監督:『博士と彼女のセオリー』のジェームズ・マーシュ×主演:コリン・ファースの最強タッグ!
1968年、ヨットによる単独無寄港世界一周レースに挑戦したドナルド・クローハースト氏の実話を基にした海洋ヒューマンドラマ『喜望峰の風に乗せて』をご紹介します。
映画『喜望峰の風に乗せて』の作品情報
【公開】
2018年(映画)
【原題】
The Mercy
【監督】
ジャームズ・マーシュ
【キャスト】
コリン・ファース、レイチェル・ワイズ、デビッド・シューリス、ケン・ストット
【作品概要】
『博士と彼女のセオリー』のジェームズ・マーシュ監督がコリン・ファースとタッグを組んだ海洋ヒューマンドラマ。
1968年、ヨットによる単独無寄港世界一周レースに挑戦したドナルド・クローハースト氏の実話に基づいている。
映画『喜望峰の風に乗せて』のあらすじとネタバレ
1968年 イギリスは海洋冒険ブームに湧いていました。
その年のボートショーでは、有名な航海士フランシス・チャールズ・チチェスターがゲストとして挨拶にたっていました。
その姿をドナルド・クローハーストは憧れの眼差しで見つめていました。彼は船舶用のナビゲーターなどの開発と販売をしているビジネスマンで、この日も子どもたちと一緒にブースで製品を売り込んでいました。
チチェスターから単独無寄港世界一周レース“ゴールデン・グローブ・レース”が開催されることが発表されます。一人でヨットに乗って9ヶ月間一度も港に寄らず、世界一周を競うのです。
ドナルド・クローハーストも名乗りをあげました。
妻のクレアは、心配しますが、事業に行き詰まりを感じていたドナルドは、妻に賞金を、まだ幼い3人の子供には名誉を贈ろうと考えたのでした。
また、成功すれば、自身の事業に好影響が出るはずです。
ドナルドは、彼ら一家が暮らすデヴォン州ティンマスの裕福なビジネスマンのスタンリー・ベストに投資を持ちかけ、ジャーナリストのロドニー・ホールワースに広報を頼みます。
その挑戦は多くの人の心をとらえます。さらに彼は近海にしか出たことのないアマチュアセーラーだったため、皆はそれを面白がりました。
ホールワースは次々と企業とのタイアップ広告を決め、挙げ句にBBCがドキュメンタリーを作りたいと申し出てきました。
ティンマスの町の人々は、地元の男性の挑戦に心を踊らせます。
ドナルドの設計によるボートづくりが始まりますが、部品がうまく集まらず、思うように仕上がりません。
期間内に完成するのはとても無理だと言われ、一旦は参加を辞退することも考えます。
しかし、人々をがっかりさせる上に、スポンサーとの契約上の問題で、会社も家も失ってしまうことになるとホールワースに指摘され、ボートが不完全の出来のまま、レースに参加することになりました。
10月31日、町の人々に賑やかに見送られながら、ドナルドはクレアと子どもたちの愛を胸に出発しました。
ですが、海にでてすぐにエンジンルームが浸水してしまい、電気系統が壊れるなど、早くも試練がやってきました。
自然の猛威が彼を襲い、姿勢復元装置を修復するために高いマストにも登らなければなりません。
「海をなめていた」とドナルドは痛感します。
南アフリカ大陸の最南端である喜望峰を目指していたのですが、船は北へ北へと押し戻されます。
フロートが役にたたず、海水がなだれ込んできます。
風に逆らって南氷洋を目指せば死ぬかもしれない。一旦は引き返そうと思うドナルドですが、失うものの大きさを考えるとそれもできません。
すすむことも、戻ることもできない状態となったドナルドですが、家族に心配をかけないよう「万事うまくいっている」と無線で伝えます。
さらに、非常に早いスピードで南下しているという嘘の情報を送るのでした。
チチェスターの記録をやぶるかもしれない、とホールワースは興奮します。勝手に進行予測をたてて新聞に売り込み、サンデー・タイムズのロンドン版が興味を持って、ドナルドのことを記事にしました。
航海54日目は、クリスマスイブで久しぶりにクレアの声を聞いてドナルドはほっとしますが、新聞に自分の嘘の報告が大々的に取り上げられ、ヒーロー扱いされていることを知り、ますます追い込まれていきます。
84日目、ドナルドの船はブラジルの北側にきていました。レース参加者のうち、4人がリタイアしたというニュースが伝わり、ドナルドの幼い息子たちは、父の優勝へ期待に胸を膨らませます。
ドナルドは位置を探られることを恐れ、無線を切りました。音信不通となり、クレアも子どもたちも心配しますが、ホールワースは、連絡がない間、メディアの穴埋めをしないと、と嘘の情報を流します。
マスコミはクレアを取材攻撃し、クレアはもう二度とこんなことさせないでと言いますが、ホールワースは、自分は世間を盛り上げる責任があると主張するのでした。
有名になるよりも無事でいてほしいとクレアは願います。
125日目、アルゼンチン沖。ゴムボートで陸に上ったドナルドは、地元の警察に尋問を受け、密輸の疑いをかけられます。
疑惑はすぐに晴れますが、すぐに島から追い出されてしまいます。
航海日誌を偽造し、航路の捏造をしようと考えたドナルドはようやくイギリスに連絡を取ります。彼が無事だということで、クレアはほっとし、地元の人々は彼の帰りを待ちわびます。
ノックス・ジョンストンが312日かけて世界一周を果たし優勝。フランス人が一人リタイアし、残るはテトリーという男とドナルドだけになりました。
テトリーには勝てるかもしれないけれど、そうすれば日誌を調べられてしまいます。最下位になれば調べられないので、ドナルドはテトリーに負けるようわざとマストを下ろしました。
ところが、テトリーが船を沈没させてしまいリタイアしたことが伝えられました。残りはドナルドだけです。
表彰と祝賀会を用意しているというホールワースの言葉にいよいよ追い詰められるドナルド。
映画『喜望峰の風に乗せて』の感想と評価
(本稿もネタバレしております。まだご覧になっていない方はご注意ください)
コリン・ファースが主演し、ヨットでの世界一周を目指すお話で、しかも実話とくると、当然のように、成功者のお話だと思っていたら、真逆だったので驚いてしまいました。
コリン・ファースが演じたのは、1968年、ヨットによる単独無寄港世界一周レースに挑戦し、レース半ばで挫折し、海に消えた実在のアマチュアセーラー、ドナルド・クローハーストという人物です。
この映画に描かれるようなケースは、あとから検証していけば、その行為が如何に無謀だったかがわかり、非難の対象になるものですが(今の日本での出来事なら「自己責任」と言う言葉で大いに責められることでしょう)、止むに止まれぬ事情が重なっていたのも事実です。
レースの参加を断念したり、途中で引き返すチャンスは何度かあったのですが、彼の意思を超えたところで、そうできなかったのです。
勿論、海を軽く見ていたところもあるでしょう。なんとかなるさ、と楽天的な甘い考えもあったでしょう。批判に向き合い、全てを失うことを覚悟で、戻ってくるべきだったかもしれません。
でも、映画を見ていると、だんだんこれは人ごとではないのでは、と思えてくるのです。自分ならどうするだろうと問うてしまうのです。
他人を失望させることを恐れたための、ほんのささいな判断ミス。これって誰にでも起こりうることではないでしょうか。
ましてや、ヨットレースなどは夢や喜望というものを背負ったものです。
アメリカやソビエトが宇宙競争をしていた時代、イギリスは海洋レースで威厳を保とうとしていたそうです。相当なプレッシャーがかかっていたに違いありません。
序盤、出港の時に、町の人々がズラッと横に一列にならんで彼を見送るシーンがあります。
ロングショットで撮ったその場面は映画的にはとても美しい素晴らしいショットですが、ドナルド・クローハーストにとってはプレッシャー以外の何者でもない光景だったかもしれません。
コリン・ファースが演じることで、ドナルド・クローハーストという人間の深みと彼の心理の変遷が説得力を持って伝わってきます。
まとめ
監督は車椅子の天才物理学者スティーヴン・ホーキンス博士を主人公にした『博士と彼女のセオリー』で英国アカデミー賞を受賞したジェームズ・マーシュです。
今回もドナルド・クローハーストという実在の人物を描いています。残された航海日誌や妻に宛てた手紙など、多くの資料に目を通し、彼の人間像に迫っています。
彼の姿が他人事でないと感じるのは、監督自身がそう感じていたからでしょう。人間の立派で強い面だけでなく、弱さや脆さをみつめる監督の視点は決して批判的ではなく、寧ろ温かみを帯びています。
悲惨で哀しい作品ではありますが、どこかに温かい寛容さ、人間への慈しみが感じられる映画となっています。
ドナルドの妻クレアには、『否定と肯定』(2016/ミック・ジャクソン監督)などで知られるレイチェル・ワイズが扮し、夫を信じ、愛する芯の強い妻を好演しています。