今回取り上げるのはハーモニー・コリン監督による映画『スプリング・ブレイカーズ』です。
海と熱い太陽の地で繰り広げられる青春物語と思いきや、その正体は過激で死臭がにおい立つ不思議な作品。本作の魅力をコリン監督の過去作も交えてご紹介します。
映画『スプリング・ブレイカーズ』の作品情報
【公開】
2013年(アメリカ映画)
【原題】
Spring Breakers
【監督】
ハーモニー・コリン
【キャスト】
ジェームズ・フランコ、セレーナ・ゴメス、バネッサ・ハジェンズ、アシュリー・ベンソン、レイチェル・コリン、グッチ・メイン
【作品概要】
『スプリング・ブレカーズ』は第69回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門で金獅子賞を争った作品。
監督は『ガンモ』(1997)や『ミスター・ロンリー』(2007)、そのほか写真家としても活動するラリー・クラークの作品『KIDS/キッズ』の脚本を務めたハーモニー・コリン。
フロリダで大暴れする女子大生4人組のうち2人に扮するのは、ディズニー・チャンネル・スター出身のヴァネッサ・ハジェンズ(「ハイスクール・ミュージカル」シリーズ)と、セレーナ・ゴメス(「ウェイバリー通りのウィザードたち」シリーズ)。
ティーンの憧れの存在であり、清純なイメージのある彼女たちが“犯罪に手を染める女子大生”を演じたことは話題になりました。またドラマ「プリティ・リトル・ライアーズ」シリーズのアシュレイ・ベンソン、コリン監督の妻であるミシェル・コリンも出演しています。
女子大生たちが出会う胡散臭い売人エイリアンを演じるのは『ザ・ディザスター・アーティスト』(2017)『フューチャーワールド』(2018)など近年は監督業も行っているジェームズ・フランコ。
フランコは本作の怪演で全米映画批評家協会賞助演男優賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞など計4つの賞を受賞しました。
映画『スプリング・ブレイカーズ』のあらすじとネタバレ
毎日の祈りを欠かせない女の子フェイス、そして悪友のブリット、キャンディ、コティは仲良しの4人組。
大学生活は退屈そのもの、住んでいる街にも面白いものはありません。
この日常から逃げ出すため、彼女たちは以前からお金を貯め、春休みにバカンスに出かける計画を立てていました。
春休みに突入した学校の寮に残っているのは自分たちだけ。しかし、貯めていたお金は旅費に到底足りず、ブリット、キャンディ、コティは強盗を決意します。
大学教授の車を借り、覆面を被り、食堂で決行した強盗は大成功。スリルと大量に手に入ったお金に彼女たちは喜びます。
3人はフェイスの元へ戻り、バスで憧れの地フロリダへ向かいました。
すでにパーティーモードのバスの、ついたフロリダのビーチ、ホテル、彼女たちはスクーターを乗り回し、酒に麻薬、音楽と退屈な日常生活を吹き飛ばすように楽しむ4人組。
彼女たちはずっとここに痛いと願いますが、ある時パーティーに警察が乱入し、麻薬を吸っていた彼女たちは捕まってしまいます。
留置所に拘留され、保釈金を払えば出ると聞かされますがそんなお金はあるわけもなく、途方にくれる4人。
しかし彼女たちはいきなり保釈されます。誰かが保釈金を払ったと警察官から聞かされ、外に出ると待っていたのは、全部金歯の怪しい男、エイリアンでした。
映画『スプリング・ブレイカーズ』の感想と評価
1997年の映画『ガンモ』では疲弊しきった街に生きる若者たちの姿を等身大に、また、2007年の映画『ミスター・ロンリー』では、有名人のものまねをして生きる人々をおかしくも切なく描いたハーモニー・コリン監督。
コリン監督は幻想的な柔らかさがありながらも痛々しさがあり、人生に広がる膨大な虚無感を観る者に突きつけます。
本作も胸に迫るやるせなさを詩的な台詞と映像表現で包み込み、前よりも少しだけ“無”を受け入れることができ、女子大生4人組がビーチで春休みを過ごすガールズパワーが詰まった青春物語です
ビキニ姿のかわいらしく、セクシーな少女たちのイメージ写真とプロットではそんな印象を受けますが、本作も最後広がるのは切なさと、何とも言えない虚無感です。
本作が描くテーマは“青春時代の終わり”。
退屈な日常から逃避した彼女たちは、エイリアンという男とであったことから犯罪への道をどんどん辿ることになりますが、4人のうち2人は脱却。
1人目はセレーナ・ゴメス演じるフェイス。ブリットとキャンディは金髪、コティはピンクの髪色ですがフェイスは黒髪、礼拝にも積極的に参加していることで、最初から彼女は“周りの3人とは違う女の子”ということがわかります。
2番目はコティ。コティも途中まではスリリングなエイリアンに惹かれ犯行を手伝いますが、銃が当たり家に帰ることにします。
彼女はバカンスに来る前に犯した強盗にも参加していますが、ドライバー役で脅しには加わっていませんでした。
犯罪に突き進む“覚悟”があったのはブリットとキャンディ。エイリアンが死んだ後も彼女たちは屋敷を周り、堂々とギャングたちを殺して回るのです。
本作で定期的に聞こえるのは銃声。そしてエイリアンが囁く「Spring break forever」という呪文のような言葉。
この銃声が聞こえるたび彼女たちには“戻れない”という覚悟が迫り、“終わり”の瞬間が近づいているのです。
フェイスとコティは学校に戻り、青春時代の終わりを実感するでしょう。それに対してブリットとキャンディは、“保護”の環境下にいることの終わり、エイリアンとの出会いで覚悟した道を進むことを決めるのです。
最後に車で新しい地に向かう2人は、どこか寂しそうにも見えます。
春休み、青春時代は永遠に続きません。ネオンの光、波にきらめく太陽、彼女たちの笑顔、派手派手しい猥雑な映像と詩的な表現を用いて刹那性の美しさを独特に表現した映画が『スプリング・ブレイカーズ』と言えます。
まとめ
ブリトニー・スピアーズの往年の名曲やSkrillexの曲が物語を一層盛り上げ、快楽とその先にある寂寥、虚無を混在して感じさせます。
映像作家ハーモニー・コリンが放つユニークな青春映画『スプリング・ブレイカーズ』今一度お楽しみください。