岡崎京子の原作漫画が行定勲監督の手によって映画化!
二階堂ふみ、吉沢亮、森川葵ら若手実力派が岡崎ワールドを体現。
主題歌を担当するのは岡崎京子の盟友である小沢健二。
二階堂ふみ主演の映画『リバーズ・エッジ』をご紹介します。
CONTENTS
1.映画『リバーズ・エッジ』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【監督】
行定勲
【キャスト】
二階堂ふみ、吉沢亮、上杉柊平、SUMIRE、土居志央梨、森川葵
【作品概要】
岡崎京子の代表作である原作漫画「リバーズ・エッジ」を遂に映画化!
ダブル主演に人気・実力とも申し分ない、二階堂ふみと吉沢亮をキャスティング。
その他にも、モデルとして活躍するSUMIREや上杉柊平、テレビに映画に引っ張りだこの森川葵など若い層からの支持を集めるメンバーが集結。
監督を務めるのは、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)『ナラタージュ』(2017)の行定勲。
主題歌を歌うのは原作者の岡崎京子と親交の深い小沢健二。
新世代の若者たちによる衝撃の青春群像劇が描かれます。
2.映画『リバーズ・エッジ』のあらすじとネタバレ
若草ハルナインタビュー
ハルナは父親のいない家庭事情やこれまでの人生を語ります。
引越しの準備途中のような部屋に座る彼女が持っているのは子どもの頃からなぜか手放せないでいたクマのぬいぐるみ。
そのぬいぐるみにはなにやら焦げ付いたような汚れがついています。
ハルナの彼氏・観音崎からイジメを受けているクラスメイトの山田が、旧校舎のロッカー内に閉じ込められたままであることを知ったハルナは深夜の学校に向かって走っています。
ロッカーの中には、手足をしばられ猿ぐつわをはめられた全裸で傷だらけの山田がいました。
ハルナは山田を助け出し、二人で夜の道を歩いて帰ります。
翌朝、ハルナとルミとヨシエのいつもの三人組が話していると、そこへ観音崎が登校してきました。
ハルナは山田を閉じ込めた観音崎のことを叱ります。
山田の肩を持つハルナの態度が観音崎にとっては面白くないため、観音崎は山田に対しより暴力を振るうようになってしまいました。
ハルナは観音崎がまた山田をボコボコにしたことを知り、急いで旧校舎に向かいます。
再び助けてもらった山田は、お礼に自分の宝物をハルナに見せると言い出しました。
夜に改めて待ち合わせたハルナと山田。
その道すがら山田は自分はゲイであることをハルナに明かし、田島カンナという彼女はあくまでカモフラージュでしかないとも語ります。
二人が行き着いた先はセイタカアワダチソウが生い茂った河原。
そこにある山田の宝物は素性不明の白骨化した死体でした。
山田はこの死体を見ることで勇気をもらえると語ります。
そして、この死体の存在を知っている人間がもう一人いると言いました。
それは一年後輩で、現役モデルとして活躍している吉川こずえ。
一方その頃、観音崎はルミを電話で自宅に呼び出し、薬物を使った性行為に溺れていました。
吉川こずえインタビュー
両親が芸能人のため幼い頃から芸能界の仕事をしてきたと語るこずえ。
彼女は、なぜ見た目の気持ち悪い自分がここまで持ち上げられるのか不思議でならないと言います。
こずえは過食症のため、大量に食べ物を食べてはトイレで全て吐き出していました。
ハルナが保健室や屋上で授業をさぼっていると、こずえと一緒になる機会が増えていき、徐々に二人の距離は縮まっていきます。
二人して屋上でサボっていると、こずえが山田のもう一つの宝物を指差して教えてくれました。
彼は運動神経が良く、爽やかで女子からモテそうな普通の男子でした。
学校では死体のある河原に独居老人の残した巨額の遺産が埋まっているという、根も葉もない噂が広まっていました。
河原に行こうとする生徒たちをハルナは必死に止めようとしますが一攫千金を狙う奴らは聞く耳を持ちません。
山田はカンナと一緒に下校しながらも、カンナの話にはまるで無関心な様子。
カンナはお揃いで色違いの青色のベレー帽を山田にプレゼントしますが、受け取った山田は全くの無感情で感謝の言葉を述べました。
ちょうどその時、山田は河原に集まる群衆を目にし血相を変えてそこに飛び込んでいきます。
宝物である死体を見つけられないように山田は埋蔵金を探しに来た奴らに飛びかかっていきました。
数の差で負け山田はボコボコにされてしまいますが、探しに来た奴らはまた次の朝にしようと言い残して去って行きます。
河原に向かっていたハルナの横をカンナが助けを呼びながら通り過ぎて行きました。
真夜中、死体を隠すために山田、ハルナ、こずえが河原に集まりました。
こずえは、死体を見ると「世の中キレイぶって楽しんだフリをしているけどざまぁみろ」という気持ちになるとハルナに語ります。
無神経な奴らのオモチャにされるよりはマシだと山田は割り切り、3人で深く大きな穴を掘ってそこに死体を埋めました。
3.映画『リバーズ・エッジ』の感想と評価
1993年に発表された岡崎京子による原作漫画は90年代の空気感を含んだ青春群像劇の名作として今も多くの人に愛されています。
当時16歳の二階堂ふみが『ヒミズ』(2011年/園子温監督作)の撮影現場でこの衝撃的な作品に出会ったことが映画化の大きなきっかけに。
本作の企画が3年経っても動き出す気配のないことに業を煮やした二階堂ふみ自身が、この人にぜひ監督して欲しいと行定監督に直談判。
小沢健二と仕事をする機会があった際(おそらく写真集の時だと思います)に協力を頼み、徐々に周りを固めていき、自らの行動によって映画化の企画を動かしたそうです。
原作に惚れ込んだ彼女の信念が実を結び、90年代の名作が遂に2018年のスクリーンに甦りました。
セリフやストーリーにカットなどは原作から大きく変更しておらず強いリスペクトを感じる作りになっています。
漫画的なカット割りや閉塞感を感じさせるために採用したスタンダードサイズ(正方形に近い4:3の画面比)が効果を生み、ラストショットに合わせて広がる演出は非常に爽やか。
牛乳やライターといったアイテムによってイメージを繋ぐ巧みな編集も印象的でした。(この辺りはそもそも原作が上手い)
セリフの端々に90年代を感じさせる記号を配置しながらも、時代設定を明確に表すものは排除。
今の高校生はみな2000年以降に生まれた世代のため、スマホはおろか携帯が一切登場しない学園生活はかなり新鮮に見えるのではないでしょうか。
その時代の隔たりをなくすために差し込まれる登場人物へのインタビュー(大半が台本なしのアドリブ)が、よりはっきりとその人物の輪郭を浮かび上がらせてくれます。
さらに、若者から支持を集める二階堂ふみや吉沢亮らが主演を務め、今の時代に生きる若者への距離感をさらに縮めることに成功。
メインキャストの6人はみな一様に素晴らしい演技を披露していました。
4.若草ハルナ役の二階堂ふみ
本作『リバーズ・エッジ』のなかで、世の中に対してどこか冷めてしまっている主人公のハルナを演じた二階堂ふみ。
映画化を実現させた行動力もさることながら、6人のリーダーとして圧倒的な存在感でこの作品そのものを引っ張っていたように思います。
この世代の中では経験値がやはり頭一つ抜けていますね。まだ23歳なので、これからどんな役者になっていくのか非常に楽しみです。
5.山田一郎役の吉沢亮
いじめられっ子のゲイで既に世の中を諦めている山田を演じた吉沢亮。
きちんとした芝居を見たのはこれが初めてに近いのですが、間違いなく今作で一番輝いていたのは彼でした。
記事を書くために今更ながら素晴らしい原作漫画を拝読しましたが、思わず「山田だ…」と漏れる程にビジュアルは再現されていました。(特に横顔)
まずその端正なルックスからしてとても画になるのですが、華はスターになるための絶対条件。
見た目や纏うオーラだけでここまで魅力を放つ俳優は久しぶりに見た気がします。
2018年はとにかく出演作が次々と続きますので、2019年以降の作品選びに大きな期待を抱きたいところです。
6.田島カンナ役の森川葵
山田への恋心を危険な程に募らせていくカンナを演じた森川葵。
こういったいわゆる重い彼女役を演じさせたら右に出るものはいないんじゃないでしょうか。
声の出し方や空回り感、本作においても抜群でした。
愛を求め続ける観音崎を演じた上杉柊平、性による快楽に溺れるルミを演じた土居志央梨。
不勉強ながらどちらも全く存じ上げませんでしたが、両者とも身体を張った熱演によって等身大のキャラクターを見事に体現していました。
7.吉川こずえ役のSUMIRE
参考映像:くるり-その線は水平線
モデルのこずえを演じたSUMIRE。
父が浅野忠信、母がCHARAという重過ぎる十字架がそのまま役に投影されていて、とても実在感を感じました。(見た目も一番原作を再現していたと思います)
クォーターである父親の影響からか色素の薄い目の色が特徴的で、公開されたばかりのくるりのMV「その線は水平線」(是枝裕和監修)でも大きな魅力を放っています。
メイン6人全員に通じることですが、まず被写体として素晴らしい。
この6人の若く才能豊かな演技をカメラに捉えたということだけでも、本作を映画化した価値は大いにあります。
8.噂話好きの高橋役を演じた松永拓野も好演
さらに付け加えるなら、噂話好きの高橋を演じた松永拓野も忘れがたい。
Netflixドラマ『火花』(2016年/廣木隆一総監督作)のコンビニ店員役で強烈な印象を残した彼をまた見たいと思っていましたが、今作でも端役ながらきっちりと存在感を残しています。
現在公開中の『サニー/32』(2018年/白石和彌監督作)でも好演を見せており、個人的には今最も注目している俳優です。
まとめ
岡崎京子の盟友・小沢健二による主題歌「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」。
オザケンはMステに出演した際、この曲について「友情だけでできております」と語っていました。(満島ひかりとのコラボ最高でした)
歌詞は岡崎京子との関係を綴る私的なものながら、ここまで深い感動を呼ぶのはこの曲が全てを肯定する強さと美しさに溢れているから。
二階堂ふみと吉沢亮によるポエトリーリーディング(ややラップに近い)は虚像と現実の境を飛び超え、ハルナと山田がさらなる立体感を持ち出します。
「きっと魔法のトンネルの先 君と僕の心を愛す人がいる」はまさに、20数年の時を経て映画化を実現させた二階堂ふみをはじめとする才能豊かな後進たち、そしてこの映画と主題歌によって心を震わされている私たち観客そのもの。
作品内で“平坦な戦場”という言葉で表される日本の学園生活。
特に多感な時期の学生時代はギリギリの淵に立って生きている人たちが数多くいます。
この世界は決して綺麗なものばかりで出来ている訳ではなくて、いつも通っている道のすぐそばにだって死が存在する。
その真実に、不幸にも若くして気付いてしまった繊細な彼らがもがく姿は生々しさと荒々しさに満ち、あまりにも苦く切ない。
けれど、苦しんだり傷付けてしまった経験は無駄にならず、その想い出を引っくるめて大人になる。歳を重ね生きていくとはそういうことです。
2010年代の今はネットの普及によって、90年代よりもっとドライかつ無関心な嫌さが満ち溢れている気がします。
この当時とはまた違った悩みや問題が色々と出てきてはいますが、人間の根っこの部分は変わりません。
この作品はまず真っ先に10代の若者たちに観ていただきたい!
新たな青春映画の代表作として日本映画史に名を刻むことは間違いありません。
『バトル・ロワイアル』(2000年/深作欣二監督作)のように、出演キャストの多くが日本映画界を牽引する俳優として成長していくのではないでしょうか。
行定監督好きの映画ファンも、若手俳優目当ての方も、オザケンや岡崎京子ファンの方も、皆一様に満足できるほど作品としての質は高いです。
二階堂ふみが女優人生を懸けて挑んだ本作をぜひご覧ください。