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Entry 2021/07/02
Update

映画『アンテベラム』ネタバレあらすじ感想と結末の内容解説。反戦スリラーでジャネール・モネイが熱演!

  • Writer :
  • ジンリナ

黒人奴隷の脱出物語を描いた反戦スリラー『アンテベラム』

『アンテベラム』は、『ゲット・アウト』(2017)、『アス』(2019)の製作者ショーン・マッキトリックが、製作者として戻ってきたホラー映画。

短編映画作業を主だったジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツが初めて作る長編映画『アンテベラム』は、南北戦争前のアメリカで奴隷として酷使される黒人奴隷たちの人種差別の話をテーマにしたスリラー反戦映画です。

主演は、映画『ドリーム』(2016)の女優兼歌手ジャネール・モネイ。さらに、「ハンガー・ゲーム」(2012-)シリーズのジェナ・マローンやジャック・ヒューストン、エリック・ラングなどが悪役として出演しています。

人種差別、奴隷制度の恐怖と暴力、映画の後半には激しいバトルが繰り広げられ、新たな真実と反転が浮き彫りになり、興味深く描かれています。

※本記事は『ANTEBELLUM (原題)』海外公開時の鑑賞ネタバレレビューになります。『アンテベラム』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

映画『アンテベラム』の作品情報


[R], TM & [c] 2021 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved

【製作】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
ANTEBELLUM

【監督】
ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ

【キャスト】
ジャネール・モネイ、トンガイ・キリサ、ジャック・ヒューストン、エリック・ラング、ジェナ・マローン、カーシー・クレモンズ、ガボレイ・シディベ、マルク・リチャードソン、ロバート・アラマヨ、リリー・カウルズ、ロンドン・ボイス

【作品概要】
『アンテベラム』は、過去と現在を行き来しながら、奴隷農場で虐待されていた黒人女性が脱出のためにする死闘と復讐を描いた反戦ミステリースリラー映画。

ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツらが監督を務め、『ドリーム』(2016)の女優兼歌手ジャネール・モネイ主演、「ハンガー・ゲーム」(2012-)シリーズのジェナ・マローンやジャック・ヒューストン、エリック・ラングなどが悪役として出演しています。

映画『アンテベラム』のあらすじとネタバレ


[R], TM & [c] 2021 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved

米国ルイジアナ州では、大きな綿花の農場があります。そこは南部連合軍駐屯地の農場であり、黒人の奴隷は厳しく扱われています。

ある日、イーライという名の黒人男性とその妻が、逃亡未遂によって13州の南部連合軍第9歩兵隊ジャスパー司令官やその部下たちに、捕らわれました。

イーライは妻だけを逃亡させようとしますが、妻は残酷にも殺されてしまいました。そして、ジャスパー司令官は、彼女を焼却炉で火葬し、殺害の証拠を無くそうとしました。

ある日、気を失ったイーデンが、馬に乗せられて農場にやって来ました。

その日の夜、ブレイク将軍は脱出する途中に捕まったイーデンを審問し、名前を尋ねますが、イーデンが頑なに口を開かないので鞭で暴行を加えます。

彼女が悲鳴を上げても、ブレイク将軍は気にせず、彼女をテーブルの上に伏せさせて背中に火を点けた烙印を押しました。途方もない苦痛に叫び上げるイーデン。

そんな拷問を受けてもイーデンは諦めず、イーライと次の脱出計画を立てます。再び失敗すれば、今度こそは死を免れないというのに……。

物々しい警戒の農場に、また黒人たちを乗せた馬車が農場に到着しました。

新しく来た奴隷のグループを一列に並ばせ、幼い娘と一緒に来たジャスパー司令官の妻エリザベスが、彼らの健康状態を確認します。

そんな中、ある黒人女性を指差して、自分の娘に名前を付けるよう勧めるエリザベス。娘は彼女の名前をジュリアと名付け、名付けられた本人は呆れている様子です。

この農場では許しを得ない限り、言葉を交わすことが出来ません。奴隷同士も、絶対にお互いに話を交わしてはならず、言いたいことがあるなら白人の許可を得てしなければなりません。

そのように厳しい状況の下、イーデンは自分の部屋で、ドアのロックに何かを塗り、おかしな足取りでドアとベッドを行き来していました。

そんなイーデンの部屋に、突然訪ねて来たジュリア。ノースカロライナ州から来たという彼女は、自分が置かれている現在の状況を理解せず、イーデンに今すぐ脱出を計画するように頼みます。

しかし、反対するイーデンに、自分が妊娠中であることを明かしたジュリア。驚いたイーデンですが、ジュリアに「妊娠が明らかになれば、さらに危険になるかもしれない」と忠告します。

今自分がどれだけ危険なのか分かっていないジュリアを叱責したイーデンに、逆ギレするジュリア。そんなジュリアをイーデンは追い返しました。

その日の夜、兵士たちは皆集まって、黒人奴隷たちが準備した食事を食べていました。

ブレイク将軍は、‟黒人を奴隷にすることが、自分たちの権利”だと主張する演説をします。白人が望めば、黒人奴隷はその要求が何であれ受け入れなければならないと強調しました。

その中で、ダニエル上等兵は今晩の相手にジュリアを指しました。ダニエル上等兵は彼女の部屋に寝床を用意するよう指示します。

部屋で待っていたジュリアは、彼の親切につけこもうとして、助けてくれと頼んでしまいます。

すると、ダニエル上等兵の態度が急変し、自分に許可を受けずに声をかけたという理由でジュリアに暴力を振るいました。腹を蹴られたジュリアは、流産してしまいます。

以下、『アンテベラム』ネタバレ・結末の記載がございます。『アンテベラム』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


[R], TM & [c] 2021 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved

その日の夜、ブレイク将軍と望まない性行為を行った後、眠りにつくイーデン。朝になって起きたイーデンの隣には、愛する夫ニックがおり、幼い娘ケネディが駆け付けて来ました。

そこは、農場でもなく、自分の家だったのです。イーデンの本当の名前は、ヴェロニカ·ヘンリーです。

ヴェロニカは黒人の権利、人種、階級、差別を代弁する作家であり、社会学者としてテレビショーにも出演する有名人です。

彼女は、エリザベスと仕事関係でのオンライン会議によって、エリザベスの「あなたの口紅綺麗ね」と嫌味のような発言に、不愉快な思いをします。

しかし、自分の気持ちを抑えて会議を短くするヴェロニカ。ヴェロニカは、自分の本の宣伝のために、ルイジアナに出かけることになりました。

ニックとケネディと少しの間、離れるのを寂しがるヴェロニカですが、「飛行機が飛んでるのを見たらママが帰って来るからね」とケネディを元気付けます。

ルイジアナに到着したヴェロニカ。黒人の熱烈な支持を受けるヴェロニカは、自分の本に対するプロモーションイベントで、黒人の自由と未来について演説します。

その頃、エリザベスがヴェロニカのホテルの部屋に忍び込み、口紅を盗んでいます。

仕事を終えたヴェロニカは、友人のドーンとサラに会い、彼女らと地元のレストランに夕食に行くことを約束します。

約束の時間まで部屋で準備するために、ホテルのエレベーターに乗ったヴェロニカは、そこでエリザベスの娘に会います。

不気味な顔でシーッというモーションを取り、先にエレベーターを出たエリザベスの娘に、不思議がるヴェロニカ。

そして、ドーンとサラと待ち合わせて、レストランに食事しに行くヴェロニカ。友人たちと楽しい時間を過ごしたヴェロニカは、早朝に家に帰るため、友人たちとは別のタクシーに乗り込みます。

そこでヴェロニカは、車内の音量が大きいため小さくするよう頼みますが、聞いてくれない運転手。

実は、エリザベスが運転するタクシーでした。すると、後ろに隠れていたジャスパーの攻撃に気絶して、拉致されたヴェロニカ。

鳴り響く携帯電話の音で、眠りから覚めたヴェロニカ(イーデン)。隣にいたブレイク将軍は上院議員であり、将軍のふりをしていたのです。

外で待っている馬に掛けてあるバッグから、ブレイク上院議員が携帯電話を使う場面を目撃したヴェロニカ。

ブレイク将軍は、ヴェロニカの夫が行方不明になった妻を捜しているという報告を聞きました。ヴェロニカは、彼が戻って来ると、眠ったふりをしました。

夜が明けて、通常通り農場で仕事をするヴェロニカとイーライたちですが、ジュリアの姿が見当たりません。

ジャスパー司令官の命令で、ジュリアを捜しに行くヴェロニカ。ジュリアの部屋で、首を吊ったジュリアを見たヴェロニカは脱出を決心します。

前世と現世のように錯覚させますが、今は空に飛行機が飛ぶ時代。ヴェロニカは、ブレイクらによって、南北戦争当時のような背景のもと、黒人たちを拉致して奴隷のように扱う農場に連れて来られたのです。

深夜、再びブレイク上院議員にレイプされた後、ブレイク上院議員が眠るときしむ床を踏まずに抜け出すヴェロニカ。普段からのヴェロニカの変な足取りは、この日のための準備だったのです。

部屋からこっそり出たヴェロニカは、ブレイク上院議員の携帯を盗みます。そして、待ち合わせたイーライと共に、携帯電話で助けを求めようとしていると、酔っ払ったダニエル上等兵と彼の友人が現れました。

咄嗟に隠れたために、ブレイク上院議員の携帯電話を落としていまいます。ブレイク上院議員の携帯電話を見つけた彼らは、ブレイク上院議員のバッグから落ちたと思いました。

やっとのことで草むらまで逃げ込んだヴェロニカたちですが、そこへ再びダニエル上等兵たちが姿をみせます。

息を潜めながら、ダニエル上等兵が1人になった時に、イーライがナイフでダニエル上等兵を殺してブレイク上院議員の携帯電話を取り上げました。

それは施錠されている携帯電話で、911に電話をかけますが、電話は顔認識で解錠しないと出来ませんでした。

世の中にこの場所の位置を知らせなければならない2人は、ブレイク上院議員の顔認識で施錠を外すために部屋に戻ります。

部屋には目覚めたブレイク上院議員が隠れていて、彼女たちに襲い掛かり、3人の死闘が始まりました。

ヴェロニカを守ったイーライが殺されてしまい、その隙にブレイク上院議員を自分の剣で刺したヴェロニカ。

彼の顔を認証してロックを解除したヴェロニカは、ニックに電話をかけて現在の状況を伝え、GPSで自分の居場所を送ります。

そして、まだ息をしているブレイク上院議員を火葬場に移したヴェロニカ。

燃やす準備をしていると、ジャスパー司令官と部下がやって来たので、「ブレイク将軍が負傷したの」と火葬場に誘い込んだヴェロニカは、彼らを閉じ込めました。

3人を火葬場に入れて燃やしたヴェロニカは、ブレイク上院議員の馬を盗んで走り去ります。

しかし、馬に乗った兵士たちが追い掛けて来ます。撃って来た銃弾を避けるヴェロニカ。エリザベスまでもが、馬に乗ってヴェロニカを追い掛けて来ます。

行き止まりに着いたエリザベスは、父親の主張で拉致したヴェロニカを除く農場の全ての奴隷を自分が直接選んだと、大きな声で言いました。

隠れていたヴェロニカは、後ろから彼女の首を縛って引き下ろしますが、エリザベスがナイフを取り出してヴェロニカを突き刺し、再び死闘が繰り広げられます。

エリザベスに拳骨を食らわせたヴェロニカは、彼女の首にロープを巻き、馬に縛って走り出します。

ヴェロニカは、ロバート・E・リー(南北戦争当時の南部軍総司令官)の銅像に、エリザベスを衝突させました。首が折れたエリザベスは即死しました。

そして、ヴェロニカは南北戦争を連想させる空間を横切って、追い掛けて来る兵士たちを戦いの混乱の中に追い込みます。

そこで、拉致された場所が、ブレイク上院議員が所有するルイジアナ州の内戦再現公園であることが明らかになりました。

ブレイク上院議員と仲間たちは、黒人を使って、奴隷時代を取り戻すための環境に公園を使っていたのです。

公園を抜け出したヴェロニカの前には、都会が見え始めると共に、パトカーが近付いて来ました。警察やFBIが到着して、黒人奴隷たちを助け出し、公園が撤去され始めます。

映画『アンテベラム』の感想と評価


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個人的には、映像の前半部と後半部のヴェロニカ脱出の時に登場したメインテーマ曲が、一番記憶に残っています。

繰り返しながら変奏される低いチェロの音と共に、映像に合わせて響く壮大なティンパニーは、見る人の心臓をドキドキさせました。

『アンテベラム』とは

『アンテベラム』とは、アメリカ南北戦争直前の時代を意味する用語です。

映画のタイトルに相応しく、南北戦争の時期、黒人奴隷たちを抑圧する南部連合軍駐屯地所有の農場から脱出しようとして捕まった黒人奴隷を処刑したことで、映画は始まります。

白人の命令がない限り会話が許されないほど人間以下の扱いを受けている黒人たちに、さらに、白人たちの性奴隷としての扱いが加えられています。

悲惨な扱いに脱出を試みる者はあとを絶たず、主人公ヴェロニカも、脱出を試みますが失敗してしまいます。

ですが、彼女は腰に烙印を押されながらも、虎視眈々とそこから脱出する機会のみ伺っていました。

このように、黒人たちの暗鬱な現実だけが映し出されていましたが、ヴェロニカがベッドに横になって目を覚ますと、突然、背景が現代に戻って来ます。

何故南北戦争の時期に、現代を背景にした話が出るのでしょうか。

いくつかの疑問点が浮上した瞬間、再び映画は南北戦争の過去に戻り、衝撃的な真実が明らかになるのです。

映画の中の人種差別


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米国の警察官が黒人を殺し人種差別デモに広がったという出来事があり、こんな敏感な時期に人種差別を描いた映画でもあります。

人種差別について声を出しデモも出来る黒人と違って、米国社会で人種差別を受けるアジア人の待遇について、あまりにもかけ離れている差異に苦い感情が生じました

映画で、過去と現在を行き来するような時間構成を通じて、綺麗に仕上げる姿も良かったのですが、映画を全て見た上で、何故敢えて白人たちがこのように黒人を過酷に差別しようとしたのかと、疑問が浮かんで来ました。

単純に黒人は善良で、白人はみな悪いという二分法的思考観を捨て、白人の中で善役も置き、黒人の中でも悪役の役を置いて、もっと映画を立体的に作ればどうだったのでしょうか。

苦々しく残念な一面もありましたが、それでも、『ゲット・アウト』(2017)の演出陣が演出したためか、この映画のアイデアは本当に素晴らしくて、映画を没入感のある作りにしたのは拍手したいところです。

『アンテベラム』に秘められた謎

『アンテベラム』のポスターに出て来る蝶々の模様が、映画の始終、象徴的に登場しました。

黒人女性、そして唇を塞いでいる赤い蝶は、何を意味するのでしょうか。蝶々が血を流していますが、何故流しているのでしょうか。

そして、『アンテベラム』の原題”Antebellum”で、アルファベットのEは、何故反対方向に変えているのでしょうか。

“If it chooses you nothing can save you.”

“それがあなたを選んだら、何もあなたを手に入れることは出来ない”という台詞は、何を意味するのでしょうか。

それらの謎が、最後まで明らかにされていないところが、真のミステリーになっています。映画の斬新なテーマとしても、観客の興味を上手く引き出しています。

また、この映画を見たら、四字熟語が浮かびます。

“胡蝶の夢”

“胡蝶の夢”とは、中国の戦国時代の宋の蒙生まれの思想家の荘子(荘周)による、現実と夢の区別がつかない状況であり、夢の中の自分が現実か現実の方が夢なのかといった説話から来ています。

夢と現実(胡蝶と荘子)の区別が絶対的ではないとされると共に、とらわれのない無為自然の境地が暗示されています。

夢の中で胡蝶(蝶のこと)として、ひらひらと飛んでいた所目が覚めたが、果たして自分は蝶になった夢を見ていたのか、それとも今の自分は蝶が見ている夢なのか、という説話であり、まさにこの映画の全てを物語っています。

まとめ


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『アンテベラム』は、ホラーに分類されていますが、それよりはスリラーに近いと思われます。恐怖とスリラーの器に盛られた社会性の濃いメッセージという構成がとても見事でした。

映画は、実際に南北戦争当時の状況も見せてくれます。

南部連合軍駐屯地の農場で綿花を獲る黒人奴隷の姿と、お互いに疎通出来ないようにして、白人が承諾した時だけ話させるなど、彼らを蹂躙して虐待する白人の対比した姿を通じて、この映画が何を話そうとするのか、テーマ意識を上手く表現していました。

私たちは差別と偏見の時代を生きていると言えますが、差別と偏見について、今のこの時代もどれほど過酷な差別が存在しているかを、如実に見せてくれる映画でした。

“過去は決して死なない”

人種差別主義者が黒人を拉致して奴隷にする彼らだけの世界が、現実的に今も存在するのです。

本作は、このような世界を見せてくれるメッセージを含んだ作品でもあるのです。

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