1943年に、ナチスの収容所ソビボルで実際に起きた反乱を描く映画『ヒトラーと戦った22日間』は、2018年9月8日より全国公開中。
歴史上あまり語られる事がない、命がけの脱出計画に挑んだ人々を描く、本作をご紹介します。
映画『ヒトラーと戦った22日間』の作品情報
【公開】
2018年9月8日(ロシア・ドイツ・リトアニア・ポーランド合作映画)
【原題】
Sobibor
【監督】
コンスタンチン・ハベンスキー
【キャスト】
コンスタンチン・ハベンスキー、クリストファー・ランバート、フェリス・ヤンケリ、ダイニュス・カズラウスカス、マリア・コジェーブニコワ、セルゲイ・ゴディン、ロマーン・アゲエフ、ゲラ・メスヒ、ミハリナ・オルシャンスカ、イワン・ズロビン、ファビアン・コチェンツキ、ウォルフガング・キャニー、カツペル・オルシェフスキ
【作品概要】
ソビボル収容所での、反乱の先頭に立ったアレクサンドル・ペチェルスキーを中心に、収容所での異常な実態や、脱出計画を詳細に描いたドラマ。
ロシアの国民的な俳優、コンスタンチン・ハベンスキーが脚本と主演、そして初監督を務め、ロシアでは大ヒットを記録。
映画『ヒトラーと戦った22日間』あらすじ
ナチスの絶滅収容所ソビボル、ここに多くのユダヤ人が集められます。
ソビボルは、新たな生活を開始する場所と言われていましたが、ほとんどのユダヤ人は到着後、数時間でガス室に送られ命を落とし、生き残った者は、ナチスの為に死ぬまで強制労働を強いられる、地獄のような場所でした。
ここからの脱出を計画している、反乱グループのリーダーであるレオは、グループの中に軍人がいない事を危惧し、なかなか計画が実行できないでいました。
ですが、新たに収容されたユダヤ人の中に、ソ連軍捕虜として収容された、ユダヤ系ロシア人の軍人サーシャがいる事を知ります。
サーシャは、レオから反乱軍の仲間に誘われますが、これを拒否します。
ある日、農作業を担当していた数人のユダヤ人が、収容所からの脱出を決行しますが、全員射殺された後に、収容所にいるユダヤ人を10人に1人射殺するという罰則が与えられます。
まるでゲームを楽しむように数字を数え、10人目のユダヤ人を次々に射殺するナチス兵。
サーシャや反乱グループは、何もできず耐えるしかありませんでした。
一方ナチス親衛隊曹長、フレンツェルを始めとするナチス将校達は、ユダヤ人への体罰や、少しでも反抗的な者は容赦なく射殺するなど、恐怖により収容所を支配していました。
別の収容所で脱出を図ったサーシャが生きている事を知ったフレンツェルは、サーシャに目を付けるようになります。
サーシャを反乱軍に加えたいレオは、夜に宿舎を出てサーシャと密会、説得を続けます。
しかし、レオ達の動きを察知した、ユダヤ人の監視隊に見つかりその場で暴行を受けます。
再度脱走を図る者がいれば、自分たちの命も危うい監視隊もまた、自分の命を守る為に必死だったのです。
サーシャが、収容所に収監されて12日目、ソビボルに列車が到着します。
列車の中はユダヤ人の死体の山でした。
中には命のある者もいましたが、ナチス将校のワーグナーに射撃の的にされ絶命します。
眼の前で同胞が、次々と殺される光景にサーシャは反乱を決意します。
映画『ヒトラーと戦った22日間』感想と評価
1943年10月23日、ソビボル収容所で行われた、命がけの脱出計画を描いた作品です。
ソビボル収容所からの集団脱走は、ナチスがこの事実を隠蔽したとも言われ、ほとんど知られておりません。
本作は、アレクサンドル・ペチェルスキー(サーシャ)の回顧録や、家族の話を基に製作されています。
映画開始後、序盤から次々と人が殺されたり、体罰を受けたりする目を覆いたくなるような場面が続き、その状況に立ち向かう術を持たないサーシャの、葛藤や怒りが描かれます。
クライマックスでは、サーシャがナチス将校のワーグナーを、必要以上に痛めつける場面で、怒りが爆発した事を表現し、そこから脱走計画が始まりますが、そこに爽快感は無く、仲間が次々と命を落としていく辛いシーンが続きます。
また、ナチス将校達も、あえて非情になろうとするがあまり、異常な精神状態になってしまっており、映画はその内面も、何気ない演出で表現しています。
フレンツェルを演じた、クリストファー・ランバートは「悪そのものというよりは、迷い、見失ってしまった男」とフレンツェルを評しており、そこに魅力を感じた事を語っています。
この作品が、善と悪を表現したのではなく、戦争という異常な環境に巻き込まれた人達の、悲劇を描いた事は間違いないでしょう。
作中で「お前は建設現場で働いていた」「私は元、物理教師」など、戦争前は何者であったかを語る台詞があり、日常が破壊され、異常な状況となってしまった悲劇を、より強調しています。
まとめ
冒頭から、ショッキングなシーンが続く本作は、異常な状況に置かれた人達の、極限の心理状況を見事に描いています。
脱出計画を実行した当日、素人の集まりである反乱軍が、ナチスの将校と戦う事への落ち着かない様子や、戦闘経験のあるサーシャですら、鬼気迫る表情を見せており、緊迫感が観客にも伝わってきます。
また、収容所を、絶対的な恐怖で統治しなければならないフレンツェルも、人間的な迷いを見せ「本当はこんな事はしたくない」という心情が伝わってきます。
映画のラストでは、600人が脱出に挑み、無事に逃げたのは半分以下である事が語られます。
サーシャは、その後最前線で戦い続け、フレンツェルは脱走の責任を取らされ、終身刑となりました。
皆、戦争という悲劇に巻き込まれた人達で、戦争という異常な空気の恐ろしさを、本作は容赦なく突きつけてきます。
世界的にアンバランスな情勢が続く今こそ、平和であるという事の素晴らしさを、あらためて噛み締めたいものです。
映画『ヒトラーと戦った22日間』は、2018年9月8日より全国公開中です。