映画『マスタング』(原題:The Mustang)は、ロール・ドゥ・クレルモン=トネール監督の長編映画デビュー作!
映画『マスタング』(原題:The Mustang)は、12年間刑務所で服役するローマン・コールマンを主人公に、馬との交流を通し人間が再生していく姿を描いたドラマ作品です。
アメリカに実在する囚人による野生馬の調教という更生プログラムが題材。製作総指揮に名を連ねるロバート・レッドフォードが本作の製作を実現化しました。
マスタングは、16世紀にスペイン人が現在のアメリカへ連れて来たMustengoと呼ばれた馬。
映画『マスタング』の作品情報
【公開】
2019年(フランス・ベルギー合作映画)
【原題】
The Mustang
【監督】
ロール・デゥ・クレモン=トネール
【キャスト】
マティアス・スーナールツ、ブルース・ダーン、コニー・プリットン、ジェイソン・ミッチェル、ギデオン・アドロン
【作品概要】
閉鎖された刑務所で撮影が行われた本作は、更生プログラムに参加した元囚人も出演。
フランス人監督のロール・デゥ・クレモン=トネールは、俳優としてキャリアを積み、本作が長編映画監督デビューとなります。
『The Mustang』は、2019年度のサンダンス映画祭に出品され高い評価を獲得。優秀な脚本に贈られるNHK賞を受賞。
映画『マスタング』のあらすじとネタバレ
‐米国の開拓時代を象徴する10万頭以上のマスタングが野生化し現在も国内に生息‐
‐数の増加と限られた食料、そして公有地の私有化が進み、マスタングの生存が脅威にさらされている-
‐政府は毎年数千頭のマスタングを施設で維持する一方、安楽死も実施。数百頭は刑務所へ送られ、オークションの競売を目的とし囚人が調教を行う‐
刑務所に服役するローマン・コールマンは心理学者の訪問を受けます。人と関わりたくないローマンは生活改善にも興味がありません。
心理学者はローマンにメンテナンスの仕事を割り当てます。嫌々ながらローマンは隣接する牧場で、馬の世話をすることに。
ある日、捕らわれているのを嫌がって暴れる野生馬を目にします。牧場を管理するマイルズは、人に最も懐こうとしないその馬を臨時でローマンに担当させます。
ベテラン調教師のヘンリーは、ローマンに野生の馬を調教しオークションで販売する社会復帰プログラムの内容を説明。囲いの中に入りお手本を見せます。
決して目を見つめず距離を保つよう教えます。全く自分の言うことを聞かない馬に苛ついたローマンは、後ろへ下がれと声を荒げます。
馬は大きく前足をあげてローマンに対する拒絶を表し、ヘンリーが馬に感情が伝わってしまうと笑います。
ローマンの娘・マーサが面会に訪れます。妊娠しているマーサは、祖母の家を売って恋人と引っ越し子供を育てると言います。
ローマンは、自分にも所有権があると応じません。マーサは、自分の面倒を見てくれなかった父親の為に家事をこなしたのは自分だと主張。ローマンは、娘に怒声を浴びせます。
直後に来た牧場で、マイルズから調教を進めるよう指示されたローマンは、怒りを抱えたまま馬に相対します。
ローマンを嫌がり囲いの中を走り回る馬に腹を立てたローマンは、馬を暴行して取り押さえられ独房処置となります。
嵐が近づき、ローマンは人手が足りない為駆り出されます。自分が殴った暴れ馬にそっと近づき首に縄を掛けることに成功。無事建物内に避難させます。
マイルズは、ローマンの訓練プログラムの正式参加を認めますが、また馬を傷つければ10年間精神病棟へ送ると警告します。
映画『マスタング』の感想と評価
犯罪者に対する厳罰化を実施したアメリカでは、5年間で刑務所人口が500パーセントに増加。出所後5年以内の再犯率は、77パーセントに上ると週刊新聞『エコノミスト』が2018年に伝えています。
本作で描かれるマスタングの調教プログラムは『ホース・ウィスパリング・プログラム』と呼ばれ、コースを終了して出所した囚人の再犯率は、実に4パーセント。画期的な効果を生んでいます。
動物は相対する人間の心を鋭く察知し、まるで合せ鏡の用に人の感情を投影した行動を取ります。
主人公のローマンが抱える怒りは、閉じ込められて不愉快な野生馬の怒りを引き出し、最初は全く噛みあいません。
ローマンとマーキスがお互いを調教し合うかのように、少しずつ距離を縮めて行く過程が本作の見所です。
主人公のローマンを演じたマティアス・スーナールツは、マーキスがローマンに初めて顔を寄せた場面について、マーキス役の馬が自分に心を開いた初めての瞬間だったと語っています。
監督を務めたロール・デゥ・クレモン=トネールは、動物は嘘をつかず過去も責めることもしないことが、自信を無くした囚人にとって大切なことだと指摘。
ローマンは、自分を受け入れてくれたマーキスを救う為に懲罰など意に介さず命を救います。マーキスとの交流を通し、また愛せる人間性を取り戻した場面です。
参考:ロール・ドゥ・クレルモン=トネールの短編映画『Rabbit』(2014)
クレモン=トネールは、2014年短編映画『Rabbit』を製作。
女性刑務所に服役するキャンブルは、減刑を条件にアレックスと言う名の雄の兎を世話することになり、悪戦苦闘しながらも徐々に心を開いていく様子を描写。
更にアニマルセラピーについて学ぼうと決めたクレモン=トネールは、数年に渡って深くリサーチを重ね、アメリカのネバダ州に在る刑務所で囚人がマスタングを調教し更生を果たしている事を知り訪問。その後本作の脚本を執筆しました。
また、事実にこだわったクレモン=トネールは、閉鎖された刑務所をロケ地に使い、実際にマスタングの調教プログラムに参加して社会復帰を果たした元囚人達を劇中の受講生としてキャスト。彼等の大変穏やかな表情が印象的です。
失敗しても2度目のチャンスは誰でも与えられていること、人間は変れること、そして動物達がいかに壊れてしまった人間を修復できるかをメッセージに込めたと監督は語ります。
まとめ
凶悪犯罪者が服役する重警備刑務所で実施されている野生馬の調教を描いた『マスタング(原題:The Mustang)』。
人との関わりを放棄していた主人公ローマンがマーキスと名付けた馬を真に受け入れ、そして受け入れられることで、自分の犯した罪に向き合い成長していきます。
動物の美しい純粋さが怒りで支配された人間の心を解きほぐし、再び笑顔を取り戻せるまでに癒す奇跡を丁寧に描写。
本作は、つまずいてしまった人達に対する監督ロール・クレモン=トネールの愛を込めた応援歌。