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Entry 2019/01/28
Update

映画『天才作家の妻 40年目の真実』ネタバレあらすじと感想。グレン・クローズが演じた夫婦の絆

  • Writer :
  • 西川ちょり

ベテラン女優グレン・クローズが夫婦の絆に見た人生の意味とは?

世界的に著名な作家と彼を支える妻。ノーベル文学賞受賞を機に、二人の関係は静かに揺らめき始める。栄光の影に隠された秘密とは!?

グレン・クローズ&ジョナサン・プライス主演『天才作家の妻-40年目の真実-』をご紹介します。

映画『天才作家の妻 40年目の真実』の作品情報


(C)META FILM LONDON LIMITED 2017

【公開】
2019年(スウェーデン、アメリカ、イギリス合作映画)

【原題】
The Wife

【原作】
The Wife (Meg Wolitzer)

【監督】
ビョルン・ルンゲ

【キャスト】
グレン・クローズ、ジョナサン・プライス、クリスチャン・スレイター、マックス・アイアンズ、ハリー・ロイド、アニー・スターク、エリザベス・マクガバン

【作品概要】
権威あるノーベル文学賞を受賞した作家と妻の揺らめく関係を描いた濃厚な心理劇。作家にジョナサン・プライス、その妻にグレン・クローズが扮している。

監督はスウェーデンの名匠ビョルン・ルンゲ。グレン・クローズは本作で第91回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。

映画『天才作家の妻 40年目の真実』のあらすじとネタバレ


(C)META FILM LONDON LIMITED 2017

米コネチカット州。現代文学の巨匠として名高いジョゼフ・キャッスルマンと妻ジョーンがまだ深い眠りの中にいた時、電話が鳴り響きました。

スウェーデンからの国際電話でした。「今年のノーベル文学賞はあなたに決まりました」

吉報を受け、ジョゼフとジョーンはまるで子供のようにベッドの上で飛び跳ね、喜びを爆発させます。

自宅で開いたパーティーには、身重の娘や駆け出しの作家である息子、友人、教え子らが顔をそろえ、受賞を祝いました。

ジョゼフはスピーチで最愛の妻に感謝の意を述べます。満面の笑みを浮かべて寄り添う二人は深い絆で結ばれているようでした。

ストックホルムでの授賞式に出席するため、息子を連れ、飛行機に乗っていた二人のもとに、ナサニエルというライターが挨拶にやってきます。

ジョゼフは彼に無礼な態度を取り、ジョーンは「敵に回したらダメ! へんに恨まれたらどうするの」と彼を戒めます。

ホテルに到着すると大勢の人が彼らを出迎えました。ジョゼフ、ジョーンには、それぞれ付き人がつき、リネアという女性カメラマンが密着することとなりました。

ジョゼフとジョーンは、1958年スミス大学で出逢いました。ジョゼフ・キャッスルマンは若い大学教師で、ジョーンは小説家志望の女子学生でした。

ジョゼフはジョーンの才能を認め、さらに、女性として好意を寄せていました。彼は既婚者でしたが、妻とはうまくいっておらず、ジョーンも次第に彼に惹かれて行きます。

ある日、作家として書籍も出したことがある女性教師の講演があり、ジョゼフは彼女にジョーンを紹介しました。

「作家になりたい」とジョーンが言うと、女性は「無理ね」とすげなくいい、出版の世界は男社会で、女が本を出しても誰も読んでくれない、やめておきなさいと忠告するのでした。

ストックホルムでの忙しい毎日に、ジョゼフは明らかに興奮気味で、少し調子に乗ってさえいました。

ジョーンは息子が発表した短編小説を絶賛し、あなたは才能があるわ、と褒めますが、父は、感想も言わず、半人前扱いをやめません。

「父親が偉大すぎるのよ。あなたに認めてほしいの」とジョーンは言いますが、ジョゼフは聞く耳を持たず、息子は次第に不機嫌になっていきます。

疲れて眠ってしまったジョーンがふと目が覚ますと、夫が部屋にいません。心配して、あちこち探し回ると、夫はラウンジで甘い物を口にしていました。

そばにはカメラマンのリネアがいて、夫は彼女に詩を披露していました。それはジェイムズ・ジョイスのもので、ジョーンもかつて聞かされたものでした。

ジョーンが見ているのに気付いたリネアはその場を離れていき、夫はむしゃむしゃと菓子を食べ続けていました。「私達は何をしているの?」とジョーンは夫に問いかけずにはいられませんでした。

翌朝、夫の世話に疲れたジョーンは、一人でストックホルムの街にでかけますが、飛行機で会ったたナサニエルに声をかけられます。

彼は彼女を19世紀からある正統派のバーに誘いました。

ナサニエルはジョゼフに関する本を書くことになったと告げ、ジョーンに質問を始めます。

ジョゼフには様々な醜聞がありましたが、そのことを聞かれても、ジョーンは笑顔でいなしました。

ナサニエルはジョーンが学生時代に書いた『教授の妻』という小説も読んでいて、褒めそやします。

「どうして小説家になることを諦めたのですか?」と問われ、「そういう時代ではなかったの」と応えると「小説家になった女性は少なからずいました」とナサニエルは応えました。

「向いていないと思ったのよ。夫は勧めてくれたけれど私自身が望まなかったの」

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『天才作家の妻 -40年目の真実-』ネタバレ・結末の記載がございます。『天才作家の妻 -40年目の真実-』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
ナサニエルはジョゼフの若い頃の作品に話を移し、二流小説だったと酷評します。

「若い頃の作品だからまだ未熟だったのよ」とジョーンが言うと、彼は『教授の妻』のほうが今のジョゼフの作風につながるものですと指摘します。

さらに「あなたはジョゼフにうんざりしているのでは?彼の影でいることに」とたたみかけて来ました。ジョーンは「すごい想像力だわ」と笑顔を見せると席を立つのでした。

その頃、ジョゼフは授賞式のリハーサルに出席していましたが、途中で気分が悪くなり、退出します。

リネアがついてきて、二人は怪しい雰囲気になりますが、キスしようとした時、薬を飲むためにセットしていた時計が鳴り、ジョゼフは彼女を立ち去らせます。

帰宅が遅いとジョゼフに注意され、まだ四時よ!と言い返すジョーン。リネアのことで揉め、激しく言い争う二人でしたが、娘から長距離電話がかかってきます。

無事に出産したという連絡でした。電話口で泣いている赤ん坊の声に耳をすまし、感動した二人は、喧嘩なんてしてる場合ではないわ、と互いに微笑み合うのでした。

いよいよ授賞式当日となり、夫婦は息子がやってくるのを部屋で待っていました。時間より遅れてやってきた息子が酒臭く、大麻の匂いがすることに気がついたジョゼフは激怒します。自分の晴れ舞台を壊そうとしていると。

しかし、これには理由がありました。昨晩、息子はナサニエルに呼び止められ、「父親に劣等感を感じる必要はない。天才なのはもうひとりの方だ」と言われたというのです。

ジョーンは、それは記者の妄想だと否定しますが、息子には心当たりがありました。「いつも母さんは何時間もこもって何をしていたの!? 父さんは小説の主人公の名前すら忘れているじゃないか!」

1960年。出版社でお茶くみをしていたジョーンは、編集者たちが才能のある若いユダヤ系作家を探しているのを耳にし、「心あたりがあります」とジョゼフを紹介します。

ジョゼフは喜び、小説を書き上げますが、それはジョーンを失望させる内容でした。

正直に感想を言うと、ジョゼフは怒り出し、このまま一生安月給の教師に甘んじないといけないのか、二人の関係ももう終わりだと口走りました。

「私を捨てないで」とジョーンは言い、物語の枠組みはいい、でも登場人物が生きていないし、台詞も固すぎる、私なら直すことができるとジョゼフに提案します。

ジョーンが書き上げた小説は絶賛され、出版されることになりました。二人は手をとりあってベッドの上ではねて喜びを分かち合いました。それがジョゼフ・キャッスルマンのデビュー作『くるみ』でした。

ノーベル賞授賞式でメダルを受け取ったジョゼフはスピーチのすべてをジョーンへの感謝に費やしました。

スタンディングオベーションで讃えられるジョゼフでしたが、ジョーンは逃げるように会場を去り、ジョゼフもあわてて後を追いました。

ホテルに戻ったジョーンは「もう、無理。離婚したい」と叫び、「本気か?」と問いただすジョゼフに「傷ついたフリをしないで。ありえないもの」と痛烈な一言を発しました。

君だけが苦しんだと思ったら大間違いだ、私だって苦しかったのだとジョゼフは言い、二人はたまりにたまった心情を吐き出し、激しく口論し始めました。

女性関係をなじられたジョゼフはそれもこれも苦しみから逃れるためだったと言い訳し、ジョーンは、あなたが泣いて謝る度、それを許し、私はこの悲しみを、この苦しみをどう文学にすればよいか、そればかり考えていたと告白するのでした。

彼女が荷造りを始めると、ジョゼフは急に苦しみ始めました。あわててジョーンは彼を介抱しますが、彼はベッドに倒れたまま動けません。

電話で助けを呼んだジョーンにジョゼフは尋ねました。「私を愛しているか?」

「勿論愛しているわ」と応えるジョーンにジョゼフは「本当か? 何を考えているかわからない」とつぶやき、そのまま動かなくなりました。

救護の人々がやってきますが、彼が息を吹き返す事はありませんでした。

アメリカへ戻る飛行機の中、キャビン・アテンダントの女性がお悔やみにつづいて言いました。

「行きのフライトも私が担当させていただきました。これまでたくさんのご夫婦のお世話をしてきましたが、お二人を拝見して思ったのです。特別な絆だと」。

そして「ナサニエルさんがお話をしたいとおっしゃっていますが、お断りしますか?」と問う彼女に「来てもらって」とジョーンは応えました。

お悔やみを言うナサニエルにジョーンは言うのでした。「あなたの憶測は事実ではないわ。夫の名誉を傷つけることがあれば訴訟します」。ナサニエルはすごすごと席に戻っていきました。

ジョーンは隣に座っている息子に向かって言いました。「家に帰ったら、姉さんも呼んで、本当のことを話して上げる」

息子は静かに頷きました。

映画『天才作家の妻 -40年目の真実-』の感想と評価


(C)META FILM LONDON LIMITED 2017

ノーベル文学賞を受賞するほどの作家の著作が妻による代筆だった、という話の骨格だけを聞けば、スキャンダラスな少々下世話な内容を想像しがちですが、本作は非常に文学的で格調高い濃密な作品となっています。

もっとスリリングなエンターティンメントにすることも出来たでしょうが、さすがに文学の最高賞、ノーベル文学賞を背景にしているだけあって、“文学”、“小説家”への敬意を忘れていません。

この作品を読み解くのに重要な要素が2つあります。一つはずばり「小説」「文学」「作家」にまつわるもの、もう一つは、「結婚」「夫婦」「家族」に関することです。

映画はノーベル文学賞授賞式に臨む作家とその妻の動向を追いますが、1950年代、60年代の、彼らの若かかりし時代のエピソードが時折、挿入されます。

今や偉大なノーベル賞作家となったジョゼフは文学を教えるハンサムで長身の大学教授。妻のジョーンは小説家志願の美しい女学生です。

ジョゼフが、生徒たちに小説は書き続けなければならない。何度不採用になろうとも、と語るシーンがありますが最近同じような言葉を別の映画でも耳にしました。

『ライ麦畑でつかまえて』の著者、J・D・サリンジャーの生涯を描いた『ライ麦畑の反逆者 ひとりぼっちのサリンジャー』(2017/ダニー・ストロング)です。

この作品で、サリンジャーを受け持った教師が、上記と同様のことを言うのです。さらに彼は問います。「君は何の見返りがなくても小説を書き続ける覚悟があるか」と。

そういう意味で、本作に登場するグレン・クローズ扮するジョーンは“小説家の中の小説家”と称することが出来るでしょう。

50年代、60年代初頭の出版業界は男性社会で、女性作家というだけで敬遠され、女性作家の小説は売れないとされていました。

そんな中、ジョーンはジョゼフに恋をしてしまいます。女性作家として成功するのが困難だと言われている時代に、恋する女性が採る道はどのようなものがあったでしょうか?

当時のアメリカ社会は、結婚した女性は家を守ることが常識とされていました。勿論、男性社会の中で孤軍奮闘した女性もいないわけではありませんが、才能も実力もある女性が夢を諦めて家庭に入ったケースは多かったのでは?

今でこそ愛もキャリアもという選択は可能になりましたが、当時はかなり難しいものだったと想像できます。

ジョーンもまた一旦は夢を諦め恋を選んだのではないでしょうか。しかし、ジョゼフの不出来な作品を見て、私なら書ける、私なら直せるという文学魂が、むくむくと湧き上がり、書かずにはいられなかったのです。

終盤、感情が爆発し、夫婦は激しい言い争いをしますが、その中で、夫の女性関係に傷つき、そのたびに、この感情をどう現すか、いかに書くかということを繰り返してきたとジョーンは告白します。

それこそ、作家の“業”であり、彼女が生まれながらの小説家である証明と言えます。

女性の社会進出の難しさと芸術家魂のいびつで複雑な関係の一つの形がここに顕にされているのです。

ではジョーンに功名心はなかったのでしょうか? 

ないとはいえないでしょう。終盤、感情を爆発させるシーンでは本音が見られます。

しかし、記者が彼女に尋ねたように、自分を「影」と思い、夫を疎ましく思っていたのでしょうか? 

勿論、彼女は今の生活に完全に満足していたとは言えないでしょう。社会における不公平に不満もあったでしょう。秘密を守る負担もあったでしょう。

しかし、夫を愛していたことだけは間違いなかったのではないでしょうか。そもそも彼女が代筆したのは夫に成功してほしい、彼を喜ばせたいという動機があったことを忘れてはいけません

本作は、決して利益だけで結ばれた仮面夫婦の話ではありません。二人の間には列記とした「愛」があったのではないでしょうか。複雑で重厚な男女の関係がそこには描かれています。

また、本作は非常によく出来た家庭劇でもあります。夫婦間のわだかまり、親子(特に父と息子)の確執など、普遍的なものとして見ることができます。

ジョナサン・プライス扮するジョゼフは、常に食べ物を口にしていて、凛とした気品のあるジョーンと比較すると、品のなさが目立ちます。

妻に依存しており、まるで大きな子供のようにも見え、少々作り手の悪意も感じるほどですが、寧ろ、人間としての弱さが見えて、悪い人間ではないことが伝わってきます。

ジョーンを自らの名誉のためにゴーストライターとしてつなぎとめておきたいという、強欲さや狡猾さはあまり見られず、寧ろ、ジョーンが望んだように、堂々と作家面することに引き目を感じ、苦しんだ人なのでしょう。

何より「書く」という作家のなすべきことを失ってしまった人でもあります。女性関係にだらしないのも、一種の逃避だったと自ら言い訳しています。

二人はまさに“特別な絆”で結ばれた特別な夫婦でした。二人の間に流れる真実の感情は彼らにしかわからないものでしょう。

その一方で、彼らはどこにでもある普遍的な夫婦にも見えます。彼らの巻き起こす修羅場は、なんだか身近な、日常的なものを感じさせるのです。

どの夫婦でも多かれ、少なかれ、愛し、憎み、修羅場を演じ、また愛してを繰り返しているのではないでしょうか。

デヴィッド・フィンチャーの『ゴーン・ガール』(2014)で、ロザムンド・パイク扮する妻が「これが結婚よ」という台詞を吐き、既婚者の多くを震え上がらせたものですが、『天才作家の妻 40年目の真実』もまた、「これが結婚だ」と言っているかのようです。

まとめ


(C)META FILM LONDON LIMITED 2017

妻のジョーンを演じたグレン・グローズは本作で第91回アカデミー賞、主演女優賞にノミネートされました。

オスカーには過去六回ノミネートされていますが、惜しくも受賞には至っていません。今回、この“ノーベル賞作家の妻”役で受賞できるか、非常に注目されています。

アカデミー賞の前哨戦となる第25回アメリカ映画俳優組合賞(SAG)では主演女優賞を受賞しました。

本作は、メグ・ウオリッツアーの小説『The Wife』を原作としていますが、原作ではフィンランドの文学賞を受賞するという設定であるのに対して、映画はノーベル賞を舞台としています。

それにより、ノーベル賞の授賞式をリアルに味わっているような面白さがあります。実際のところはかなりリサーチして再現した部分と、オリジナルの部分が共存しているそうです。

監督は、スウェーデンの映画監督、ビョルン・ルンゲ。スウェーデンでは映画監督だけでなく舞台監督としても名声を確立していますが、日本では本作が初公開となります。

グレン・グローズとジョナサン・プライスという名優とともに、芸術と愛が織りなす複雑で重厚な物語を作り上げました。

二人の俳優の若き日々を演じるハリー・ロイド、アニー・スタークも素晴らしく、今後の活躍が注目されます。

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