『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』は2020年3月13日より公開。
カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した『たかが世界の終わり』(2016)から4年。
グザヴィエ・ドラン監督作『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』が2020年3月13日に公開されます。
最高峰の美的センスを誇るドラン監督が、ハリウッドの光と闇を描いたヒューマンドラマです。
主演に「ゲームオブスローンズ」シリーズのキット・ハリントン。そして、映画『ルーム』や『ワンダー 君は太陽』の子役ジェイコブ・トレンブレイ。
アカデミー女優である、キャシー・ベイツ、スーザン・サランドン、ナタリー・ポートマンら豪華俳優陣の共演も見どころの一つです。
CONTENTS
映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ・カナダ合作映画)
【監督】
グザヴィエ・ドラン
【キャスト】
キット・ハリントン、ナタリー・ポートマン、ジェイコブ・トレンブレイ、スーザン・サランドン、キャシー・ベイツ、タンディ・ニュートン、ベン・シュネッツァー
【作品概要】
グザヴィエ・ドラン監督が着想から10年の時を経て挑んだ本作は、8歳だったドランが当時『タイタニック』に出ていたレオナルド・ディカプリオにファンレターを書いたという自身の思い出をヒントに描かれました。
幼少期のドラン自身がモデルになった少年ルパートには、『ルーム』で絶賛された天才子役ジェイコブ・トレンブレイ。彼が憧れる俳優ジョンに、TVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」のキット・ハリントン。
母親役には『デッドマン・ウォーキング』でアカデミー賞主演女優賞を受賞しているスーザン・サランドン。同じくオスカー女優のナタリー・ポートマンやキャシー・ベイツなど錚々たるキャストが名を連ねています。
映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』のあらすじ
人気ドラマシリーズから一躍世界的スターの座を手に入れ、人気絶頂だった俳優ジョン・F・ドノヴァンが突然原因不明の死を遂げます。
スターとして脚光を浴びる一方で、男性とのスキャンダルの疑惑や文通相手とされる少年との奇妙な関係が陰にありました。
謎に包まれた死から10年、文通相手だったかつての少年が、当時の思い出と共に謎を明らかにするべく語り始め…。
映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』の感想と評価
「母と子」の衝突と絆
本作のアイデアは2013年以前からあったもので、スターの栄光と孤独、そしてドラン作品の中でたびたびテーマのひとつとしていた「母と子」について描いた集大成といえる作品だと監督自身が語っています。
また、過去の受賞式でドラン監督は以下のようにスピーチしていました。
感情というのは単純なものばかりではなく、それを他の誰かと分かち合うのは、簡単なことではありません。時に甲高い叫び声や、突き刺すような眼差しを伴い、暴力すらほとばしります。
彼の過去作では、母と子の関係を単純な愛情だけでなく衝突による溝の深さを通して描いているのが伺えます。特に処女作『マイマザー』では激しい口論シーンが多く、憎むことと愛することの境界線が危うくなるほど。
『たかが世界の終わり』でも家族の絆をストレートには表現しません。微妙にすれ違い、分かり合えないまま激しい言い争いをします。
しかしそこに確かに互いへの強い愛情が垣間見えるのがドラン監督が作る映画の秀逸な点です。
それらと比べると本作は、ストレートに母と子の絆を描いているように感じられます。
ジェイコブ・トレンブレイ演じるルパートが、ドラン監督の過去作の中でも最年少の役柄だったことがひとつの要因ともいえるでしょう。
反抗しながらも素直に母を見つめ、求める姿は純粋そのもの。母親役を演じるナタリー・ポートマンとの、親子でありながら親友のような関係性に胸を打たれます。
また、キット・ハリントンとスーザン・サランドンが演じる親子模様はもっと複雑なもの。
タイトルの通り「死」という結末ですが、そこにはジョン・F・ドノヴァンが苦悩しつつも確かに歩んだ「生」があります。
母親と過ごした最後のシーンで、ジョンの心境を感じ取ることができるのではないでしょうか。
そのシーンでは、米国の人気ロックバンドGreen Dayの『Jesus of Surburbia』という曲が使われています。鑑賞後に、歌詞の意味も踏まえるとよりジョンの気持ちが感じとれるはずです。
妥協を許さない唯一無二の世界観
ドラン監督は、映像や音楽はもちろん衣装、時には予告編まですべて自らで手がけます。
本作のあるシーンでは100人以上のエキストラを呼んだ撮影現場で、その衣装やセットの雰囲気が違うと感じ、撮影を中断し別の日に撮り直したのだとか。
衣装に関しては、素材選びやデザインまで自ら行うこともあり、主演ジョン・F・ドノヴァン役のキット・ハリントンは数々の衣装を身に着けています。
スターの華々しい姿、母に会いに行く彼の素の姿。リアリティを感じられる細かな演出のひとつで、観ていてとても楽しめるでしょう。
映像については、冒頭から特殊な視覚効果を生むレンズを使用しているのが印象的です。
撮影監督は、『トム・アット・ザ・ファーム』などドラン作品で過去に撮影を務めた経験のあるアンドレ・テュルパン。ドゥ二・ヴィルヌーヴ監督の『灼熱の魂』『Polytechnique』なども手掛けている実力者です。
70ミリフィルムで撮られた映像がジョン・F・ドノヴァンが生きた世界に私たちを誘い、文通相手の少年のかけがえのない思い出そのものを彼の視線で覗き見ているように感じさせます。
ミュージックビデオのようなスタイリッシュさと、情感豊かでドラマティックに人物を映し出す映像は観客を惹きつける魅力を放っているといえるでしょう。
ドラン監督のあまりのこだわりの強さを煙たがる俳優もいるそうですが、その徹底した映画への熱意が高い芸術性と唯一無二な世界観を構築しているのです。
グザヴィエ・ドラン監督のプロフィール
参考:グザヴィエ・ドラン監督のインスタグラム
本作の監督を務めたグザヴィエ・ドランは1989年にカナダのケベック州に生まれ子役のキャリアを経たのち、2009年に監督デビュー。
同性愛に目覚めた息子の、母親への愛の渇望を描いた自叙伝的作品『マイ・マザー』第62回カンヌ国際映画祭の監督週間で上映され、当時19歳ながら監督・脚本・主演を務めたその類まれな映像センスと才能で注目を集めました。
長編2作目の『胸騒ぎの恋人』(2010)は、第63回カンヌ国際映画祭のある視点部門で上映。
続いて、トランスジェンダーに悩む主人公と恋人の愛と葛藤の物語『わたしはロランス』(2012)も2年後に同部門で上映され、クィア・パルム(LGBTやクィアをテーマにした映画の最高賞)を受賞しました。
カナダの有名戯曲を基にしたしたサスペンス映画『トム・アット・ザ・ファーム』(2013)はベネチア国際映画祭にて国際批評家連盟賞を受賞し、多くの批評家から絶賛されました。
その翌年、障害を持った少年と母親の強い絆を描いた作品『Mommy』ではカンヌ国際映画祭でジャン・リュック・ゴダールに並び、審査員特別賞を受賞。
ドラン監督が手掛ける作品は高評価を獲得し続け、世界中で数々の権威ある賞を受賞しています。
彼の躍進は留まることはなく、2016年にはヴァンサン・カッセル、マリオン・コティヤール、レア・セドゥらフランスの豪華俳優陣が圧巻の演技で家族の愛憎と悲しみの物語を魅せた『たかが世界の終わり』でついに、第69回カンヌ国際映画祭にてグランプリを受賞。
そして本作『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』で初のハリウッド進出を果たしました。
まとめ
カナダ出身のドラン監督が撮る映画の言語はフランス語です。そんな彼にとって本作は初めての全編英語による映画となります。
共同脚本家としてジェイコブ・ティアニーと共に完成させた本作は、監督デビューから10年目のドランにとっての挑戦といえるでしょう。
デビュー作から自身の体験などを元に、LGBTQや家族の愛情について情熱的に描いてきたグザヴィエ・ドラン。
彼にしか撮れないエモーショナルでビビットな作品は多くのファンを魅了し続けていますが、個性ゆえ苦手と感じる方もいるかもしれません。
第69回カンヌ国際映画祭の受賞スピーチでドラン監督はこう語っています。
闘いは続きます。これからも人々に愛される、あるいは嫌われる映画を作るでしょう。
それでも、アナトール・フランスが言ったように「無関心な知恵より、情熱的な狂気の方がいい」のです。
彼なりの冒険を本作で見事にまとめ上げたといえるでしょう。
本作はドラン監督作品をまだ観たことがない方、またはこれまでの作品にあまりハマらなかった方にも受け入れやすいものになっているといえます。
聴きなじみのある数々の音楽が感動的に物語を盛り上げているのも魅力のひとつ。
映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』は2020年3月13日公開です。ぜひ劇場でご覧ください。