『ハリーポッター』を生んだJ・K・ローリングが新たにスタートしたスピンオフ的前日談シリーズの第2弾。
主人公のニュート・スキャマンダーはホグワーツ魔法学校の卒業生であり、少し間抜けな愛すべき魔法動物学者です。
前作で捕えられたジョニー・デップ渾身の役”黒い魔法使い“グリンデルバルトを、恩師であり友人でもあるジュード・ロウ扮するダンブルドアから倒すように告げられ、ロンドンからパリへそしてあのホグワーツへと魔法の冒険に旅立ちます。
CONTENTS
映画『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原題】
Fantastic Beasts: The Crimes of Grindelwald
【脚本・監督】
デビッド・イェーツ
【キャスト】
エディ・レッドメイン、キャサリン・ウォーターストン、ダン・フォグラーアリソン・スドル、ジュード・ロウ、ジョニー・デップ、エズラ・ミラー、ゾーイ・クラビッツ、カラム・ターナー、クローディア・キムウィリアム・ナディラム、ブロンティス・ホドロフスキー、ケビン・ガスリー
【作品概要】
アメリカ、イギリスはもちろん日本でも大ヒット記録した1作目『ファンタスティックビーストと魔法使いの旅』以来2年ぶりの作品です。
キャスト陣は主人公ニュートのエディ・レッドメインをはじめ、キャサリン・ウォーターストン、ダン・フォグラー、アリソン・スドルが再び集結しタッグを組みます。
そして「ハリポタ」シリーズとのブリッジ役として、若き日のダンブルドアを『リプリー』(1999年)でアカデミー助演男優賞、『コールド マウンテン』(2003年)で同主演男優賞の候補となり、今や名実ともに実力派のジュード・ロウが新しいダンブルドア像を新鮮かつスマートに演じます。
前作に引き続き、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのジャック・スパロウで当たり役となったジョーニーデップが、前作よりもさらにカリスマ性をパワーアップさせた“黒い魔法使い”が乗り移ったような怪演をみせます。
映画『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』のあらすじとネタバレ
牢獄に一人の男が監禁されています。
その男は拘束され、ほとんど意識がなく虚ろな目をしています。
周りには、魔法の杖を持ったアメリカ魔法省の護衛が見張っています。
彼は、ニューヨークを半壊寸前までにさせた強力な力を持つ悪の魔法使いグリンデンバルドであり、ロンドンへ相関することになっていました。
二重三重のロックを掛けた輸送馬車で、雷雨の中ニューヨークの暗黒の夜空を駆け巡ります。
グリンデンバルドの支持者である警備員の一人が彼を解放し、警備員を全員殺して逃げ出します。
すぐにグリンデンバルドはフランス・パリに拠点を置き、策謀を張り巡らし支持者集めを始めます。
グリンデンバルドの野望は、純血の魔法使いを育成し、ノー・マジ(魔法を使えない者、人間)を支配することでした。
一方、ニューヨークの波止場でティナと再会の約束をしてロンドンに戻ってきたたニュートは、「幻の動物とその生息地」の書物を書き上げ、ベストセラー作家になっていました。
一刻も早くニューヨークに戻り、「新しい著書が出たら、必ず手渡す」というティナとの約束を果たすべく、渡航許可を得に魔法省に向かいます。
しかしイギリス魔法省は、ニュートがニューヨークで魔法動物を逃し、騒動を起こしたことで海外渡航を禁止していました。
魔法省で兄のテセウスやホグワーツ魔法学校のクラスメイトやリタらが、海外渡航と引き換えに闇祓い局に入り、自分たちと協力してクリーデンスの身柄を確保するようにとニュートに告げます。
ニュートはクリーデンスが生きていることを知り、愕然としました。
ニューヨークの大騒動の中、クリーデンス自らが持つ途轍もない魔力、オブスキュラスをコントロールできずに自爆したのを目の当たりにしていたからです。
ニュートは、自分は闇祓い向きではないと断ります。
暗躍を続けるグリンデンバルドも、ニューヨークで大暴れしたオプスキュラスを持つ少年クリーデンスを追っていました。
グリンデンバルドは「無理やり連れてくるのではない、本人が選んで来るようにさせるのだ」と自信ありげに部下たちに命令します。
そして彼が自分の側につけば勝利は確実のものになると付け加えます。
ニュートは日々魔法省から監視を受けていますが、秘密裏にある者が彼を呼び寄せます。
黒い手袋がニュートを手招きし、ロンドンを一望できるセント・ポール大聖堂の屋上に連れて行きます。
そこに待っていたのは、ホグワーツの恩師ダンブルドアでした。
そもそもニュートのニューヨーク行きを画策したのもダンブルドアで、ニュート同様魔法省からにらまれている身でもありました。
ダンブルドアはニュートにグリンデンバルドが既にパリで暗躍し支持者を集めていることを伝え、彼を倒せるのはニュートしかいないと説明します。
帰り際に、「パリで困ったことがあったらここに行くように」とダンブルドアが言葉を残し、旧友の住所の書いたカードをニュートに渡します。
ニュートが家に帰り地下の魔法動物の世話をしていると、突然ジェイコブとクイニーが訪ねてきます。
クイニーの話によると、二人は婚約したとのことですが、アメリカ魔法省では魔法使いとノー・マジとの結婚は認めていないので、ニュートは不審に思い魔法を解き、クイニーが惚れる魔法でジェイコブと婚約をしたことがことがバレます。
ジェイコブはクイニーに危険が及ぶことを心配し、今のままで強引に結婚はできないとクイニーを嗜めます。
クイニーは立ち去り、姉のティナがいるパリに向かいます。
一方ニューヨークでニュートとともに危機を乗り越えたティナは、雑誌の記事でニュートとリタの婚約を知り、気持ちを切り替え仕事に打ち込もうと魔法省の闇祓いに復職していました。
しかしこの記事は誤報で、実際にリタと婚約したのはニュートの兄のテセウスでした。
グリンデンバルドの呼びかけとティナ、クイニーまでもがパリへ行ったこともあり、ニュートはジェイコブを伴ってパリに密入国することにします。
ロンドンからはるか離れた広大な草原で、密入国の案内人が二人を待っています。
ニュートとジェイコブはバケツの中に吸い込まれるように消え、パリへと向かいました。
映画『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』の感想と評価
前作の『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(2016年)を観た人もそうでない人にとっても今回の映画は、冒頭からあまりにもスリリングで、衝撃的な展開となっています。
前作のファンタジーな要素やコミカルな部分もほとんど見られず、5部のシリーズへ向かうダークな世界の入り口として観るものを引き込みます。
引き込まれていく、そのダークでありながらも心を虜にされる本作の魅力の一つは何と言っても個性豊かな役を演じる俳優陣です。
まず心を鷲掴みにされるのは、グリンデルワルドがそこで実際演説しているかのように演じるジョニー・ディップです。
映画前半にあるセリフ「無理やり連れてくるのではない、本人が選んで来るようにさせるのだ」のように、無理やり相手を服従させるのではなく、相手の心の隙間に入り込み弱い部分や触れられたくない部分に手をさし伸べます。
深層心理にある負のエネルギーを正当化させる話術が、本当に相手の心を奪ってしまうシーンです。
ハリー・ポッターの闇の帝王ヴォルデモートが絶対的な力で支配するのに対し、グリンデルワルドは弱い揺れている心を支配します。
そして若き日40代の慎重派で少し狡猾なダンブルドアを、「シャーロックホームズ」シリーズの紳士ワトソンことジュード・ロウが颯爽と演じています。
回想シーンで、ホグワーツで闇の防衛術の授業を行う若きダンブルドア先生を演じていますが、クラスの中で浮いている生徒のニュートやリタを温かく見守っている姿から、ダンブルドアの為人を知る手がかりとなります。
控え目ながらニュートに近づき、ミッションを伝えるジュード・ロウの話し方にこれからのストーリーが暗示されている気がします。
そして前回に引き続き、冒頭から結婚すると登場したジェイコブとクイニー。
ジェイコブ扮するダン・ファグラーは、前作よりもパン屋の仕事が落ち着いたのか、スーツ姿も落ち着きがあり、クイニーを思う深い愛情と葛藤に悩む姿を見事に演じています。
また一見自由奔放に見えながらも、クイニーの魔法使いとしてのプライドとジェイコブへの愛を貫く繊細な思いに揺れる女性を、ミュージシャンでもあるアリソン・スドルが等身大に表現しています。
正義感が人一倍強く、ニュートを想いつつも仕事に打ち込むティナをキャサリン・ウォーターストンが、前作以上に気迫のある魔法省の闇払いとしてまたニュートと二人で話す時の恥じらうギャップを上手く演じ分けています。
そしてやっぱり一番の魅力はニュート演じるエディ・レッドメインです。
今回の回想シーンで、ニュートが学生の頃からすでに魔法動物に心が惹かれ、友達に好かれようとか誰かとグループになるとかそういうことを考えず、自分の思いに素直に生きていきたことがわかります。
特にティナの瞳を褒める会話でどうしても「トカゲ」のようにと言いたいのを、何度もジェイコブに止められることがありますが、そこをティナを眼の前にして言いたくて言葉に詰まる演技は必見です。
今回の映画で、ニュート自身が自分で決めなければならない選択肢がいくつか出てきます。
前作に比べて、顔の表情や瞳の強さが増したように感じるのは、ニュートの成長をエディ・レッドメインが意識して演じていたのではないでしょうか。
そしてもう一つの魅力は、魔法動物の活躍です。
お馴染みの宝石ばかり追いかけてきた二フラーが、ラストに決めてくれます。
そして映画のどこかに二フラーの子どもが出てきます。
ニュートのポケットの住人ピケットが牢屋の鍵を開けてくれたかと思いきや、フランス魔法省の地下の家系記録室の棚からリタに見つかるという大失態を犯してくれます。
今作から登場した超巨大な猫科魔法動物ズーウーは、怖そうで激しく動き回るのに、猫じゃらしオモチャで見事に腑抜けな可愛い猫となってニュートにゴロゴロしています。
いざという時にウルトラマンの如く現れます。
そして意外にも、日本の魔法動物なるもの?“河童”もお見逃しなく!
まとめ
グリンデルワルドの演説中に、天高く壮絶な戦争のシーンが映し出され、続いて現れたのは「キノコ雲」でした。
グリンデルワルドの話は、この世界が堕落していくのは魔法使いではなく人間のせいだという内容です。
だから共存するのではなく、人間そして魔法使いと人間との子どもを滅ぼして純血の魔法使いが支配する世界を目指すと宣言します。
その姿に繰り返してきた人類の歴史が重なります。
映画の設定時代は1920年代で、世界は第一次世界大戦から再び少しずつ戦争の足音が聞こえてくる時代です。
実際映画の中のパリは、石炭燃料の時代で建物を煤で黒くして、空も煤が舞うような映像にしています。
映画に登場する人物は、それぞれ自分の弱さや苦しみに対峙する瞬間がありました。
リタは、ホグワーツ魔法学校時代に先生や生徒に仲間はずれや陰口を叩かれていました。
そして何よりも自分の弟を死なせてしまった罪悪感に苦しんでいます。
彼女は最後に選んだ道は、みんなを助けるためにグリンデルワルドと命懸けで戦ったことでした。
クイニーも愛するジェイコブと結婚すると監獄行き、それでも愛を貫きたいとい葛藤の末、決意したのはグリンデルワルドの唱える世界でした。
クリーデンスは、前作では魔法使いになりたくて魔法省の長官になりすましたグリンデルワルドに協力するも、自分がコントロールできないほどの魔力オブキュラスを持っていたことを知り、再び生みの親を探していました。
自分は何?というアイデンティティを失なったものほど弱いものはないという精神状態に、再びグリンデルワルドの催眠術のような言葉が彼を突き動かします。
クリーデンスが実は、真の“黒い魔法使いの誕生”かもしれません。
そして主人公のニュートも同じようなジレンマを抱えたままです。
出来のいい兄テセウスと比べられ変わり者だと前作にも描かれてありましたが、今回テセウスの登場でその様子が更に浮き彫りになっています。
そうした変わり者の扱いに加え、ニューヨークで大騒動を起こした問題児そして自分のしたい魔法動物の調査研究の渡航も禁止されています。
それもこれも魔法省の掟が原因です。
ところがグリンデルワルドの「自由への道」の演説を聞こうが彼は信念を曲げません。
ダンブルドアは、ニュートのことを誰よりも理解しています。
「私がなぜ君を評価しているのかわかるかい?」とダンブルドアはニュートに話しかけると「それはニュート、君が力を求めないからだ」と続けます。
だからこそ「グリンデルワルドに勝てるのは、君しかいない」と言い切ります。
つまり、誰にも屈せず自分自身でいることができ、周囲から外敵のように扱われている魔法動物を大切に守るのも、弱い立場にいるものに慈しみの心を持つことができるからだという思いを温かい眼差しで伝えています。
今の世界に当てはまるような現状やニュース、自分を取り巻く様々な矛盾した環境に自分の弱さや脆さを感じ震える時、ニュートのように自分自身でいることができるのかというメッセージを、この映画から感じることができます。
登場人物の誰かに心を重ね、ニュートとともにホグワーツ、そしてパリへと魔法旅行へ旅立ってみませんか。