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『ノーウェア 』 あらすじ感想評価。デジタルリマスター版でカオスに駆け巡る若者たちの一夜を描く

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

11月15日(金)より『ノーウェア デジタルリマスター版』が渋谷ホワイトシネクイントほかにて全国順次公開!

90年代ニュー・クィア・シネマを代表するグレッグ・アラキ監督の『ドゥーム・ジェネレーション』と『ノーウェア』がデジタルリマスター版で蘇ります。

デジタルリマスター版は、初公開時にはそのストレートな性表現によりレーティングの事情でカットされたシーンも含んだディレクターズカット版です。

本作は、2024年11月8日(金)より渋谷ホワイトシネクイントほかにて全国順次公開されます。

『ノーウェア デジタルリマスター版』は、まるでジェットコースターのようなスピード感で若者の一夜を描きます。

「世界の終わり」と「真実で永遠の愛」を見つけることに夢中なダークは、自分の死の瞬間を記録するためにいつもカメラを抱えています。

恋人のメルは、ダークのことを愛していますが、恋人をひとりに絞ることができず、ルシファーとも恋人関係にあります。色鮮やかな街で、ダークはどのような“終末”を迎えるのでしょうか。

映画『ノーウェア デジタルリマスター版』の作品情報

©1995 UGC and the teen angst movie company

【日本公開】
2024年(アメリカ映画)

【原題】
Nowhere

【監督・脚本】
グレッグ・アラキ

【キャスト】
ジェームズ・デュバル、レイチェル・トゥルー、キャスリーン・ロバートソン、ネイザン・ベクストン、キアラ・マストロヤンニ、デビ・メイザー他

【作品概要】
監督を務めたグレッグ・アラキは、ロサンゼルス生まれの日系3世。自身が同性愛者であることを明かした上で、ティーンエイジャーや同性愛をテーマとした作品を多く制作し、1990年代のニュー・クィア・シネマを牽引した監督のうちの1人として知られています。

『ノーウェア デジタルリマスター版』は、“ティーン・アポカリプス・トリロジー”と呼ばれる3部作で、『トータリー・ファックト・アップ』(1994)、『ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版』に続く3作目となります。

映画『ノーウェア デジタルリマスター版』のあらすじ

(C)1995 UGC and the teen angst movie company

「世界の終わり」と「真実で永遠の愛」を求める孤独なダークは、自分の死の瞬間を撮影するため、カメラを抱えています。

恋人のメルは、ダークを愛していますが、恋人をひとりに絞りきれず、紫の髪が印象的なルシファーとも恋人関係にあります。

ダークはメル、ルシファーとカフェに向かう途中で、モンゴメリーを見かけ、ダークは彼に「朝食を食べに行こう」と誘います。

授業があると渋っていたモンゴメリーですが、ついて行くことに。

カフェには、クィアなバンドマンのカウボーイがいて、「缶けりに行くよね?」と皆を誘います。

そんな中カフェでは女子3人組がスイーツの早食い競争をして、ガールズトークをしています。

メルとルシファーはでかけ、1人バス停にいたダークは道の向こう側に宇宙人がいるのを見つけます。すると、宇宙人はバス停にいた女子3人を消してしまいます。

奇妙な出来事に遭遇しながらも缶けり、そしてその後のパーティーに向かうダーク。

色鮮やかな街でダークはどのような“終末”をむかえるのでしょうか。

映画『ノーウェア デジタルリマスター版』の感想と評価

(C)1995 UGC and the teen angst movie company

グレッグ・アラキ監督の“ティーン・アポカリプス・トリロジー”と呼ばれる、『トータリー・ファックト・アップ』(1994)、『ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版』、『ノーウェア デジタルリマスター版』の3作。

3作を通して描かれているのは、若者の狂ったようなエネルギーです。

ジェットコースターのようなスピード感で若者たちの一夜を描いた映画『ノーウェア デジタルリマスター版』は、まさに若者のエネルギーがつまった映画です。

若者の生々しい生のエネルギーが感じられる一方で、どこか破滅の予感を孕んでいます

ダークは、自分の死を予感し、死の瞬間を記録するためにカメラを抱えているといいます。

このような“”や“終末”の予感に対する反動が、いつ死んでもいいように生きようというエネルギッシュさにつながっているのでしょう。

また、世紀末に対する都市伝説などが溢れかえっていた当時の空気感を反映しているとも言えます。

その象徴的なものが、神に救いを求める怪しい深夜の宗教番組でしょう。このようなカルト的な番組が普通に放映されていたのです。

破滅的な若者たちがドラッグやSexで、生を感じようとするなか、ダークは「真実で永遠の愛」を追い求めます。

ダークにはメルという恋人がいますが、メルは同性のルシファーという恋人もいます。それだけでなく大勢と関係を持ち、Sexを楽しみたいと考えています。

ダークやメルをはじめ、様々な若者の関係性が描かれ、中にはSMなど何でもありのクィアな世界観。そこに宇宙人まで登場してくる突飛さは、様々な都市伝説で溢れかえっていた世情と、ドラッグによってトリップした世界観が融合しているのかもしれません

そんはカオスな世界の中で、「真実で永遠の愛」を求めるダークのピュアなロマンティックさは、エネルギーに満ちあふれながらも、物足りなさ、孤独を抱える若者の心の闇を映し出します。

酒やドラッグに酔って、騒いで、快楽に身を委ねるという行動の裏には、心の闇に目を向けたくないという側面もあるのかもしれません

そのような寂しさ、本当の自分を理解してほしいという気持ちが、真実の愛、真実の相手を追い求めることにつながるのです。

真実の愛を追い求めたダークがむかえる“終末”に観客は何を思うでしょうか

まとめ

(C)1995 UGC and the teen angst movie company

ティーンエイジャーや同性愛をテーマとした作品を多く制作し、1990年代のニュー・クィア・シネマを牽引した監督のうちの1人として知られているグレッグ・アラキによる映画『ノーウェア デジタルリマスター版』。

グレッグ・アラキ監督の社会に対する反発、エネルギーと感じられる本作ですが、キャラクターの魅力も見どころの一つです。

『ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版』、『ノーウェア デジタルリマスター版』ともに出演するジェームズ・デュバルは、どこか幼さも残したピュアな青年を演じます。そのピュアさが観客が共感しやすいキャラクターともいえます。

恋人役のメルは、恋人をひとりに絞りきれないというところも、どこか憎めないキュートなキャラクターになっており、ポリアモリーのキャラクターともいえます。

ジェームズ・デュバル演じるダークと通じ合うピュアな青年モンゴメリーや、バンドマンのカウボーイなど個性的なキャラクター揃いです。

クィアでカオスな世界観の中に映し出された若者の孤独と切実さは現代の若者にも共感できるところがあるかもしれません。

30年近く経った現代も色褪せない青春ムービーです。

映画『ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版』は、2024年11月8日(金)より渋谷ホワイトシネクイントほかにて全国順次公開!



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