Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ファンタジー映画

Entry 2018/06/11
Update

映画『ヴィジョンVision』ネタバレ感想。結末に見せたキャストの演技力とは

  • Writer :
  • 福山京子

“Vision”とはいったい何か?

18歳にして初めて18ミリカメラを手にし、30年を経た河瀬直美監督。

『あん』(2015)や『光』(2017)に続き、今や世界で高い評価を受ける監督が、再び故郷奈良を舞台に脚本からプロデューサーまで手がけた映画『Vision』

母となりあらためて育んだ映画は、ひとがヒトとして母なる大地に生きることに真正面に向き合う、“いのちの物語”です。

映画『Vision』の作品情報


(C)2018「Vision」LDH JAPAN, SLOT MACHINE, KUMIE INC.

【公開】
2018年 (日本)

【脚本・監督・制作】
河瀬直美

【キャスト】
ジュリエット・ビノシュ、永瀬正敏、夏木マリ、岩田剛典、美波、森山未來、田中泯

【作品概要】 
映画『Vision』では、『イングリッシュ・ペイシェント』(1997)で、米アカデミー賞助演女優賞、世界三大映画祭全てで女優賞を獲得したフランスの名女優ジュリエット・ピノシュ。そして、河瀬組前2作に連続主演した日本を代表する俳優永瀬正敏をダブル主演に迎え、河瀬直美監督が新たないのちを吹き込む渾身の一作です。

映画『Vision』のあらすじとネタバレ


(C)2018「Vision」LDH JAPAN, SLOT MACHINE, KUMIE INC.

1人の狩人らしき初老の男が山の中で鹿を追っています。

逃げる鹿に息を潜め、銃口を向けました。

銃声とともに逃げる鹿、動きの止まった男の表情、そして聞こえてくる手毬唄…。

森の木々が青々と茂る夏、電車の中で2人の女性が話しています。

1人はフランスの女性エッセイシスト・ジャンヌ。紀行文の執筆のため通訳兼アシスタントの花と共に奈良県吉野にある山深い森にやって来ました。

その森には、ある男が住んでいました。彼は猟犬コウと静かに暮らす智。毎日、山に出かけ木々を切り、森を見守る山守でした。

ある日、長年にわたり懇意にしている山のシャーマンのような女性アキが、いつになく鋭い口調で智に、「明日は山に行ってはいけない。森の守り神、春日神社にお参りに行け」と告げます。

翌朝、智はコウと共に石段を登り春日神社にお参りに行くと、ジャンヌと花に出会いました。

花の話によると、昔からこの村に伝わる薬狩りの話を聞き、その中の薬“ビジョン”を探しているといいました。

さらにジャンヌは、「人類のあらゆる精神的な痛みを取り去ることができる」と言い、智は無表情に知らないと答えました。

ジャンヌと花は、しばらく智の家に泊めてもらうように頼み、数日を過ごすことになりました。

ある日道で、トラックに乗った智とアキが、ジャンヌと花にすれ違います。

「来たね、うちに来るかい?」アキは何かを知っているかのように誘います。

秋の家で4人はくつろいでいました。

たくさんの薬草の中で、ジャンヌはアキを見つめ、「目が見えないのですか?」と尋ねるジャンヌ。

「心の目で見えるよ。あんただったんだね」と答えるアキ。

さらに、最近森がおかしいこと、1000年に1度の時がやってくることを告げました。

2人には何か解り合えるものがあるようでした。

ある日、花は、祖父に会う急用ができたと言って、智の家を出て行きました。

数日過ごすうちにジャンヌと智は、言葉や文化の壁を越えて、心を通いあわせていきました。

身も心も距離を近づける2人の前から、忽然としてアキが姿を消しました。

アキの家の中は、いつもの生活のままでした。

アキが森の真ん中に大きくうねった“モロンジョ”の木に向かっています。

この木は森の山のいのちの木であり、全てを守るいのちの象徴でした。

激しく踊り、祈りを捧げるアキの姿がありました。

アキは村に2度と戻りませんでした

ジャンヌも本国フランスでの仕事に帰国することになりました。

必ず戻ってくる、そして“ビジョン”が現れると智に告げて、ジャンヌは去っていきました。

季節は流れ、山が茜色に染まる秋、ジャンヌは智の家に帰ってきましたが…。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『Vision』ネタバレ・結末の記載がございます。『Vision』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
ジャンヌが智の家に戻ってくると、そこには見知らぬ青年が智と一緒に住んでいました。

彼は山の中で意識を失い倒れていたのを、智が連れて帰ってきた青年で、鈴という名前でした。

鈴と智が仲睦まじく生活をしているのを見て、訝しく思うジャンヌでしたが、不思議とジャンヌも鈴と心が通っていきます。

そして、ジャンヌは昔に愛し合った男の姿を重ね合わせるようになりました。その男はこの山の猟師、岳でした。

そんな時、犬のコウがいなくなり、鈴が探して亡骸を抱いて連れて帰ってきました。

泣き崩れる智をジャンヌが包みます。

ある晩、月の綺麗な夜でした。月を見て涙を流す鈴の姿をジャンヌは見てしまいました。

明くる朝、今度は鈴も姿を消します。

そして、1000年に1度現れるという“ビジョン”の時がやってきました。

山には燃えさかる炎が拡がり、あの“モロンジョ”の木では、鈴がアキのように舞い祈りを捧げていました。

泣き叫ぶジャンヌと見守る智。

ジャンヌの回想と過去の映像が流れます。

銃を売った男の悲壮な表情、逃げた鹿。(冒頭のシーン)打たれていたのは同じ猟師の岳でした。

若い頃のジャンヌと岳、森で楽しく過ごしている2人、身も心も寄せ合う幸せな日々が映し出されています。

身ごもったジャンヌが、“モロンジョ”の木の下で、我が子を産み落とします。

その赤子を愛しみながら何重も衣でくるみ、再び“モロンジョ”の木の下に置いていくジャンヌ。

その赤子を拾い上げ連れていくのはアキでした。

アキが村のある家の縁側に赤子を置いていきました。

その家の老夫婦が見つけ育てること話し合っていました。部屋の奥に仏壇があり、銃で撃たれた岳の写真が見えました。

炎に包まれた中で、ジャンヌは鈴に告げました。

「やっと会えたのね…」

今やビジョンが生まれつつありました。

映画『Vision』の感想と評価


(C)2018「Vision」LDH JAPAN, SLOT MACHINE, KUMIE INC.

ビジョンとは何か?

鑑賞後にこの問いをしばらく考える余韻が残ります。

本来「ビジョン(Vision)」という言葉の意味は、「未来へ展望」や「見えること、そのもの」をさすものです。

作品の中で何度も何ども差し込まれる木々のざわめき、連なる山々の青い峰、そして俯瞰で捉えた移り変わる季節の山と森。

そして、何よりも森の象徴、神秘的な“モロンジョ”の木。

その映像を観る度に、今観ている物語はいつ起きたことなのか、現在と過去、そして未来が行き交う不思議さに包まれながら、ストーリーが進行していきます。

その感覚がともすれば、“自分が自然と関わっている”のか、“自然と一体化している”のか、“自分が自然の一部である”ということを感じている瞬間のような気がしてきます。

河瀬直美監督は、演じる俳優達に吉野の山に実際に一定の期間住み、時間をかけて役になりきって欲しいと話しています


(C)2018「Vision」LDH JAPAN, SLOT MACHINE, KUMIE INC.

特にジャンヌ扮するジュリエット・ビノシュはフランスから吉野の奥山に暮らし、地域の人々と触れ合ったり、神社への祈りにも参加したりした経験を喜んでいます。

また、智を演じた永瀬正敏は、独りで吉野の山奥に住み、映画と同じように木を切り薪を割り、自炊をしながら紀州犬コウと生活を共にしていました。

そんな俳優たちの嘘ではない表情のひとつひとつが、この映画の“Vision”の持つ不思議な瞬間をリアルにしているのです。

人や人間社会の持った短命な時間ではなく、自然が持つ1000年刻みの人知を超えた時の流れの瞬間を収めた吉野の映像に立ち会って見てはいかがでしょう。

まとめ


(C)2018「Vision」LDH JAPAN, SLOT MACHINE, KUMIE INC.

夏木マリ扮するアキは、この映画でいのちをつなぐ、再生する神秘的な存在です。

幻のような儚い象徴でありながら、圧倒的な余韻を残します

盲目でありながら山のあらゆる薬草を見つけ、人を一瞬で見抜く“心眼”を持っています。

彼女の言葉『心の目で見える』その言葉が、ビジョンを解く鍵、強いメッセージを感じます。

心の目で見えるもの、見える自分になった時が、“自分が自然の一部になる”。

そんな一瞬をぜひ感じてほしい映画です。

関連記事

ファンタジー映画

金子雅和映画『アルビノの木』感想と考察。あらすじの森と白鹿様の隠喩の深意とは?

金子雅和監督が海外で行われた各国の映画祭で、10冠の名誉を掴み取った映画『アルビノの木』。 ポルトガルで開催されたフィゲイラ・フィルム・アート2017では、日本映画初である最優秀長編劇映画、最優秀監督 …

ファンタジー映画

映画『マレフィセント2』ネタバレ感想とレビュー評価。ディズニーが続編で多様性を描く

映画『マレフィセント2』は、2019年10月18日に劇場公開。 「眠れる森の美女」を実写映画化した『マレフィセント』の続編、『マレフィセント2』を紹介します。 ヴィラン(悪役)でありながらオーロラ姫と …

ファンタジー映画

『ウィザード・バトル 氷の魔術師と炎の怪物』あらすじとキャスト!

平和を守る氷の魔術師vs炎の怪物を操る闇の魔術師!今世紀最大の戦いが幕を開ける! ロシア発、至上屈指のスケールで描く、SFファンタジーアクション超大作です。 また『オーガストウォーズ』に出演のヒョード …

ファンタジー映画

【ネタバレ】鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成(2022映画実写3)|あらすじ結末と感想解説。原作通りの壮大なクライマックスを迎える最終作

終わりに向かって動き始めた陰謀、壮大な逆転劇を見逃すな! 全世界で累計発行部数が8000万部を越えるヒットとなった、2001年連載開始の人気漫画『鋼の錬金術師』。 伏線を無駄にすることなく、全巻で作り …

ファンタジー映画

【ネタバレ】鋼の錬金術師(2022映画実写2)あらすじ感想評価と結末解説。完結編/復讐者スカー新キャストの魅力とラスト後編への布石とは

国家や錬金術に仕込まれた巨大な陰謀、全ての謎が繋がり始める完結編前編! 全世界で累計発行部数が8000万部を越えるヒットとなった、2001年連載開始の人気漫画『鋼の錬金術師』。 ASIAN KUNG- …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学