「旅は道連れ、世は情け」
ゾウと人生に疲れた中年男が、タイ縦断500キロの摩訶不思議な旅を始めます。
今回は生きとし生けるものの笑って泣けるバディムービー、映画『ポップ・アイ』を紹介します。
映画『ポップ・アイ』の作品情報
【公開】
2018年(シンガポール・タイ映画)
【原題】
POP AYE
【脚本・監督】
カーステン・タン
【キャスト】
ボン、タネート・ワラークンヌクロ、ペンパック・シリクン、チャイワット・カムディ、
ユコントーン・スックキッジャー、ナロン・ポンパープ
【作品概要】
ゾウと中年男がタイの国土を縦断するという奇想天外なアイデアを、ユーモアと旅情感溢れた映像で描き出したのは、シンガポール出身の女性監督カーステン・タン。
短編が多くの国際映画祭で注目され、タイに居住した時に”野良ゾウ”に出会い、大きな衝撃を受けて制作した本作は、ワールドプレミアとなったサンダンスで脚本賞を受賞し、高い評価を得ます。
疲れたおじさんとゾウさんのロマンチックなロードムービーです。
映画『ポップ・アイ』のあらすじとネタバレ
道路に車が行き交います。
よく見ると道路の端に男と象の歩く姿が見えます。
後ろから大きなトラックがやってきて、男が交渉すると運転手は荷台に象を乗せ、目的地まで行ってくれるとのことでした。
男は安心して助手席で寝入っていました。
ふと起きると何となく目的地と違う方向、おかしい電話の相手の声。
男は、トイレに行きたいと外に出ようとしますが、容器を渡されてそこにするように言われます。
びっくりして助手席にその容器をひっくり返し、汚してしまったその瞬間に男は外に出て象とともに、目的地に向かいます。
その男は、かつて一流建築家として名を馳せたタナー。
タイの首都で大都市のバンコクで有名なビルを建ててきた彼ではありますが、時代の流れに逆らえず、会社で世代交代を感じ、妻にも相手にされない日々を送っていました。
ある日、タナーは道を歩いていると幼い頃に飼っていた象のポパイを偶然見かけました。
ポパイは、綺麗な服を着せられショーで象使いに使われていました。
タナーは我慢できずに象使いから、ポパイを買い取って家に連れて帰りました。
その夜、妻のボーが寝ているとポパイが家の中に侵入しボーに鼻を付けてきました。
驚いたボーはタナーにブチ切れて、家を出て行きます。
タナーもポパイを引き連れて、かつてボート二人暮した故郷ルーイを目指して、長い旅に出ます。
道中で古いガソリンスタンドで休んでいると、横にホームレスの男がいました。
彼の名前はディーと言い、そのガソリンスタンドで占いをしながら生活をしていました。
彼の話によると、兄が亡くなりもうすぐ自分も天国の兄の元にいくとのこと。
タナーは彼とスーパーに行って買い物をし、食事をしながらディーの話を聞きました。
「死ぬ前にもう一度好きな女と海辺を一緒にバイクで走りたい」と聞いたタナーは、自分の携帯電話を貸してその女性に電話をするように言い、バイクを買うようにお金も渡しました。
その間にポパイは繋いでいた鎖を外してどこかに逃げていました。
外が騒々しいことに気づいたタナーは、ポパイの仕業に気づきディーと離れて探しに出かけます。
ポパイを探していたタナーは、ポパイが警察コンビの銃に狙われている場面に出くわします。
タナーは事情を話し、象使いからもらった許可書を見せましたが、偽文書だと言われ連行されます。
警官のパトカーに見張られながらタナーとポパイは、遠い保護センターに向かうことになりました。
炎天下の中タナーが倒れてしまい、ポパイが水を吹きかけて意識を取り戻したものの、その日は警官とともに近くのバーで休むことになりました。
丁度同じ頃に、車から降ろされ仕方なくやってきたのは、哀愁漂うトランスジェンダーのジェニーでした。
お客から相手にされず一人で飲んでいるジェニーに、自分を重ねてつい近寄ってしまうタナーは彼女と自然と心を通わせていきました。
バーの閉店間際、タナーを狙っていたバーのナンバーワンの娼婦の誘いにタナーも乗ってしまいましたが、自己嫌悪の朝を迎えました。
酔っ払っている警官が寝入っている間に、ジェニーが手に入れた鎖の鍵をもらったタナーは、ポパイの鎖を外して逃げ出します。
歩いていると、路上で倒れている男を見つけます。
よく見ると、あの占い師のディーで、事故を起こし遺体となっていました。
ディーは綺麗な服を着ており、バイクで転倒していました。
ディーのポケットから着信音の音が聞こえます。
タナーが電話を取ると、ディーの昔の彼女ジャーの声でした。
「会いに来ないでとディーに伝えてほしい」
その声を聞くと、タナーは自分のポケットに携帯電話を入れました。
周りに集まっていた人がじっとタナーを見つめます。
「僕の携帯電話だ」とタナーが言った途端に、バイクに乗って走り去る人や死体を弄る人々…。
タナーはディーの遺体を火葬してもらい、遺骨を持ってジャーの元に向かいました。
彼女はすでに結婚をして子どももいました。ジャーは話を聞いて遺骨を持ってバイクで走りました。
タナーとポパイは再び旅立ちましたが、途中ポパイが動かなくなってしまいます。
足元を見ると出血しており、ひどい怪我をしていました。
ジャーの父親がトラックを貸してくれ、ポパイを荷台に乗せてタナーが運転することになりました。
昔の思い出を胸に、緊張した面持ちのタナーは生まれ故郷のルーイに着きました。
タナーは村のあまりの変貌に驚愕して立ち竦みます。
映画『ポップ・アイ』の感想と評価
なぜ中年の男と象なのか?
冒頭の男と象のシーンに釘付けにされます。
しかも最初から違和感を感じることなく自然に現代の風景にマッチしています。
当たり前のようにトラックが横に止まって象を荷台に乗せていく…。
日本ではないことはわかりますが、漂う雰囲気や匂いそのものに心惹かれていきます。
映画を観るにつれ、だんだんと男タナーと象のポパイの背景や関係が繋がってきますが、何となく腑に落ちないというか不思議なまま映画が進行していきます。
絶えず“揺れている”という感覚
タナーという男は若かりし頃は名うての建築家で、有名なビルを建てていたものの、今は窓際族のような扱いです。
こんな人生でいいのか?とタナーの心が揺れています。
妻のボーは、あんな魅力的だったはずの夫が下っ腹出てるは、近寄ったら加齢臭で臭いは、冴えない亭主の挙げ句の果てに象を家で飼うなんて…いいのこんな亭主で?と思い家出しては一応帰ってくるんです。
ボーもどっちつかずで心が揺れています。
ポパイと旅立つタナーはポパイの上に乗って進むのですが、あまり安定していなくて、タナーが何度も何度もポパイの上に乗ろうとしてうまく上がらないシーンがあります。
もうそこを見ていると、笑って笑って泣けてくる。
ホームレスのディーも、元カノのジャーも、ピアックおじさんも、心の揺れを感じながら生きている人々です。
その揺れを観るものの心が共鳴するとき、胸が締め付けられるほど笑いがこみ上げて、切なくなる瞬間があります。
まとめ
映画の最後に、以前に自分が設計し現在廃墟と化したビルの最上階で、タナーと妻のボーが今のバンコクの風景を眺めているシーンがあります。
ボーは、当時地震があった時にちょうどこのビルに居てたことを明かします。
「怖くなかったのか?」と聞くタナーに、ボーはこう答えます。
「絶対倒れないと思っていたわ。あなたが設計したんだから…」
もうその一言でこの映画の“揺れ”は止まったかもしれません。
人生とは“揺れることの繰り返し”
この映画の“揺れる”心と共鳴する瞬間を感じに行きませんか。