A24映画『ラスト・ブラック・マン・イン・サンフランシスコ』をいち早く紹介!
映画『ラスト・ブラック・マン・イン・サンフランシスコ(原題:The Last Black Man in San Francisco)』は、サンフランシスコ出身のジミー・フェイルズと幼友達ジョー・タルボットが制作したフェイルズの自伝的ストーリー。
急激に変貌を遂げた地元サンフランシスコへの郷愁溢れる地元愛を描いています。
プランBエンターテイメントとA24がタッグを組み、アメリカで反響を読んだ作品。
CONTENTS
映画『ラスト・ブラック・マン・イン・サンフランシスコ(原題:The Last Black Man in San Francisco)』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
The Last Black Man in San Fancisco
【監督】
ジョー・タルボット
【キャスト】
ジミー・フェイルズ、ジョナサン・メジャース、ダニー・グローヴァ―、ティチーナ・アーノルド、ロブ・モーガン
【作品概要】
監督を務めたジョー・タルボットは、友人ジミー・フェイルズの個人的物語を映画化しようと計画。当時サンフランシスコに在住し『ムーンライト』(2017)の撮影前だったバリー・ジェンキンスから執筆した脚本の草案に対するアドバイスを貰います。
短編映画『American Paradaice』を製作しサンダンス映画祭へ出品した際、プランBエンターテイメントが着目。
『ラスト・ブラック・マン・イン・サンフランシスコ(原題 The Last Black Man in San Francisco )』は、2019年サンダンス映画祭で監督賞と審査員特別賞を受賞。
映画『『ラスト・ブラック・マン・イン・サンフランシスコ(原題:The Last Black Man in San Francisco)』のあらすじとネタバレ
ジミー・フェイルズは、親友・モンゴメリー(モント)の家に居候中。子供時代にジミーが家族と住んだフィルモア地区に在る家へ、モントと一緒に訪れます。そこは、以前「西のハーレム」と呼ばれる黒人の居住区でした。
門からヴィクトリア様式の建物を見つめ、住人が居ないことを確かめながら、ジミーは、モントに見張りを頼んで敷地内へ入っていきます。
外から窓枠のペンキを塗り直していると、白人の住人が帰宅。妻は、自分の家を修復するのをいい加減にやめて欲しいと怒ります。
ジミーは、もう少しで終わると言いますが、女性は警察を呼ぶとかんかん。一緒に居た夫は、警察など呼ばないと妻をなだめ穏便に済ませようとします。
女性が買って来た食料品を投げつけ、すぐ敷地から出ろと怒鳴り、ジミーはようやくペンキ塗りを中断。
見張りを怠ったモントに文句を言いながら、ジミーは退散。2人は一向に来ないバスを諦め、ジミーのスケートボードに二人乗りして坂道を利用しながらモントの家へ戻ります。
モントは、汚れた海水が溜まる船着き場で、以前から続けていた戯曲を書き進めます。
ある日、ジミーとモントが再びフィルモア地区の家へ行くと、引っ越し業者のトラックが駐車しています。
業者の話では、住人の母親が亡くなり、家の所有権を巡り姉妹間で紛争中だと言います。
ジミーとモントは地元の不動産屋を訪問。決着するまでに何年も要し、その間家は無人になってしまうと聞かされます。
ジミーは、チャンスとばかりに生まれ育った家へ忍び込みます。はしゃいで階段を駆け上がり、つまずいて転倒。
怪我をした口から血を流すジミーの表情は感無量。そこへ、人を引きつれて通り掛かった男性が、建築された家の沿革を説明しているのをジミーは聞きつけます。
男性は、1850年代に建てられたと言いますが、ジミーは、1940年代に自分の祖父が建てたと割って入ります。
時代が違うと言い返す男性に対し、ジミーは、祖父が世界第二次世界大戦中に移り住んで土地を購入。窓やバルコニー、そして、とんがり屋根も全部祖父が建築したと説明します。
屋根裏に上がり、床に寝そべって宙を見つめると、ジミーの目にはとんがり屋根の中心を通し、太陽の光が見えます。
暖炉の火にあたりながら、モントはジミーに美しい家だと感嘆の言葉を漏らします。
ジミーはモントを連れて郊外に住む伯母のワンダを訪問。サンフランシスコ市内に部屋を借りたと作り話をしたジミーは、以前父親と一緒に住んでいた時に使っていた家具をまだ保存しているか尋ねます。
ワンダから家具一式を譲り受け、従弟のトラックでフィルモアへ運んでもらい、家へ運び込みます。夜になり、ジミーは、犬を散歩させる隣人に引っ越しの挨拶。
ジミーに広い家を使って芝居をやれと言われたモントは、その気になり自宅近くでいつもたむろしているグループに声を掛け、自分が書いた戯曲のリハーサルを始めます。
ある晩、モントは、そのグループの1人で友人のコフィをフィルモアの家へ招きます。
家について尋ねたコフィに、モントは、サンフランシスコへ来た最初の黒人と異名を持つジミーの祖父が建てたと説明。
ジミーは、ニューオリンズから移って来た祖父の前は、開戦後に強制収容所へ連行された日本人が住んでいた土地だと補足。
コフィは、自分にもそんな祖父が居ればと羨ましそうにコメント。
しかし、翌日、モントの祖父の家から本格的に荷物を運び出すジミーとモントに対し、コフィは辛辣な言葉を浴びせます。
ジミーとモントがフィルモアの家へ帰ると、そこには元住人の女性が来ていました。鍵を換えられて入れないと階段に座って女性が嘆きます。
映画『ラスト・ブラック・マン・イン・サンフランシスコ(原題:The Last Black Man in San Francisco)』の感想と評価
アメリカのあちこちで進むジェントリフィケーション。2019年に公開された『ブラインドスポッティング』でも、カリフォルニア州オークランドに押し寄せる再開発を取り上げています。
代々住んだ家を失った上、急激に進む街の再編で低所得者層の黒人住民が一定の地区へ追いやられる現状が各地で起こり、以前の面影さえ残らない街の変貌を目の当たりにする地元住民は危機感を抱いています。
ネットワーク機器世界最大手のシスコシステムやグーグル等巨大企業が本拠地を構えるサンフランシスコ。
街には白人の高所得者が増加し、土地価格は上昇。以前はハーレムと呼ばれたサンフランシスコのフィルモア地区に白人が流入し、長く居住していた黒人は移らざるを得ませんでした。
しかし、『ラスト・ブラック・マン・イン・サンフランシスコ』が物語るのは、人種間の摩擦ではなく、サンフランシスコに生まれ育ったジミー・フェイルズの街に対する地元愛。
本作の主人公・ジミーは、以前家族で暮らした家を保存したいが為に、現在の住人に隠れてペンキを塗って修繕します。
激変した街に自分の居場所を失ったジミーのささやかな抵抗であり、過去の思い出を失うことは、自分のアイデンティティを失うことと同じなのだと本作は物語ります。
劇中、サンフランシスコに幻滅して去っていった若い女性2人とジミーがバスの中で会話をする場面があります。
街を死んでいると揶揄し、大嫌いだと言う女性に、ジミーは、「憎むのは愛情があればこそ」と指摘。何も保全せず壊すだけの都市開発は住民の心を傷つけていることを描写しています。
主人公ジミー・フェイルズを演じるのは、ジミー・フェイルズ本人で、彼の個人的なストーリーを基に10代からの友人であり本作の監督を務めたジョー・タルボットが脚本を共同執筆。
2人とモントの祖父を演じたダニー・グローヴァ―も皆サンフランシスコ出身。
タルボットとフェイルズは、5年掛けて、ようやく『ラスト・ブラック・マン・イン・サンフランシスコ』の製作に漕ぎ着けました。
転機は、2017年に製作した短編映画『American Paradise』。サンダンス映画祭に出品後話題になり、ブラッド・ピットが代表を務め数々の良作を世に送り出した映画製作会社プランBエンターテイメントの目に留まります。
『アド・アストラ』(2019)の撮影現場へ招かれたタルボットは、同社のジェレミー・クライナーから正式に本作の製作を了承されたと経緯を明かしています。
撮影終了から1年経過後、ロケに使った場所もすっかり様変わりしたと肩を落とす2人。
『ラスト・ブラック・マン・イン・サンフランシスコ』は、オペラのアリアを美しい声で歌うホームレスの男性や色鮮やかなグラフィティ等、芸術性溢れる街の側面も捉え、タルボットとフェイルズが愛してやまないサンフランシスコを納めています。
まとめ
本作の監督ジョー・タルボットと主人公ジミーを演じたジミー・フェイルズは、サンフランシスコで“おしゃれ”な場所として知られるミッション/バーナル地区出身。
『ラスト・ブラック・マン・イン・サンフランシスコ』は、再開発で過去の姿を失った地元へのラブストーリーです。
「たくさんの思い出が詰まった家をそのまま保存したい」自分の存在まで否定されるような脅威を感じたジミーの姿は、ジェントリフィケーションに疑問を持つ多くの観客から反響を呼んでいます。
故郷の古き良き姿を保全する必要性を訴えるドラマ映画。