雄大な自然が教えてくれるもの。
人間はもっとシンプルでいいのかもしれない。
サミュエル・コラルデ監督は、グリーンランドの自然に魅せられ、2年をかけて国中を旅して回り、映画の舞台・チニツキラークにたどり着きます。
狩る、食べる、学ぶ、楽しむ。人生がシンプルで、かつ心豊かに暮らす村人たちと出会い、コラルデ監督はこの村をロケ地に選びました。
そして、登場人物すべてを本人が演じるというリアリティにこだわった、ドキュメンタリー・アプローチの作品となりました。
自然が教えてくれたこと、自然と共に生きるということ、人類の原点の暮らしがここにはありました。
映画『北の果ての小さな村で』の作品情報
【日本公開】
2019年(フランス映画)
【監督】
サミュエル・コラルデ
【キャスト】
アンダース・ビーデゴー、アサー・ボアセン
【作品概要】
グリーンランドのチニツキラークを舞台に、デンマーク人の教師が村の人々との交流で成長していく姿を追った映画『北の果ての小さな村で』。
監督は、カンヌ国際映画祭SACD賞受賞歴を持つ、フランスのサミュエル・コラルデ監督。
監督自ら見せられたグリーンランドの自然、そして逞しく生きる村人の生活が丁寧に描かれています。
作品は2018年のサンダンス映画祭に出品を果たしています。
映画『北の果ての小さな村で』のあらすじとネタバレ
デンマーク人のアンダースは、グリーンランドで先生になろうとしていました。
以前グリーンランドはデンマークの植民地でした。その後、植民地支配はなくなりましたが、内政自治権限の範囲を広げ完全なるデンマークからの独立をめざすためグリーンランドは、学校教育や医療など様々な面で近代化が進んでいます。
どこに赴任したいか聞かれたアンダースは、近代化が進む首都より片田舎が良いと、あえて人口80人のチニツキラークを希望します。
教師として新たな道を歩き出したアンダースに、家族の反応はいまいちでした。彼の家は7代続く農場だったのです。一人息子の決断を受け入れられない父。
アンダースもまた、農場を継ぐべきかどうか迷っていました。グリーンランドでの生活は、一時の自分探しの旅でもありました。
しかし、そんな甘い考えはすぐに打ち砕かれます。言語の違いに、生活習慣の違い。アンダースはチニツキラークの子供たちと上手くコミュニケーションを取ることが出来ません。
授業中におしゃべりを止めない子供たちに、アンダースは思わず「静かに!」と怒鳴ってしまいます。
それでもアンダースは、子供たちを理解しようと家族の絵を書かせます。その絵から両親と一緒に住んでいない子供が多いことに気が付きました。何か問題がある村なのかもしれないと不安になるアンダース。
この小さな村では、生活のため養子縁組で祖父母と暮らす子供も多く、仕事も少ないため両親が町に出稼ぎに出ている家族もあります。
どうしてもデンマークでの暮らしと比べてしまうアンダースは、村人に「デンマーク人は私たちを見下している」と言われてしまいます。
そんなある日、児童のひとりアサーが、連絡もなしに学校を一週間休みます。アサーの家を通訳役のジュリアスと共に訪ねるアンダース。アサーは祖父母と暮らしていました。
学校を休んだ理由を聞けば、祖父のガーディと犬ぞりで狩りの旅に出ていたということでした。
「狩りは楽しいことでしょう。でもアサーも中学生になります。勉強が遅れてしまいますよ」。アンダースは親切心のつもりです。
祖母のトマシーネはそんなアンダースに母国語で話します。「デンマーク流で教育しないで。人生に必要な事は祖父が教えます」。アサーは猟師になるのが夢でした。
犬ぞりの走らせ方、手作りのハーネス、魚の釣り方、銃の扱い、アザラシの肉の捌き方。アサーは祖父母からこの地で生きる術、自然のルールを学んでいました。
子供たちの態度にお手上げのアンダースは、授業もままならず、村人からは孤立気味です。吹雪続きで家の暖房も壊れてしまいます。耐えきれなくなった彼は、母親に電話をかけました。
世界は新しい年を迎えようとしていました。外では新年を祝う歌声と、澄み切った夜空に花火が上がっています。それはとても美しい光景でした。
アンダースは、自らチニツキラークの暮らしを理解し、村人に心を寄せようと努力して行きます。
村の老人に頼み、自分のソリを作ってもらいました。「ソリは乗れるのか?」と聞く老人に「簡単ですよ。乗ってるだけだでしょ」。と笑って答えるアンダース。
完成したソリを犬達が元気に引っ張っています。でも、ソリの上はもぬけの殻です。後ろから落っことされたアンダースが、引きずられていました。初めての犬ぞりに奮闘中のようです。
アンダースはまた、地元の言葉を習うことにしました。デンマークを出る時、グリーンランドの言葉は覚える必要がないと忠告されていたアンダース。その考えは間違っていました。
その土地を理解すること、自分から積極的に村人とコミュニケーションを取ることは、とても大切なことでした。アンダースは次第に、子供たちとも心を通わせていきます。
映画『北の果ての小さな村で』の感想と評価
グリーンランドの雄大の自然。そして、そこで逞しく生きる人々の暮らしぶり。そこだけ見ても貴重な映画です。
さらに、デンマークから来た新人教師アンダースを主演に、登場人物すべてを本人が演じるというリアルとフィクションを融合させた撮影手法に驚きます。
主人公を演じたアンダース・ヴィーデゴーは、今もチニツキラークで先生をして暮らしているのです。
そのリアリティは、この映画を見ている今も、チニツキラークではアンダースとアサーが、雪原の中を犬ぞりで走っているかもしれないという感動を与えてくれます。
日本で日々、忙しく生活しているこの瞬間も、グリーンランドのチニツキラークでは、シロクマの親子が生活しているのです。なんと自分は小さいことか。
雄大な自然と歴史ある伝統の前では、自分の存在はいかに小さいかを思い知らされます。
様々な選択肢がある現代では、自分が求めるものを見失なってしまいがちです。また、便利な生活に慣れてしまって、それを手放すことが出来ません。
大事なのは自分は何をしたいのか?自分の中にある本能、直観を働かせるのに、自然の中は一番良い環境なのかもしれません。
グリーンランドのチニツキラークの人々は、私たちが日々忘れがちな、命への感謝の心を大事にしています。
もっと人はシンプルに生きていいのだと、そして私たちは生かされているのだと、映画『北の果ての小さな村で』は教えてくれます。
まとめ
グリーンランドの東部にある人口80人の村・チニツキラークを舞台に、新人教師アンダースと村人の交流を描いた映画『北の果ての小さな村で』を紹介しました。
氷河の中を進む船、広大な雪原を走る犬ぞり、シロクマの親子、夜空一面のオーロラ、潮を吹くクジラの群れ。
グリーンランドの雄大な自然の中で、シンプルだけど豊かに暮らす人々の強さに心惹かれます。
日々、ごちゃごちゃ考えている人にこそ見て欲しい。同じ地球上で、同じ時間に流れる別空間を感じて欲しいです。