Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2022/01/09
Update

映画『聖の青春』ネタバレあらすじ結末と感想評価の解説。松山ケンイチが将棋界の村山聖の生涯を迫真の演技で魅せる

  • Writer :
  • 山田あゆみ

東出昌大×松山ケンイチの熱演が光る青春映画『聖の青春』

松山ケンイチが、29歳の若さで亡くなった天才棋士・村山聖を熱演したノンフィクション青春映画『聖の青春』。

森義隆監督が手がけ、「東の羽生、西の村山」と称された名棋士をそれぞれ、東出昌大と松山ケンイチが熱演したことでも大きな話題となった作品です。

難病と闘いながら将棋に生きた村山聖の生涯を描いた、大崎善生による同名ベストセラー小説の映画化作品をご紹介します。

映画『聖の青春』の作品情報


(C)2016「聖の青春」製作委員会

【公開】
2016年(日本映画)

【監督】
森義隆

【キャスト】
松山ケンイチ、東出昌大、染谷将太、安田顕、柄本時生、北見敏之、筒井道隆、竹下景子、リリー・フランキー

【作品概要】
監督を務めたのは、『ひゃくはち』(2008)や同名人気コミックの映画化『宇宙兄弟』(2012)など数々の映画を手がけている森義隆。最近では、中村倫也主演のテレビドラマ『珈琲いかがでしょう』(2021)を監督しています。

当時日本将棋連盟出版部に加盟していた大崎善生のデビュー作。大崎氏はこのノンフィクション小説で第13回新潮学芸賞、第12回将棋ペンクラブ大賞を受賞しました。舞台化やテレビドラマ化もされています。

主演の松山ケンイチと羽生義治を演じた東出昌大は、優秀主演男優賞、優秀助演男優賞をそれぞれ受賞しています。

映画『聖の青春』ネタバレあらすじ


(C)2016「聖の青春」製作委員会

1994年大阪。路上で倒れていた村山聖(松山ケンイチ)は、男性に抱えられて将棋会館に運び込まれます。

抱えられてどうにか会館に入り、体をひきずりながらそのまま将棋の試合に参加する姿を見た男性は、いったい何者なんだとあっけにとられるのでした。

村山聖の新七段昇段祝賀パーティが開かれました。少女漫画を読んでいて遅刻した聖は師匠のスピーチの最中に現れます。

なぜ七段に上がれたのか分からないが、これからが本当のたたかいだと思っています、とコメントします。

聖は幼いころ、ネフローゼという腎臓の病気だと診断されました。むくみや倦怠感に襲われ、場合によっては高熱が出ることもあり、一生付き合っていかなければならない病気です。

子どものころに入院しているときに買ってもらった将棋セットをきっかけに将棋の世界に足を踏み入れました。

現在、羽生棋士(東出昌大)との試合に負けた聖は大阪で熱発して寝込んでいました。東京に出て名人を目指すことを決意しました。師匠の森信雄(リリー・フランキー)にも後押しされます。

東京にやってきた聖。七冠達成の偉業を果たした羽生のニュースを見ながら将棋の練習に励みます。

そんな中突然倒れた聖は、進行性の膀胱癌で摘出手術しなければいけないと診断されました。体は限界のはずだと指摘されます。

試合では勝ち続け、決勝で羽生との再戦が決まりました。家で寝込む聖。病院から手術前検査の催促の電話がありましたが出ませんでした。

大阪に向かった聖は友人の江川(染谷将太)の退団がかかった一局を見守ります。江川は負けてしまい、この将棋人生は終わってしまったがこの経験を糧に第二の人生を歩もうと思うと飲みながら話しました。

その言葉を聞いて、負け犬は黙っとけと言い放ち、帰り際でお札を破り捨てながら死んだらこんなものは意味がない。勝って名人になるんじゃと叫びました。

羽生棋士との決勝の日。他の全棋士たちが中継で見守る中、接戦が繰り広げられます。そして遂に羽生に勝った聖。

夜の会食中に羽生を誘って2人で飲みにでかけた聖。

聖はいつか恋愛して家族を持ちたいと話します。僕たちはどうして将棋を選んだんでしょうね、という問いに羽生は答えます。

「私は今日あなたに負けて、死にたいほど悔しい。負けたくない、それがすべてだと思います。深く潜りすぎてそのうち戻ってこれなくなるんじゃないかと怖くなる。でも、村山さんとなら一緒に行けるかもしれない。いつか一緒に行きましょう。」と言われて、聖は「はい。」と答えました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『聖の青春』ネタバレ・結末の記載がございます。『聖の青春』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2016「聖の青春」製作委員会

病院で診察を受ける聖。膀胱と前立腺摘出をしなければいけないと言われます。術後は最低3か月安静に。1年は将棋できないと告げられます。

また、3年以内に再発する可能性が50%あり手術をしないと余命3ヶ月だと言われました。

聖は、脳が鈍るから麻酔をしないなら手術を受けると手術をつっぱね続けます。

対局中に具合が悪くなり敗戦、外で食事中にも取り乱してしまい、緊急入院した聖。母に、手術を受けることを告げました。家族を作ることがひとつの夢でしたが、それを諦めたのでした。

手術を決意した聖は、伸ばし続けていた爪と髪の毛を自分で切りました。ひとり夜中に将棋を指す聖。その音を布団の中で聞きながら泣く母。

出版社から提出するよう頼まれていた将棋年鑑のアンケートで「神様がひとつだけ願いを叶えてくれるとしたら」という問いに聖は「神様除去」と書いていました。

術後、医師の反対を押し切り体調がすぐれないなか羽生との対局に望んだ聖。

10時からの対局は午前2時ごろまでにおよびましたが、聖は後半であまりにもあっけない負け方をしました。

聖は羽生との対局の5ヶ月後1998年8月8日に息を引き取りました。羽生戦後、ひと月にわたって5試合を全て全勝で戦い抜き、来季の復帰が決まっていたのでした。

村山聖、享年29歳。通算成績356勝201敗うち不戦勝12局。対羽生善治戦6勝8敗。死後、九段を追贈されました。

映画『聖の青春』の感想と評価


(C)2016「聖の青春」製作委員会

本作は将棋に人生を捧げた村山聖の一生を、実力派俳優陣の熱演で描いた胸を熱くさせる作品でした。

まずなんと言っても本作の見どころは主演の松山ケンイチによる迫真の演技です。

松山ケンイチは20キロ以上も増量しこの役に挑んだそうです。村山氏のしぐさやしゃべり方を研究し尽くしたその演技は、原作者の大崎氏が本人と思うほどだったとか。

その体型だけではなく、話し方や佇まいも本人の映像などを研究し尽くし圧巻の演技を見せています。

松山ケンイチがインタビューで、今まで演じた役の中で群を抜いて純粋な人物だったと語るように、村山聖のピュアさと将棋にかける思いが胸に迫る内容になっていました。

村山氏は奨励会入会から2年11か月でプロデビューを果たすという、羽生氏をも超える記録を打ち立てたことで「怪童丸」の異称をもつ天才棋士のひとりです。

しかし本作では、「家族をもつこと」を切望したひとりの若き男性としての人間味あふれる側面も描いています。

彼がなぜ命を削ってまで将棋に人生をかけたのか。不器用なようでまっすぐなその人物像に迫る一作だと言えます。

また、本作のヒロインは天才棋士の羽生善治です。彼を演じた東出昌大の役作りは凄まじく、松山ケンイチに負けず劣らずその存在感を発揮していました。

その演技魂は細部まで徹底されており、七冠達成時に実際に羽生氏がかけていた眼鏡を本人から譲り受けて撮影に臨んだのだとか。

このふたりが向き合うシーンは、まるで村山と羽生が実際に対峙しているような独特の雰囲気がありますが、対局のほかに飲み屋で互いの思いを語るとても印象深い場面があります。

互いの棋士としての実力を認め合っている両者が、その先にあるだろう2人にしかわからない未知の領域への挑戦を誓うシーンとなっています。

そして、クライマックスとなった村山と羽生にとって最後の対局のシーンも間違いなく見どころだといえます。

このシーンは松山と東出両者が実際の棋譜を暗記した上で、2時間半の長回しで撮られています。その緊張感に加えて、一指し一指しに命をこめた松山聖の魂が伝わってきます。

まとめ


(C)2016「聖の青春」製作委員会

松山ケンイチと東出昌大の2人以外にも、村山聖の師匠を演じたリリー・フランキーや、江川貢を演じた染谷将太、橘正一郎を演じた安田顕、荒崎学役の柄本時生など実力派俳優たちが集結しています。

村山聖を支え、彼に影響された彼らの存在も当人について語るにあたって必要不可欠なものとなっています。

命を燃やして将棋に生き抜いたひとりの男の生きざまを描いた物語は、多くの人の胸を打つでしょう。


関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『天使にショパンの歌声を』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

もうすぐ、高校生や大学生の最高学年は卒業を迎える3月ですね。 今回ご紹介するカナダ映画『天使にショパンの歌声を』は、そんな別れの季節にぴったりの女性の優しく、そして力強く別れに向き合う作品。 クラシッ …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】銀河鉄道の父|あらすじ結末感想と評価考察。菅田将暉と役所広司が宮沢賢治親子の実話を熱演

宮沢賢治、没後90年。 賢治作品の背景にあった家族愛を知る。 直木賞受賞作、門井慶喜の小説「銀河鉄道の父」を成島出監督が映画化。宮沢賢治を菅田将暉が、賢治の父・政次郎を役所広司が演じます。 明治29年 …

ヒューマンドラマ映画

『銀河鉄道の父』映画原作ネタバレとあらすじ感想評価。実話から宮沢賢治とその父の愛情バトルをリアルに描く

門井慶喜の小説『銀河鉄道の父』が2023年に映画になって登場! 宮沢賢治とその父の究極の親子愛を描いた、門井慶喜の第158回直木賞受賞作『銀河鉄道の父』。 作家の門井慶喜が宮沢賢治資料の中から父・政次 …

ヒューマンドラマ映画

『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』あらすじネタバレと感想。ハプニングだらけの世界旅行で見えたものは

世界30か国で販売された小説、「IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅」。この人気作が国際色豊かなキャストで映画化されました。 こうして誕生した作品が、『クローゼットに閉じこめられた僕 …

ヒューマンドラマ映画

映画『空母いぶき』キャストの新波歳也役は佐々木蔵之介。演技力とプロフィール紹介

累計400万部を突破する人気コミック作品・かわぐちかいじ原作の『空母いぶき』を実写化した映画が、2019年5月24日より公開されます。 監督は、『ホワイトアウト』『沈まぬ太陽』などで知られる若松節朗。 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学