映画『ロックダウン・ホテル/死・霊・感・染』は2021年7月2日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開予定
コロナ禍の世界を予言した映画として話題となり、釈由美子の衝撃の熱演が世界各国のファンタスティック映画祭で絶賛されている戦慄のパンデミック・ホラー映画『ロックダウン・ホテル/死・霊・感・染』。
あるホテルの一室で始まった謎の殺人ウィルスによる感染爆発。やがてその感染者の数はホテル全体にまで及んでいきます。
蔓延する殺人ウィルス、そして襲いかかる心霊現象。逃げ場のない地獄で何が起こったのか?
ウイルス蔓延と心霊現象が発生したホテルを舞台に、宿泊客たちのサバイバルを描いた映画『ロックダウン・ホテル/死・霊・感・染』をご紹介します。
CONTENTS
映画『ロックダウン・ホテル/死・霊・感・染』の作品情報
【日本公開】
2021年(カナダ映画)
【英題】
Hall
【監督】
フランチェスコ・ジャンニーニ
【キャスト】
カロライナ・バルトチャク、釈由美子、マーク・ギブソン、ベイリー・タイ、ジュリアン・リッチングス
【作品概要】
世界進出を果たす釈由美子をはじめ、『X-MEN:アポカリブス』(2016)にて、マイケル・ファスベンダー演じるマグニートの妻を演じたカロライナバルトチャク、『CUBE』(1997)のジュリアンリッチングス、『夜明けのゾンビ』(2012)のマーク・ギブソンなど、数々のSF、ホラー作品で活躍する個性的な演技派キャストが集結した本作。
監督は『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014)やローランド・エメリッヒ監督最新作『ムーンフォール』(2022)などに出演する俳優でもあり、本作で長編監督デビューを飾って2020年ブラッド・イン・ザ・スノー映画祭最優秀監督賞受賞など、各国のファンタスティック映画祭で高い評価を受けている注目の新鋭フランチェスコ・ジャンニーニ。
映画『ロックダウン・ホテル/死・霊・感・染』のあらすじ
ハイドホテルの廊下で、ナオミは感染したウイルスに苦しみながら倒れ込んでいました。
お腹の子どもを庇いながら、廊下を這っていく彼女。
その4時間前。ヴァルと夫とその娘ケリーは車でホテルへ向かっていました。
お腹を庇いながら重い荷物を持ち、通りを横切ろうとするナオミにクラクションを鳴らすヴァルの夫ブランデン。
ヴァルは車から降りてナオミを介抱しに行きました。
彼女は妊婦であるナオミの困難に同情を示し、2人は親交を深めます。
その後ヴァルは、娘のケリーや通りすがりのナオミに対して横暴な態度を取るブランデンをいなすものの、逆上したブランデンは、ヴァルに暴力を振るいました。
一方仕事の出張でカナダを訪れていたナオミは、日本に置いてきた子どもの父親から脅迫を受けていました。
出産に立ち合おうとしていた母親に対して、日本に帰る意思が無いことを電話越しに明かします。
夜になり、旅の疲れからか先に眠ったブランデン。
ヴァルが洗面所でケリーの髪を解かしていると、彼女の背中にあざがあるのを見つけました。
どうしたのかと尋ねるものの、口を濁しながら転んだと話すケリー。
夫の度重なるDVに愛想を尽かし、今回の旅行で離婚を切り出そうとしていたヴァルの覚悟はその時決まりました。
彼女はケリーを「パパに内緒で隠れんぼしよう」と誘い、夜な夜な2人だけでドライブに出かけることを画策します。
階段で待ち合わせをする為にホテルの廊下をひとり歩いて行くケリー。
その姿を見届けたヴァルは、夫の荷物からこっそりと車のキーを抜き取りました。
彼女が部屋を出ようとすると、苦しみながらブランデンが目を覚まし、彼女に噛み付いてきました。
必死に風呂場に逃げ込んだヴァル。
時を同じくして、母親と電話中であったナオミも突如苦しみだし、部屋の床に倒れ込んでしまいました。
階段に取り残されたケリーは廊下に倒れ込む人々を見て驚愕しました。
ヴァルはケリーと合流する途中、ある一室のテレビで緊急放送を目にします。
アナウンサーは、人との接触を避け、視線も合わせないこと。異変を感じたらすぐに保健所へ行くよう、繰り返し呼びかけていました…。
映画『ロックダウン・ホテル/死・霊・感・染』の感想と評価
短編作品のキレ味
ウイルスパンデミック発生の導入部からは、『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)や『28日後』(2002)をはじめとした王道ゾンビパニック映画を連想させられると同時に、「ホテルで子どもが心霊現象を目撃」というシチュエーションからは『シャイニング』(1980)に似た雰囲気を感じました。
2大ホラー映画の要素を組み合わせながらも、物語が進む先にあったのは意外な結末。
ラストのハッとさせられる場面には、本作が始まりの物語に過ぎないということを、鑑賞後には作品の外にある余白のことを考えさせられます。
さながらオムニバス作品のようで、本作はジャンル映画らしい引っ掛かりを残しています。
ポスタービジュアルなどから本作に対する鑑賞前の印象として『コンテイジョン』(2011)のようなウイルス感染映画を想像されるかもしれません。
しかし、実際の作品としてはゾンビ映画の雰囲気の方が近いでしょう。
無意識に増長する恐怖
実際にウイルスパンデミックが発生する前の2019年1月のモントリオールで撮影され、コロナ禍に公開された本作。
製作当時は、現実世界で死者多数のウイルス騒ぎが発生するなど予見していなかったにも関わらず、コロナ禍の現在鑑賞すると、その不運なシンクロニシティにゾッとさせられます。
特筆すべきは、感染した様子をリアルに描こうとしただけに過ぎないはずの何気ないシーン。
感染者のひとりが、「普通に寝て、普通に息していただけなのに、突如感覚が無くなり苦しくなった」と弱々しく異変を吐露する様子からは、不幸なことに現在誰しもが共有できる身近な恐怖として感じ取ることが出来るのです。
また、プロットの特徴として、時制が何度か巻き戻るユニークな語り口が挙げられます。
既に感染して倒れ込んでいる人々の様子から始まる冒頭のシーンから、本作の底の見えない暗い雰囲気が漂っています。
画面全体に赤みがかった色合いが印象的で、これらのモチーフは人間の悪意が狭い世界の外に広がっていることを暗示しているのでしょう。
物語も時制が遡りながら徐々に繋がっていき、展開にツイストが効いていました。
さり気ない説明台詞や状況描写を通して周到に配された細かな伏線が支配的な夫の恐怖から逃れ、たったひとり異国の地にいる妊婦ナオミと、娘の手前、支配的な夫から逃れることが困難なヴァルの視点から描かれています。
本作が海外進出第一弾作品となった釈由美子の長回しのシーンにも説得力があり、ムードを構築する効果的な音楽も相まって非常に引き込まれました。
そして境遇の似たふたりがそれぞれ娘の将来のために能動的にアクションを起こしていきます。
彼女たちの顛末に関しては、分かりやすいカタルシスに結び付かないという難点もあったものの、前半のサスペンスと家庭内暴力に対する心理的なトラウマといったパーソナルな物語との交差が絶妙でした。
サバイバル映画であり、ホラー映画であること以上に物語の根幹には家族映画としてのテーマがありました。
まとめ
コロナ禍を予言したかのようなパンデミックの始まりを描いた映画『ロックダウン・ホテル/死・霊・感・染』は、非常にジャンル映画らしいスリルに満ちた作品で、少ないホテルの部屋とその廊下という限定空間において、緊張感と恐怖感を煽られます。
時節柄、ウイルス感染を取り扱った映画には誰しもが敏感に反応してしまいますが、現実に起こっているパンデミックが、感染の始まりを描いた本作の続編として、現実と結びつけて考えてしまう恐ろしさがあるでしょう。
とはいえ本作はフィクションのドラマですので、コロナと結びつけながら観ると、辻褄が合わなくなってくるのも事実。
超常現象や誇大妄想、陰謀が広がっていく悪夢のような結末から、劇中では語られ切らなかった余白に意識が向いてしまうかもしれません。
あえてセンシティブなテーマを取り扱った映画を観ることで、自らの恐怖心を増幅させるのも、エンターテインメント作品がもたらす効果の一つでしょう。
映画『ロックダウン・ホテル/死・霊・感・染』は7月2日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開予定。