スピルバーグ映画の代表作にして、改新的な劇場映画第1作『続・激突!カージャック』
スティーヴン・スピルバーグ監督の初期の代表作といえば、16日間で撮影を行ったテレビ映画『激突!』(1971)が高い評価を得たことは、あまりにも有名。
その後も、劇場用映画として追加撮影がされ、フランスで開かれた第1回アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞するほどの話題作となりました。
その後、スピルバーグの劇場映画第1作となったのが、『続・激突!/カージャック』です。
邦題タイトルは『激突!』のヒットにあやかりたいと、誠意の感じられない残念なものではありますが、その内容に全く異なる斬新な作風を見せた風格にある作品、それが『The Sugarland Express(原題)』です。
1974年当時、アメリカン・ニューシネマ後期から新時代の幕開けを感じさせる隠れた名作であり、時代感覚を先取りした渾身の一作。スピルバーグ監督を知るうえで、見逃すことができない重要な1本をご紹介します。
映画『続・激突!カージャック』の作品情報
【公開】
1974年(アメリカ映画)
【原題】
The Sugarland Express
【監督】
スティーヴン・スピルバーグ
【キャスト】
ゴールディ・ホーン、ベン・ジョンソン、マイケル・サックス、ウィリアム・アザートン、グレゴリー・ウォルコット
【作品概要】
1969年に実際に起きた事件を基に、若い夫婦が里親に出された息子を取り返すため、成り行きで罪を犯して警察から逃走を試みるヒューマンなロードムービー。
演出はテレビ映画『激突!』で評価をあげたスティーヴン・スピルバーグ。脚本はハル・バーウッドとマシュー・ロビンス、音楽はジョン・ウィリアムスが担当。
映画『続・激突!カージャック』のあらすじとネタバレ
社会福祉協会によって母親としての親権なしと判断され、裁判所に生まれたばかりの息子ラングストンを取り上げられてしまったルー・ジーン・ポプリン(ゴールデン・ホーン)。
彼女は軽犯罪でテキサス州立刑務所に収監されている夫クロヴィス(ウィリアム・アザートン)の面会に訪れました。
シュガーランドで里子へ出された息子ラングストンを奪還するため、夫を脱獄させ、一緒にシュガーランドへ向かう計画を持ちかけます。
4カ月後に出所を控えていたクロヴィスは脱走に躊躇して反対をしますが、ルー・ジーンに離婚を切り出されていたことで、渋々ながら計画に付き合うことを決めます。
脱獄が成功し、刑務所を出た2人は、囚人仲間であるヒューバーの両親ノッカー老夫妻の自動車に同乗してシュガーランドに向かいます。
しかし、自動車があまりにオンボロなことと、運転するノッカーが高齢なこともあって低速度運転の交通違反を起こしてしまい、若いスライド巡査(マイケル・サックス)のパトカーに呼び止められてしまいます。
このままでは脱走がバレたと思ったルー・ジーンは自動車を奪い、カージャック。シュガーランドへの逃走を開始します。
スライド巡査は近隣のパトカーに応援要請を掛けて2人を追跡しますが、2人の乗った乗用車が林に突っ込み故障してしまいます。
ルー・ジーンはスライド巡査を人質として誘拐し、パトカーを奪い取り、さらにシュガーランドを目指します。
3人の乗るパトカーは巡回中の別のパトカーに発見されてしまい、その報告を受けたタナー警部(ベン・ジョンソン)は、パトカーで追跡を開始します。
しかし、スライド巡査が人質になっていることや、息子を取り戻したいというルー・ジーンの犯行理由を知ったタナー警部は、手荒な強硬策が取れないでいます。
タナー警部は3人の乗るパトカーを後方から追跡するにパトカーを留め、そこへ次々にテキサス中のパトカーが合流し、さらに騒ぎを聞きつけた、野次馬たちが集まり、地元ラジオ局やテレビ局のマスコミが駆け付けたことで、事件は大きく報道されていきます。
警察側は3人がドライブスルーで休憩中の2人を狙撃しようとしますが、若い夫婦に感情移入をしてしまったタナー警部が狙撃の中止指令。逃走はまたも成功しました。
やがて、逃走する中で、行動を共にするスライドも人間として、ルー・ジーンとクロヴィスの2人に感情を持つようになって生きます。
映画『続・激突!カージャック』の感想と評価
「実話」を劇場映画第1作にする
スティーヴン・スピルバーグ監督の劇場映画第1作となる『続・激突!/カージャック』は、実話を基にした作品です。
1969年3月テキサスで起きた事件をモチーフに作られており、刑務所に入っていた囚人のロバート・サミュエル・デントを、その妻であるイラ・フェイの助けを得ることで脱獄に成功。その後、逃走途中で州警察のパトカーをジャックしてローンスター国道300マイル(約483キロ)に渡り、逃走した事件でした。
これは本作の劇中でも描かれていたように、連日マスコミで報道され大きな話題となったそうで、数百台のパトカーを従えて逃げたデント夫妻は、国民的な人気者になったことも忠実に描いています。
まさに映画で描かれた内容と同じであり、この事件についてスピルバーグ監督は、いつの日か映画化したいと考えていたようで、新聞記事はすべてファイルに入れ、デスクの引き出しに保存していたそうです。
本作の制作予算は180万ドルで行い、準備期間には3カ月を要しました。また、クランクインは1973年1月8日から行われ、ロケ撮影はテキサスで60日間で行われ、なるべく事実に忠実に、スピルバーグ監督の意志が尊重されていたそうです。
彼が演出を務めた作品群の中で、SFファンタジー作品のみならず、実話を映画化した作品は、『シンドラーのリスト』(1994)、『アミスタッド』(1997)、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002)、『ミュンヘン』(2004)、『リンカーン』(2017)があるのも、本作『続・激突!カージャック』が原点にあることから考えれば頷けることでしょう。
まとめ
映画『続・激突!カージャック』は、その以前の作品となる『激突!』(1971)というサスペンス映画の秀作とは、一線を引いたヒューマンドラマとなっています。
スピルバーグ監督は、カージャック犯の若い夫婦と人質の若い警察官に焦点を当てることで、3人のキャラクターを演じる俳優陣のゴールディ・ホーン、マイケル・サックス、ウィリアム・アザートンの持ち味を活かしました。
特にゴールディ・ホーンについては、「最初の映画を撮るぼくにとって驚くべき女優だった。彼女は完全に協力的で、数えきれないほどの名案を出してくれた」と監督自身が語っています。
また、この作品は、それ以前の結末に絶望的な死を描いてきたアメリカン・ニューシネマとも、異なる特徴が見て取れます。
確かに劇中では、ウィリアム・アザートンが演じた夫クロヴィスは、背後から狙撃手に撃たれたことで命を落とします。この点だけ見ると悲劇的でニューシネマ的でもあります。
しかし、全体的に横たわるユーモアとセンスは絶望的なだけでなく、マイケル・サックス扮する人質となったスライド巡査という観察者を通して、何か時代の変化、幕開けの兆しを感じるのではないでしょうか。
スピルバーグ監督曰く、「女は無邪気でバイタリティー溢れるヤンキー気質。重要なのは2人の男だ。2人は同じ街で育ったのにやがて違う道を歩み始める。ひとりは法と秩序の道へ、もうひとりは悪の道へと歩みを変えたのだ。でも再び出会った2人はお互いに自分にないものを見つけ出す」。
2人の男がそれまで1960年代後半から70年代前半までに描かれていた、ニューシネマの人物から、少し一歩踏み出したように感じるのは決して気のせいではない。その事実は本作『続・激突!カージャック』を見れば、すぐに理解ができることでしょう。