2019年11月に公開された映画『地獄少女』実写化とアニメ版との比較
契約する事で恨みを晴らしたい相手を地獄送りにしてくれる「地獄少女」の都市伝説を巡る、さまざまな人間のドラマを描いた、映画『地獄少女』。
2005年に第1期が放送され、すでにドラマ化もされたオリジナルテレビアニメ『地獄少女』を、『不能犯』『ノロイ』で知られる白石晃士監督が実写にて映画化。
これまで第4シリーズまで制作されているアニメシリーズを実写化のキャストには、『わたしに××しなさい!』の玉城ティナが閻魔あい役で主演を務め、共演に橋本マナミや『天気の子』の森七菜らも集結。
人間の潜在的な怖さを描いた映画『地獄少女』をご紹介します。
映画『地獄少女』の作品情報
【公開】
2019年公開(日本映画)
【原案】
わたなべひろし
【原作】
地獄少女プロジェクト
【監督・脚本】
白石晃士
【キャスト】
玉城ティナ、橋本マナミ、楽駆、麿赤兒、森七菜、仁村紗和、大場美奈、森優作、片岡礼子、成田瑛基、藤田富、波岡一喜
【作品概要】
深夜0時にだけアクセスできる「地獄通信」に、恨みを持つ相手の名前を入力すると、地獄少女が地獄へ連れて行ってくれるという都市伝説を軸に、さまざまな人間模様を描いたホラー。
主演に『Diner ダイナー』や『惡の華』など、2019年公開の、話題作への出演が続く玉城ティナ。
監督は『貞子vs伽椰子』や『不能犯』など、独自の世界観のホラー作品を生み出している、白石晃士。
映画『地獄少女』あらすじ
午前0時にアクセスできるWEBサイト「地獄通信」。
そこへ、恨みを晴らしたい人間の名前を入力すると、地獄少女が現れて「恨んでいる相手を地獄に落としてくれる」という契約が成立します。
しかし、地獄少女と契約を交わした者も、死後に地獄へ行く事になります。
ルポライターの工藤仁は、過去に地獄少女と契約を交わしたという母親から、何度もその話を聞いており、地獄少女を特集した記事を書くことにします。
その事を、病院に入院している母親に報告した後、母親は何かに怯えた表情を浮かべて亡くなります。
女子校生の市川美保は、クラスの女子の空気に馴染めず、少し浮いた存在です。
美保は、アーティストの魔鬼のファンで、ライブに行きますが、そこで痴漢に遭遇します。
その時、美保を痴漢から救ってくれたのは、同じく魔鬼のファンである、南條遥でした。
少し暴力的な性格の遥ですが、美保はクラスにいないタイプの遥に惹かれ、ライブ終了後にカフェで話をします。
そこへ、ライブを終えた魔鬼が現れ「遥の声に魅了された」と、自身のライブの、コーラスオーディションへの参加を促し、コーラスメンバーに決まっている、御厨早苗のライブに誘います。
早苗のライブは平日の昼間だった為、学校を休む訳にはいかない美保でしたが、高校まで遥が迎えに来た事で、授業を抜け出して早苗のライブへ行きます。
ライブが始まり早苗は歌い出しますが、そこへ、刃物を持った長岡拓郎がステージに上がり、早苗の顔を切りつけます。
長岡は、早苗の取材をしていた工藤と、魔鬼によって取り押さえられ、警察に逮捕されます。
警察の事情徴収が終わるのを待っている間、美保が話しかけた事をキッカケに、工藤と仲良くなります。
命は助かったものの、顔に致命的な傷を受け、アーティストとしてステージに立てなくなった早苗は、インターネットで、犯行に及んだ長岡の事を知ります。
また、工藤の記事から「地獄通信」の事を知った早苗は、午前0時にWEBサイトにアクセスし、恨みを晴らしたい相手として、長岡の名前を書き込みます。
すると、早苗の体が地獄へ行き、おぞましい光景を見た後、静かな河原に辿り着きます。
そこに姿を現したのは「地獄少女」と呼ばれる、閻魔あいでした。
映画『地獄少女』感想と評価
2005年に、アニメの第1シリーズが放送されて以降、人の持つ「恨み」に着眼した、独特の展開が話題を呼び、第4シリーズまで製作されている『地獄少女』。
毎回1話完結の物語となっており、教師や上司、先輩や不良グループなど、恨みを抱きなからも、逆らう事ができない相手に悩んでいる、人間が主人公となります。
毎回、逆らう事ができない相手を「地獄少女」と呼ばれる、都市伝説的な存在、閻魔あいと契約する事により、地獄へ送ってもらうという展開となり、逆らえない相手を、代わりに成敗してもらうという部分では「必殺!仕事人」シリーズに通じる爽快さがあります。
その人気はアニメだけではなく、2006年に実写ドラマも製作されるほどです。
今回の実写映画では、主にアニメ版の第1シリーズ前半の「都市伝説としての地獄少女」のテイストを重視した、和製ホラーとなっています。
人の背後に、幽霊のように立っている閻魔あいや、地獄送りの場面など、恐怖を重視した演出が多く、監督と脚本を担当した白石晃士は「怖さの部分を、どう強くするか?」を、一番悩んだ事を語っています。
本作は、映画オリジナルストーリーとなっていますが、アニメ版の流れを受け継ぎ、作品に反映させています。
アニメ版の『地獄少女』では、閻魔あいに藁人形を渡された人間が、恨みを持つ相手を地獄に送る事に、一度は戸惑いながらも、最終的に相手を地獄に送るしかなくなる「決定的な的な出来事」が起き、閻魔あいと契約を交わすようになる流れがお馴染みとなっています。
今回の実写版でも、その流れはしっかりと受け継がれており、かなりアニメ版に忠実な作りになっています。
また、アニメ版の第2シーズン、第3シーズンでは、恨みの連鎖や、逆恨みなど、閻魔あいがいくら晴らしても消えない、人間の恨みと、恨みを生み出す人間の恐怖を描いたシリーズでした。
人が恨みを抱かなければ「地獄少女」は存在しないのですが、逆に、この世から恨みの念が消えない限り、「地獄少女」は存在し続けるという事です。
この恨みの連鎖という部分は、映画版では、早苗と長岡の母親のエピソードに反映されており、ラストに美保が見る幻覚も、閻魔あいが、契約者に必ず口にする「人を呪わば穴二つ」という言葉を反映させています。
アニメ版の作風とテーマを受け継ぎ、恨みを生み出す人間の怖さを描きながら、和製ホラーとして「怖さ」の部分に振り切った本作。
特に、アニメ版に多かった「物語の後味の悪さ」も再現しており、「地獄少女」シリーズのファンはもちろんですが、これまで見た事が無い人も、独特の作風が味わえる作品となっています。
まとめ
アニメ版を忠実に再現した、実写版の『地獄少女』。
特殊な設定から、実写で演じるには難しいと思われる閻魔あいを、玉城ティナがミステリアスに、抑えた演技で見せており、ここでも、原作の雰囲気を守っていると言えます。
ですが、「都市伝説的な恐怖」を重視した結果、若干説明不足の部分があり、特に閻魔あいの従者である、一目連、骨女、輪入道の「三藁」に関して、あまり説明がされていません。
プロデューサーの平田樹彦は「閻魔あいと三藁が活躍し過ぎると、爽快感が強まってしまう」と全体的なバランスを調整する為に、あえて説明しなかった事を語っており、実写化に関してかなり悩んだ事が分かります。
ちなみに「三藁」は、アニメ版では、閻魔あいに藁人形を渡された人間が、実際に紅い紐を解いて、契約を交わすまでの見張り役として、人間世界に溶け込んでいる存在です。
時には、藁人形に姿を変えて見守る事もあります。
映画版で、魔鬼のコーラスに「三藁」が参加していたのは、見張り役だった為です。
第4シーズンまで続くアニメ版では、閻魔あいと三藁のキャラクターが強くなっており、実写版で、ここまで反映させると、まとまらなくなった可能性が高かったでしょう。
アニメ版でお馴染みの展開を、あえて変更してでも、和製ホラーに振り切った判断は素晴らしく、本作をキッカケに、アニメ版に触れてみて、それぞれの違いを比較してみてはいかがでしょうか。