映画『空に住む』は、2020年10月23日(金)からロードショー
映画『空に住む』は、『EUREKA ユリイカ』の青山真治監督が7年ぶりに長編映画を制作し、多部未華子と初タッグを組んだ人間ドラマです。
原作小説は三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE の『空に住む~Living in your Sky~』を作った、作詞家の小竹正人。「EXILE」「三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE」の岩田剛典も共演します。
楽曲『空に住む Living in your sky』の世界観を基に、仕事、人生、そして恋愛のはざまで揺れながら、新たな人生を見いだしていく女性たちの姿を丁寧に描きだします。
映画『空に住む』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【原作】
小竹正人
【脚本】
池田千尋
【監督】
青山真治
【キャスト】
多部未華子、岸井ゆきの、美村里江、岩田剛典、鶴見辰吾、岩下尚史、髙橋洋、大森南朋、永瀬正敏、柄本明
【作品概要】
人気作詞家、小竹正人が三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE に提供した楽曲『空に住む~Living in your Sky~』を基にした小説『空に住む』の映画化です。
監督は、カンヌ国際映画祭批評家連盟賞受賞ほか国際的に高い評価を得る青山真治。7年ぶりの実写長編作品です。
ヒロインを多部未華子が演じています。直実の後輩・愛子を『愛がなんだ』(2019)の岸井ゆきの、直実の叔母・明日子を『彼らが本気で編むときは、』(2017)の美村里江、人気俳優・時戸を「EXILE」「三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE」の岩田剛典がそれぞれ演じています。
映画『空に住む』のあらすじとネタバレ
両親の突然の死をきっかけに、人見知りする愛猫のハルと一緒に都心のタワーマンションに住むことになった小早川直美。
小さな出版社に働く28歳のOLの直実にとって、贅沢過ぎる環境に戸惑います。この部屋は父親の弟の雅博が投資のために所有している部屋で、無償で直実に貸し出されることになったのです。
同じマンションの別の階には、雅博と歳の離れた妻の明日子との家もありました。なにかと気を使ってくれる2人はたびたび直実の部屋を訪ねて来てくれます。
明日子は雅博との間に子供がいないことに一抹の寂しさを感じていることをポツリと語ります。
直実の出版社は郊外の古民家を改造したつくりで、これと思ったものしか書籍にしないこだわりのある会社です。
両親の納骨を終え、職場復帰した直実を先輩編集者の柏木やできちゃった婚で大きなおなかを抱えている愛子が出迎えてくれます。
会社が現在抱えている一大ミッションは、自社から出した作品が大きな文芸賞に輝いた作家・吉田の受賞後第一作となる最新作について。
会社としては受賞作と同じクオリティの作品を書きあげてもらい出版することがねらいです。
吉田の現在の担当者は愛子ですが、以前は直実が受け持っていました。愛子が出産を控えていることもあって担当を戻してくれないかと柏木に訴えます。
一方、愛子からは意外な事実を教えられます。お腹の子の父親は不倫関係にあった吉田であると言うのです。驚く直美に、愛子は最後まで嘘を貫き通すと言い切ります。
ある日、直実はエレベーターで出会った男を見て、びっくりします。
その男は部屋からいつも見ている大きなビルボードを飾る宣伝にも起用されている人気スターの時戸森典でした。
2度目の出会いで突然、「オムライスを作れるか?」と尋ねられた直実は、時戸を部屋に招き入れてオムライスをふるまうことになりました。
帰り際、時戸はそっと直実を抱きしめます。思わぬ出来事に直実の旨はときめきます。
それから数日後、時戸から食べきれないほどの佐藤錦が届いたという連絡が来て、彼の部屋に向かいました。
そして、唇を重ね、一夜を共にする直実。普通の恋愛ではないことはわかっていながらも、時戸とのミステリアスな姿にずるずると溺れていきます。
そんな中で愛猫のハルが体調を崩しました。ストレスの原因を聞かれた直実は、急にタワーマンションの生活が始まったことを思い浮かべます
映画『空に住む』の感想と評価
長編デビュー作の『Helpless』(1996)、そして2000年に役所広司、宮崎あおいを主演に迎え、カンヌ国際映画祭で二冠に輝いた『EUREKA』などの印象が今も強いこともあってか、どちらかと言うと先鋭的且つ実験的な作風が多かった青山真治。
長編作品としては前作になる『共喰い』でもやはり同じように刺激的な作風がありました。
けれども、2011年の『東京公園』がそうだったように、青山監督は激しさを兼ね備えつつ温かく穏やかな作品も撮れる人でもあります。
本作『空に住む』はまさに、その路線の最新作。
大きな出来事も極端にエモーショナルな部分もない、ましてやバイオレンスな空気は一切ない等身大の主人公の物語になっています。
これが思いのほか、心の芯に沁みてきます。
ヒロインの直実とは共有できる事柄は少ないはずなのですが、直実の普通の生活に少しだけサプライズがあるという人生は、実はものすごく一般的なもののような部分があるのかもしれません。
現代社会を生きる女性の物語を目指したという青山監督ですが、結果として映画『空に住む』は女性・男性に関係のないジェンダーニュートラルで普遍的なものを内包している作品になっています。
まとめ
ドラマ『私の家政夫ナギサさん』のヒットの記憶も新しい多部未華子の最新主演作『空に住む』。
偶然にも大森南朋も出演しているので驚きですが、等身大のヒロインという点では「わたナギ」と同じですが、物語のテイストはガラッと変わっています。
同題楽曲をベースにしたということもあってか、描かれるエピソードは連続性が薄く、断片的な印象すらあります。
バラバラになりそうな映画を中心になってまとめているのが多部未華子です。
なんとなくいつまでも明るいキャラクターの印象が強い彼女ですが、気が付けば、肩に力を入れずに大人の女性を演じられる30代になっていました。
思い返せば、2018年の『日日是好日』の頃からそういう気配はあったのですが、今回の『空に住む』の演技は一つの大きなステップアップと言えます。
30代に入った多部未華子の最初の代表作といっていいのではないでしょうか?
若くしてできちゃった婚(実は不倫相手の子)をする愛子役の岸井ゆきのと、年齢的にも子供が難しくなってきた明日子を演じる美村里江という、世代も抱える事情も対照的な人物を演じる共演陣の好演が光ります。
男優で言えば虚飾にまみれた人気スターという半分そのままともいえるようなキャラクターの時戸を演じた岩田剛典が見事にはまっています。
久しぶりにテンションの低い“静”の演技を見せてくれた大森南朋もよかったです。
なにか極端に目立つような特別なものがあるというわけではないのですが、なぜか後を引いて心に残るという、『空に住む』はそんな不思議な映画です。