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Entry 2018/12/08
Update

映画『恋のしずく』あらすじネタバレと感想。川栄李奈のカワイイだけでない知的な演技力に注目

  • Writer :
  • もりのちこ

日本三大酒処、東広島市・西条を舞台に、新たな日本酒の誕生物語。

日本酒嫌いの理系女子・リケジョの詩織は、ワインソムリエを目指す大学生。あろうことか、日本酒の酒蔵へ実習が決まります。

酒蔵での人々との出会い、酒造りを通して詩織は、次第に日本酒の神聖さに魅了されていきます。

「一生、忘れられないもの、みつけました」詩織がみつけた、一生のものとは?

日本酒に夢を見出した若き女性の青春映画『恋のしずく』を紹介します。

映画『恋のしずく』の作品情報

【公開】
2018年(日本映画)

【脚本】
鴨義信

【監督】
瀬木直貴

【キャスト】
川栄李奈、小野塚勇人、宮地真緒、中村優一、蕨野友也、西田篤史、東ちづる、津田寛治、小市慢太郎、大杉漣

【作品概要】
瀬木直貴監督は、物語の舞台となる地域に実際に住み、その土地の空気をそのまま映像にすることで知られています。『ラーメン侍』『千年火』『マザーレイク』など、海外でも高い評価を得ています。

主人公詩織を演じるのは、元AKB48メンバーで、本作が初主演となる川栄李奈。また、蔵元の息子・莞爾役に、劇団EXILEの小野塚勇人とフレッシュな顔ぶれです。

また、威厳ある蔵元をみごとに演じた、名優大杉連。この作品が遺作となりました。

映画『恋のしずく』のあらすじとネタバレ


(C)2018「恋のしずく」製作委員会

ワインのティスティングでは神の舌を持つ橘詩織(川栄李奈)は、ワインソムリエになるためにフランス留学を目指していました。

残すは、大学の実習を済ませるだけのはずでした。

実習先にワイナリーを希望していた詩織でしたが、激戦区と化したワイナリー研修は、教授のあみだくじによって、酒蔵研修へと決まってしまいます。

詩織は、日本酒が大の苦手でした。ワインにはめっぽう強い詩織も、日本酒で酷く酔ったトラウマから、匂いをかぐのも嫌なほど毛嫌いしていました。

研修先をワイナリーに変えてもらおうと教授に詰め寄りますが、単位を取らないと留学できないと丸め込まれ、しぶしぶ酒蔵研修へと向かうことに。

研修先は、日本三大酒処、東広島市・西条にある老舗「乃神酒造」です。

乃神酒造を訪れた詩織でしたが、今年は実習生の受け入れはないと断られてしまいます。

その理由は、蔵元(大杉漣)が受け入れを断ったにも関わらず、息子の莞爾(小野塚勇人)が父への反抗心で勝手に受け入れの話を進めていたのが原因でした。

乃神酒造の父と息子の関係は最悪です。親子の確執に振り回される詩織。

どうしても単位を取らなければならない詩織は、置いてもらえるよう頼み込みます。

蔵元はそんな詩織に、蔵の酒「鯉幟」を勧めます。匂いをかいだだけで顔をそむける詩織に、蔵元は東京に帰ることを提案します。

途方に暮れる詩織。酒米を作っている地元農家の娘美咲(宮地真緒)が、稲刈りの手伝いに誘ってくれました。

心を無にして稲刈りを頑張る詩織は、自分が刈った米が日本酒へとなることへの興味がわいてきます。

一緒に作業をしていた、杜氏の坪島(小市慢太郎)の一押しで、詩織は「乃神酒造」で研修をスタートすることになりました。

酒蔵での仕事は、酒の神様へ感謝し、徹底された酒蔵の掃除。想像していたものとは違います。

言われるまま酒樽を洗う詩織は、洗い残しを坪島に指摘され、思わず効率が悪いのではと口答えをします。

苛立ちを隠し切れない詩織は、息子の莞爾とも口喧嘩をする始末です。

酒蔵に馴染めない詩織を美咲は、あるパーティーに誘います。

そこでは、酒蔵「乃神」と並ぶ老舗酒造「有重」の御曹司、一紀がいました。

一紀は詩織に、日本酒の種類や飲み方を丁寧に教えてくれました。

乃神の蔵元に勧められて飲んだ「純米吟醸 鯉幟」が、まったく違う味わいで詩織に語り掛けます。

「日本酒が嫌いなんじゃない。知らないだけなんです」一紀の言葉で自分の頑なだった日本酒への考えが崩れていきます。

「もっと日本酒のことを知りたい」詩織は、酒樽の掃除も心を込め丁寧に仕上げるようになりました。率先して、掃除を行い、酒の神様にも愛されるよう人間性を磨いていきます。

蔵では、米の収穫も終わり、酒仕込みの時期となりました。

そんな中、乃神の蔵元は心臓の病を患っていました。息子の莞爾は跡継ぎを放棄し、蔵元とは衝突ばかりです。

以下、『恋のしずく』ネタバレ・結末の記載がございます。『恋のしずく』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2018「恋のしずく」製作委員会

実は、乃神酒造は経営不振で先行きが不安定な状態でした。

息子の莞爾は、跡を継がないと言いながらも、そんな酒蔵の先行きを案じていました。生き残る術として業務提携の話を持ってきます。

それに腹を立てた蔵元は持病の心臓が悪化。経営の話も進まないまま亡くなってしまいます。

莞爾が15歳の時、母親の死の間際、お酒を飲んでいて看取れなかった父親を莞爾は恨んでいました。酒蔵を継がないと決めたのもそれが原因でした。

父親の遺品を整理していた莞爾は、母が残したメッセージを見つけます。

そこには母が望んでいた新酒「命なりけり」の直筆の名札と三島由紀夫の「橋づくし」の本がありました。

杜氏の坪島から、父親が「命なりけり」の研究に没頭するあまり母の死に際に間に合わなかったという事実を聞かされた莞爾。真っ向から酒造りに向き合うことを決意します。

願賭けとして莞爾は、母が残した本、三島由紀夫の「橋づくし」に習い、7つの橋を無言で振り向かず渡ることを実行します。

願賭けを済ませた莞爾は、正装し杜氏の元へ。正式に蔵元になることを認めてもらえるよう、そして新酒「命なりけり」を製造したいと頭を下げます。

そんな莞爾の様子を側で見守る詩織は、いつしか莞爾に惹かれていきます。

乃神酒造のみんなが一丸となって新酒作りに励む中、詩織の元にフランス留学の案内が届きます。

最後まで酒造りに参加したい。自分の心がどこにあるのかわからない。

悩んだ詩織は、莞爾がやっていた願賭け「橋づくし」をすることにします。そこには一緒に願賭けをする美咲の姿がありました。

美咲は、元カレと別れてから妊娠していることに気付き、ひとりで産んで育てる覚悟を決めていました。

それぞれの思いを胸に、橋づくしに挑戦する2人。

あと一歩で達成という所で、美咲の前に現れた人物がいました。有重酒造の一紀です。

一紀はずっと美咲のことが好きでした。年上の美咲に相手にされない一紀でしたが、妊娠していることを知ってもなお、家族になりたいと申し込みます。

美咲の願掛けは、思わぬ方向へ進み叶いませんでしたが、結果良しとなりました。

詩織の願掛けは「お酒を愛して恋をする」

願掛けを達成した詩織は、新酒「命なりけり」の完成に立ち会うことが出来ました。

蔵の皆と一緒に、新酒の完成を喜ぶ詩織。

詩織は「一生、忘れられないもの」をみつけました。

完成した新酒「命なりけり」を、父と母が眠るお墓に備えた莞爾は、達成感でいっぱいです。

自分のことのように喜ぶ詩織。「命なりけり」は、源氏物語の一節から取られたものだと莞爾に教えます。

桐壺が死の間際、光源氏にあてたその句は、死を前に愛する人ともっと生きたいという願いを謳った句です。

母は死を前に、愛する父と息子の莞爾ともっと一緒にいたかった思いをお酒に託していました。

母の愛が、父を通して息子に受け継がれ、やっと産みだされた奇跡のしずく「命なりけり」

いよいよ詩織の研修最終日となりました。駅まで送る莞爾。

莞爾は、詩織に徳利セットをプレゼントします。その陶器は詩織が酒蔵に来たばかりの時、割ってしまったものと似ていました。

莞爾はその徳利で、父親の蔵元と酒を飲むのが夢でした。

その思いを知る詩織は、「この徳利で一緒に日本酒を飲んでください」と莞爾にお願いします。

電車に乗り込む詩織。「好きです」莞爾に告白します。

その言葉は電車の発進のチャイムでかき消されてしまいました。

聞き取れない表情の莞爾。それでも詩織は、満足でした。

映画『恋のしずく』の感想と評価


(C)2018「恋のしずく」製作委員会

杜氏は酒仕込みの前に皆に言います。「自分を殺すことから始めましょう」

酒造りは命を育む仕事です。人間の力だけではどうにもならない、だからこそ奇跡のしずくなのでしょう。

そうして生まれた酒は、それを飲む人にも多くの幸せを与えてくれます。

日本酒っていいものですね。

映画『恋のしずく』では、お酒造りの過程も丁寧に描かれています。また日本酒の種類や飲み方、お酒に合う料理もたくさん登場します。

モッツアレラチーズに純米吟醸酒を、トンカツに熱燗を合わせるなど、試してみたくなること間違いなしです。

酒造りを通して成長していく詩織に、心が洗われていくようでした。意固地になって新しい価値観を受け入れないということは、もったいないことです。

新しいことを知り、受け入れることは人生を豊かにしてくれます。

そして、ワインのテイスティングを饒舌に語る川栄李奈のリケジョっぷりにも注目です。

酒や料理の感想を美味しいと一言で片づけず、どのように味わい深いのか、何のようだなど丁寧に語る姿がリケジョらしいです。

川栄李奈のアイドル時代にはわからなかった知的な部分が、演技を通して感じられました

まとめ


(C)2018「恋のしずく」製作委員会

物語の舞台となる地域に実際に住み、その土地の空気をそのまま映像にすることで知られている、瀬木直貴監督だけに、東広島市・西条ならではの美しい景色が随所に映し出されます。

日本三大酒処と言われる西条の各酒蔵から立ち上がる湯気が、青空に吸い込まれていく様子。白い漆喰の壁と黒い瓦屋根のコントラストが美しい土蔵造りの酒蔵群。

街に流れる川とそれに架かる橋の数々。酒米の穂が実り黄金に輝く田んぼ。

まるで西条を観光しているようです。

日本酒造りの魅力が詰まった映画『恋のしずく』

日本酒が好きな方はもちろん、ワイン派、ビール派の方もぜひ、ご覧ください。日本酒のこともっと知りたくなるはずです。

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