里、福山俊朗、パラゴンつよし、ひと:みちゃん、白澤康宏、片山大輔、沖一文字、赤田健、森澤琉球王
【作品概要】
裏社会やバイオレンス映画の描写を得意とする石原貴洋監督が、初めて実話に基づいて制作したヒューマンドラマ映画。倒産寸前のパチンコ店を継いだ主人公が、荒波に飲まれながらも「カジノ王」を目指し奮闘する様を描く。
大阪を舞台に、綿密なリサーチ取材による脚本執筆・リアル重視のロケーション撮影で制作された本作は、2023年7月に大阪・第七藝術劇場で先行上映された。
映画『大阪カジノ』のあらすじ
杉村(木原勝利)は優秀な営業マンとして企業で働いていた。
しかし彼は、父親が経営する倒産寸前となったパチンコ店を引き継ぐことを決意。資金繰りの地獄の中にあっても、自身の信条でもある「俺はカジノ王になる」という言葉を豪語し続け、決して諦めることはなかった。
そんな亭主に呆れながらも愛情を注ぐ妻・優子(橘さり)と、杉村の右腕的存在となる垣内(大宮将司)のおかげで、パチンコ店は復活を遂げ大会社へと成長していく……。