次世代女優キム・ファンヒと[EXO]スホが共演!
自己肯定感0%の少女を通して描かれる生きることの辛さと、素晴らしさを描くヒューマンドラマです。
韓国映画『飛べない鳥と優しいキツネ』をご紹介します。
映画『飛べない鳥と優しいキツネ』の作品情報
【公開】
2018年(韓国映画)
【原題】
여중생A/Student A
【原作】
ウェブ漫画「Student A」(Heo5Pa6)
【監督】
イ・ギョンソプ
【キャスト】
キム・ファンヒ、スホ(EXO)、チョン・ダビン、イ・ジョンヒョク、ユ・ジェサン、チョン・ダウン、キム・ヒョンビン
【作品概要】
韓国の人気ウェブ漫画「女子中学生A」を実写映画化。主人公の女子中学生ミレ役に『哭声/コクソン』で悪霊に取り憑かれた少女を演じたキム・ファンヒ、友人ジェフをK-POPグループEXOのリーダー、スホが演じている。
孤独で家にも学校にも居場所がない少女がネット上の友人と出逢い、徐々にたくましく成長していく姿を描く。
映画『飛べない鳥と優しいキツネ』のあらすじとネタバレ
小説を書くことが大好きな女子中学生のチャン・ミレは学校では友達もなく、いつもひとりぼっちで、家に帰ると、酒を飲んでは暴力を振るう父に怯える日々を送っていました。
オンラインゲーム「ワンダーリング・ワールド」のゲームの世界が彼女の逃げ場でした。彼女は弓使いのダークになりきり、ゲームの世界にのめり込んでいました。
そんなある日、クラス委員で、いつもクラスの女子の中心グループにいるイベカップという生徒がミレに近づいてきます。
彼女も小説を書いていて、コンクールで一等賞をとったのですが、奨励賞をとったミレに関心をもったのです。
彼女はミレの書いている小説を熱心に読み、素直な感想を聞かせてくれました。
体育の授業でペアを組むときも、イベカップはミレを選んでくれて、ミレも次第に心を許していきます。
ミレには気になる男子生徒がいました。同じ図書委員のテヤンです。彼は他の生徒のようにミレを避けたり無視したりせず、自然に接してくれるのです。
家庭科の調理実習の班が発表され、ミレはイベカップとテヤンと同じグループになりました。
イベカップと仲が良く、最近のイベカップの行動に不満を持つチャン・ノランも一緒の班でした。
イベカップの家に集まり、予行演習を始めた彼女たちでしたが、ノランは自分では何もせず、いらいらしながら指示ばかり出していて、挙げ句にミレは彼女のせいで火傷してしまいます。
イベカップはすぐさまミレを自分の部屋に連れていき、手当をしてくれました。家に帰っても治療できるようにクスリまで渡してくれるのでした。
テヤンは授業で観た映画『ドラムライン』の影響でドラムを習い始め、皆が憧れている「バンド」部から入部を誘われ、一躍人気者になります。
ミレは彼が遠い存在になるかもしれないとヤキモキしますが、テヤンは変わらず今まで通りミレに接してくれ、弘大(ホンデ)に遊びに行こうと誘ってくれました。
一方、イベカップは厳格な父から友達を連れてきたことをなじられ、小説など書かずに勉強しないとソウル大学にいけないぞと叱られていました。母親が、コンクールで特賞を取れば進学にも有利だわと言うと父はいらない知恵を授けるなとまた怒るのでした。
テヤンはミレの小説を読んで、よくできていると褒めてくれました。コンクールに出せば?と言う彼に「でもまだ完成していないの」とミレが応えると、「このままでいいんじゃないかな、無理に結末を出さなくても」と彼は言います。
そんな矢先、「ワンダーリング・ワールド」の配信の終了のお知らせが届きます。まだしばらく期間はあるもののミレにとってはショックなことでした。
イベカップが「小説の続きはどうなった?」と声をかけてきました。「実はあれ、コンクールにだしたの」とミレが応えると、イベカップは血相を変えて「どうして? 出さないって言ったでしょ!」とミレを責め始めました。
さらに悪いことには、テヤンはイベカップのことが好きだったらしく、イベカップに誘われたことで有頂天になり、ミレとの約束を破って彼女と帰ってしまいました。
そんなある日、担任が烈火の如く怒って教室に入ってきました。ミレとイベカップがまったく同じ小説をコンクールに出したとはどういうことだ!と二人を問い詰めます。
担任ははなからミレが盗作したのだと決めつけていました。テヤンなら本当のことを知っているのに、とミレは思いますが、彼は黙ったきりです。
イベカップはミレがコンクールに出さないと思い、ミレの作品を自分の作品と偽って投稿したのです。しかし彼女は絶対認めようとしませんでした。
ミレは盗作したことにされ、クラスの女子からひどいイジメを受けるようになりました。
ミレは登校できなくなり、ゲームにのめり込んでいました。
ゲームで巨大な森の守護神に弓をひいたダーク(ミレ)でしたが、結局彼に矢を放つことはできませんでした。そこでゲーム配信も終了となりました。
ミレは、ゲームの別のキャラクター、ヒナに会いに行きます。女性だと思っていた相手は自分より年上の男性でした。彼は着ぐるみを着て、公演でフリーハグを行っていました。
「お別れを言いにきたの。今までありがとう。元気でね」と言って立ち去ろうとするミレをヒナはひきとめました。「死ぬのか?」
家では父親に虐待され、学校ではいじめにあい、生きがいだったゲームも終了し、ミレは生きていてもしょうがないと思っていました。
「やりたいことを考えろ。すぐには死ねない」とヒナに言われ、「やりたいことなんてない」と応えるミレ。
話をしているとヒナも死ぬつもりだということがわかります。その前にいくつかやらなければならないことがあるのだそうです。
「二人でやりたいことをやろう。書き出していこうか」と彼は手帳を取り出しました。
「弘大」に行くことを思いつき、二人一緒に出かけていきました。ヒナは一人ではこれまでできなかったけれど、二人でなら出来るとピザ屋に入り、2名で20分以内に完食できたらタダ!という大食いに挑戦しました。
さらに一人ではできなかったこととして、歯医者にミレを連れていきました。診察室に入った彼が恐怖のあまり悲鳴をあげると、待合室で待っている子どもたちも怖くなって一斉に泣き始めました。
「私は何をすればいい?」とミレが尋ねるとヒナは「遺書を書け。お前が死ぬと悲しむ人に」と答えました。久しぶりに母親のところで一晩過ごしたミレは、母親あてに遺書を書きました。
ミレは毎日のようにヒナに会いに行きました。ヒナは誰かを待っているようでした。
ミレはやりたいことがあったとヒナに紙を渡します。ヒナにテヤンの役をやってもらい、紙にかきつけた台詞を読んでもらうのです。
「どうして私に優しくしたの?」「私が死んだら哀しい?」「死ぬな。いなくなったら哀しい」(優しくハグ)。
「これはダメだ」とヒナは言いました。「俺は偽物だ。死ぬ覚悟があるなら本人に言え」
翌日、ミレは久しぶりに登校し、イベカップを問い詰めました。彼女はどうしても認めません。
ミレは担任に潔白を訴えました。しかし、担任は「今更騒ぎ立てるな」と取り合ってくれません。
皆がミレを批判的に見る中、ノランだけが「良かった、戻らないかと心配した」と声をかけてきました。
しかし、そんな中、応募作に同じ作品があった問題で公式な懲戒委員会が開かれました。ミレははっきりと盗作を否定します。その横でイベカップが泣き出しました。
ノランはクラスの女子たちに「イベカップが盗作を認めたらしい。両親も呼び出されている」と伝えました。
クラスのイジメの対象は、ミレからイベカップに移り、ノランがその中心となっていました。
ミレはふと、後ろの掲示板に、イベカップたちと一緒に調理実習をした楽しかった日の写真が貼られているのに気が付きます。
イベカップがミレの火傷を心配してくれている写真もありました。同じ班だったメガネ女子が間違えてシャッターを押してしまったものです。
映画『飛べない鳥と優しいキツネ』の感想と評価
イジメや暴力シーンなどはつらいものがあり、今の若い世代の心の痛みや生き辛い様がひしひしと伝わってきます。一方で、映画にはほわっとした暖かさも宿っています。
それは、ヒナというキャラクターの存在によるところが大きいでしょう。
主人公のミレはオンラインゲームで対戦していたヒナに会いに行きます。
彼はミレが死のうとしていることを察知するのですが、「死ぬな」だとか「生きているといいことだってあるさ」という調子で説得しようとはしません。
相手の立場にたとうとしない言葉は相手には決して届きません。そのことを彼はわかっていて、彼女にまず「遺書を書け」、「やりたいことをやろう」と声をかけるのです。
相手の気持ちに寄り添うというのはとてもむずかしいことですが、ヒナがミレに対して行ったことはまさにそういう行動です。
彼自身もあることで、後悔し、心に傷を負っているのですが、だからこそ、人の悩みや苦しみを察知することができるのでしょう。
このヒナに扮しているのが、人気K-POPグループ [EXO]のスホです。
ミレが小説を書いたり、ゲームが好きという設定もあり、作品にはファンタジー的な要素もあるのですが、このスホが演じるヒナこそファンタジーなのではと思えてしまうくらい、愛すべき存在となっています。
着ぐるみをきたまま横になって起きられなくなった姿や、彼が歯医者をこわがったせいで待合室の子どもたちが一斉に泣き出すエピソードなど、思わず吹き出してしまいますし、カメラにポーズをとるそのラブリーな様には、ついつい頬が緩んでしまいます。
まさにスホだからこそ作り上げることができた秀逸なキャラクターといえるでしょう。
彼との交流を経て、ミレは、一歩前に進むことができるようになります。彼の魔法にかかったと言ってもいいかもしれません。
いじめっ子にも優しい一面があったり、普段は優しい人がいざという時に助けてくれなかったり、映画は人間の様々な側面に焦点をあて、キャラクター一人、一人を紋切型でない人間味溢れる人物として描いています。
イジメの構図が崩れていく廊下のシーンは見応えがあり、人物の配置などにうまさを感じます。
ファンタジーの側面を強調しながらも、映画はイジメや人間の負の部分の解決策を模索していきます。
ラスト、女子生徒四人が仲よさげに座っている光景を観て、“そんなの甘い”と評する方もいるかもしれません。
ですが、この四人というのが嬉しいではありませんか。こうした可能性を断固として指示したくなってしまう、そんな力がこの映画には存在しているのです。
まとめ
韓国映画を観ていると、子役のうまさに舌を巻くことが多いのですが、ナ・ホンジン監督の『哭声/コクソン』(2016)のキム・ファニもその一人でしょう。
そんな彼女がもう中学生を演じるようになっただなんて!と驚きつつ、その演技の確かさにぐっと心を掴まれてしまいました。
イベカップ役のチョン・ダビン、いじめっ子役のチョン・ダウン、爽やかなテヤンを演じたユ・ジェサンなど次世代俳優が皆いい味を出していて、今後の活躍がとても楽しみです。
ちなみにテヤンがドラムを習い始めるきっかけとなった『ドラムライン』という映画は、マーチングドラム部に入部した、ドラムの天才的才能を持つ青年が、挫折をへて再生していく姿を描いた2002年のアメリカ映画です(監督はチャールズ・ストーン3世)。
まるで体育会系のようなハードな練習をこなしたマーチングドラム部の演奏シーンが圧巻の名作ですが、すっかり影響されてドラムを習い始めるテヤンがいかにも中学生男子らしく好感が持てます。
こんなふうにティーンエイジの時に観た映画は特別なものがありますので、『飛べない鳥と優しいキツネ』も是非若い世代に観てもらいたい一編です。