東出昌大×松山ケンイチの熱演が光る青春映画『聖の青春』
松山ケンイチが、29歳の若さで亡くなった天才棋士・村山聖を熱演したノンフィクション青春映画『聖の青春』。
森義隆監督が手がけ、「東の羽生、西の村山」と称された名棋士をそれぞれ、東出昌大と松山ケンイチが熱演したことでも大きな話題となった作品です。
難病と闘いながら将棋に生きた村山聖の生涯を描いた、大崎善生による同名ベストセラー小説の映画化作品をご紹介します。
映画『聖の青春』の作品情報
【公開】
2016年(日本映画)
【監督】
森義隆
【キャスト】
松山ケンイチ、東出昌大、染谷将太、安田顕、柄本時生、北見敏之、筒井道隆、竹下景子、リリー・フランキー
【作品概要】
監督を務めたのは、『ひゃくはち』(2008)や同名人気コミックの映画化『宇宙兄弟』(2012)など数々の映画を手がけている森義隆。最近では、中村倫也主演のテレビドラマ『珈琲いかがでしょう』(2021)を監督しています。
当時日本将棋連盟出版部に加盟していた大崎善生のデビュー作。大崎氏はこのノンフィクション小説で第13回新潮学芸賞、第12回将棋ペンクラブ大賞を受賞しました。舞台化やテレビドラマ化もされています。
主演の松山ケンイチと羽生義治を演じた東出昌大は、優秀主演男優賞、優秀助演男優賞をそれぞれ受賞しています。
映画『聖の青春』ネタバレあらすじ
1994年大阪。路上で倒れていた村山聖(松山ケンイチ)は、男性に抱えられて将棋会館に運び込まれます。
抱えられてどうにか会館に入り、体をひきずりながらそのまま将棋の試合に参加する姿を見た男性は、いったい何者なんだとあっけにとられるのでした。
村山聖の新七段昇段祝賀パーティが開かれました。少女漫画を読んでいて遅刻した聖は師匠のスピーチの最中に現れます。
なぜ七段に上がれたのか分からないが、これからが本当のたたかいだと思っています、とコメントします。
聖は幼いころ、ネフローゼという腎臓の病気だと診断されました。むくみや倦怠感に襲われ、場合によっては高熱が出ることもあり、一生付き合っていかなければならない病気です。
子どものころに入院しているときに買ってもらった将棋セットをきっかけに将棋の世界に足を踏み入れました。
現在、羽生棋士(東出昌大)との試合に負けた聖は大阪で熱発して寝込んでいました。東京に出て名人を目指すことを決意しました。師匠の森信雄(リリー・フランキー)にも後押しされます。
東京にやってきた聖。七冠達成の偉業を果たした羽生のニュースを見ながら将棋の練習に励みます。
そんな中突然倒れた聖は、進行性の膀胱癌で摘出手術しなければいけないと診断されました。体は限界のはずだと指摘されます。
試合では勝ち続け、決勝で羽生との再戦が決まりました。家で寝込む聖。病院から手術前検査の催促の電話がありましたが出ませんでした。
大阪に向かった聖は友人の江川(染谷将太)の退団がかかった一局を見守ります。江川は負けてしまい、この将棋人生は終わってしまったがこの経験を糧に第二の人生を歩もうと思うと飲みながら話しました。
その言葉を聞いて、負け犬は黙っとけと言い放ち、帰り際でお札を破り捨てながら死んだらこんなものは意味がない。勝って名人になるんじゃと叫びました。
羽生棋士との決勝の日。他の全棋士たちが中継で見守る中、接戦が繰り広げられます。そして遂に羽生に勝った聖。
夜の会食中に羽生を誘って2人で飲みにでかけた聖。
聖はいつか恋愛して家族を持ちたいと話します。僕たちはどうして将棋を選んだんでしょうね、という問いに羽生は答えます。
「私は今日あなたに負けて、死にたいほど悔しい。負けたくない、それがすべてだと思います。深く潜りすぎてそのうち戻ってこれなくなるんじゃないかと怖くなる。でも、村山さんとなら一緒に行けるかもしれない。いつか一緒に行きましょう。」と言われて、聖は「はい。」と答えました。
映画『聖の青春』の感想と評価
本作は将棋に人生を捧げた村山聖の一生を、実力派俳優陣の熱演で描いた胸を熱くさせる作品でした。
まずなんと言っても本作の見どころは主演の松山ケンイチによる迫真の演技です。
松山ケンイチは20キロ以上も増量しこの役に挑んだそうです。村山氏のしぐさやしゃべり方を研究し尽くしたその演技は、原作者の大崎氏が本人と思うほどだったとか。
その体型だけではなく、話し方や佇まいも本人の映像などを研究し尽くし圧巻の演技を見せています。
松山ケンイチがインタビューで、今まで演じた役の中で群を抜いて純粋な人物だったと語るように、村山聖のピュアさと将棋にかける思いが胸に迫る内容になっていました。
村山氏は奨励会入会から2年11か月でプロデビューを果たすという、羽生氏をも超える記録を打ち立てたことで「怪童丸」の異称をもつ天才棋士のひとりです。
しかし本作では、「家族をもつこと」を切望したひとりの若き男性としての人間味あふれる側面も描いています。
彼がなぜ命を削ってまで将棋に人生をかけたのか。不器用なようでまっすぐなその人物像に迫る一作だと言えます。
また、本作のヒロインは天才棋士の羽生善治です。彼を演じた東出昌大の役作りは凄まじく、松山ケンイチに負けず劣らずその存在感を発揮していました。
その演技魂は細部まで徹底されており、七冠達成時に実際に羽生氏がかけていた眼鏡を本人から譲り受けて撮影に臨んだのだとか。
このふたりが向き合うシーンは、まるで村山と羽生が実際に対峙しているような独特の雰囲気がありますが、対局のほかに飲み屋で互いの思いを語るとても印象深い場面があります。
互いの棋士としての実力を認め合っている両者が、その先にあるだろう2人にしかわからない未知の領域への挑戦を誓うシーンとなっています。
そして、クライマックスとなった村山と羽生にとって最後の対局のシーンも間違いなく見どころだといえます。
このシーンは松山と東出両者が実際の棋譜を暗記した上で、2時間半の長回しで撮られています。その緊張感に加えて、一指し一指しに命をこめた松山聖の魂が伝わってきます。
まとめ
松山ケンイチと東出昌大の2人以外にも、村山聖の師匠を演じたリリー・フランキーや、江川貢を演じた染谷将太、橘正一郎を演じた安田顕、荒崎学役の柄本時生など実力派俳優たちが集結しています。
村山聖を支え、彼に影響された彼らの存在も当人について語るにあたって必要不可欠なものとなっています。
命を燃やして将棋に生き抜いたひとりの男の生きざまを描いた物語は、多くの人の胸を打つでしょう。