Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2019/11/27
Update

アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる

  • Writer :
  • 桂伸也

アーロン・クォック出演の映画『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』は2020年2月7日(金)より全国ロードショー!

香港の街中にある、24時間営業のファストフード店。貧しい生活に必死に耐えながら生き抜く人たちは、今夜も寝床を求めてここに集まるのでした…。


(C)Cinemarche

第32回東京国際映画祭(以下、第32回TIFF)の「アジアの未来」に出品された『ファストフード店の住人たち』は、貧困のどん底にいる人々が、香港の街で夜になると集まるファストフード店を舞台に、互いに寄り添い生きていく姿を描いた物語

本作で主人公のポック役を演じているのが、香港を中心に活躍する世界的な俳優、アーロン・クォックさんです。

今回はアーロンさんに単独インタビューを敢行。俳優活動に対する思いや『ファストフード店の住人たち』で演じられた役柄への向き合い方などを伺いしました。

新作を引っさげての来日


(C)Cinemarche

──今回、ご自身が主演を務める映画が第32回TIFFに出品されたことで来日が実現しましたが、感想はいかがでしょう?

アーロン・クォック(以下、アーロン):前回は1年ほど前にファッション関連の仕事で来日しましたが、自分の新作を引っ提げての来日という意味でも、今回は私にとってもすごく嬉しいです。

それにファンの皆さん、そしていろんな世界各地の映画人の方と自分の新作を分かち合えるということで、すごく嬉しく思っています。

──チョウ・ユンファとW主演を務め、昨年2018年のTIFFにも出品された映画『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』も、2020年2月7日に日本での劇場公開を迎えます。その意味でも今回は素晴らしいタイミングだと感じられました。

アーロン:もちろん。あの映画も自分としては大成功した作品で、興行面においても香港や中国で大成功を収めました。

様々な映画祭で賞をいただきましたし、キャストである自分も海南島国際映画祭で男優賞をいただくことができました。自分が今まで出た映画の中では非常に印象が深い作品の一本でもあります。

様々な自分を披露し続けたい


(C)Cinemarche

──同時期にまったく異なる役柄を演じた映画2本が、日本の方々に観られる格好になりますね。

アーロン:私はプロの俳優として、自分の姿勢としてはやはりいい作品に出続けること、自分が参加する作品の質を大事にしたいと考えています。だからこそ今は、脚本選びも非常に厳しい目でおこなっています。

また自分としては、自分が今までやった役やイメージと重ならないものを目指しています。そのほうが違う自分をいろいろと披露できますし。だから今回、この二つの違う役柄を見てもらえる機会ができたということも嬉しく思っています。

『プロジェクト・グーテンベルク』はやはり商業映画というイメージが強いですが、フェリックス・チョン監督は非常に素晴らしい脚本家でもあり、今回この映画では単独で監督も担当したことで、作品に多くの賞をもたらしました。

また観客や映画の評論家、映画人たちからも好評価を受けましたし、日本の方もすごく好きな作品になったと思っています。

物語は意外な結末などをはじめ、非常に凝った作りとなっています。だからこの映画は一度観ただけで終わりではなく、二度三度と観る中でまた新しい発見できるという楽しさがあるタイプの映画だと思います。

リアリティの追究


(C)Cinemarche

─第32回TIFFでの『ファストフード店の住人たち』上映後に行われたQ&Aでは、「撮影前にホームレスに関する調査を行なった」と語られていました。その調査において、印象深いお話やエピソードはありますか?

アーロン:ホームレスに関してはインターネットで調べると出てくるのですが、今回取り扱ったのはいわゆる「M難民(某世界的大手ファーストフードチェーンの頭文字から由来)」という貧困の形態です。24時間営業のファストフード店にホームレスたちが難民的に生活しているというもので、ウォン監督もかなりリサーチされたようです。

日本では24時間営業のファーストフード店は減少しつつあると伺いましたが、香港では今でもそういう店舗があり、「M難民」と調べると実際にそこで生活している方へのインタビュー映像などがたくさん出てきます。私もそういった映像をはじめ、様々な資料による研究をおこないました。

香港は今、住宅の問題が深刻です。不動産の価格があまりにも高騰しているために、容易に部屋や土地が購入できず、それゆえに「ホームレス」という言葉通り、“家”を持つことができない人々が多々生まれている状態なんです。昔は橋の下などで寝泊まりする方がいましたが、今はファストフード店を仮の住まいとして寝泊まりする方がいるわけです。

ただ日本にも、「ネットカフェ難民」と呼ばれる人々がいますよね。香港の「M難民」と同様に、“家”或いは“家庭”を持っていない人々が存在しているんです。

そういった意味では、本作のファストフード店という場所は単にロケーションであり、「元々は他者とのつながりがあったけれど、貧困など様々な事情によってそれらを失ってしまった人々が、家族のように夜を過ごしている」という点がキモだったんです。

“そこ”にあるのは愛であり、人間性です。また“そこ”で起こることは、みんなが共感できることでもあります。そして、本作は“そこ”をファストフード店とし、香港の貧困問題という非常にリアルな視点によって描くことをテーマとしている。その点を脚本を読み進めていく中で気に入り、喜んでこの仕事を受けました。

「ホームレス」ではなく「ホームレスになっている自分」へ


(C)Cinemarche

──劇中のお姿からはアーロンさんが減量によってかなり体を絞られていたことが理解できますが、調査以外ではどのような役作りをおこなわれたのでしょう?

アーロン:ポック役を務めるにあたっては、ホームレスについての調査から始まり、「ホームレス」という感覚や心理状態を自分の中に入れることを試みました。そのためにもまずは見た目から変化させようと、できる限りの減量調整を行いました。経済的にも、ホームレスは簡単にご飯が食べられる立場にいないわけですから。

ただ劇中では、フードバンク(街中の店裏にある、誰にでも開放された冷蔵庫)というものが描かれています。お店を営む人々が売れ残った食料を期限切れ前に冷蔵庫内に入れ、ホームレスの人が自由に食べられるようにするという一種の支援システムなんですが、実際に香港の街中には存在するんです。

ですが自分としてはこの役をやるにあたって、やはり満腹状態で演じたらリアルにならないので、撮影中も常にお腹を空かせてリアルな感覚を保ち続けながら演じました。撮影のときに「みんな食事時間だよ」といわれても、食事はとりませんでしたし。

自分にとって映画の役を作るという行為とは、人生を生み出すことと同じなんです。だからこそ、自分ですら「説得力がないな」と感じてしまったものに、観客が納得するわけがないと考えています。

そして脚本におけるセリフなどももちろん大事ですが、やはり見た目も大事だと思うんです。本作の演技において見せたかったのは、本当の意味でもホームレスになっている自分だったんです。

おそらく観客は、「見たことがないアーロン・クォックがそこにいる」「“ホームレスのアーロン・クォック”がそこにいる」と思ってくださるはずです。それを目指して、役作りに努めました。


(C)Cinemarche

──役のためとはいえ、非常に過酷な状態の中で演じられていたわけですね。お体のほうは大丈夫でしたか?

アーロン:大丈夫ですよ(笑)。ただ、劇中のポックは病気になりますよね。ですから本作の撮影が終わった後に、本当に病院へ検査に行ったんです。

レントゲン撮影などいろんな検査をおこない、特に問題はありませんでしたが、その時に思わぬ出来事があったんです。

検査時に診てもらったお医者さんはご年配の方だったんですが、名札に書いてある名前を見たときに「どこかで見たことがあるな…」と思っていたんです。すると実は、以前私の父が肺気腫で入院したときに担当していただいたお医者さんがその方だったことがわかったんです。本当に偶然のことだったんですよ。

香港人として世界の「友だち」へ発信する


(C)Cinemarche

──「自分が参加する作品の質を大事にしたい」とのことでしたが、映画『ファストフード店の住人たち』への出演を決断されたその理由を、改めてお聞かせください。

アーロン:私のこれまでの実績はもちろん、現在こうしてとてもいいポジションで活動できているのは、観客の皆さんが応援してくださるからだと思っています。世界中の人々、そして何よりも、香港の人々が応援してくださっている。

私は香港人ですし、香港の市民を描いた作品に挑戦したいと長い間思っていました。

ただ、今回の『ファストフード店の住人』は香港人が考えた香港のストーリーですが、結局世界中のどこにでも、この物語で描かれているような貧困に喘ぐ人々は必ずいらっしゃいます。だからこそ、本作は世界中の方に共感していただける作品だと思っています。

そして私自身、そのことを世界の人々に知ってほしいという思いもあり、この脚本を読んだときに、会社側へ「どんな条件でも受け入れる」「これは“全部”やる」と進言しました。

今回は幸いなことにアジア圏の日本でワールド・プレミア上映をおこなうことができたので、世界中の人々、世界各地で懸命に生きる“友だち”に、本作を観ていただけるきっかけができたのではないかと思います。

インタビュー・撮影/桂伸也

アーロン・クォックのプロフィール


(C)Cinemarche

1965年生まれ、香港出身。ダンサーとしてデビュー後、CM出演によって大ブレイク。

以後『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』、「西遊記」シリーズなど数々の映画に出演。以後香港を代表する歌手・俳優として活躍を続けています。

第31回東京国際映画祭では映画『プロジェクト・グーテンベルク』が出品・上映され、2020年2月には『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』として日本での劇場公開が予定されています。

映画『ファストフード店の住人たち』の作品情報

【上映】
2019年(香港映画)

【英題】
i’m livin’ it

【監督】
ウォン・シンファン

【キャスト】
アーロン・クォック、ミリアム・ヨン、アレックス・マン、ニナ・パウ、チョン・タッミン、チャー・リウ、ゼノ・クー、キャシ-・ウー、ノラ・ミャオ

【作品概要】
さまざまな事情でホームレスとなり毎日を苦しみもがく人々が、香港の街で夜になると寝床を求めて集まる24時間営業のファストフード店を舞台に、互いに寄り添い生きていく姿を描きます。

監督を務めたウォン・シンファンは、本作で監督デビューを果たしました。

メインキャストとして、落ちぶれた投資家・ポック役をアーロン・クォック、ポックの存在を常に気にしている酒場の歌手ジェーン役をミリアム・ヨンが担当。他にもブルース・リー作品のミューズとして知られるノラ・ミャオが、ポックの義母役で出演しています。

映画『ファストフード店の住人たち』のあらすじ


(C)Entertaining Power Co. Limited, Media Asia Film Production Limited ALL RIGHTS RESERVED

香港のとある街にある、24時間営業のファストフード店。ここでは夜になると、寝床を持たない貧しい人々が肩を寄せ合うように集まり、ひと時の安らぎの時間を得ていました。

その「住人」たちの一人、ポックはかつて強気の投資を次々と成功させ、時代の風雲児として名をはせた人物。しかし今は落ちぶれ、あるビルで清掃夫として働いていました。

そんな彼は「住人」たちからも一目置かれる存在。何かあればポックは必ず力になってくれる、と仲間の中では絶大な信頼を寄せられ、大きな支えとなっていました。

彼を中心に、貧しいながらも希望を持って生きる「住人」たち。今日もその救いを求めて、みんなはファストフード店に、そしてポックのもとに集まるのでした。

アーロン・クォック出演の映画『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』は2020年2月7日(金)より全国ロードショー!


関連記事

インタビュー特集

映画『カニバ』佐川一政の実弟・純さんインタビュー|パリ人肉事件38年目を経た“佐川兄弟”の現在

映画『カニバ/パリ人肉事件38年目の真実』は2019年7月12日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー! 1981年。日本人留学生としてフランス・パリに訪れ、そこで知り合い友人となっ …

インタビュー特集

【野本梢監督インタビュー】映画『彼女たちの話』『3653の旅』困難への向き合い方の“多様性”を2作から受け取ってほしい

映画『彼女たちの話』『3653の旅』は2022年8月13日(土)より池袋シネマ・ロサにて劇場公開! 女性の社会進出における不遇を目の当たりにしながらも、男女の対立構造に疑問を抱き始める中学生の少女の姿 …

インタビュー特集

【アンダース・ウォルター監督インタビュー】『バーバラと心の巨人』で描く切ない少女の物語とは

©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017 謎の巨人に立ち向かう風変わりな少女の成長を描き、世界が泣いたグラフィックノベル『I KILL GIANTS』を原作とした実写映画『バ …

インタビュー特集

【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄

映画『五億円のじんせい』は2019年7月20日(土)よりユーロスペースほかにて全国順次ロードショー! オリジナル企画、出演者、ミュージシャンをオーディションで選出しながら作品を完成させるという挑戦的な …

インタビュー特集

【瀧内公美インタビュー】映画『蒲田前奏曲』現在の日本社会を生きる女優として“芝居”という表現を続ける意味

映画『蒲田前奏曲』は2020年9月25日(金)より全国にて絶賛公開中! 企画・プロデュースを務めた松林うらら演じる売れない女優・蒲田マチ子の視点を通して、女性に対し「人格の使い分け」を求められる社会へ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学