モロッコの現地日付け2016年12月4日に、第16回マラケシュ国際映画祭にて、塚本晋也監督が功労賞「トリビュート」を受賞しました!
塚本監督の積み重ねて来た映画製作の大きな功績に贈られた賞で、授与式には自称塚本ファンのヤン・クーネン監督が、このために会場に駆けつけて記念トロフィーを手渡したそうです。
今回は、国際的な知名度を誇る塚本監督による映画『野火』をご紹介します。
映画『野火』の作品情報
【公開】
2015年(日本)
【監督・脚本・編集・撮影・製作】
塚本晋也
【キャスト】
塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作、中村優子、山本浩司、山内まも留
【作品概要】
高校生時の塚本晋也が、大岡昇平の問題作『野火』を読んだ感動を念願を叶えて完全実写化。戦後70周年を迎えるにあたり、日本社会の状況が右傾化していく危惧を感じ、「これはヤバイ」と単独で撮影で挑んだ渾身の一作。
また、1959年に、市川崑監督が初の映画化をした『野火』では、描かれることのなかった真実を伝える衝撃の作品です。
映画『野火』のあらすじとネタバレ
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
第2次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島。日本軍の敗北が濃厚となった過酷な戦況の中で、結核のため野戦病院へと送られた主人公の田村一等兵。
しかし、入院を拒絶され、部隊にも戻れず、行く当てを失い彷徨い続けます。
田村は、野戦病院の近くにいた2人組みの兵士たちと出会います。父親ほどの年齢の安田は足を負傷しており、永松という若い男が、下僕のように安田の面倒を見ていました。
やがて、田村のカバンに芋が入っていることに気付いた永松でしたが、そんな矢先、野戦病院は戦闘機の攻撃を受けて爆発炎上してしまいます。
またも、独り彷徨い歩いた田村は、教会のある村にたどり着きます。礼拝堂の長椅子に、田村は横たわると疲れ果て眠ってしまいます。
しばらくすると、近くの水辺に船でたどり着いた若い男女が、じゃれ合いながら教会へと入ってきました。
田村は、男女に銃口を向けてマッチが欲しいと懇願しますが、女性は殺されてしまうという恐怖心から発狂。
女性がひどく興奮して騒ぎ続けたために、田村も気が動転したのか、向けていた銃で女性を撃ち殺してしまいます。怯えた連れの男性は、教会の扉から外へと逃げ去って行きます。
その女の死体の側には、小さな地下倉庫があり、田村は貴重な塩を見つけ、その場から立ち去ります。
田村は、やがて偶然に出会った3人組の兵士から、生き残った兵士は全てパロンポンへの撤退命令の集合が掛かっていることを知らされます。
自信過剰気味である伍長と、その部下は、田村が持っている塩に気付くと、塩を目当てにしたのか、自分たちと同行するように仲間入りの提案します。
彼らは笑いながら別の戦場では、人肉を喰ったことを自慢するなど、気の抜けない連中ではあったのですが、田村とっては頼りになりそうな人物たちでもあったのです。
伍長と部下たち、そして田村は共に目的地パロンポン目指します…。
映画『野火』の感想と評価
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
戦争さえなければ普通に生きていたろう人たちが、国から殺人を強要されたことで、人間は兵士となります。
そして戦場という極限状態に追い込まれたことで、自我の崩壊に共に生死の意識が変容していく恐怖と、人間の業(喰う)が描かれます。
塚本監督は、市川崑監督版『野火』では描かなかった、帰還後の姿としてカニバリズムのあった事実を描きました。
また、怪しすぎるほどに美しい自然の中で、変貌を遂げる人間は、これまで塚本監督がテーマとしてきた「都会と人間」よりも、より深いテーマを見出した作品だとも言えそうです。
メッセージ性の強い今作は、第71回ヴェネツィア国際映画祭での上映を皮切りに、各国の映画祭で圧倒的な支持を得ている作品です。
また、「キネマ旬報ベスト・テン」の日本映画部門第2位、第70回毎日映画コンクールでは、男優主演賞&監督賞をダブル受賞しています。
まとめ
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
2014年に開催された、第71回ヴェネツィア国際映画祭にて、『野火』が正式上映された際に、観客からこれほどの暴力描写が必要なのかと物議があがったそうです。
塚本晋也監督にお会いした際に、そのことについて尋ねてみると、映画を撮影する以前に希少となった元兵士たちから戦争の体験談を取材した経験からは、映画より実際の戦場はもっと悲惨なものだったと話してくれました。
また、塚本監督は、厚生省が遺骨収集を行うの調査団に同行するなど、戦争を知らない世代として、どれだけ真にその状況をイメージが出来るかに時間を費やしたそうです。
塚本監督の口から出た印象的な言葉は、「喰うことは生きることだ」。
戦況の悪化で、死ぬことも生きることもできない状況下の人間は、それでも喰い続けなければならなかった。
自身の負傷した傷にたかる蛆を食べたり、他の部隊に属する兵士を殺して食べるという現実があったというのです。
この作品を観ることで、塚本監督は、戦場を疑似体験して欲しいと観客に伝え、実際はもっと悲惨であったと目を潤ませていました。