『パージ:エクスペリメント(原題:The First Purge)』は、「パージ」シリーズの第4作。
1年に1度、殺人を含め全ての犯罪が12時間合法となるパージ(粛清)法。
『パージ:エクスペリメント』は、アメリカ現代社会を背景に虚構の社会を舞台とした『パージ』シリーズの4作品目です。
本作では、パージ法が施行する前に遡り、政府の陰謀が明らかになります。
『パラノーマル・アクティビティ』や『ゲット・アウト』等を製作し突出した投下資本率でヒット作を連発するブラムハウス・プロダクションが引き続き製作しました。
映画『パージ:エクスペリメント』の作品情報
【公開】
2019年6月14日(アメリカ映画)
【原題】
The First Purge
【監督】
ジェラルド・マクマリー
【キャスト】
イラン・ノエル、レックス・スコット・デイビス、ジョイバン・ウェイド、ローティミ・ポール、スティーヴ・ハリス、ローレン・ヴェレス、マリサ・トメイ
【作品概要】
ブラムハウス・プロダクションの代表で本作のプロデューサーであるジェイソン・ブラムが選出した『ヘルウィーク』の新鋭ジェラルド・マクマリーが監督です。
これまで監督を務めてきたジェイソン・デモナコは脚本を執筆し、マクマリーと共に編集も担当しています。主要登場人物を演じる俳優陣は、オーディションで選ばれたニューフェイスです。
映画『パージ:エクスペリメント』のあらすじとネタバレ
経済が破綻したアメリカでは、現状に不満を持つ市民がデモを起こす中、既存政党に代わり新政党「アメリカ建国の父(NFAA)」が政権を握り新大統領が選出されました。
ニューヨーク州、スタテンアイランド。パージの実験開始2日前。政府は、島民に実験中島に居残れば5千ドル、更に外へ出て憂さを晴らせば報酬を増額すると約束し参加者を募ります。
12時間全犯罪を合法とする前代未聞の政府決定に対し、反対派と賛成派の住民が抗議を行う中、世界中からメディアが押しかけ実況中継が始まりました。
実験を考案した行動科学者のアップデールは意図をマスコミに訊かれ、責任を問われず暴力的な行動が取れる環境にあるからこそ暴力は抑止されるという見解を述べます。
島のギャングを統括するドミトリは手下を集め、お金や麻薬を守るためライバルから襲撃されないよう実験中は大人しくするよう命じました。
パージ反対のデモで先頭に立ったナイアは、弟・アザイアが家計を助けるため学校をさぼってドミトリの麻薬を売っていたことを知り、ドミトリの事務所に怒鳴り込みます。
街角で誰が自分の麻薬を売っているのかまで把握していないドミトリは、お金が必要なら渡すと申し出、パージの実験中も自分がナイアとアザイアを守ると話します。
しかし、ナイアは血で汚れたお金など要らないと突っぱね、ドミトリが道を踏み外してギャングのボスになったことを批判しました。
実験開始1時間前。教会には苦しい生活のため、島に残る決断をした島民が集まっています。ナイアは、訪れる人達に警備員が配置され食事も用意してあると伝えます。
一方、アザイアは5千ドル目当てに政府施設で実験参加の登録をし、追跡装置を埋め込まれます。姉から連絡が入ると約束通りブルックリンの叔父の所へ到着する所だと嘘をつきます。
実験開始直前。アザイアは、登録時に政府から受け取ったライブ映像送信装置が内蔵されたコンタクトレンズを目に入れ、ベッドのマットレスに隠していた拳銃を取り出します。
映画『パージ:エクスペリメント』の感想と評価
いわゆるスラッシング映画と呼ばれる残酷シーンの多い作品が苦手な人は、目を背けたくなる場面が多いかもしれません。
しかし、『パージ:エクスペリメント』には、アメリカ社会に対する痛烈な風刺が込められているのです。
お金持ちがより潤い、貧しい人達がより困窮する所得格差が顕著なアメリカ。移民の国でありながら移民に冷たい政府が下流社会を標的にする中、自分達の生活を守る為に立ち上がる市民の姿を描いています。
「パージ」シリーズのプロデューサーであるジェイソン・ブラムは、政治に深い関心を寄せる筋金入りのリベラル派です。
本作の監督を務めたジェラルド・マクマリーは、撮影中バージニア州のシャーロッツビルで極右団体が人種差別を掲げたデモで、1人が死亡する事件が起きたことから、KKKを盛り込みたいとブラムに相談しました。
ブラムは快諾し、マクマリーはどんどんやれと激励されたことをインタビューで明かしています。
また、これまで監督・脚本を担当して来たジェイソン・デモナコは、パージに参加して人を殺害したキャラクターは必ず死亡するようにしており、実はパージを拒絶する意図があると話しています。
「パージ」シリーズを製作してきたブラム所有のブラムハウス・プロダクションは、卓越した経営手腕が注目されハーバード大学ビジネススクールで研究対象になったほどです。
ブラムは斬新なアイデアを持つ優秀な監督を発掘することに長けており、低予算で映画を制作する代わりに大手スタジオのように干渉せず、監督の好きなように撮らせます。
監督はお金のかかるCG等大仕掛けが使えないため、キャラクターと物語で勝負せざる負えなくなります。
その結果、クリエイティブで他と異なる新しいアイデアに溢れる作品が出来上がり、ヒットを飛ばし続けるブラムハウスのビジネスモデルが確立しました。
まとめ
『パージ:エクスペリメント』は、政府が意図的にマイノリティを狙う陰謀を企て、殺し合いをさせるという突拍子もない物語です。
しかし、そこには製作者達の圧政に抵抗するレジスタンスのスピリットが表現されています。
生存権を守るために闘えと鼓舞する主人公をギャングのボスにした理由は、その統率力とコミュニティに対する愛情を描くためです。
殺るか殺られるかという社会に向かっていることに懸念を抱いたクリエイターが、市民を分断する権力に抗議する骨太の作品です。
2018年7月4日のアメリカ独立記念日に映画『The First Purge』は公開されましたが、日本では邦題『パージ:エクスペリメント』として、2019年6月14日にTOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開されます。