「シッチェス映画祭」で上映された、選りすぐりの作品を日本で上映する「シッチェス映画祭」公認の映画祭「シッチェス映画祭ファンタステック・セレクション」が、東京と名古屋、大阪で開催されます。
今回は「シッチェス映画祭ファンタステック・セレクション」上映作品の、名門校に赴任した教師が、優秀な生徒たちの悪意に翻弄されるホラー映画『スクールズ・アウト』を、ご紹介します。
CONTENTS
映画『スクールズ・アウト』の作品情報
【公開】
2019年公開(フランス映画)
【原題】
L’heure de la Sortie
【監督・脚本】
セバスチャン・マルニエ
【製作】
キャロリーヌ・ボンマルシャン
【キャスト】
ローラン・ラフィット、エマニュエル・ベルコ、グランジ、パスカル・グレゴリー
【作品概要】
名門中学のエリートコースを担当する事になった教師が、優秀な生徒たちの計画に翻弄される学園ホラー。
監督と脚本を、2016年のスリラー『欲しがる女』のセバスチャン・マルニエが手掛けています。
「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2019」上映作品。
映画『スクールズ・アウト』あらすじ
名門サンジョゼフ中学で、成績優秀な生徒だけを集めたクラス「3年1組」。
「3年1組」の担任教師だったカパティスが、授業中に突然、自ら窓から飛び降りて亡くなるという事件が起きます。
カパティスに代わり、新たに「3年1組」を担当する事になった教師のピエール。
ですが、級長のディミトリとアポリーヌを含む一部の生徒が、ピエールを馬鹿にしたような反抗的な態度を取ってきます。
また、ピエールは「3年1組」の生徒が、他のクラスの生徒に嫉妬され、危害を加えられている場面にも遭遇します。
ある日、ピエールはリフレッシュの為に、近くの湖へ出かけます。
その帰り道、ピエールは偶然「3年1組」の生徒たちが廃墟にいる所を目撃します。
その廃墟で生徒たちは、高い場所の手すりに片手で捕まったり、1人の人間を集団で暴行するなど、命に関わる危険な行為を行い、その様子をビデオ撮影していました。
生徒たちがいなくなった後に、ピエールは彼らが何かを隠した場所を掘り返し、そこにあったディスクを持ち帰ります。
自宅で、ディスクに収められた映像を見たピエールは、自分のクラスの生徒たちが、何かを企んでいると感じるようになり…。
『スクールズ・アウト』感想と評価
優等生の悪意を描いたホラー
優等生ばかりが集められたクラスを担当する事になったピエールが、生徒の悪意を察知した事から始まる恐怖を描いた『スクールズ・アウト』。
本作の物語の主軸は、生徒たちの「悪意の正体」です。
生徒たちは、ピエールに反抗的な態度をとりますが、授業を妨害するなど、あからさまな事はしてきません。
逆に、生徒の名前を覚えられないピエールの為に、自分たちの名前を机に置くなど協力的です。
ピエールの授業に集中できない理由も、前の担任だったカパティスを失ったショックが強いからである事も、納得できます。
ですが「3年1組」の生徒を、他のクラスの生徒からピエールが守ろうとした際に、逆に「左翼」と罵られるなど、どこか噛み合いません。
次第にピエールは、生徒たちを不気味に感じるようになり、優秀な生徒の集まりである事から「馬鹿にされている」という劣等感を抱くようになります。
さらに、自分の命を危険にさらす、生徒たちの奇行を目の当たりにした事で、ピエールの生徒への不信感が強くなっていきます。
逆に、級長のディミトリやアポリーヌも、自分たちを監視しようとするピエールを、厄介に感じるようになります。
事あるごとに「自分たちに関わるな」とピエールに忠告してくる、生徒たちの目的は何なのでしょうか?
そして、ピエールは、教師としての役目を全うできるのでしょうか?
ゆっくりと確実に破壊される日常
学園を舞台にしたホラー作品である『スクールズ・アウト』。
ホラー作品ではありますが、残虐な描写や過激なシーンで怖がらせるのではなく、ゆっくりと観客の精神を揺さぶってくるような、何とも言えない不安な気持ちになってくる映画です。
作中では「3年1組」の生徒たちに不信感を抱くピエールに、無言電話がかかってくるようになったり、テロ対策の訓練が突然始まったりと、更に不安感をあおる出来事が起きるようになります。
サンジョゼフ中学の教師に赴任して以降、ピエールの日常は少しづつ、確実に破壊されていき、徐々に精神を病んでいくようになります。
監督のセバスチャン・マルニエは、インタビューで、黒沢清の影響を受けている事を語っていますが、徐々に破壊されていく日常の恐怖、何とも言えない不安な印象を受けるあたりは、1997年の『CURE』や2001年の『回路』などの黒沢清作品に近いです。
そして、作中で描かれる徐々に破壊されていく日常という感覚が、本作のテーマに繋がる部分でもあります。
コミュニティ同士の対立
本作では、大きく分けて2つのコミュニティの物語が描かれています。
1つは、ピエールが赴任したサンジョゼフ中学の、教師たちのコミュニティです。
優秀な生徒たちの集まりを相手にする、サンジョゼフ中学の教師たちは、教師同士の関係を超えた友人関係を作り出しています。
ホームパーティーやダンスイベントで親交を深め、生徒たちから自分を守るように、結束を固めていきます。
もう1つは、ピエールたちに反抗的な態度を取る、「3年1組」の生徒たちのコミュニティ。
不気味な動きを見せる、「3年1組」の生徒たちですが、ピエールの一方的な目線ではなく、アポリーヌたちの目線を交えて物語を進める事で、前述した「徐々に破壊されていく日常」という部分に厚みを持たせています。
やがて、ピエールは教師たちのコミュニティに属しながら、生徒たちのコミュニティと対立をしていくようになります。
それは「大人と子供」「教師と生徒」という枠を超えた、人間同士の対立です。
この対立の果てに迎える結末が、本作のテーマとなっています。
まとめ
『スクールズ・アウト』は、学園を舞台にしたホラーでもあり、生徒たちに追い込まれるピエールの心情を描いたサスペンスでもあり、生徒たちや教師たちの人間ドラマでもあります。
情報が錯綜し複雑化していく現代社会では「大人と子供」のような、単純な関係性は成り立たなくなっており、本作のような、1つのジャンルではくくれない作品が生まれたと言えます。
作中のピエールのように、下に見ていた子供に、逆に劣等感を与えられ、子供相手に1人の人間として、感情的になってしまう事もあるでしょう。
本作で描かれている事は、決して特別な事ではありません。
では、複雑になっていく社会で、どう生きていくべきなのでしょうか?
それは本作のラスト、ある場面で語られています。
『スクールズ・アウト』は「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション」にて上映される作品で、10月よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、名古屋のシネマスコーレの3劇場で開催されます。
感覚的に訴えて来る恐怖の先にある、セバスチャン・マルニエ監督が本作に込めたメッセージを、是非受け取ってください。